長編 #4003の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
登校中からずっと、純子の心を占める悩みのようなもの。 −−昨日のあれは、喧嘩をしたことになるのかしら。 おばさんとモデルの仕事の話をしようとしたら、不機嫌になった相羽。そん な彼と言い争いのようになって、喧嘩別れのようにさよならして来てしまった。 宙ぶらりんな気持ちのまま、登校したものだから、当の相手と顔を合わせた 瞬間、純子は第一声をどうしていいのやら、戸惑いが起こる。 そして、こんなことに戸惑っている自分に、また戸惑う。 「おはよ」 廊下ですれ違った相羽は、朝の挨拶だけを残して、教室へと入っていく。 「おはよう、相羽君」 並んで一緒に歩いていた友達は、みんな口々に返事する。 その中で唯一人、反応を言葉にして返すことができず、ただ肩越しに目線を やるだけで、見送った純子。 (怒ってるのかもしれない) 気になったけれども、みんなと校庭に遊びに出るところだったから、確かめ られず、やり過ごした。 (そもそも、こっちから言い出すのも、おかしいと思うのよね) きっかけがないまま、週末を迎え、六月最後の週に入った。 (恵ちゃんと会う日、いつがいいのか聞かなきゃいけないのに) その気はあるのだが、話しかけられない。 振り返ってみれば、相羽と親しくなって以来、こんなに長い間、言葉を交わ さずにいたことはなかったような気がする。 (今日は調理部の部活動があるから、そのときに聞こうっと。でも……聞ける のかな) 正直言って、自信がない。二人きりだろうと、みんながいようと、今の状態 では難しい予感がある。 「どうしたの。元気ないわ」 「前田さん」 自分の席に張り付いたままの純子に、前田が声をかけてきた。 「元気ないように見える?」 「見えるわよ。全然、外に遊びに行こうとしないわ、頬杖ついて考え込んでる わ。いつもと違う」 「……普段の私って、よっぽど、悩みがないみたいじゃない」 「気にしないの。悩みがあるなら、相談に乗るわよ。私でよければ」 腰をかがめ、両手の平を純子の机の端にかける前田。興味津々という態度で は決してなく、穏やかな目をしている。 「うん……」 打ち明けようとしたものの、話を始めたら、モデルを続けていることまで言 わなければならなくなる。踏ん切りが着かなかった。 「心配させて、ごめんね。何でもない」 「とても、そうは思えないけれど?」 首を傾け、覗き込んでくる前田に、元気なところを見せようと、純子は両腕 で力こぶを作るポーズ。半袖から覗く、薄く日焼けした肌に、血管の青い色が わずかばかり浮く。 「ほら、元気元気!」 「……分かったわ」 前田は一瞬、寂しそうに眉を寄せたが、すぐさま笑顔になる。 「話は換わるけれど、図書委員て、どんな具合?」 「うん、いい感じよ。身体を動かさないのは退屈だけど、受け付けで座ってい る間は、借りる人がいない限り、宿題でも読書でもできるから」 「当然、そうよねえ」 「前田さんは、風紀だったよね。朝、しんどくない?」 「毎日じゃないんだから、問題なし。委員長の方が、よほど大変じゃないかし らね」 言って、相羽の席の方を振り返る前田。 相羽は白沼とともに、今のこの二十分の休みの最初から、何かの用事を言い つけられ、職員室に行ったきり、まだ戻ってこない。 「その上、調理部なんて、男子にしてみたら、大変なクラブを選んだもんだわ」 「結構楽しんでやってるみたいよ。ね、前田さんの部活って、何だっけ?」 現在のところ、相羽の話題は避けたかった。だから、話を逸らそうとする。 前田は、立ち上がって答えた。 「言わなかった? バスケ部のマネージャーよ。一年生だから、裏方の雑用ば かりだけどね」 「あ、そうか。立島君、バスケ部に入ったんだったもんね」 「別に、関係ないわよ」 返答するその瞬間だけ、目をおどおどさせた前田だが、表面上、顕著な動揺 はそれ以外は見られない。 「バスケットボール、好きだもの」 「ふーん。立島君、頑張ってるのかなあ」 にこにこ笑みが出て来た純子。 「頑張ってるみたいね」 素っ気ない返事をすると、前田はさっときびすを返した。 「行っちゃうの? 休み時間、まだ」 「最初の目的は達成したもの。涼原さん、もう元気出たみたいだから」 振り返った前田も、にこっとこぼす笑み。 「あはは、見抜かれてるってことね」 純子は、視界の片隅で、他の男子達と話す立島の姿を捉えつつ、小首を傾げ てみせた。 家庭科室に行ってみると、見知った顔が居並ぶ中、相羽の姿はなかった。 いきなり聞くのも変に思われるだろうと、素知らぬふりをして試食やらお喋 りやらをする内に、そろそろ帰ろうということに。 「あのさ、そう言えば、相羽君、今日はいなかったけれど、休み?」 部屋を出る間際に、ふと思い付いた風を装い、聞いてみる。 立ち止まった三人は顔を見合わせたあと、代表する形で町田が答えた。 「相羽君なら、今日は部活、休みだよ。用事があるからって。教室から飛び出 していくの、見なかった?」 「それは見たけれど、てっきり、クラブ活動に行くのかと思ってて」 「用事って、学校の? それとも家のかしら?」 そう聞いたのは井口。 「家でしょ。詳しくは知らないけれど、学校を出たのは確かだから」 「次が一学期最後のちゃんとした活動だから、いる物、忘れないように伝えと かなきゃ」 富井が言って、うらやましそうな視線を町田と純子に向ける。クラスが違う から、伝言する役目はこの二人のどちらかに任せるしかないのだ。 「最後って、そうか、またテストが近付いてきてるもんね。やだなあ」 純子は考えるまでもなく、思い当たった。 「また集まって、勉強するでしょ? 前は私の家だったけれど、今度は?」 一塊になって廊下を行きながら、町田が皆に聞く。即座に富井が意見を出し た。 「今度も芙美ちゃん家にしようよ」 「何で。こういうことは順番に」 「だってぇ、芙美ちゃんとこ、広いし、お父さん達の許しが出やすいでしょ、 共働きで。私達はどこも、お母さんが昼間、家にいる」 「それじゃあ、ずっと私の家かい? まーったく」 「芙美、ご迷惑だったら、言って」 純子が気にすると、町田が吹き出した。 「純たら、私に敬語使ってどうするのよ」 「あれ? あ、そうか。おばさん達にご迷惑がかかるようだったら、言ってよ」 「いいわ。うちの親、二人とも好きで働いてるんだから。私だって、家に一人 きりより、来てくれたらずっと楽しいし」 さばさばした物言いで、町田は今度の試験勉強でも場の提供を約した。 「芙美の両親、何の仕事をしているの?」 下駄箱前に着く頃、井口が聞いた。 「お父さんは普通のサラリーマンよ。お母さんは不動産関係の仕事。住むとこ ろの斡旋とか」 「ふうん。何だか、格好いいなあ、女の人が結婚したあとも働くのって」 「相羽君のお母さんも働いてるよね」 富井が嬉しそうに話に加わる。 (あ、そっちの話題に行ったら、だめよ) 純子ははらはらしつつ、みんなに続いて玄関を抜けた。 「広告作るのって、たくさん、裏方さんがいるのねえ。そのみんなを取り仕切 ってる感じで、凄く素敵だった」 「相羽君のお父さんは、何してるんだろ?」 純子が予想した通りの展開になる。 「言われてみたら、お会いしたことないよね」 「純ちゃん、何か聞いてない?」 「い、郁江ったら、どうして私に振るかなあ。あははは」 内心、冷や汗をかく思いだ。 「だってさぁ、純ちゃんはモデルのお仕事、一度したんだから、そのあと、何 か聞いたんじゃないかと思って」 「……何にも知らない」 嘘になるのが嫌で、少し考えたが、結局、相羽の父のことについては黙った。 (代役でモデルをやったあとじゃなく、それよりも前に知ってたから……なん て、言い訳がましいけど) 自分を無理矢理納得させ、あとは笑顔を作るだけで何も言わない。 「あ、そんなことよりも、純、あんた、いつまで帰宅部やってるつもりよ」 「い、いつまでと言われても。入りたいところがなくて」 「うーん、信じられん。遠慮して、入るのやめてるなんて、ない?」 「ええっ? ないわよ。芙美ったら、どうしてそんなこと思い付くのかなあ」 「おやおや、忘れてるのね? 調理部、入るかもって言ってたじゃない」 歩きながら町田に言われて、純子は嫌でも思い出した。 富井と井口も思い出したらしく、騒ぎ立て始める。 「ひょっとして、私が言ったこと、気にしてるとか?」 「気にしてるって、何を」 「純ちゃんが入らない方が、嬉しいって言っちゃったこと。あれ、冗談だよー。 入りたいんだったら、どーぞどーぞ」 「なあんだ、そのことなのね。焦ったじゃないの。心配ご無用、遠慮してるわ けじゃないから」 「純子がそう言うのなら、私らも安心だけど」 井口が何か言いたそうにするのを、遮る純子。 「私のことなんかより、白沼さんをチェックしときなさいよ。あの人もまだ、 どこにも入ってないわ。もしかして、調理部に入るつもりかもね」 「これ以上増えるなんて、やだ。男子ならともかく、純子以外の女子の入部は 反たーい」 「何てったって、白沼さんに会ったことないけど、純ちゃんや芙美ちゃんの話 だと、強敵っぽい感じだしい」 井口に続いて、富井は嫌々するように首を振った。 彼女のそんな仕種に苦笑する純子は、ふと、思い出す。 (そうだ、ルミナちゃんのことも言った方がいいかな。でも、そしたら、沖縄 のことも言わなきゃいけなくなるかも。もっと様子を見よう、うん。 それにしたって、あいつを狙ってる子がどんどん増えていくわね。不思議) 分からなくて、額に手を当てた。 すると、喧嘩状態(らしきもの)を継続中だということが、脳裏にまた浮か んできた。 借りてから何日も経って、ようやくCDのダビングを思い立った。 聴くのも、二回をやっと数える程度。 でも、今夜もまた気分が乗らなくて、ボリュームを絞る。結局、最低限にま で落とし、録音だけさせることに。 宿題は済んでいる。明日、小テストの類はない。忘れ物のチェックも三度、 やった。 することがないわけではない。一つの気掛かりのせいで、手に着かないだけ。 「電話よ」 ぼんやり、膝を抱えていた純子は、顔を上げた。 呼ばれるまで、家に電話がかかってきたことさえ気付かなかった。 開け放してあった戸を抜け、無言のまま、降りる。 「返事ぐらいしなさい」 「うん。誰から」 何気なく時計に目をやると、午後九時を過ぎたところ。 やや遅い時刻と言える。 「男の子よ」 送受器の口の方に手を当てたまま言った母に、顔をはっとさせる純子。 「相羽君?」 「いいえ、他の子。いいから、早く出なさい」 押し付けられた送受器を両手に持ち、耳を当てた。 「もしもし? 替わりましたけれど」 「あ、涼原? 俺俺」 −−つづく
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