長編 #4015の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
また大きく頭を下げた椎名に、相羽は困ったような笑みを浮かべる。 「気にしなくていいって。その代わり、椎名さんが涼原さんにあげたお土産、 僕も見ていい?」 「あ、いいですよ」 あっさり承知すると、椎名は最後にまた小さくこうべを垂れ、礼を述べてか ら歩き出した。 「ほんとに、気を付けてね!」 椎名が行ったあと、純子と相羽は、前後して自転車に跨った。 「これ、使う暇がなかった」 こぎ出す前に、自らの左胸を指差す相羽。 「−−ああ、手品ね。どうせまた会うことあるだろうから、そのときにすれば いいわよ」 そう言ってから、自分が相羽の手品の一つを見破ろうと決心していたことを 思い出す。 それを口に出しかけたが、寸前でやめた。 (言ったら、ヒントがほしくなっちゃいそう) 他の話題を探すと、やはり、さっき椎名にもらったお土産のことになる。 走り出してからだと面倒なので、すぐに開けてみた。 「キーホルダーだわ。かわいいっ」 袋の中から、手の平へ転がり出たのは、三種類のキーホルダー。 一つは観光名所の絵柄が入った、丸くて大振りな物。 一つはよくある、名前の入った四角いやつ。純子がもらった分には、当然、 「JUNKO」とピンク色の文字で記してあった。 そして三つ目は、小さな虫眼鏡をぶら下げた物。 「あっ、これって、本物のレンズだわ」 自分の指紋が、わずかだが大きく見えるのに気付いた。 「なるほど、確かに役立つ」 横から覗き込んでいた相羽が、感心した風に何度もうなずく。 「名所と名前は分かるけれど、どうして虫眼鏡なのかしら」 「そりゃ、決まってるよ」 さも当然と言いたげな相羽。 「名探偵と来れば、虫眼鏡」 「あ、そういう意味。全く、ちょっとぐらい、女らしい物にしてくれたってい いのに」 口ではそう言ったけれど、純子は三つのキーホルダーを丁寧に紙袋へ戻した。 そして、これまた丁寧な手つきで、水泳バッグのポケットに仕舞う。 それからようやく、自転車がスタート。 しばらくの間、同じ帰路が続く。 「相羽君、どうだった? その、無理矢理、付き合わせちゃった感じだったけ れど……」 「ん? そんなことないよ」 後方を行く相羽の声は、どこか楽しげで、名残惜しそうでもある。 「元々、僕の推理劇のファンて人に、会ってみたいと思ってたんだしさ。ただ、 まあ、残念と言えば」 「残念なこと、あった?」 肩越しにちらと振り返る純子。 「いや、大したことじゃないけれど。今日こそ、涼原さんの家に上がらせても らえるかと思ってたんだ。ははは。見事に、すかされた」 「ば、ばかね。そんなこと、どうでもいいじゃない」 ほんのわずか、顔が赤くなったかもしれない。 (相羽君、後ろだし、夕日が当たってるから、分からないよね?) 「どうでもいいことないぞ」 「えっ?」 何か特別な事情があったかしらという考えが、頭をよぎる。 相羽は真剣な口調で続けた。 「何故なら……CDを借りられないじゃないか。はははは!」 砕けた物腰に一変した相羽に、純子はがっくり、肩の力が抜けた。 「ほらほら、しっかりハンドル持たないと、危ない」 ふらついたところを、しっかり注意されてしまった。 「誰のせいよ」 小さく、言い返した。 「あ−−」 横断歩道ですれ違いざま、お互いを見つけ、同時に振り返った。そのまま、 駆け寄って間を詰める。 「きゃー、国奥さん、久しぶり!」 「わぁ。偶然だね」 富井達と四人で繁華街に出た、その帰りだった。 国奥の方は制服姿。彼女一人らしい。 「今日は何を?」 話をしようとしたら、歩行者用信号が点滅を始めるのが分かった。 少々迷った挙げ句、国奥が向かおうとしていた方へ走る。 「時間は大丈夫? 何か用事があるんだったら」 「ううん、私の方はもう終わった。みんなと映画観て、さっき別れてきたとこ ろなんだ。涼原さん達こそ?」 「うん、もう暇になってる。ねえ?」 町田らに同意を求めると、うんうんとうなずきが返って来た。 「どこか、ゆっくりお喋りできるとこ、行こうよぉ。ファーストフードのお店 とかさあ」 富井が言うと、国奥は残念そうに、伏し目がちにして首を振った。 「ごめーん。私んとこの学校、そういったお店一切だめなんだな、これが」 「ええ? 喫茶店とかじゃなく、ファーストフードもだめ?」 井口が、驚くと言うよりも、呆れている。 国奥はかすかに笑いながら、首を縦に振った。 「いいじゃない。ばれなきゃいいって」 富井が気軽に言うのへ、町田がたしなめる。 「こーら、郁。万一、見つかったとき、あんたや私らはよくたって、国奥さん が困るじゃないか。分からないのか、全く」 「ああ、そうでした。ごめんなさい、国奥さん」 「いいのよ。うちの校則が厳しすぎる。映画だって、いちいち学校側のチェッ クが入って、許可が出た物しか観られないんだから」 「ほへーっ」 みんなで、妙な声を上げてしまう。 「私立って、やかましいのねー」 「あ、校則で思い出したけれど、そっちはアルバイト、禁止されてないの?」 「ええ? そんなことないわよ」 国奥の質問に、町田が答える。 「特別な事情があれば、新聞配達が認められるぐらいだっけ、確か」 「そうよね、普通。じゃあ、私の見間違いか。制服来た子が、この辺りのお店 に入っていくの、見かけたような気がしたんだけど」 「この辺りって……」 見回すと、飲食店が立ち並ぶ、にぎやかな通りだった。 「その店の子供じゃない? 親が経営してる」 「きっとそうね」 それから相談した結果、駅に向かうことになった。本当は、純子達は書店に 足を運んでいたのだが、特に目当てがあるわけじゃなし、時間潰しが目的だっ たので、国奥の都合に合わせる。 駅待合いのホールは人がたくさん行き交うが、充分なスペースがあるし、元 元騒がしいので、遠慮なくお喋りできる。 「うーん、やっぱり、国奥さんの方が勉強、進んでるなあ」 「ほんの少しだけよ」 「友達、できた?」 「さっきも言ったでしょ、友達と映画に来たんだって」 「あ、そうか。女子校って、どんな感じ?」 「……女ばっかりいる」 「当たり前だよー、それじゃあ」 「ううん。本当に女ばっかり。男の先生さえ、一人もいない」 「げげ」 「男っぽい女の先生はいるけどさ」 「ひょっとして」 ふと、興味に駆られ、純子は質問を思い付いた。 「女同士で……っていうのも、あり?」 「−−涼原さん、何で知りたいの?」 唖然とした風に、国奥。他の友達も、ざわめく。 「純子、そういうのに、興味あったんだ?」 「道理で。バレンタインのときも、誰にもあげないと思ったら、純ちゃん」 「推理劇の探偵役も、地だったのか。うんうん」 「−−こらあ!」 大声で否定。肩が上下する。 「芙美まで、乗らないでよっ」 「あはは、分かった?」 「でも純ちゃん、バレンタインのとき、五年生の女子から、チョコをもらった じゃない」 富井がぽろっと言ったのを、純子は指差して非難する。 「郁江、ひどい! 内緒にしてたのに」 「あ……ごめん。忘れてた」 「もうっ」 頬を膨らませる純子だが、先ほどの質問の直前に、椎名恵のことが思い浮か んだのは事実。 「一応、決着したことだから、いいけれど」 と、富井を許すと同時に、他の三人に事情を説明する。 それが終わるなり、町田が腕組みをして言う。 「ふーむ。じゃ、もしかしたらその子、相羽君を好きになってたかもしれない んだ。純が代役やったおかげで、危ない道へ」 「ちがーう! 話、ちゃんと聞いてよぅ。その子は、初めから男の子が苦手で」 「分かってる、分かってる。まじで怒りなさんな」 右手の平をひらひらさせて、冗談だとアピールする町田。 「ほどほどにしてよ」 「さ、さっきの続きだけれど」 国奥が、おずおずと始めた。 「噂ばかりで、実際にはないみたい。逆に、どこそこの男子と付き合ってるな んていう方を、みんな、気にしている感じ」 「なるほどー」 「ねえ、私ばかり答えさせないで、みんなの話も聞かせてよ。新しく知り合っ た男子、いるんでしょ?」 「いるよー」 みんなが先を争って話す横で、そっち方面の話にはあまり関心のない純子は、 一歩退く格好。 (みんな、よく喋る……。だけど、女子校っていうのは、つまんない気がする。 友達なら、女子も男子も関係なく、たくさんいていいから) その内、国奥の方がタイムアップとなり、一緒に電車に乗り込んだ。 同じ駅で揃って降りてから、それぞれの家路に就く。 まずは、純子と国奥の二人と、他の三人が別れた。 「小学校のときでも、こうやって帰ったこと、あんまりなかったね」 「うん。私、たいていの曜日は、塾があって、急いでたから」 「受験勉強って、大変なんでしょ。私なんかまだ実感ないけど」 「−−それより、涼原さん。聞きたいことがあるの」 「何? さっき、電車の中で聞いてくれればよかったのに」 「ふふっ、二人きりじゃないと、聞けないことだから」 「え?」 含み笑いしながらの国奥に、純子はきょとんとして振り向いた。 「どういう意味なの、国奥さん?」 「えっとね……」 質問の仕方を考えるように、しばし逡巡する国奥。 「涼原さん、中学生になってから、誰かから告白されなかった?」 「−−はい?」 突拍子もない質問に、目を丸くして聞き返す。 国奥の方は、目を輝かせている。何やら、確信めいたものがあるようだ。 「男子から、告白されたんじゃないかなあって思って」 「ちょ、ちょっと。どうしてそういう話が」 「隠さないで、教えてほしいな。誰にも言わないから」 「隠してないわよ、誓って」 頭が痛くなるくらい、何度も首を横に振る。 「どうしてまた、そんな変なことを考えたわけ、国奥さんは?」 「そんなに変とは思わないけれど……」 「あー! まさか、まさか、相羽君のこと言ってる?」 はたと思い当たって、純子は国奥の胸の辺りを指差した。 (国奥さんには、キス事件について、嘘の説明さえしてないもんね。勘違いさ れても当然だわ) 得心する純子に対し、国奥はそうそうとばかり、うなずいた。 「何だ、分かってるじゃない。相羽君のことを言いたかったのよ」 「関係ないわよ。国奥さんはねー、あのキスのこと、言ってるんでしょう?」 「え、まあ……」 やや口ごもる国奥。 純子はその態度が気になったが、深くは考えず、次に進んだ。 「あのとき、あいつ、口では変なこと言ってたけど、あれは全部、でまかせ。 本気だったら、あんな風な状況で言うはずないでしょうが」 −−つづく
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