長編 #4091の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
14 「お待たせ」志穂は荷物を抱えて、田辺の元に駆け寄った。「ごめん、遅れて」 「いいよ」田辺は笑って、志穂の荷物を受け取るとトランクに詰めた。「じゃ、 行こうか」 二人は車に乗り込んだ。 夏の長い日も、そろそろ落ちかけている時間だった。これから、夜通し新潟ま で走り、朝一番のフェリーに乗る予定である。 「家の人、大丈夫?」 「うん。友だちが蓼科の別荘行くから、そこに泊めてもらうことにしといた。だ から、一週間ぐらい連絡しなくても大丈夫。もともとうちは放任主義だし」 「夕食は?」 「ちょっと食べたけど。お茶漬け。あんまり食欲ないからいいよ。田辺さんは?」 「昼が遅かったからね。じゃあ、もっと遅くなってからでいいか。松本かどこか のドライブインでそばでも食べよう」 「うん!」志穂ははしゃいだ声を出した。「田辺さんと旅行に行けるなんて夢み たい」 「朝早かったんだろ?寝てていいよ」 「あんまり眠くないからいい」 「あ、後ろにウーロン茶のペットボトルがあるから」 「はーい」 「CD持ってきた?」 「ドリカムと相川とTUBE」 「ドリカムからいこうか。何だっけ、晴れたらいいねが入ってるやつ」 「オッケー」 音楽が流れ始めるのと同時に、田辺のパジェロは県道を走り始めた。 「ピル持ってきた?」 「うん。あ、そろそろなくなるから、次の持ってきてね」 「持ってきてあるよ。トランクに入ってるから、着いたらわたすよ」 「あさってぐらいまでの分はあるから」 しばらくの間、田辺は順調に車を走らせていた。夜は乗用車よりも、大型のト ラックなどが多くなるが、田辺は前方を塞がれてスピードが時速40キロ代に落 ちても苛々することはなかった。浮かれて眠気など全く感じない志穂はしゃべり 続けていたが、スピードが落ちると前のトラックを罵っては、げらげら笑った。 県道から国道に合流する手前のコンビニエンスストアで、田辺は車を停めた。 走り始めてから二時間近くが経過していた。 「トイレ休憩しよう。なにか食べたいおやつがあったら選んどいて」 「コーヒーか何かいる?」 「いや、大丈夫」 トイレを済ませて、何種類かのスナック菓子やチョコレートなどをかごにいれ た志穂は、田辺の姿を探した。 田辺は外で携帯電話を使っていた。志穂が外に出て声をかけようかと思った時、 田辺は通話を終えて中に戻ってきた。 「電話?」 「うん。ちょっと連絡事項を忘れてて。旅行中に呼び出されるのもいやだしね」 「他の女じゃないでしょうね?」 「そんなわけないだろ」田辺は笑って、志穂の手からかごを取り上げた。「これ だけでいいの?」 「うん」 コンビニを出ると、田辺は国道に入った。同じようにゆっくり行くのかと思っ た志穂は、車がかなりのスピードで走り始めたのに少し驚いた。 「どうしたの?スピードに目覚めたの?」 「まあね。ちょっと県道で時間食い過ぎたからね」 時速80キロを超えるスピードで数分走った後、田辺は信号もない細い道に曲 がった。 「あれ、国道じゃないの?」 「こっちが近道なんだ」 「ふーん」 一応舗装されてはいるが、車線のない道路だった。周囲は背の高い草が生えて いて、人家の灯りが遠くにぽつんと見える程度だ。志穂は少し不安になった。 「ねえ、だんだん山の方に入っていくけど」 「いいんだよ」田辺は素っ気なく答えた。「任せておいて」 さらに車は進んだ。道路には次第にカーブが増え、しかも少しずつ高い方へ向 かっていた。両側は樹木が並んでいる。 「ここ峠だよ?」 田辺は答えなかった。ただ、次々に現れるカーブを危なげのないハンドルさば きでこなしながら、着実にワインディングロードを駆け抜けていった。 「ねえ、田辺さんってば」 「ちょっと黙ってて」 初めて耳にする冷たい言葉だった。ショックを受けた志穂は口を閉ざすと、窓 の外を見た。理由のわからない不安が、徐々に心に浸透していく。志穂は無理矢 理気分を落ち着けようと、ピルの小ビンを取り出した。 蓋を開けようとしたとき、不意に田辺の手が横から伸びてビンを掴み取った。 そのままポケットに押し込む。志穂は怒るよりも、むしろ驚いて、田辺の顔をま じまじと見つめた。 「た、田辺さん」 そのとき、田辺はブレーキを踏んだ。車のスピードがぐっと落ちる。志穂は外 を見て、すぐそばに一軒のログハウスが建っているのに気付いた。車はその駐車 場に滑り込んでいた。 志穂がまだ驚きから覚めない間に、田辺はエンジンを切ってキーを抜いた。そ して、外に出ると、ぐるっと回って助手席のドアを開けた。 「降りて」 「な、なんで?ここ、どこ?」 「いいから早く」 促されるままに志穂は車を降りた。田辺はその腕をつかんでログハウスの方へ 歩き出した。いつものように優しい仕草ではない。まるで荷物でも運んでいるよ うだった。 ログハウスの窓には明かりが灯っていた。誰かいるらしい。志穂がちらりと後 ろを見ると、駐車場の端に、別の車が停まっていた。黒塗りの大型車である。 田辺はドアをノックした。 すぐにドアが開いた。そこに立っていたのは、志穂が全く見覚えのない男だっ た。スーツを着た、二十代後半の男である。細く鋭い目をしている。 「遅かったな」男が言った。「早く入れ」 「すみません」 田辺は志穂の腕をつかんだまま、室内に入っていった。 「た、田辺さん?」 そこは安物のソファと、小さなテーブルが置いてあるだけの部屋だった。隅に はテレビが置かれているが、今は何も映っていない。 ソファには三人の男が退屈そうに座っていた。もし藤澤美奈代が生きてこの場 にいたら、恐怖の悲鳴をあげたに違いない。一人はスキンヘッド、一人はパンチ パーマ、一人は汚れたランニングシャツの肩から入れ墨を覗かせている。 三人の男たちは、田辺と志穂の姿を見ると、待ちかねたように立ち上がった。 志穂は彼らが自分たちの方に進んで来るのを見て震え上がった。どう見ても、ま ともな男たちには見えない。 「田辺さん!」 志穂は田辺にしがみつこうとした。だが、田辺は酷薄な笑みを浮かべて、志穂 の身体を突き飛ばした。よろめいた志穂を、スキンヘッドが受け止めた。 「いやあああ!」 反射的にもがく志穂を、スキンヘッドは人形でも扱うように、易々と抑えつけ た。 「いやあ、ようやくこいつから解放されますか」田辺は別人のように残酷な表情 でにやにや笑いながら、親指で志穂を示した。「ガキのくせに、あっちの方だけ は一人前の淫乱女ですからねえ。簡単すぎて落としがいもありゃしない」 「お前にとっちゃ楽な仕事だったか」スーツの男が言った。「まあ、とにかくご 苦労だったな。誰にも見つかってないな?」 「ええ、そいつは大丈夫です。一週間ぐらいは行方がわからなくってもいいらし いですから、時間はたっぷりありますよ」 「よくやった」スーツの男は、内ポケットから封筒を出した。「約束の礼金だ」 「では、ありがたく。また、お願いします。兄貴にはお世話になってますから、 お安くしときますよ」 「田辺さん!」志穂は、なおも抵抗しながら叫んだ。「どうなってるのよ!」 「田辺さん、か」田辺は馬鹿にしたような目で志穂を見た。「まだわからないの かねえ。お前、おれが本当にお前を好きになったとでも思ってたのかよ。へっ、 ばかばかしい。仕事でもなきゃ、誰がお前みたいなブス相手にするか」 「し、仕事?」 「そうだよ。お前をコマしてくれってな。頼まれたわけよ。普段はこういう頼ま れ事じゃやらねえんだが、世話になってる兄貴の頼みじゃ断れねえ。ま、ありが たく思いな。さんざんいい思いしたんだからよ」 信じられない言葉を浴びせられて、志穂の表情は凍りついた。それでも、何も かもが手のこんだ冗談であることを期待する部分が、心のどこかに残っていた。 「うそ……」志穂は呆然とつぶやいた。「うそでしょ?田辺さんが、そんなこと するわけないじゃない」 志穂の言葉に、入れ墨男が笑い声を上げた。 「大したもんだな、ヤス。まだお前のこと信じてるぜ、この女」 「ばかなんだよ、こいつは。やることしか頭にねえんだ」 「うそ、うそよ……何言ってるの?」 そのとき奥のドアが開き、第6の 人物が姿を現した。その人物は志穂がよく 知っている声で答えた。 「うそじゃないわよ、天野さん」 志穂の目が驚愕で大きく見開かれた。 「せ、先生!」 「私が頼んだのよ」由希は落ち着いた微笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いて 志穂の目の前に立った。「全ては、今日この日のためにね。だいぶ苦労したのよ」 度重なる驚愕に志穂の精神は麻痺していた。由希の言葉は聞こえているのに、 意味が理解できなかった。ただ、由希が放出している隠しきれない悪意だけは、 なぜかはっきりと認識できた。 「うそ……」もう一度志穂はつぶやいた。 「うそじゃねえんだよ」田辺がにやにや笑った。「ところで志穂ちゃんよお、そ ろそろクスリが切れる時間じゃないか?」 田辺がポケットから、先ほど志穂から取り上げたピルの小ビンを出してみせた。 「そうなのか?」スーツの男が言った。「おい、じゃあ例の部屋に連れていけ。 お楽しみはその後だ」 三人は残念そうな顔で唸ったが、スーツの男に対しては絶対服従を守っている らしかった。スキンヘッドが改めて志穂の身体を抱え上げた。 その動作が、ようやく志穂を衝撃から回復させた。 「いやあ!」 「ほらほら、暴れんじゃねえ」パーマ男がひょいと志穂の脚を抱え込んだ。「こ んなに早く体力使っちまっちゃあ、後がもたねえぜ」 その言葉に志穂は、これから何をされるのかを想像した。レイプだ、こいつら にレイプされるんだ。 恐怖で意識が遠のいていった。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE