長編 #4136の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
中学生になっても、クラス委員を決めるやり方は、小学生のときと大して変 わらない。つまり、委員長や副委員長をやった者が、同じ委員に続けて選ばれ ることはない、というもの。少し違うのは、前期に自分が受け持った以外の委 員ならば、割り当てられる場合もある点だ。 投票の結果、委員長には前田で副委員長には立島という、小学六年生のとき のコンビが復活。ついで票を集めたのは唐沢、相羽、白沼、長瀬、涼原。また しても純子は何かの委員をやる枠に入ってしまった。 (惜しいなあ、芙美と一票差……誰かがちょっと気を変えてくれてたら) などと悔やんでいても始まらない。何をやろうか、考える。 (どうせなら、同じ図書委員がいいな。だいぶ、慣れたもんね) 委員長、副委員長以外なら、同じ役目を続けてやれる。 「すっずはっらさん」 妙な節を付けて、純子を呼んだのは唐沢。女子人気のせいで、思わぬ得票を してしまい、焦っているのがありありと窺えた。 「図書委員て、どうだった?」 「んとね、私には合ってたかな」 「それって、次もやりたいってこと?」 唐沢の隣で聞き耳を立てていた相羽が、腕をさすりながら尋ねた。夏休みが 終わったからというわけでもないだろうが、今日は気温の上がり方が鈍い。 「うーん、できたら、その方がいい。やり方なんかは、頭に入ってるし」 「あらぁ、それじゃあ、しょうがないか」 白沼も割って入ってきた。 「ベテランにお願いする方が、賢明よね」 「ベテランて、年寄りみたいに……」 苦笑しながらも、純子が引き続き図書委員をこなすことになった。 「あと、時間の自由がきつくなるのが、風紀だろ。俺、パス。テニス部、たま に朝練あるから」 唐沢が言うのに続いて、陸上部の長瀬も同じように意思表明した。 「前田さん、バスケットボール部のマネージャーやってて、風紀、大丈夫だっ たの?」 気になって、前田に聞いてみた純子。 「ええ。部の雑用をやったあと、門に立って、また戻ってやるぐらいなら、ど うにかね。毎日ってわけじゃないんだし」 運動部でも、マネージャーならどうにか時間が取れるらしい。 しかし、該当者が他にいないので、最終的に風紀は白沼に落ち着いた。ここ まで決まれば、あとは時間を要さない。掃除大好きということで、相羽は美化。 唐沢は管理委員、長瀬が保健委員に決定した。 九月に入るなり、学校は行事予定が詰まっている。スポーツの秋というフレ ーズに感化されたわけでもないだろうが、競泳大会と運動会が立て続けに組ま れている。競泳大会が済めば、すぐさま運動会の練習へと雪崩れ込むような案 配だ。 もっとも、競泳の方は三年生のための行事だから、純子達一年生は、ほとん ど見ているだけでいい。 ほとんどと断ったのにはわけがあり、ほんの数名、一、二年生の中からも選 手として出場しなければならない種目がある。組別対抗リレー。 学年間の枠を取り払い、組で縦割りにして男女別にチームを編成。三年生が 二人に一、二年生が一人ずつという構成で、自由形のリレーを行うのだ。 九月第一週の体育授業で記録を取って、水泳授業の採点を行うとともに、選 手を決める。もちろん、勝つための人選なので、本人の意思とは無関係に、最 も早いタイムを出した者が選手になる。 「誰が選ばれるかな」 プールサイドでお喋りに興じるのは、女子も男子も同じ。 ただ、少し違うとしたら、女子は、クラスの男子の中で誰が一番かを気にし ているのに対し、男子は自分達の中で一番は誰かを話題にする傾向が強い。 体育は二クラス合同で行われる。今、四組が先に記録を取り始めたので、三 組の純子達はしばらく暇。時間潰しとばかりに、早速、予想を始めた。 「これまでの水泳授業を見る限り」 町田が体育座りの姿勢のまま、人差し指を立てる。 「長瀬君て、結構速いよね」 「うんうん」 第一小から上がってきた子だから、よく知らなかったのだが、長瀬という男 子は水泳が上手だった。部活は陸上だけど、水の中でも強いらしく、バタフラ イができるという一点を持ってして、すでに多くの感心を得ている。 「あとは、立島君と相羽君」 「前田さんは、立島君の応援をするんでしょ?」 純子は、興味もあって、聞いてみた。 「別にどっちでもいいんだけど」 意想外の返事。純子は町田と顔を見合わせてから、前田の表情を覗き込んだ。 「気持ちを隠してるわけじゃないわよ」 前田は察しよく言って、軽く首を振った。 「バスケットボールで頑張ってほしいから。だいぶ、しごかれてたのよ、夏休 みの間。旅行以外は、ほとんど練習やってた感じ」 「ふうん。だけど、立島君、手を抜く性格じゃないもんねえ」 純子と町田が二人して笑ったところへ、富井が背を丸めた姿勢で、ちょこま かと近寄ってきた。四組の方から抜けてきたらしい。 「どんな感じ、そっちは?」 「どんなって、何の話? それより郁江、そろそろ順番が回って来るんじゃあ」 「まだ大丈夫」 純子の横に座る富井。現在行われているレースには、全然注目していない様 子だ。 「でも、もうすぐなんでしょ。頑張ってねー」 「だめだめ。私なんか、二十五メートル泳ぐのがやっとなんだから。ターンが まともにできない」 「それじゃ、誰が有力候補かな?」 こんなことまで情報収集する気か、町田が尋ねる。 「うんとねぇ、女子は多分、北口(きたぐち)さん。何たって、水泳部だから。 男子は……実はよく見てないので分かんない」 「どうして? 自分のクラスぐらい」 「だってぇ、相羽君の方に目が行ってしまうのよ、きゃっ」 自分で言って恥ずかしくなったらしく、両手で顔を覆う富井。 町田は歯を覗かせて、呆れ顔を作る。純子も前田も、肩をすくめた。 友人達のそんな態度は意に介さぬように、富井は続ける。 「ね、ね。相羽君より速い人、いるの?」 「いるよ。正確に測ってはないから、絶対とは言い切れないけど、感覚では多 分、相羽君より速い」 「だ、誰? どの人?」 そんな必死にならなくても、と笑いをこらえつつ、純子は指差した。長瀬は ちょうど、唐沢と話し込んでいたから教えやすい。 「うわあ、細い人。水の抵抗、少なさそうだから速いのかなあ」 「あはは。陸上部だから、基礎体力はあるよね、きっと」 「あ、でも、ほら。足に怪我してる」 目ざとく言った富井。なるほど、大きな絆創膏が左の膝小僧を覆っている。 「陸上の練習か何かで、転んだかな」 「保健委員になった途端、自分が怪我をしちゃったのね」 「あれなら、相羽君にもチャンスあるかも」 「こらこら。人の不幸を喜ぶんじゃない」 などとお喋りに興じる内に、順番が回ってきた富井は、急いで戻っていく。 男女別の出席番号順に四人ずつがスタートしていくので、どんどん進むのだ。 ほどなく、四組全員の記録計測が終わり、三組の番となった。 男子から測っていくのだが、相羽は一組目で勝馬と一緒。唐沢と清水は二組 目、立島と長瀬が三組で、これがメインレースか。飛び込みするしないは本人 の自由で、二十五メートルコースを往復する。自由形なので、泳法は何でもい いのだが、基本的にクロール。泳ぎ切れない者は、途中で足を着いてもかまわ ない。 「いよいよだわ」 さっき泳ぎ終わったばかりで、せき込んでいた富井が、再びやって来て、わ くわくしている。 「ここから見てても、タイムは分からないから、しょうがないんじゃない?」 町田が言って、先生達の方を見る。スタート台のそばに立つ体育教師二人が、 ストップウォッチで記録を取るのだ。 「いいの。泳ぐところを見たいんだから。久仁ちゃんなんか、悔しがってたの よ、クラス分けの運がなかったって」 「さよけ」 町田の返事に、純子は内心、不思議がる。 (この頃、芙美は相羽君のことをどうこう言わなくなったような……。確かに、 手広くやってるとは言ってたけれど) と、気がそれている間に、ホイッスルの音が響き渡った。 急いでスタート台を振り返ったが、すでに四人の姿はない。何だかんだ言っ ても気になるので、純子は視線を横に走らせた。 (あれ?) 六つあるコースの中ほど四つを使っている。純子達のいるプールサイドから 見て、一番手前を相羽が行くはずなのだが、一瞥しただけでは、誰も泳いでい ないかのように、波しぶき一つ上がっていない。他の三コースは、白い泡が派 手に立っているのに。 「あ、相羽君は?」 「潜水してる!」 「えっ?」 言われてみれば当然なのだが、教えられるまで気が付かなかった。揺れる水 面のせいで、遠近感がよく分からないが、相羽は水中をドルフィンキックのみ で進んでいるのが確認できた。足だけでなく、全身が一枚のひれになったかの ごとく、滑らかな動きを見せる。 「すごーい、速いっ」 「どこまで潜ってるのかしら」 潜水をやったのは、これまで誰もいなかったためだろう。純子の周りだけで なく、そこかしこからも声が上がっている。無論、声援を送る中には白沼も含 まれていた。 (また目立つことしちゃって……) 呆れ返る純子の前を通り過ぎ、ほとんど二十五メートルに達した時点で、急 浮上した相羽。息継ぎをすると同時に、その勢いを維持したまま壁を蹴ってタ ーン。後半はクロールのようだ。さっきまでとは好対照に、激しく水をかいて いく。足は疲れているのか、さしたる力強さはないが、前半温存した腕の動き はきれいで、効率よく進んでいる。 結局、悠々の一着となった。 プールから上がり、先生にタイムを聞いている相羽は、目をしっかり開け、 肩で大きく呼吸をしている。少し恐いものがなにしもあらず。 そのあと、遅れてゴールした勝馬と何やら話しながら、プールサイドへ回っ てきた。フェンス際に腰を下ろすと、かすれ声で笑う。 「はぁ、窒息するかと思った」 「俺は見えてなかったけど、潜水したんだって? 何でそんな」 「閃きだけ。ずっと前に見たオリンピックか何かで、外国人がやってたのを思 い出してさ。一遍、やってみたかったんだ」 「よーやるわい。水泳のテストで、そんな一発勝負みたいな真似」 関西弁口調になって、嘆息する勝馬。 二人の会話を背中で聞いてた純子達は、ひそひそ話を展開する。 「作戦でも何でもなかったのね。呆れた」 「でも勝てばいいじゃない」 「それはそうだけど」 「目立ちたがり屋でもないのに、どうしてかな」 「人と違うことをしたがるっていうか」 「本人は自覚してない感じだけど」 色々と批評している間に、二組目のレースが終わってしまった。唐沢が女子 の大声援を受けて一着を取ったが、タイムは平凡らしい。 「さて、今度は立島君だ。前田さん、応援しないと」 「いい加減にしないと、怒るわよ」 ふくれっ面になりながらも、満更でなさそうな前田。膝の上に顎を載せる具 合で、身を乗り出し加減にする。 (−−白沼さんは、と) 気になって、見渡す純子。 見つけた。 いつの間にか、相羽の近くにやって来て、短い会話を交わしている。 (ほっ。とりあえず、立島君をあきらめたみたい。と言っても、相羽君狙いを 続けられると、郁江達が悲しむだろうなあ) 純子の思考は、ホイッスルと前田の声援に途切れさせられた。 プールを見やれば、予想通り、立島と長瀬がハイレベルでのトップ争いを演 じている。 「立島君、頑張れー!」 最前は気乗りしない様子だったのに、前田は結局、声を限りに応援している。 純子達も、立島に声援を送った。長瀬が嫌いなわけではもちろんなくて、同 じ小学校出身だし、前田の気持ちを考えると、自然にそうなる。 レース展開は微妙だ。前半の二十五メートルで長瀬が頭半分リードした程度 で、折り返し。 と、どうしたのか長瀬がターンにもたつき、立島が追い付いた。ざわめくよ うな歓声が起こる。 「二人とも必死だなー」 知らない内に近寄ってきていた相羽が、のんきな声を出している。 レース終盤は二人ともばてが来たか、ペースダウンした。が、ほとんど、い や、全く同じタイミングでゴールイン。同時に壁にタッチしたとしか見えない。 −−つづく
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