長編 #4122の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「宿題よぉ。集まってやるでしょ? 一番頼りにしてるの、純ちゃんだからさ」 「はぁ、それが大事な話……」 「大事よ。深刻な問題だわ。特に国語関係、頼みます」 力説した次は拝んでくる富井に、純子は上目遣いになって肩を小さくすくめ た。 (私を当てにしないでよぅ。たまたま、いい点取っただけなんだから。私なん かより……) 考える内に、いいことを思い付いた。唇の両端が、意地悪くつり上がる。 「ねえ。私なんかに聞くよりも、もっといい人がいるじゃないの」 「ええっ? 誰だれ?」 「ほら、相羽君よ」 にんまりして告げてやると、富井や井口は、見た目も明らかに、動揺した。 「そんなの、無理!」 「そうよ、いい加減なこと言って」 二人の反応に満足してから、純子は町田を見た。 町田は相変わらずのポーカーフェイスで、何を考えているのか察するのは難 しい。瞬間的に考え込む仕種を見せたあと、感想を述べる。 「悪い話じゃないと思う、うん」 「でしょ? 去年の夏休み、宿題を見せてくれたし。私もお返しに見せたから、 頼めばきっと」 純子がこんなことを持ちかけるのには、富井達をからかう以上の意味がある。 (何か用事を作って、相羽君と会えば、自然に話ができるかも) そんな期待を託している。 町田が富井と井口に「どう?」と振ると、二人とも、忙しなくうなずいた。 「そりゃあ、そうしたいわよ。でも……」 「問題は、誰が頼むか、だよねえ」 「決まってるじゃない。言い出した純が頼むのが、筋ってもんでしょうが」 「え……」 流れるように指名され、純子は慌てた。無駄と分かっていても、自分を指差 しながら、確認を取ってしまう。 「私?」 「そう。簡単でしょ。モデルの話とか、あるんじゃない? そのついでに、ち ょこちょこっと」 簡単に言われて、焦る。 (話しかけるきっかけが掴めないから、みんなと一緒になって、言おうと思っ たのに!) 「だ、だめ。そういうんだったら、この話、なしね」 「ええー、何でよー?」 ブーイング混じりの抗議を受けたが、こればかりは勘弁してもらいたい。 「相羽君に教えてもらいたいんだったら、自分で頼むこと。いいわね?」 きっぱり言って、逃げるようにかけ出した。 夏休みも終わりに近付いてきている。 今日は、宿題を片付ける約束の日だった。いつものように、町田の家に集ま り、お互いに分からない箇所を教え合って、それでも解けない問題は適当に、 とにかく全部を埋めることができた。 相羽に宿題を見せてと頼む話は、結局、立ち消えになっていた。純子はほっ とする反面、当てが外れたような気分もあって、複雑。 「暑いなあ」 帰り道。立ち止まって、麦藁っぽい造りの帽子を手で押さえながら、空を見 上げる。と、まぶしい光に目をすぐ伏せさせられた。 「この調子で行くと、九月になってもまだまだ暑そう」 そうつぶやいて、歩き出すと、空き地の横に出た。 「−−きゃ?」 いきなり、頭の上から白い物が被せられ、驚いてしまった。飛び退こうとし ても、その白い物が引っかかったらしく、動けない。 「すみませんっ。−−あれ、涼原さん」 聞き覚えのある声に目を向けると、相羽がいた。 彼が手の棒を動かすと、純子の視界が晴れた。頭に被せられたのは、虫捕り 網の先の部分だったと分かる。 「ごめん。怪我はしてない?」 かなり汗をかいている相羽は、ずっと昆虫採集に精を出していたらしい。 上着はTシャツの短い袖をさらにまくり上げ、足は草の葉で切らないためだ ろう、ジャージを履いている。 「け、怪我はないけど……」 帽子を取って、じっくり、その表面を見る。 「ん……大丈夫。帽子も無事」 そう言う純子だが、帽子を気にしたのは、自分を落ち着かせるため。 (こんな風に会うなんて……心の準備が) 「ほっ。よかった」 大げさに息をついて、胸をなで下ろすポーズをする相羽。 その正面で、純子はどう言葉を継ごうか、必死に考えていた。 「−−そ、それにしても、虫捕り、まだやってるの?」 「いや、こんな暑い時間には、やらないよ」 中学一年生になって、まだやってるのという意味で聞いたのだが、相羽は違 う方に解釈したらしい。 「じゃ、何やってたのよ。空き地で網持って」 「鳥……逃げたのを連れ戻そうと思って」 「鳥?」 「そう。ほら」 と、相羽は宙を指差す。その先には茂みがあるが、どこにも鳥の姿は見えな かった。ただ、相羽の言葉が本当だっていうことは、空き地の隅にある鳥かご から知れた。 「あちゃあ、見失ったかも。まずい」 視線を走らせる相羽。と、空き地奥の茂みの中へ、舞い降りる鳥の姿が、か すかにキャッチできた。 「あ、あっちだ! 木に止まってくれよ」 「……ねえねえ、鳥って、相羽君、飼ってなかったでしょう?」 「うん。マンションの二階にいる子が飼っているインコで、今朝、鳥かごの掃 除をしてるときに、突然、野良猫が入ってきて、大騒ぎになって……逃げちゃ ったらしいんだ」 「ふうん」 「鳥が逃げて行くのを、上の階からたまたま見かけたから、こうして追っかけ て来たわけ。鳥かごは、その子から借りてさ」 言い置いて、探しに行こうとする相羽の背に、純子はもう一つ、疑問をぶつ ける。 「鳥の飼い主はどうしたのよ。一緒に探すのが当然だと思うんだけど」 「それが、その子、足をくじいちゃったんだ。二日前、非常階段で遊んでたと き、転げ落ちて。だから今、出歩けない」 「そうなの」 うなずきながらも、呆れる純子。 (この暑い最中、一人で探してるの? 自分のペットでもないのに……。お人 好しなんだから) 「ていうわけで、焦ってますんで」 網を肩に担ぎ、小走りに茂みに消える相羽。 「待って! 私も手伝う!」 そんな言葉が出たのは、きっかけを大切にしようという思いが立ったから。 急に顔を合わせて慌てていたのも、どうにか落ち着き、平常心で喋れそう。 手提げを放り出し、茂みに分け入ると、相羽の背中が見えた。 「ね、ねえ、どんな鳥なの、逃げたのって?」 「−−しぃ」 小さな声。喋るなという意味らしい。 すると、相羽が肩越しに振り返り、一定の方向を改めて指差した。同時に、 彼の唇が「ほら」と動くのが分かる。 木の細い枝に、指をしっかりと噛ませて止まる小鳥がいた。水色の身体に黄 色っぽいラインが一部に入った、いかにもペット向きの愛らしい鳥。 見ている間に、相羽はそっと虫捕り網を動かし、小鳥のいる小枝まで伸ばし た。そして器用に手首を返し、素早く被せる。 ぴぃだかきぃだか、表現しにくい鳴き声を上げ、網の中で小鳥がもがく。 相羽は、虫取り棒の位置はそのままに、自らが小鳥へ近付いていく。 「……よし、うまく行った。えっと、あ、涼原さん、悪いんだけど」 「分かったわ」 相手が全部言わない内から返事をして、きびすを返す純子。茂みを抜けて、 鳥かごを手にすると、急ぎ足で戻る。 「はい、これ」 「よく分かったなあ」 「いいから、早く。かわいそうだわ」 純子が急かすと、相羽は鳥の身体を網の上から両手で包み、慎重な手つきで 鳥かごの口へ運ぶ。さすがに、昆虫ほどには扱いなれていないのが、ありあり と窺えた。 押し出すようにしてやると、青い小鳥は瞬間、羽ばたき、すぐさま止まり木 に掴まった。もちろん、鳥かごの蓋はさっさと降ろしてある。 「よかった。これで胸を張って帰れる、なんてね」 安堵する相羽の前で、純子も思わず微笑んでいた。 「この小鳥、かわいいっ。でも……自由に飛び回るのと、鳥かごに入れられて るのと、どっちがいいのかしら」 「鳥に聞かなきゃ分からないような疑問、出さないでほしいな。ははは」 空き地の開けた空間へ引き返すと、相羽は一刻も早くマンションに戻りたい らしくて、そのまま道路に出ようとする。 「鳥かご、こっちに貸して。一緒に探してくれて、サンキュ」 「一緒にって、ほんの一瞬だけよ。私は何もしてない」 鳥かごを渡さないまま、答える純子。 「それより……一緒に行っていい?」 「うん? それはかまわないけど。こっちの方角に、何か用事でもあるの?」 相羽は純子の手提げを拾って、鳥かごと交換すべきかどうしようか、迷う仕 種を見せている。 「う、ううん。特にない。でも」 一呼吸を入れてから、純子は言った。 「あの−−ありがとうね、相羽君」 「は? ああ、手提げのこと」 手に持った手提げを見やった相羽。慌てて純子は首を振る。 「手提げじゃなくって! ……ほら、この間。クッキーをくれたでしょ」 「うん。それが?」 相羽がマンションの方へ歩き始めたので、純子も着いて行く。二人の間に、 一抱えほどもある鳥かごと小鳥。 「それがって言われても……う、嬉しかったのよ。だ、だから、お礼を」 「クッキーなら、焼き方、知ってるだろ。今さら感謝されてもなあ、実感ない」 相羽の口ぶりを聞く内に、これはわざとだと純子は直感した。 (とぼけてる? もしかして、この話題、避けようとして) それもいいかと思うものの、反面、お礼が中途半端な形で終わるような気が して、どうも落ち着かない。 「わ、私はね、気持ちが嬉しかったのよ。あ、あなたの気持ちが」 「そ、そう?」 相羽も逃げ切れなくなったか、顔を赤くし、目線を外しながら応じた。 「げ、元気が出たんなら、それでいいよ」 「うん……元に戻れた」 いつもの自分に戻れた。そして今、自分と相羽の仲も普段通りに戻れた。 「ところでさ、宿題は終わったの?」 突然、話題を換えてきた相羽に、純子は目を白黒。 「何で、いきなりそういう話になるわけ?」 「去年の今頃を思い出したから。あのとき、国語を教えてもらって助かった」 嬉しそうに頬を緩ませた相羽。 純子は、「私も助けてもらったけど」と言おうとしたが、それよりも相手の 台詞が早かった。 「それで、今年も国語を……だめ?」 「……本当に国語、苦手ね」 呆れつつも、笑みがこぼれる。 相羽は、純子の笑顔を別の意味に受け取ったか、珍しく言い訳がましく付け 加えた。 「やれるだけやって、でも、どうしても分からないところが残ったから、それ だけ教えてほしいんだ」 「分かってるって。ねえ、代わりに、数学、教えてくれる?」 「もちろん、いいよ」 相羽がそう答える頃には、マンションが見えてきた。 「とにかく、この鳥を返してこなくちゃな。……涼原さんがよかったら、上が って、僕の家で宿題やる?」 「うーん、どうしようかな」 真顔で考える純子。ふと、横目で見ると、相羽が返事を待っている。普段の ぼんやり目つきでなく、押さえ切れない期待にわくわくしているような、そん な表情。 純子はくすっと笑って、答えた。 「去年は原っぱで書き写したんだもんね。机の上できちんとやる方がいいわ」 「ほんと? じゃ、行こっ」 弾んだ声で相羽が言って、軽い足取りで駆け出す。 純子もあとを追った。 鳥かごの小鳥が、ちょっぴり迷惑そうに鳴き声を上げた。 −−『そばにいるだけで 14』おわり
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