長編 #4046の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
秒単位でしていく。 「メインビームシステム作動まで、あと50秒」 ソフィアは、ログアウトポイントの映像を自分のコンソール上に映し出す。ロ グアウトポイントは、空間の揺らぎが発生しており、画面上無数の虹の輪がかか っているように見えた。龍が現れるのは、もうすぐである。 ソフィアは、龍を見たかった。伝説の怪物の姿を、自分自身の目で見てみたか ったのだ。 「メインビームシステム作動まで、あと30秒」 ログアウトポイントの光が、激しくなる。まさに何かが現れようとしていた。 「メインビームシステム作動まで、あと10秒」 ログアウトポイントに黄金の輝きが、出現した。無数に螺旋を描く虹の輪の向 こうから、夜明けの黄金の輝きが、暴力的な力を宿して出現する。 「目標、ログアウトしました」 「全、メインビーム作動します」 ソフィアは間違いなく、一瞬、龍の姿を見た。金色に輝く、双頭の龍。世界の 破滅を告げ知らせに来たような、凶悪な姿をしたその怪物は、ほんの束の間、ソ フィアのコンソールへ姿を現した。 ソフィアには自分が見たものが、幻に思える。その姿は、破壊の意志を具現化 したように凶暴であり、それでも尚、美しく思えるものがあった。 幻想の中にだけ、存在が許されるはずの怪物。それは、すぐにシルフィールド の放った白熱の光の矢へ、のみ込まれた。 ログアウトポイントは地獄のような、灼熱のエネルギーの渦に満たされる。そ こに戦艦が存在していたとしても、一瞬にして消滅しただろう。ただ、神が破壊 の為に使わしたような金色の龍は? 「目標が消えたわ」 クララが、当惑した声でいった。 「どういう事よ?」 クララは、コンソールを操作しながら答える。 「消えたのよ、物理的に。いえ、ちょっとまって、アクセスポイントが新たに出 現しつつあるわ」 ソフィアは、眩暈を感じた。 「何をいってるの?」 「新しいアクセスポイントが、できつつあるのよ!推定できるのは、龍が一度ア クセスポイントへログインしなおして、もう一度、別の場所からログアウトしよ うとしているという事だわ」 ソフィアは、その常軌を逸した事象を、言葉で理解できても、頭で理解しきれ なかった。アクセスポイントは太古に銀河先住民族が作り出したもので、その位 置が変わったり、数が増えたりするような類のものでは無い。それでも、ソフィ アはアグネスに向かって、指示を出す。 「新しいログアウトポイントにシルフィールドの照準を合わして、メインビーム システムを作動させて」 アグネスは、素早くコンソールを操作する。 「計算をやりなおして、照準を変えてロックオンするまで、240秒はかかるわ」 「目標がログアウトするまで、後180秒」 クララの言葉に、ソフィアの青い瞳が曇った。終わりだ。 「全速で退避。シルフィールドには、目標の自動追尾をセット。体当たりさせて 時間をかせぐのよ」 オベロンクラスの戦艦は、加速を始めた。加速したとはいえ、巨大なその船が 戦域を離脱するには、時間がかかる。間に合わないのは判っていた。 再び龍が、ソフィアのコンソール画面に出現する。伝説の中の怪物。金色に輝 く翼を広げた双頭の龍は、この世の終わりを告げる為に現れたように思えた。 黄金の龍は、シルフィールドには目もくれず、真っ直ぐオベロンへと向かって くる。シルフィールドたちは、死に魅せられた妖精のように、龍に向かって身を 翻す。 龍は回避運動を全くせず、正面からシルフィールドへぶつかった。閃光が走り、 シルフィールドが双頭の龍に噛み砕かれたように、破壊される。 立て続けにおこる、熱と光の繰り広げる破壊の饗宴は、龍の速度を変える事は 無く、その進路は真っ直ぐオベロンに向かっていた。双頭の龍は、シルフィール ドたちの破壊によって発せられる光と熱を受け、さらに凶悪に金色の光を増す。 それは、地獄の火焔から甦る、狂った不死鳥のようだ。 「いかれてるわ」 クララはホログラム上に繰り広げられる破滅の宴を目にして、怯えた声でいっ た。 「回避できないはずがない、あの龍の運動能力なら」 ソフィアは、言葉を失っていた。おそらく、龍は自らの凶悪さを誇示している のだろう。地上で見ている、ブラックソルに対して。 「目標が本艦に達するまで後、20秒」 アグネスが知らせたが、ソフィアにうつ手は残っていなかった。 「全員、脱出するわよ。本艦は放棄します」 ソフィアは、コンソールブースが閉鎖され、脱出用コクーンに向かってブース ごと射出される直前に、もう一度龍の姿を見た。シルフィールドの爆発する光を 受け、輝く黄金の翼を広げた龍の姿は、黙示録の中で語られる世界を滅ぼす獣で ある。 それは、崇高さの頽落であり、神話の戯画化であった。そして輝く黄金の龍は、 馬鹿げているが美しい。輝く宇宙を、無意味に翼を羽ばたかせ、長く延びた優美 な曲線を描く首を官能的にくねらせて飛ぶ姿は、感動的ですらある。 やがて龍は、コンソールから姿を消し、船体に衝撃が走った。龍は船内に、入 り込んだらしい。ソフィアは脱出用コクーンに向かいながら、龍がオベロンの船 内を喰い荒らす姿を、想像した。 そこは、オベロンのブリッジとほぼ同じ構成になっているが、規模が倍以上は あるギガンティスの作戦指令室である。その作戦司令室の中心にあるホログラム では、オベロンが破壊される様が映し出されていた。 その作戦司令室に、笑い声が響く。ブラックソルであった。闇色の髪の少年は、 げらげら笑いながら、自分の艦隊が壊滅するのを見届ける。 司令室のオペレータである他の少年たちを見渡すと、ブラックソルは漆黒の瞳 に浮いた涙を手で拭いながら、言った。 「おれと同じ趣味の野郎が、いるとはな」 ブラックソルは立ち上がると、笑いながら司令室の出口へ向かう。出口の手前 で立ち止まると、振り返って言った。 「おまえたち、よく覚えておけ。美とは畏怖のことだ。快楽とは破壊のことだ」 言い終えると、ブラックソルの顔から笑みが消える。 「すべてのベヒーモスクラスを、出撃させろ。龍を、派手に出迎えてやれ。奴に 相応しい破壊を用意しろ」 そしてブラックソルは、地下へ向かった。銀色に輝く冥界へ、破滅の凶天使が 降りてゆく。 「答えを聞きにきたぞ」 メイは、ブラックソルの前に再び立った。黒い巨人が銀色の大樹に磔にされて いる、その場所で。そして彼女自身の死のような、美しい死体の前で。 メイは問いただすブラックソルを、真っ直ぐ見据える。そして、頷いた。 「仕事を受けるわ。あなたと、ダイブします」 ブラックソルは、望む魂を手中に収めた冥界の王のように、満足げな笑みを見 せる。少年は無造作に手を伸ばすと、汚れを知らぬ新雪のように白い肌をした少 女の顔を、手で掴む。 「おれたちは、今から死を超える。一緒に行こうぜ、地獄の支配者のところへ。 おれは神話の詩人のように、死せる者を帰してくれと頼んだりはしない。相手が 何だろうと、おれの前に跪かせてやる」 ブラックソルは猛々しい笑みを、見せる。メイは、ブラックソルの手を払いの けると鼻で笑った。 「あきれた不良ね、あんたは。能書きはいいから、さっさと始めましょう」 ブラックソルは昏い瞳を、楽しげに輝かす。 「ああ。時間が無い。今から始める」 ブラックソルとメイは、それぞれのブースに入る。メイはブースのパネルを操 作し、ヘッドセットを身につけた。網膜投影装置のついたバイザーを降ろす。識 閾値を超えたレベルの視覚、聴覚情報がヘッドセットを通じて彼女の中へ流れ込 みだした。 メイは無意識のレベルで、膨大な情報を受け取っていく。それは、単なるビッ トのオンオフの情報にすぎない。毎秒数ギガの情報が、彼女の中へ流れ込んでい くが、メイの表層意識では、単なるノイズとしてしか感知できなかった。しかし、 彼女の深層意識には巨大な湖に雨が振り注ぐように、情報が蓄積されていく。 降り注いだ情報は彼女の中で、自己を再構築する。それは、暗黙知のレベルに おける、上位焦点化の精神作用といえた。単純に言えば、強力に作用する直感力 である。 情報群は、コンピュータのメモリ上に展開されたように彼女の中で動作を、始 めた。それはメイにとっては、いつもは建物のイメージで了解されるものである。 メイの中に注ぎこまれる情報は、建物のイメージとしてオペレーティングシス テムを表現した。そして、その建物の内部を動き回る機械として、アプリケーシ ョンシステムはイメージされる。 ただ、今回のダイブは、全く違った。そのイメージは建物とは、ほど遠いもの である。しかし、メイはそのイメージをよく理解していた。 それは、銀色の巨人である。彼女の中に、磔にされた漆黒の巨人に絡みつく銀 色の巨人が、形成されていた。そして、メイはその巨人と一体化しつつある。 メイは、その銀色の巨人と一体化しながら、自身がいわゆるシステムと呼ばれ るものと幾分違うことに、気づき初めていた。つまり、巨人は内部にデータベー スを収容した存在ではなく、単なる通り道、いわゆるインターフェーサでしかな いということだ。 メイは自分自身の中に、漆黒の巨人との繋がりができたのを感じる。今の彼女 は、漆黒の巨人と会話する事ができた。そうする為のプロトコルを、自身に内蔵 している。 そのプロトコルは、しかし、通常のサイバーネットワークのものとは大きく異 なっていた。いわゆる情報をトランスファーする為の規約では無く、それは、む しろ魔法的契約を思わせる。 メイは自身の血肉、あるいは精神の一部(それはイメージ上の話である)を漆 黒の巨人に『喰わせ』、見返りとしてある契約を履行してもらう。それは、漆黒 の巨人の背後に伺うことができる、巨大な闇の世界から眠れる何者かを、呼び覚 ます事のようだ。 メイは、そのプロトコルに触れただけで、酷く邪悪なものを感じた。漆黒の巨 人は、関わる者を宿命的に崩壊させ、狂わせる闇の魔王のようであり、そして巨 人が一体化している巨大な暗黒世界は、宇宙の根幹部分、宇宙の創世部分からね じ曲げていくような、不気味な力を感じさせる。 「何をためらっている」 突然、ブラックソルの声が響いた。いきなり身体の内部に金属の刃が、出現し た感覚である。メイからは、ブラックソルが見えない。ブラックソルは、彼女に とってメタレベルにいる。いわば、彼女を外から見ているのだ。 「さあ、漆黒の巨人を、目ざめさせろ」 「だめよ」 メイは、ブラックソルに向かって叫んだ。 「間違っている。このユグドラシルは、世界を狂わせる為の存在だわ。宇宙に部 分的な狂気を発生させ、その中でエントロピーを逆転させようとしている。 うまくいえないけど、これは根元的な邪悪さを秘めてるのよ」 メイは、全身が熱くなるのを感じた。これは、笑いである。ブラックソルの哄 笑であった。彼の笑みが熱となって、彼女に照射している。 「はっ!何か勘違いしているだろう、メイ・ローラン。地球帝国の連中は恐れた のだ。宇宙の創造に関わるレベルで、宇宙そのものへ傷をいれる事を。おれがや ろうとしているのは、それだ。宇宙を崩壊させる。そして、おれと、リンダで世 界を作り直すのだ。 たとえ出現するのが、邪悪な狂気にのみ込まれた世界であろうとも、それこそ、 おれたちの生きていく世界として相応しい物だ。なぜなら」 メイは、ブラックソルに、漆黒の巨人とその背後にある暗黒世界以上の、激し い邪悪さを感じた。 「おれたちが、マルスで見たものこそが、それだからだ」 メイはもとよりブラックソルに逆らうことなぞ、できるはずが、なかった。ブ ラックソルは、彼女のメタレベルにいる。今や、彼女以上に、彼女自身が見えて いた。 メイ=銀色の巨人が、動く。その銀色の血が、その精神、メイの魂の一部が、 漆黒の巨人へと流れ込んでいった。闇色の巨人は、それを喰らい、咀嚼し、よう やく目ざめ始める。 そして、暗黒の巨神は太古の眠りより目ざめた。終末の啓示をもたらすために 顕現した、黙示録の獣のように。メイは、宇宙が軋む音を、聞いた。
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