長編 #4132の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ちょっと、模造紙足りない!」 「買い出し行くよー、他に足りないものあるか?」 「黒のマジック!」 「あーついでに段ボールもらってきてくれよ」 「いってー! 指打った!」 「ねえ、四班どこ行ったの?」 「ああ、色間違えた!」 「おーい、赤のペンキ追加!」 明日は文化祭。 クラスはすっかり殺気立っていた。至る所から、呼びかけだの悲鳴だのが聞こえて くる。 僕も、段ボールに黒い模造紙を張り付けたり、椅子を組み立てたりと忙しい。 僕 のクラスは、お化け屋敷を出し物にしていた。 暗幕が足りないので、代わりに段ボールを黒くして窓に張り付けたり、狭い教室の 至る所に机と椅子でバリケードを作って迷路状にしたり、やることは山ほどある。 「ちょっと夏生!」 椅子をガタガタと組み立てていた僕は、聞き覚えのあるクラスメイトの声に振り返 った。 「何だよ、栗林」 立っていたのは、男子バレー部マネージャーの栗林早紀だった。 ふわふわした髪をポニーテールにして、ブラウスの替わりに、ポロシャツを着てい る。灰色の地に、青と、青緑のチェックのプリーツスカートからすんなりした足が伸 びていた。ルーズソックスに、テープのかすがついている。たぶん、さっきから段ボ ールをテープで留めていたせいだろう。 美人、というのとは違うが可愛い顔立ちで、クラスでも男女を問わず人気があるの だが、僕はどうも栗林に余りよく思われていないらしい。 普段は、明るい笑顔で友達と話してるのに、何故かむっつりした顔で栗林は立って いる。僕と話すときは、最近いつもこうだ。部活でも仲間だし、六月くらいまでは結 構仲が良かったんだが。 「何か、あんたのこと呼んでる」 「へえ、誰が?」 「……上級生!」 言い捨てると、栗林はポニーテールを揺らしてくるっと後ろを向いてしまった。 「何、怒ってんのかな?」 僕は、栗林から視線を外し、廊下に出た。 「あ、紫野先輩!」 「空条君、忙しかった? ちょっとだけ、良いかしら?」 綺麗に編まれたお下げを揺らして、紫野先輩が問いかけてきた。 半袖のブラウスに、きっちり紺色の細いリボンを結んでいる。ほっそりした足の膝 下まで、紺色のソックスがぴったりと覆っている。 相変わらず、どこか堅い印象があるけれど、微笑んだときの可愛さは、どんな女の 子よりも僕を惹きつけた。 「あ、全然かまわないっす。ちょうど一段落ついたところで」 僕は慌てて答えた。 「あのね、うちのクラス喫茶店やるって言ってたでしょ?」 「はい。俺、絶対行きますから!」 ……妙に勢い込んでしまった。紫野先輩は、ちょっとびっくりしたように目を見開 いて、それからくすっと笑った。 「うん、ありがとう。それで食券……コーヒーの割引券なんだけど、渡しに来たの」 「え? 俺に?」 「うん、お友達と来てね」 「は、はい! 絶対行きます! 紫野先輩、いつ頃いますか?」 「そうね、十一時から、二時までは確実にいると思うわ」 「じゃ、その時間帯には絶対行きますから」 「うん、私もお化け屋敷行くからね」 「夏生! 机追加きたわよ!」 栗林が、ひょいと顔を覗かせた。 「あ、わりい、今行く」 「……それじゃ、また明日」 「はい、明日」 紫野先輩は、ちょっと栗林の顔を見ていたが、すぐに廊下を歩いていった。 「…………?」 僕は、何故か紫野先輩が何か言いたそうだった気がして、しばらくその場で首を捻 っていた。 「ふー、疲れた、疲れた」 結局作業が終わったのは、時間ぎりぎりの十時近かった。 それでも、幾つか詰めの作業が残っているから、明日は七時までに学校に行かない といけない。 二人息子を残して、両親は岩手に赴任しているため、目覚ましは厳重にかけなきゃ いけない。六時に、二つともセットし直したところで、僕は大きく伸びをした。 風呂にでも入ろうと、パジャマを出していた僕は、廊下から漏れてくる兄貴の声に 気が付いた。いつもの、美雪さんとの定時連絡かな、と思いながら廊下に出る。 「……じゃ、明日。分かった、話聞くから、じゃあな裕美」 結構まじめな横顔。そうしていると、我が兄ながらそこそこ格好良いのかな、と思 う。悲しいことに、母親似の僕は童顔で、兄貴とはあまり似ていない。 ピッ、と電話を切った兄貴に、僕は笑いを堪えながら尋ねる。 「兄貴、デート? 俺美雪さんに言っちゃおっかな」 美雪さん、というのは兄の秋穂の彼女である。 近所にすんでいて、幼なじみって奴だったのだが、大学進学と同時に引っ越してし まって今は遠距離恋愛の真っ最中だった。 「いや、サークルの仲間。ったく、何が悲しくて人の恋愛相談にのらにゃならんのか ……」 「……そうだな。兄貴がそんなもてるわきゃねーか」 納得して頷いた僕の後頭部を、兄貴はばしっと殴る。 「うるさい。彼女の一人もいないくせに、でかい口を叩くな」 「悪かったな。いいんだよ、いずれとびっきりの美人を紹介してやるさ」 「それって、栗林さんか?」 「……はぁ?」 何だってそこに栗林の名前が出てくるのか理解できず、僕は思わず間抜けな声をあ げた。 「何だ、違うのか」 兄貴は残念そうに舌打ちした。 「栗林は、単なるクラスメイトで、マネージャーだよ。大体俺、あいつに何か嫌われ てるみたいだし」 「そうなのか? 結構電話とかかかってくるし、かけてるのも見るが」 「かけてるのはクラスの連絡網だよ。空条の次が、栗林なんだから」 「かかってくるのは?」 「部活の連絡。マネージャーだからな」 「ふーん、それだけか」 「そうだよ! 大体俺は、紫野先輩のことが……」 言いかけ、気付いたがもう遅かった。 兄貴はニヤリと笑って、僕の顔を見た。 「ほー、紫野先輩、ね」 「…………」 何か言い返そうと思っても、とっさに言葉が出てこない。 「夏生、お前年上好みだったんだな」 「ああ、うるさいな! 兄貴には関係ないだろ!」 僕は、兄貴の視線を無視して風呂場に向かうことにした。 「いつか、紹介しろよ!」 兄貴の声が、僕の背中に投げられた。 文化祭は、なかなかの盛況だった。 一年C組のお化け屋敷「恐怖の館」は、最初こそ人が入らなかったものの、十一時 を回り、一般客が入りだす頃にはクラスの前に、列が出来ていた。 「ギャォォ!」 「キャーッ」 店で買ってきた緑色のお面をかぶり、作り物の包丁片手にロッカーから飛び出すと 中学生くらいの女の子二人が悲鳴をあげた。 「ギャォォ、ギャォォ」 包丁を振り回しながら近づくと、女の子たちは悲鳴をあげながら去ってしまった。 「ふー」 僕は、小さく息をつく。ゴムのマスクを外すと汗がしたたり落ちた。 中学の時の学生服に、まっ黒のマントを纏っているのだが九月に冬服は暑い。おま けに制服はきついし、ロッカーの中はむしむししている。 「後、三十分くらいかな」 ポケットの中のヒエロンに片手を当て、僕はロッカーの中に入り込んだ。 「……お疲れさま」 ようやく交代の時間になり、汗をぬぐっていた僕の目の前に、缶ジュースがにゅっ と出てきた。表面から冷たい滴がしたたっている。 「サンキュって、あれ?」 冷えた缶ジュースを差し出してくれたのは、栗林だった。今日は、幽霊役のためポ ニーテールを下ろして白い着物を着ている。化粧しているのか、肌の色が真っ白だっ た。 「栗林、今から?」 「そうよ。これから血糊つけて、ばっちり脅かしてやらなきゃ」 「中、結構暑いぜ。そうだ、これ持っていけよ」 僕は、学生服のポケットからヒエロンを取り出した。 くるんでいたハンカチを外す、まだ結構冷たい。 「え?」 「着物のたもとにでも入れとけよ、俺はこれから二時間休みだから」 「う、うん。ありがと」 「あ、そうだ。ジュースの代金……百円でいい?」 財布から百円取り出し、栗林のてのひらに乗せる。 「え、いいよ」 「まぁ、いいから。消費税分は、おごってもらうし」 僕は、栗林の返事を待たずに立ち上がった。 「じゃ、頑張れよ」 「あ……」 栗林が何か言いかけた気がしたが、僕は片手を振るとそのまま走っていった。 続く
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