長編 #4121の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(郁江や芙美達と一緒にいるときに始まった方がよかったかな。テニス中だっ たら、また困ったけど) そこまで考えて、不意に思い出す。 「−−きちんとお礼、言わなきゃ」 頭の中がごちゃごちゃしてて、夕べは結局、相羽の母にちゃんとしたお礼を 言っていない。電話をかけることさえ、思い付かなかった。 すぐに電話するなり、直接出向くなりしようと立ち上がりかけたが、途中で ストップ。時計を見れば、昼の三時が近い。 (おばさまは昨日、お休みを取ったのだから、今は多分、お仕事中……) まさか、相羽に言付けするわけにもいかない。 あきらめ、夜になったら電話しようと決めて、もう一度座り直した。文庫本 を手に取り、広げたが、字面を追うだけで、内容がちっとも頭に入ってこない。 「あーあ。他の宿題も、この調子じゃ、手に着かないよ」 愚痴混じりにこぼし、踏ん切りを付けると、特に用事はないけれど、一階に 降りた。 「元気出た? 病気じゃないんだからね、しっかりなさいよ」 早速、母が様子を窺いにくる。 「はーい、もう大丈夫……多分」 答えながら、テレビをつけた。別に見たい番組があるわけでない。 「それなら安心だけど」 母親が台所に立とうとしたとき、呼び鈴が鳴った。 方向を換え、玄関へと向かった。 「はい、どなた−−あら、相羽君じゃないの」 聞こえてくるやり取りに、純子は背筋を伸ばした。 (な、何の用?) 目をこすり、行こうかどうしようか迷う。 「昨日は迷惑かけてしまって。ありがとうね。純子ならいるわよ」 「いえ、いいです。これを届けに来ただけだから。昨日、じゅ……涼原さんが 忘れていったみたいです」 相羽の声だけでは、何を持って来たのか、分かるはずもない。 純子は何を忘れたのか思い出そうと努めるが、何も浮かばず、首を振った。 そのままぐずぐずしていると、相羽が帰って行く様子が伝わってきた。 「純子、顔ぐらい見せたってよかったでしょうに」 戻って来た母の説教口調を聞き流し、その手に注目する純子。 「−−なぁんだ」 ほっと安堵する。母の手に握られていたのは、布製の小袋。そう、CDを入 れていた巾着だ。 「わざわざ届けてくれたんだから、次に会ったとき、お礼を言っておきなさい よ。−−分かってるの?」 「うん、言っとく」 答えながら、別のことを考えていた。 (きっと……浴室の脱衣所であれこれしてるときに、手首から抜け落ちちゃっ たのね。だけど、これぐらい、学校が始まってからでよかったのに) 相羽の親切に、思わず、にんまりと笑顔になる純子。 その様子を訝しく見つめながらも、巾着袋を差し出す母。 「ほらほら、忘れない内に仕舞いなさい」 「はあい」 両手で受け取り、席をすっくと立つ。気分が楽になったようだ。 ミルクをコップ一杯、飲んでから、自分の部屋に戻った。 「どうせなら、別のCD、入れてくれてもよかったのに。なんてね」 浮かんだ冗談を口にして、ふと、袋の中を覗いたところ、二つ折りにした紙 片が見えた。さらに、ビニール袋らしききらめきもある。 「何だろ?」 自分で入れた覚えはない。CDの帯が取れたわけでもないはず。 右手の人差し指と中指を入れ、紙片をつまみ出し、広げる。案外、固い感触 があったので驚いた。 「これ……」 ていねいな鉛筆文字が、正規のメッセージカードに記されていた。相羽の字 だと、すぐに気付く。 声に出して、ゆっくりと読んでみた。 「−−『昨日は大丈夫だった? 僕もびっくりしたけど、涼原さんはもっとお どろいたかもしれないよね。クッキーは残念ながら母さんじゃなくて、僕が焼 いたけど、味は保証する。元気出たら、またみんなとテニスしたり、遊んだり しような!』−−あ、あいつったら」 顔が赤くなるのを意識しながら、純子は巾着をひっくり返した。気付かなか ったが、口を赤いテープで閉じられた小さなビニール袋も入っており、その中 にクッキーが何枚かあった。 あったかくなって、メッセージカードとクッキーの袋を胸に当て、目を瞑る。 「……嬉しい」 気持ちがつぶやきとなり、自然にこぼれ出た。 それから、目を開けて、ビニール袋の中身を見る。 (食べるの、もったいないな。でも、味見したいし) 結局、テープを外し、とりあえず一枚だけ、取り出した。袋の口は、新しく テープを巻き直す。 「−−わぁ」 一口かじって、その香ばしさと、クッキーの中の様子で分かった。 (これ、全部、胡桃だわ) 胡桃好きなのを覚えていてくれたことに、そしてわざわざ胡桃を用意してク ッキーを作ってくれたことに、また一段と嬉しさが増した。 夏休みも残すところ一週間ほどになり、今日は最後の登校日。顔を見せ合う だけで特に必要な物はないのだが、形ばかり、鞄を持ってやって来た。 短い全校集会が終わり、クラスに入ると、全体の九割方が登校してきている と分かる。それまでの登校日はもっと少なかったが、この頃になると、旅行な どに出かけていた者もそろそろ帰って来るのだ。 みんな、よく日焼けしている。教室のあちこちで、土産話ないしは自慢話に 花が咲いていた。かと思えば、宿題のノートやプリントをせっせと写している 連中もいる。 「相羽のやつ、何やってんだ」 純子の後ろの席で、唐沢が貧乏揺すりをしていた。 純子の隣の席二つは、いずれも空っぽ。相羽と白沼は、クラス委員として職 員室に呼ばれているらしい。 「唐沢君、どうしたの?」 独り言があんまりおかしいものだから、純子は振り返って聞いてみた。 「あ、いや、実は、宿題を教えてもらおうと、相羽に頼んでいたのに、なかな か帰って来ないから参ってまして」 机に突っ伏して、頭をかく唐沢。その横へ、勝馬がやってきた。 「遅くなると、ややこしいから、早くしようぜ。勝手に鞄開けて、ノートを借 りよう」 「もちろん、やってみたさ。ペケ」 同じ姿勢のまま、唐沢は両手の人差し指を交差させた。 「あいつ、用心深いって言うか……鞄に鍵、掛けてやがる」 「どひゃー。なんつうことを」 「カッターナイフで壊すわけにもいかんし……」 慌てぶりに、つい、くすくす笑ってしまう。 「む。涼原さん、笑えるところを見ると、宿題、できてるの?」 「え? まあ、だいたいは。残りは友達と集まって、一度に仕上げるつもり」 「見せてくれー」 唐沢と勝馬が、飼い犬がお手をするかのごとく、手を出してきた。 急いで首を振った純子。 「無理よ。今日は持って来てないもの」 「何だ、がっくり」 声に出して、がっくりしてみせる唐沢。余裕があるのかないのか、さっぱり 分からない。 「あはは。唐沢君だったら、助けてくれる女子、多すぎて困るぐらい、いるん じゃなあい?」 「いつもいい格好を見せているのに、こんなときだけ頼れますか」 「じゃ、私にも頼らないこと−−なんちゃって」 おどけていると、相羽と白沼が戻って来た。先生はまだの様子。 二人は何かのプリントを教卓の上に置くと、席に向かい始めた。 近付いてくる相羽に、純子は礼を言うつもりでいた。だけど。 (−−やだぁ!) 相手の顔を見ていると、急にあの日のことが思い出され、自分の意志とは裏 腹に、下を向いてしまう。 そうする内に、相羽は着席。唐沢と勝馬が早速、宿題の件を切り出そうとし たが、そこへ先生の登場と相成った。 唐沢達だけでなく、多くの者が慌てて席に着く。ために、一時、教室内が騒 がしくなった。 「はい、静かにしろぉ。早いとこ、号令」 牟田先生の声に呼応し、相羽が号令をかけ、ようやく騒がしさが収まる。 着席すると、先生が切り出した。 「えー、特に連絡はなし。これから配るプリント、よく読んどけよー。あとは そうだな、ま、事故とか病気とかにならんようにしてくれたらいい」 言いながらプリントの配付を始めた先生に、声が飛ぶ。 「じゃ、宿題、できてなくていい?」 「ばかもーん! そういう非常識なことを言う者には、目を覚ましてもらうた め、宿題を特別に追加してやろうか」 「ひえーっ。冗談ですぅ」 何のために静かにさせたのか分からないほど、笑いの渦が起こる中、登校日 のホームルームはあっと言う間に終わった。 「おっと、忘れとった。プール利用者の中に、ちゃんとシャワーを浴びてない 奴とか、準備運動しない奴がいるそうだな。自分のためだけなじゃなく、他の 人のためにも、こういう規則は守らんといかん。いいな?」 牟田先生は最後にそう言い足して、教室を出て行った。 と、間髪入れずに、相羽の元へ唐沢達が駆け寄る。 「あんまり、当てにするなよなあ」 「いいからいいから。あとで穴埋めする」 「男子で頼れるの、おまえか立島しかいないって言うのに、立島はどっか旅行 中だろ。参るよなあ」 言われてみれば、立島の姿はなかった。 (前田さん、寂しい思い、したかな?) そんな風に考え、純子は前田の姿を探したところ、彼女もまた当てにされて いるらしくて、数名の女子に囲まれていた。 ふと、白沼の席を見れば、そちらも同様。 (うーん、大変だわ、クラスで一番二番の成績を取ると) 期末試験では運もあったというものの、白沼や前田に次ぐ成績を残せたくせ に、まるで他人事のように感じている純子。 町田がやって来た。 「郁達、まだ終わらないよ」 「そうみたいね。もう少し、待ってようか」 富井や井口のクラスのホームルームは、比較的長引いているらしい。それを 待って、一緒に帰るつもり。 教室の中で待つのは、チャンスがあれば相羽に礼を、と考えているからなの だが……いまだに、恥ずかしさの方が先に立ってしまう。それに、他の男子や 町田がいるこの状況では、話しにくい。 (やっぱり、廊下に出ていようかな) そう考えた矢先に、相羽から声をかけられた。 「じゅ……涼原さん」 立ち上がりかけたまま、純子はびくりとして、動きを止める。返事できない。 相羽の方も、言うべき言葉をしかと用意していなかったのか、続きがない。 「純? どうしたの?」 訝しがる顔つきで、町田が覗き込んでくるのが分かった。 「顔、赤いよ」 言われて、一層意識してしまう。 顔を隠すように鞄を抱くと、逃げ出すように席を立った。 「あれ、純! 待ってよ」 追いかけてくる町田の声。それに混じって、相羽と唐沢の会話もかすかに聞 こえた。 「おまえ、涼原さんと喧嘩でもしたの?」 「い、いや。していないつもりだけど」 「だったら、何で逃げたんだ?」 「それは……さあ?」 (逃げたのは、まずいよね) 下校の間、皆のお喋りも上の空に、純子は後悔していた。 (こんなつもりじゃなかったのに。ひどいやつだって思われたかしら……やだ な、また誤解させちゃったかもしれないなんて) 「−−純子!」 伏し目がちにして、ため息をついたところで、我に返った。 「え、何?」 「やっぱり、聞いてなかったぁ」 井口の怒ったような態度を見ると、どうやら先ほどから何度も呼ばれていた みたい。 「ごめん、考えごとしてたの。あは、許して」 「大事な話してたのにぃ」 富井がじれったさそうにする。純子は、「大事」というフレーズに引かれた。 「何の話?」 −−つづく
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