長編 #4004の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「……俺なんて人は知りませんっ」 声で分かったが、純子は冷たく切り返す。 「お、おまえなあ。人が折角、電話してやったっていうのに、その言い方はな いだろ」 「おあいにく様。あんたから電話もらっても、ちっとも嬉しくないの、清水ク ン。押しつけがましいこと言わないで」 「お、俺はだな」 やたらにどもる清水。 「そんなことより、こんな時間に何の用よ」 「ク、クラスのリレー電話だよ。副委員長の家が留守だから、一つ飛ばしてお まえのとこに」 クラスの電話連絡網は、男女一緒の五十音順を元に決められている。 純子の前は、本来は白沼なのだ。 「そうだったの。連絡は何?」 「天気が悪くなりそうだから、明日の水泳、なくなることもある。だから、体 操着も持って来い、だとさ」 「分かった。白沼さんにはどうするのよ」 「それは……男の俺が夜、あんまり遅くなってからかけるのも何だしさ。おま えからかけてくれよ、頼む」 電話の向こうで拝む清水の姿が、楽に想像できた。 (私には平気でかけてるくせして) そんな文句の一つも浮かんだが、口にするとさらに長引きそうなので、やめ ておく。 「しょうがないわね。いいわ。じゃあ」 「ま、ま、待った。待てよ」 電話を切ろうとするのを、清水のどもった口調がストップをかける。 「まだ何かあるの、連絡?」 「そうじゃないけど……涼原、変だぞ」 「ん? 何言ってんの」 きょとんとして答を返し、送受器を持ち替える。 「元気ないんじゃねえか? 前の週の……木曜か金曜ぐらいから、ずっと変だ ぜ、おまえ」 「変、変って何度も言わないでよ。何ともないわ、私は」 「そうかあ? おかしいぞ。ぼーっとしてることが多い」 「何度言わせる気? 早く連絡、伝えなきゃいけないんだからね」 「そ、そうか。ま、まあ、おまえがそう言うんだったら」 清水の口ぶりは、でも、まだ何か言い足りなさそうな響きを残していた。 「あ、明日、プールだったら、じっくりと見てやるからな、水着姿」 「ばか。何言ってんの」 送受器を戻し、まず、自分の次の相手に電話をした。 それから今度は白沼の家に。初めてだけに、いくらか緊張する。 (……ほんと、留守みたい) 十一度目の呼出し音が始まり、一旦やめようと思った矢先、通じる音が聞こ えた。 「はいっ、お待たせしました、白沼です」 急いで駆けてきたらしい、女性の声。よくよく聞くと、白沼絵里佳本人だ。 「白沼さん? 私、涼原だけど」 「え、涼原さん? 何の用かしら」 落ち着くためか、軽く深呼吸するような音が流れてくる。きっと、外出から 戻るのと同時に電話のベルが鳴り始め、慌てて靴を脱ぎ、飛び付いたのだろう。 「クラスの電話連絡。清水君がかけたんだけど、いなかったから、代わりに私 が」 「……ああ、なるほどね。分かったわ。連絡って?」 用件を伝え、純子は早々に電話を切ろうとした。 が、今度もまた呼び止められる。 「あぁ、ちょっと、涼原さん」 「え、何? 何か分からないこと、あった?」 「違うわ。もう、次の人には伝えたんでしょ」 「え、ええ。先に」 「だったら、時間は大丈夫よね。それとも、こちらからかけ直そうかしら」 「い、いいわよ。少しだけなら」 居間にいる両親の方を、一応、気にしながら、純子は答えた。 「立島君のことだけど、彼、前田さんとできあがっちゃってるの?」 「で、でき−−」 白沼のストレートな言いように、面食らってしまう。何度か口をぱくぱくさ せた。 「どうかした?」 「う、ううん。何でもない……」 「それならいいけど。それでさ、あの二人、そうなんでしょう?」 「う……えーと」 口ごもる純子は、右頬を指先でなでるようにかきながら、頭の中であれこれ 考えていた。 (私にだって、正確なところは分からないわよぉ。仲がいいのは間違いないし、 前田さんが立島君をいいと思っているのも、ほぼ確実だけど) 間ができて焦れったくなったか、白沼の声のトーンが上がる。 「涼原さんっ? 聞いてる?」 「は、はい、聞いてます」 「あのね、私、別に怒っているんじゃないわよ」 白沼の今度の言葉は、意味が飲み込めない。 (怒って……って、私、怒らせるようなことは何も) 純子がそう言いそうになるのを我慢して、基、口に出すよりも早く、白沼は さらに続けた。 「そりゃあね、あなたと前田さん、親友でしょうから、立島君と前田さんがす でにできあがっちゃってても、言い触らすような真似はできないでしょうね。 それは分かるわ。私が最初に彼のことをあなたに聞いたとき、言ってくれなか ったとしても、当然よね」 かなりの早口で言う白沼。自分の考え方に間違いは絶対ないと、確信してい るようだ。 (そういう意味で言ったのね) と、純子が納得する間も極わずか。白沼はさらにさらに、言葉を重ねる。 「だから、正直に答えてちょうだい。二人はカップルなのかどうか」 「……えっと、多分、カップルみたいなものだと……」 「曖昧ねえ。デートぐらい、してるんじゃないのかな?」 「そっ、それは……噂では聞いたけれど、実際に見たわけじゃないから」 「そうなの? うん、それで充分だわ」 何やら元気のいい声になる白沼。うなずいているらしい。 「あの、白沼さん。立島君のことは、あきらめるの?」 何となく、おずおずとした口調になってしまう。 「さあ、どうしようかしら。前田さんが強敵なのは素直に認めるけれどね。簡 単にあきらめられるかどうか。自分でも言っちゃうと、私、結構、あきらめが 悪くて。ほしいものはほしい」 「……」 「でも、まあ、ターゲットを一つに絞る、いい機会かもしれないわね。完全に あきらめるわけじゃなくても」 「え……ということは」 答は分かっていたが、敢えて尋ねた純子。 「相羽君の方が、振り向かせ甲斐がありそう。女子に興味ありませんみたいな 顔をして、しっかり、格好つけてるんだから」 「……聞いてもいい? 委員長、副委員長の仕事をしてて、何かあったとか?」 「うふふふ。そんな、言うほどのことはないけれど。優しいわ、相羽君。遅く なったとき、『あとはやっとくから、先に帰っていいよ』って。プリントとか ノートなんかも、余分に持ってくれるし」 「ふうん」 別段、驚きはない。素直に受け止められる。 (みんなに優しくするもんね、相羽君。極端な話、男子にまで。本当に分け隔 てないって言うか……) 「相羽君狙いの子、多いみたいだから、気合い入れなくちゃね。涼原さんも応 援してくれるでしょ?」 「えっ、それは……私の友達にも、同じ立場の子がいるから……」 言いにくいけれど、ゆっくりとそう告げる。 白沼の軽やかな笑い声が返ってきた。 「あは、あははは! もう、そんな深刻な声、出さないでちょうだいよ。分か ってるわ。涼原さんも大変ねえ」 「は、はあ」 「じゃ、連絡、ありがとね。急にお客さんが来て、家族で外食してたの」 「あ、そうだったの−−」 純子が言い切らぬ内に、電話は切れた。 話が終わったと分かったとき、純子はたっぷり、疲れていた。 毎朝、いや、前の晩から、今日こそは声をかけようと決心するのだが、なか なか実行できないでる純子がいる。 キス事件の誤解が解けて以来、学校のある日はほとんど、いつも普通に会話 していた。それ故に、言葉を交わさない期間がわずかでもできると、どんどん 長引いてしまうのかもしれない。 人の話も上の空、両方の手で頬杖をついて、ぼんやりと考えてしまっている 時間の何と多いことか。 「先生! 席替えしようっ!」 その大声に、はっと我に返る純子。 議題も尽きた学級会で、突如、主張をしたのは唐沢だった。 「席替え?」 牟田先生は一瞬、戸惑いを見せる。が、すぐに、ふんふんとうなずき始めた。 「そういやあ、四月のまんまだったよなあ。いや、自分も変だと思っておった んだ。うちのクラスに来たときだけ、男女がきちんと別れて座ってるから」 座ったまま頭をかく担任に、失笑やらブーイングやらが浴びせられる。 「しようよ、今すぐ、席替え!」 「時間あまったんだし」 「そうだそうだ」 一気に盛り上がる教室内。こんなことで熱気あふれるのも、おかしいけれど。 先生は立ち上がると、両手を振った。 「待てーい。もうすぐ試験だぞ、君ら。つまりだ、席替えしたって、一ヶ月も ないわけだ。だから、今日のところは、あきらめてだな」 「そんなこと、かまいませんよ」 唐沢が再び言った。今度は立ち上がっている。 「唐沢、勝手に発言するなよ」 委員長として進行役を務めていた相羽も、口ではそう言ったものの、目を細 めて笑っている。今の状況を楽しんでいるのがありありと窺えた。 「じゃあ、議長! 指名してくれ」 真っ直ぐに手を挙げ、唐沢も笑みを浮かべながら催促する。 「はい、唐沢クン」 相羽は牟田先生の方をちらりと見て、唐沢を指差した。 「一ヶ月足らずでも、いいんです。自分達は今の席に飽きちまって、そろそろ 限界だあって感じ」 「しかし」 面倒なのか、渋る気配のままの先生。唐沢の説得が続く。 「今学期があと一ヶ月足らずなのも、考えようによっては、いいことかもしれ ないよ、先生。席替えした結果、文句言う奴がいても、あと一ヶ月の辛抱だっ て言えばいいんですから」 自分の言い方が気に入ったらしい唐沢は、回りの男子達と何やら目配せする。 その直後、席替えコールが起こった。それはすぐにクラス全体での大合唱と なり、結局、牟田先生は折れることになる。運命だったのだ。そもそも、一度 も席替えをしなかった先生も悪い。 「やむを得ん。じゃあ……相羽と白沼に任せる。さっさとやってくれぃ」 「はい。−−みんな、どんな決め方がいい?」 教室の中をぐるっと見渡す相羽。 たちまち、怒涛の勢いで、「くじ引き!」だの「あみだ!」だの、あるいは 「じゃんけん!」といった声が飛ぶ。中には、「みんなの希望を聞いて、なる べく叶える」なんて意見も出たが、誰と誰が一緒になりたがっているかが分か ってしまうし、手間がかかるので、さすがに却下された。 最終的には、くじ引き作る時間も、全員でじゃんけんしてる時間もないとい う理由により、あみだくじで行くことに決まった。 −−つづく
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