長編 #4012の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
七月最後の日。朝から焼けつくようにきつかった日差しは、午後に入って、 ますます勢いづいてきた。 そんな中、人々が集まる。 そう、人々−−相羽と椎名恵が、純子の家に。 (何で、私の家なのよ) 迎える準備をしながら、それでもまだ首を傾げたくなる純子である。 純子は最初、椎名を相羽に会わせるにしても、その場所は二人の家のどちら か、あるいはどこかの公園になるものと、頭から決め込んでいた。 ところが、日にちがまとまってから、椎名の方からお願いされてしまった。 「よく知らない人の家に行くの、両親が許してくれないんです」 電話口で訴える椎名。 「じゃあ、恵ちゃんの家で決まりね」 「それもだめです。あまり親しくない人、特に男の人が来ると、お母さんがび っくりしちゃいますよぉ」 言わんとすることは、純子にもよく分かる。だから、送受器を持ったままう なずき、三つ目の場所を提案する。 「それなら、どこか、公園にでも集まろうか。そのあと、ファーストフードの お店に入って−−」 「それよりも、いい考えがあります。涼原さんの家にお邪魔しては、だめでし ょうか?」 「私の? そ、それって、私の家で、相羽君とあなたと……」 「はい。私、先輩−−じゃなくて、涼原さんの家に一度、上がらせてもらいた かったですし。一石二鳥ってやつですよね」 「ちょ、ちょ−−待った。待ってよ」 椎名の明るい声の勢いを止めようと、どもりながらも強く言う。 「どうして、そういうことになるのかなあ?」 「え、何か問題あります?」 きょとんとした調子になった椎名。どうやら、真面目に言っているらしい。 「問題も何も、あのね。今度の場合、私はただの付き添いで」 「でも、私の方の都合は、さっき言いましたように……」 「それは分かってる。で、どうして私の家になるの。公園じゃだめ?」 「できれば、誰も邪魔の入らないところがいいです。そうなると、私と涼原さ んと相羽先輩、誰かのお家がいいってことになるでしょう? その内の二つが ペケなんですから、残った場所を選ぶのは当然です」 「あのね、恵ちゃん」 語調をきつくした。これは一度、強く言っておかなくちゃ、と思う。 「はい、何ですか?」 「私にも、都合はあるの。そりゃあね、あなたが来るのは問題ないわ。だけど、 相羽君はね。無理よ」 「ええー? 何故ですか?」 びっくりするぐらい大きな声に、純子は送受器を遠ざけた。 椎名の声が落ち着くのを見計らい、再び耳を押し当てる。 「だから−−」 「ね、ね、何が問題なんです? 教えてくださいっ」 「決まってる。相羽君が私の家に来たこと、これまでにないのよ」 「……嘘でしょう?」 そう言う恵の声は、笑いが入っている様子。 「私のこと、からかってるんだ。涼原さんも、人が悪い」 「そうじゃなくて、本当なの」 ため息混じりに答える。 (そういう風に思われてたわけね。納得) 「相羽君、私の家の前まで来たことは何度かあるけど、家の中に入ってはいな いの。分かった?」 「信じられませーん。だって、お話を聞く限りじゃ、とっても仲よしじゃない ですか、先輩達。もしかして、おつき合いしてるんじゃないんですか? 私、 相羽先輩がうらやましくなりそうなほどなんですよ」 「ちっがーう! えっと、色々あって、親しくはなったかもしれないけれど、 そういうことは全然ない!」 思いっ切り否定する。 (誤解も甚だしいわ。はっきり、言っておかなくちゃ) 「色々って、何なんですか」 「それはつまり……」 困った。例を挙げるとすれば、モデルのことを話せばいい。 だが、そもそも代役でモデルをやった話を、椎名には知らせていない。 (恵ちゃん、私が女らしい格好するの、嫌がるんだもん) 壁に指先を当て、文字にならない文字を書く。どう説明しようか、迷った。 「相羽君のお母さんとね、お仕事上の知り合いなのよ」 「へえ? 親同士が、同じお仕事をしているんですね」 椎名が勘違いをしていることに、すぐ気付いたが、ちょうどいいので否定は せず、曖昧に返事しておく。 「さ、分かったでしょ。だから、公園で−−」 「いいじゃないですか。それだけ親同士が親しいんだったら、男の子をお家に 上げても、何も心配されないでしょう?」 「え?」 何でそうなるのと言いかけたが、次の瞬間には、押し切られていた。 「決まり、ですね。一石二鳥どころか、三鳥になりますよ。いい機会ですから、 相羽先輩を涼原さんの家に上げちゃいましょう!」 「……そう……かもね」 もはや純子は、説得の仕方を誤ったことに気付いていた。 そしてまた、大いに後悔もした。 −−というようなやり取りを経て、今日に至る。 「迷わずに、来られるのかしら」 時計を見ながら、ふと思った。 椎名には住所を教えただけである。 不安もいくらかあったから、迎えに行こうかと言ったところ、 「平気です。それに、もし何かあったとき、お家に涼原さんがいないと、連絡 が取れなくてややこしくなるんじゃありません?」 という分かったようで分からないような、とにかく妙な理屈で断られた。 約束の時刻は、二時半。もうそろそろだ。 「−−あ」 自分の部屋の窓から道路を見下ろしていると、相羽の姿が目に入る。自転車 に乗って、何故か学校の制服−−もちろん夏服だが−−を着ていた。 とにもかくにも、一階に降りて、玄関を出た純子。 「相羽君」 「や」 ちょうど家の前に来て、自転車を降りたところだった相羽は、きょろきょろ と頭を動かしている。 「自転車、どこに止めればいいのかな?」 「あ、中に入れて、適当に」 言われた通りにする相羽。自転車は、門から玄関へと続く、極短い小道の脇 に留め置かれた。 「それで、その六年生は、もう?」 自転車篭から紙袋を引っ張り出しながら、相羽。 純子は首を横に振った。 「ううん、まだ。住所を教えただけだから、ひょっとしたら、迷ってるかも」 「ここに来るの、初めてなんだ、その子? −−何時?」 腕時計をしない相羽が、聞いてくる。 「二時半になったぐらいだと思う」 「それなら、いいか。少しぐらい、遅れても不思議じゃない」 「……上がって、待ってて」 躊躇してから、その言葉を口に出した。 先に立って、玄関のドアを引く。 「お邪魔しま」 相羽の言葉に被せる形で、電話が鳴った。 一瞬、顔を見合わせてから、相羽を置いて中にかけ込む純子。 が、電話を取ったのはタッチの差で、母親。 「−−あぁ、はい、ちょっと待ってね。−−純子、椎名さんから」 やっぱり、と思いながら、送受器を受け取る。 「はい、代わりました」 「迷いました〜」 いきなり、救いを求める椎名の声。情けないとかみっともないと言うよりも、 弾んで聞こえるから不思議。 「恵ちゃん、今、どこ?」 「分かってたら、迷いませーん」 「……そりゃそうだわ。電話、どこから?」 「携帯です」 小学生が持っているのかと、ひがみそうになる。 「周りに何か、目印になりそうな物はないの? 本屋さんや郵便ポストとか」 「えっとですね」 しばし間が空く。電話片手に首を巡らせる椎名の様子が、簡単に想像できた。 「電器屋さんがあります。タナベ……じゃなくて、タナブでんき、って看板が かかってて」 「あ、分かった」 結構、遠い。多分、曲がるべき角をどこかで間違えたのだろう。頭の中に地 図を描くと、方角が九十度ほどずれている。 「えーっとね、恵ちゃん? 電器屋さんの右隣、路地になってるでしょ? そ こを北に」 「涼原さーん、迎えに来てくれませんか。やっぱり、無理みたい」 「あ、あのねえ」 力が抜ける。 ふと、玄関口に立ったままの相羽の姿が目に入った。 「最初から、そう言いなさいよ」 「すみませーん」 「いいわ。もう相羽君は来てるから、待っててもらって、私が行く」 「ありがとうございまーす」 外からの電話のせいか、間延びした言い方を連発する椎名。 「その場所から、動かないでね。すぐに出るから」 念のために携帯の電話番号を知らせてもらってから、電話を切った。そして 相羽に事情を説明しようと振り返ったら、先に向こうから話しかけてきた。 「迎えに行くんだ?」 「聞こえた? うん、恵ちゃん、迷い子になったみたいで……しょうがないん だから。あの、悪いけど、相羽君は上がって、待っててくれる? 行って来る わ」 「……僕も行く」 相羽の返事に、彼の前を通り抜けようとしていた純子は、思わず足を止めた。 「ええっ? 何で」 「一人で待ってるなんて、落ち着かないよ。一緒に行く方が、よっぽどいい」 「……」 純子も逡巡する。 (それもそっか。私がいない間に、部屋を見られるのも嫌だし) 「うん、そうしよ」 きこきこきこ−−と、心持ち急きながら、自転車でタナブでんきまで駆けつ けてみると、果たして、いた。 水色のワンピース姿で、電信柱に持たれ、うつむき加減に立っている。 「恵ちゃん!」 近くに自転車を止め、飛び降りるや呼びかけた。 が、当然即座に元気のよい返事があるものと思っていたのに、それがない。 椎名恵は、ゆっくりと顔を上げただけ。 「……どうしたの?」 覗き込む純子の後ろから、相羽が言葉を差し挟む。 「長いこと、日差しに当たったせいじゃないか。帽子もない」 その通りで、椎名の手には小さな鞄があるだけで、あとは何も持っていない。 「あ、そうか。−−恵ちゃん、大丈夫?」 「……暑い、です。ぼーっとしちゃって……」 かすれるような口調だった。 純子は辺りを見渡した。 (……コンビニもお菓子屋も、ジュースの自動販売機もない) どうしようと悩んでいるよりも早く、相羽が再び自転車に跨った。 「何か冷たい物、買ってくる。涼原さんは見てあげてて」 「分かった。えっと、向こうの角、日陰だから、あそこにいるわ」 そう言って、椎名に手を貸してやりながら、ゆっくりと歩き出す。 「もう、無茶するんだから」 日陰まで来ると、どこかの家の塀を背もたれに座らせた。 「ふぁい……すみません」 ハンカチを広げ、ぱたぱたと扇いで風を送る。 「喋る元気はあるのね?」 「何とか……」 「……どのぐらいの時間、外にいたのよ」 「……何時ですか、今」 「え? えっと、三時前だと思う」 「じゃあ……一時間ちょっと、かな」 「恵ちゃん、何時に家を出たのっ?」 泡を食って、勢い込んで聞く。 「だから……一時半ぐらい」 「それじゃあ、早すぎる」 「迷ってもいいように、余裕をみたら……それ以上に迷っちゃいました。すみ ません……」 −−つづく
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