長編 #4125の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
【注意書き】 妖精城のワルキューレ序章は本来長編の一部であったはずなのですが、主人公 が登場しないまま、本編と関係ない話が延々と続き、たんなる導入としては無意 味に長すぎるため、削除することとしました。 しかし、捨ててしまうには惜しい気もしたので、UPしてしまいました。本編 は現在執筆中ですが、なかなか進んでいません。 お暇な方は以下の本文をお読み下さい。ただし、独立した作品にはなっていま せんので、ご注意を。 【妖精城のワルキューレ・序章】 君は8倍のスピードで、影を振り切れ 天空に輝くサファイアを埋め込んだような、青い空が広がっている。空の高み は微かに昏く蒼ざめており、他界へ溶けこんでいくように見えた。 黒い瞳の少年は、谷底を見おろす。大地に穿たれた傷痕のように見えるその谷 の底には、少年の住む村、スターデイルと呼ばれる地がある。少年は振り向くと、 尾根筋を、昇ってゆく。 切り立った斜面を登り切った所に、開けた場所があった。そこは、太古の城壁 に囲われている。少年は、その半ば崩れた城壁が、天空から見おろせば五芒星の 形を成していることを、知っていた。 少年は、崩れた壁の切れ目より、太古の遺跡の中へと入ってゆく。山上の風は 少年の頬を、母親のように優しく撫でて通りすぎる。見渡せば、ミルプラトー山 地と呼ばれる山々が、聳え立つ巨神のように回りを囲んでいた。 城壁の中は、崩れかけたアーチや、円柱が並び、それらの間から木々の聳える、 無秩序な庭園のようである。かつては、巨大な尖塔が立っていたであろう土台や、 地下へつながる階段があちこちにあり、かなり規模の大きな城塞があったものと、 想像できた。 おそらく暗黒時代が訪れ、王国が崩壊する前の建物だと思われる。なぜこんな 山上に城塞を築いたのか、今となっては、誰にも判らない。 少年は瓦礫を乗り越え、中心部へと進んでいく。天空を疾駆し、魔物を駆り立 てる武神の彫像が、半ば崩れ落ちた顔で少年を見おろす。大地を腕に抱く、地母 神の彫像が、崩れおちた地面から少年を見上げる。 辺りは色とりどりの、花や木の実に溢れており、今この城塞の主は、自然の草 花や、小動物達であった。少年は、迷路となった庭園のような遺跡の中を、迷う ことなく進んで行く。ここには、ある種の薬草をとる為、少年は何度も訪れてい る。 その五芒星をなす廃虚の中心付近で、少年はめざす薬草を見つけた。少年が薬 草に手を伸ばそうとした時、背後から声がかかった。 「そこに、誰かいるのか」 少年は、ゆっくり振り向く。黒い、陽光を浴びて、ダーククリスタルのように 輝く瞳が、背後の繁みを見つめた。その瞳は、茫洋として、夢見心地である。少 年は、一歩踏み出す。星もなく、闇に閉ざされた夜空のように黒い髪が、風にゆ れる。 繁みの中には、確かに人の姿があった。その人は、身体に草花や、蔦がからみ ついており、植物の一部のように見える。 少年は、ゆっくりと歩みより、その人影の前に立つ。口元に夢見るような笑み を浮かべ、春の日差しのように慈愛にみちた眼差しで、その人影を見おろす。そ の様は、公園でひっそり咲く小さな花を愛でる老人を、思わせた。 繁みに埋もれた人影は、ゆっくり身をおこす。あちこち裂けた、風雨に晒され 汚れたマントを身に纏った様は、立ち上がった廃虚のように見える。 灰色の髪の下の顔は、傷痕のような深い皺に埋め尽くされた、老人のものであ った。少年には、その男が、どれ程年老いているのか、見当もつかない。 そして、その男の本来二つの眼があるべき場所には、闇夜のように昏く深い傷 跡があるだけであった。その男の瞳は、何者かによって、あるいは、自らの手に よって抉りとられている。 その男は痩せ細り、皺に覆われた両の手に杖を持ち、立ち上がっていた。やさ しい風が、男を慰めるように吹き抜け、その灰色の髪をゆらす。少年はただ茫洋 とした笑みを浮かべ、男の前に立ち尽くしていた。 「そこに、誰かいるのだな」 男は、独り言のように、繰り返した。 「あまり夢ばかり繰り返して見たせいで、幻と現実の区別がつかなくなった。い や、お前も私の夢、いや、この私が夢かもしれない。いや、いや」 男は、意味不明のことを呟く。熱病に犯された者のように、男は呟き続けた。 「お前を見つけたということは、私の旅は終わったのか。いや、とっくに旅は終 わっていたのだが、それでも私の枷ははずされなかった。いや、とっくに私は、 捨て去られていた」 男は、顔を少年に向けていった。 「名を、教えてくれ、お前の名を」 少年は、素直な声で答えた。 「エリウス。エリウス・トン・トラディショナル」 盲目の男の顔が、一瞬固まった。まるで、自分の問に対する答が、返ってくる べきでは無かった、とでもいうように。 「どうしたことだ、これは」 盲目の男が、振り絞るようにして、ようやく口をきいた。 「こんな所で、古の偉大なる王の名を持つ者と出会うとは。そういうことか、そ ういうことだったのか!なんと恐ろしい」 盲目の男は、力なく首を振る。その杖を持つ両手は、小刻みに震えていた。エ リウスと名乗った少年は、闇色の髪を風に靡かせ、春の日差しのような笑みうか べたまま、小首をかしげる。 「エリウスよ、お前にこれを与えよう。おそらく、これは、お前が持つべきもの だからな」 盲目の男は、懐に手をいれると、金色に輝く指輪をとり出した。それは、夜空 に輝く月の光を凝固させ造りあげたような、冴えた煌めきを持つ金属である。 盲目の男は、無造作に指輪を手から落とした。エリウスは、水滴を手でうける ように、そっとその指輪を手の平に受ける。その黒曜石のごとき黒い瞳は、煌め く指輪を見つめ、闇色の宝石のように輝く。 「ゆけ、古の最も偉大な王の名を持つものよ。その名にふさわしい運命を、その 指輪が与えてくれる」 語り終えると、盲目の男は、力つきたように、元の繁みの中へうずくまった。 再び、廃虚の一部と化したように、動かなくなる。おそらく、鳥や、野鼠がその 頭の上を通りすぎても、その男は動かないだろうと、感じさせた。 エリウスは、始めからその男が廃虚の一部であったかのように、その存在を受 け入れ、振り返ると、薬草の収拾を始める。天空に輝く日差しは、ようやく真昼 の訪れを告げていた。そして聳え立つ神々のような、蒼ざめた山々が、総てを見 おろしている。 イリス・コーネリウスは、もう一度、その部屋を見回す。そこは、家というよ りは、小屋といったほうがふさわしい建物であった。木造のその家は、天井を霞 のような蜘蛛の巣に被われ、壁と床は、そこらじゅうに置かれた鉢植えの花の為、 むせ返るような色彩と香りに埋められている。 イリスはこの家の主、オウランを待っていた。神聖騎士団に所属する証しとし て、新雪のように清らかな白いマントを、身につけている。彼女の銀の髪は、少 し暗い部屋の中で、微かに光を放つように浮かび上がって見えた。 「お待たせしました、騎士殿」 後ろから声をかけられ、イリスは立ち上がった。この家の主であり、元王妃で ある女性は、戸口に立っている。背後から陽光を受け影になっている為、表情は よく判らないが、微笑んでいるらしい事は判った。 イリスは優雅といってもいい仕草で、礼をとる。純白のマントが、衣擦れの音 を立てた。オウランはゆっくりと部屋を横切り、イリスの前に立つ。 「あら、騎士の方とおっしゃるから、どんな方かと思ったら、かわいいお嬢さん でしたの」オウランの言葉に、イリスは顔をあげた。 そこにいるのは、質素というよりは粗末な(少なくともイリスの目からは、そ う見えた)服を身につけた、平凡な中年女性である。黒い髪は編んでまとめあげ られているが、少し白いものが混じり痛んでいるように見えた。肌は野良仕事の 為か、陽に焼け、指先の肌の荒れが目立つ。 オウランはイリスの心を見通しているかのような、邪気のない黒い瞳で見つめ ている。笑みはあいかわらず、浮かべられたままだ。 「おかけください、騎士殿」 オウランは腰をおろすと、イリスに声をかける。イリスは再度礼をすると、オ ウランの前に座った。 元王妃であるはずの目の前の女性は、イリスの想像から大きく離れている。兄 に謀反の嫌疑がかけられた事により、中央から追放された王妃。イリスの頭の中 では、今目の前にいる女性と正反対のイメージが形成されていた。 兄を陥穽により処刑し、自分を陰謀により王から引き離した中央の貴族達に対 する怨念だけを糧にし、威厳と誇りだけを砦とした悲劇の女王。 自分の予想を大きく裏切った、春先の日差しのような暖かい笑みを浮かべた女 性が目の前にいる。イリスは、まさにこの家に相応しい主だと感じた。 「お訊きしていいですか、オウラン様」 「あら、なんでしょう」 「あなたの持つ領地は、確かに広いとはいえませんが、城を構えるだけの収入は あるはずです。なぜ、このような」 オウランは、けらけらと笑った。 「気に入らないの?この部屋が。私は好きよ。この家も。この谷、スターデイル も。城はあります。経営は、信頼できる人に任せているわ。私は、石の建物が嫌 いなの」 オウランは、少女を思わす無邪気さで語った。オウランにはそうした話し方が、 よく似合う。イリスは思わず微笑み返して、頷いた。 「さあ、かわいらしい騎士さん。用件を仰ってくださいな」 イリスは、顔から笑みを消し、騎士らしく青い瞳に冬の夜空の星のような冷た い光を宿し、語りはじめた。 「私は、エリウス様をお迎えにあがったのです」 オウランは、戸惑った表情になる。 「何を仰るの」 「先だってのクライアス戦役で、第二王子キリアス様、第三王子カシアス様がな くなられました。今、エリウス様は、第三王位継承者です。それに相応しい教育 が、必要です」 「あの子に王位継承権なんて、ありません」 「議会は先月エリウス様に王位継承権を復活させるよう、決定しました。よって 私がここへ来たのです」 「何いってんだ!この嬢ちゃんは」いきなり後ろからイリスは怒鳴りつけられた。 イリスは表情を変えず、立ち上がる。その目には、冴えた光が湛えられたままだ。 「やめなさい、リンダ」 「いいえ、やめません」リンダとよばれた女性は、オウランと同い年くらいので っぷりと太った女性である。リンダは、扉を開くと外を指さした。 「あなたは?」 イリスの落ち着いた問いに、怒りで蒼ざめたリンダが答える。 「私は、オウラン様の侍女です。お帰りはこちらですよ、お嬢ちゃん。エリウス 坊ちゃんを、あなたに渡したりするもんかね」 イリスは誰にも気づかれることなく、水晶剣を放つ。長さ10センチほどの透 明な水晶の剣は、超高速で回転しながら部屋の空気の中へ忍び込んでいく。紙よ り薄い水晶の刃は、肉眼で捉えられることなく、部屋の中を漂いはじめた。 風使い、剣の達人ユンクの弟子であるイリスはそう呼ばれている。風の中に妖 精の羽のように薄い刃を潜ませ、刃のひそんだ風によって相手の体を斬るのが、 イリスの技だ。リンダは、イリスを掴みだそうとするかのように、一歩踏み出す。 突然、オウランが立ち上がった。 「無礼であろうイリス・コーネリウス、我の前で剣を抜くとは。剣を収めよ。神 聖騎士の名に相応しく振る舞うがいい」 はっ、とイリスは振り向く。そこに立ちつくすオウランは、さっきまで微笑ん でいた女性とは全く別人のように、気品と威厳に満ちている。 そしてイリスは、戦慄を感じていた。彼女が剣を抜いた事は、オウランが気づ くことは不可能なはずである。彼女以外のユンク流剣の使い手で、彼女の水晶剣 を見る事ができるの者は、ユンク自身以外にはいなかった。 糸を放ち、水晶剣をイリスはたぐりよせた。水晶剣が魔法のようにイリスの手 に出現する。凍てついた湖を覆う氷の破片にも似たその剣を収めると、イリスは 跪いた。 「お許しください、オウラン様」
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