長編 #4037の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「花火」 「まさか、これほどとはねえ・・・・・」 佐伯さんは、茶の間の卓袱台の上に積み上げられた花火の山を前に、目を丸くしてし ばらく眺めていた。 「おばあちゃん、すごい!」 「こんなにたくさんの花火って、見たことない!」 二人の孫は興奮してはしゃぎまわっていた。 もとはと言えば、新聞の折り込みチラシを見て、よく考えもせずに注文したのが悪 かったのだ。チラシには大きな赤い文字で、『大特価!家庭用花火バーゲン。お買い 得4,980円!』と書かれていた。写真も載っていて、そこには花火の種類別に、 吹き上げ花火50本、ロケット花火30本、吹き出し花火100本、その他線香花火 仕掛け花火多数という具合に中身の説明がしてあった。 佐伯さんはそれを見て、孫達が喜ぶこと請け合いとぱっとひらめいた。まあ、消費 税入れて五千円とは少々高いけれど、親がいつも留守がちで寂しい思いをしている子 供達だから、奮発して買ってやろうと電話で注文したのが一週間前のことだった。み かん箱よりやや大きめの段ボール箱が宅配便で届けられた。 箱を開けてみると、中は花火がぎっしり詰まっていて、出てくるわ、出てくるわ、 赤や黄色や鮮やかな色で星の模様や蝶や動物の絵の描いてあるカラフルな花火が、切 りのないほど出てくるのだった。 そこへ、学校のプールに泳ぎに行っていた二人の孫が帰ってきて歓声をあげた。 「いまさら返すわけにはいかないねえ。」 孫達のあまりの喜びように、佐伯さんはあっさり諦めてしまった。そうなると茶目っ 気が出てきて、 「お友達も呼んで、うんと盛大に花火大会をやろうか。」 と孫達をつい、けしかけてしまった。 「やろう!やろう!」 「あたし、お友達をうんと誘ってくるもん!今日ね。今日の夜ね!」 さすがに今すぐでは準備が忙しい。 「あさって。金曜日の夜にしましょ。そのかわり、おばあちゃんうんとサービスして 西瓜を買って冷やしておくから。さあ、手を洗ってらっしゃい。とうもろこし、茹で てあるから。」 二人は日に焼けた素足を汗で光らせながら立ち上がると、バタバタと洗面所に走っ ていった。 まどかと樹(たつき)は双子の兄弟である。双子とは言っても女と男だし、取り立 てて似ているというほどでもない。しかし、何かを行動に移すときは一致団結するし 仲もいい。まだ小学校1年生なので、リードするのはしっかりした女の子のまどかの 方だ。だいたいは樹がおっとりと付いていっている。 母親は旅行代理店で添乗員の仕事をしているのでほとんど家にいないし、父親もお 堅い役所勤めで忙しい。だから、普段は祖母である佐伯さんが親代わりだった。こと に夏休みは観光シーズンだから、母親はほとんど家に帰ってこない。 でも、佐伯さんはこぼしたり、不満を漏らしたことはない。体はどこも悪くないし まだ老け込む歳でもない。孫達はかわいかったし、夫に先立たれた佐伯さんにとって は、二人の小さな子供達に囲まれてくるくると目の回るような生活をしている方が張 り合いがあってよかったのだ。 双子の手を引いている佐伯さんは目立った。朗らかな性格で、誰彼分け隔てしない 言葉と物腰は、大人からも子供からも「佐伯さん」と呼ばれて親しまれるのだった。 台風の襲来で、金曜日の夜の花火大会はお預けになった。 その夜、まどかと樹は地団駄踏んで悔しがった。 「だだをこねてもダメよ。こんなに風が強くて、今に雨がたくさん降ってくるってい うのに、花火大会なんてできるわけがないでしょう。我慢しましょ。そのかわり、お ばあちゃん特製の手作りクッキーを作ってあげるから。まどかも樹も手伝ってね。」 どうにか二人の関心をお菓子づくりに向けられたので、佐伯さんはほっとした。 夜半から、渦巻く風と激しい雨が家に叩き付けては通り過ぎていった。 佐伯さんはひとり目を覚ましていた。 孫達の顔を見た。 よく眠っている。 こんな夜に、ほんの少しだけ、不安が胸をよぎるのを感じることがあるのだった。 翌日は雨もすっかり止み、うって変わって晴れあがった蒸し暑い日になった。 佐伯さんはお昼前に用足しを済ませてしまおうと、急ぎ足で商店街に向かった。日 光がとても強かったので、お気に入りの白いレースの日傘をさした。3丁目の通りを 歩いていくと、小学生らしい少年の姿が見える。家の陰でシャベルを持って、なにか 一生懸命掘っている様子なのだ。時々、独り言らしく口をぶつぶつと動かしている。 近づくと、5年生の広紀君だった。 広紀君は5年生にしては背の高い、ひょろっとした体格の子供で、たまに近所の子 供と一緒に佐伯さんの家にも遊びに来ることがあった。あまりしゃべらず、無表情で どちらかというと陰気な感じがした。 「あら、広紀君。なにしてるの。おうちの人は誰もいないの?」 広紀君は、重く顔を上げて答えた。 「おはか。おはかを作ってるんだ。台風でこわれちゃったから。」 「まあ、何のお墓なの?」 「僕の家で前に飼ってた、死んじゃった熱帯魚と金魚とハムスターのお墓。」 「そう。ところで赤ちゃんは生まれたの?」 「生まれたよ、とっくに。弟だって。でも、お母さんはしばらく帰ってこないって。 ふたりも面倒を見るのは大変だからって・・・・・」 佐伯さんは、この長い夏休みをずっと独りで過ごさなければならない少年に同情し た。 「少し寂しいわね。・・・・でも、直にお母さんも帰ってくるでしょう。おにいちゃ んになったんだもの、がんばって。」 少年は急に表情を変えて、声を荒立て、喉を詰まらせた。 「うそだ!みんなそう言うけど、お母さんはもう帰ってこないんだ!僕のことなんか 忘れちゃったんだ。僕より赤ん坊の方がいいんだ!」 佐伯さんは驚いて言った。 「そんなこと、絶対ありませんよ!お母さんは今赤ちゃんのお世話で大変なのよ、き っと。」 「・・・・あのね、おばさん、花火をたくさん持っているのよ。それでね、明日、若 葉公園で花火大会をしようと思っているの。広紀君も来ない?とても楽しいわよ。ね 、 きっといらっしゃいね、お父さんに断ってから来るのよ。六時ころね。」 広紀君は、怒りを収めてうなずいた。 「あ、先におばさんの家に寄ってね。西瓜を冷やしておくから。」 佐伯さんは笑みを浮かべて、別れを告げた。これは大袈裟な事になったものだわ。 明日の花火大会は相当ハッスルしないと・・・・ 佐伯さんは、少し後悔するのだった。
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