長編 #3996の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
僕は吹き出しそうなのを、寸前でこらえた。「回転寿司鮪一個の謎」だなん て、ストレートにすぎるタイトルを付けたものだ。 こちらの様子に気付く風もなく、池原なる人物は意気揚々と続ける。 「あなたの披露したアリバイ作り説ですが、無理があるのではないでしょうか」 「ほう。どこなのでしょう? 教えてくれませんか」 「色々とありますが、その説が誤りだと端的に表せる理由を言うと……寿司を 一つしか食べていないレシートなんて、怪しんでくださいと言っているような ものです」 「それは……」 虚を突かれてしまった。僕だって、万全の説だとは考えていなかったものの、 こんな点を指摘されるなんて予想外だ。僕の頭の中では、女性客が店員らに印 象づけることばかりに注意が向いて、他には気が回らなかったらしい。 「痛いところを言われてしまいました。ですが……女性客はレシートによるア リバイ工作を咄嗟に思い付いたのだとも、考えられますよ。だから、個数の不 自然さにまで、注意が行き届かなかった……」 「そりゃあ、ずるいです。なるべく理にかなった解釈をしようというときに、 人間の曖昧さや気まぐれを持ち出すのは」 「しかし……」 「では、そういうアリバイ工作が意味を持つかどうか、検討してみますか。く だんの女性客は、ものの数分で店を出たんでしたね? それだけお手軽なアリ バイが、何の役に立つのでしょう? レシートで証明されるのは、その女性が 回転寿司屋に数分間いた事実だけです」 「……参りました。この説は引っ込めましょう」 僕は先ほどしたのと同じようにおどけて両手を上げ、顔をしかめた。その間、 次の説を捻り出そうと脳細胞を回転させる。 「それなら、自説の第二弾として、こんなのはどうでしょう。その席に一定時 間、座ることが必要だった」 「おお、素晴らしい」 抑揚に欠ける声で池原は言った。 「寿司から離れて、場所にこだわる。着眼点はいいんじゃないですか」 「どうも。いや、だけど……どんな理由でそうしたかとなると、さっぱり」 「また賭じゃないの?」 僕の連れが、久しぶりに口を開いた。 その言葉を受け、池原が何か言いたそうなのを見て取って、代わりに僕がや んわりと否定した。 「いや、それはないよ。がらがらの店に行って、ある席に三分ほど座るなんて 賭、簡単すぎて成立しないだろ」 「そうかぁ……。これも没だね」 「亀井さんの話を聞いて、他の人が言ってた意見なんですが」 僕は再び池原相手に話し始める。 「伺いましょう」 「女性客は、大切な人を誘拐されたんじゃないか、という考え方でして。誘拐 犯から指示されて、女の人は奇妙な振る舞いをせざるを得なかった、と言って るんですよ。どう思います?」 「なるほど。その説を展開した人物は、あなたに負けず劣らず、ミステリ好き のようです」 当たり障りのない返事をしてから、髭を一撫でする池原。僕は待った。 「誘拐以外の犯罪でも、問題ないですね。とにかく、何らかの犯罪がらみであ る、と……。面白いとは思いますが、その一方で、色々な疑問も浮かびます」 「たとえば、どんな」 「あなたもお気づきと思いますが……誘拐犯は、何のためにそんな指示を出し たのか」 「それですよね。うん、弁護しますと……女性に、刑事の尾行が着いていない かどうか、確かめようとしたのでは?」 「それにしては、店内にいた時間があまりにも短いんじゃないでしょうか。犯 人−−仮に誘拐犯として、誘拐犯が、刑事の尾行がいるか否かの確信を得るに は、もっと長い時間を要しそうに思えますよ」 「ならば……誘拐犯は、女性が意のままに動くことを確かめようとした。だか ら、何でもよかったんでしょうが、たまたま回転寿司屋があったから、『そこ の店に入れ。寿司を一個だけ食べて、すぐ出て来い』なんて命じたんじゃない ですかね。犯人の奴、優越感に浸りたかったのかもしれない」 「お言葉ですが」 笑いをこらえるような、変な調子の声だ。 「仮にそうだとしましょう。では、女性が命令を忠実に実行したかどうかを、 誘拐犯はいかにして確認するんですか?」 「あ……。それは」 「まさか、亀井さんが誘拐犯の一味ではないでしょうから、寿司屋の店員が怪 しいですね」 「よしてください。降参します」 「待って」 僕は白旗を掲げたのに、僕の連れは明るい口調で言ってきた。 「寿司屋の店員が犯人の仲間とすれば、説明着くじゃありませんか。身代金受 け渡しの指示を小さなメモにでもして、寿司のネタとご飯の間に、挟んでおい たんだとしたら?」 「素晴らしい! いやあ、実にユニークです」 乗りがいいと言うべきか、池原は手を打って喜んでいる。多少、酔っている のかもしれない。 僕は呆れつつ、反駁した。 「いい加減にしてほしいな。それだと、犯人、すぐに捕まっちまうじゃないか」 「そうですねえ。それだけが、唯一にして最大の問題です」 澄まし顔の池原。何だ、分かって言ってたのか。 がっかりした様子の連れを置いて、僕は池原の顔を見やった。 「この辺りで、池原さんの考えをお聞きしたいですね。自信ありそうな顔をし ている」 「私のですか……」 満更でもなさそうに髭をなでると、池原はぼそぼそと言った。 「問題のお客は、寿司一皿のために一万円札で払ったんでしたね? お釣りが ほしかったというのは、どうですか?」 「……うーん。普通、両替してもらえますかって聞くのが先じゃないですか? そもそも、寿司屋でそんなことを頼まなくても、近隣にもっと適当な場所があ りますよ。駅の窓口なら、確実に両替してくれるでしょう」 「ああー、そういう意味じゃありません。私の言い方がまずかったですね。女 性客は、その回転寿司屋のレジにあるお金がほしかった、と」 「−−あ! そのお札は偽札だったと?」 大声で言った瞬間、他の客の視線が集まるのを感じた。 僕は肩を小さくして、声量も落とした。 「偽の一万円札を使って、釣り銭稼ぎですか、いや、なかなか」 「違いますよ。私が言いたいのは、それではありません」 苦笑しつつ否定する池原。僕の視線は、訝しげなものとなっただろう。 「だって、偽札説はいいと思いますが?」 「お客のほとんどいない、閑散とした時間帯に釣り銭詐欺を働こうなんて勇気、 あります? 少なくとも私にはありません」 「う。それはそうかもしれないですが」 「どうしてもやらなければならないとしたら、私なら店員に向かって喋り続け ます。偽札から注意を逸らさせるために。その女性のように、無言でいるなん て、恐ろしくてとてもとても」 かぶりを振った池原。芝居がかった一面も持ち合わせているようだ。 「で、では、どういう意味で」 「文字通りです。寿司屋のレジにある、特別なお金をほしかったのじゃないか って、考えてみた訳でして」 「ふむ。しかし、特定のお金を手に入れられるかどうかなんて、分からないじ ゃないですか。飲食店に限らず、この手の店では十円玉にしろ百円玉にしろ、 いっぱい用意してあるだろうから」 「硬貨とは言っていません。お札だと思うんですよ」 「お札? あっ、一万円札とか五千円札、千円札なら、順番に並んでいるっ」 「そうです。一万円札は、お釣りでもらうことはないと思うので除外しますけ どね。女性客が一万円札で払った事実から、お釣りには五千円札一枚と千円札 四枚が含まれていたでしょう。女性客は、直前のお客が支払いに使った五千円 札か千円札を入手したかった……。両替してほしいと頼まなかったのは、やは り、寿司屋でそういうお願いはしにくかったんじゃないですかね」 「直前の客というのは亀井さんじゃなく……亀井さんと入れ替わる形になった、 若い男ですか。いいですねえ」 何となく、朗らかな気分になった。 「ドラマがいくつも生まれそうだ。偽札説にこだわるようですが、男−−女性 の恋人ですね−−が使った偽の五千円札を、ばれない内に回収しようと、女性 は必死だった、なんてね」 「いいですねえ」 池原は上機嫌のよう。自分の説が受け入れられたのが、よほど嬉しいらしい。 「私はですね、思い出の五千円札というのを考えたんです。女性客と先の男が 巡り会うきっかけになったお札」 「ああ、それもいい。何かこう、心温まる話ってのを期待してしまうなあ」 こんな風に僕と池原、二人が笑っていると、僕の連れはつまらなさそうにつ ぶやいた。 「そんな話が、そうそう転がっているもんか。馬鹿馬鹿しい」 いやはや、夢がない。性別の違いとは、実に大きいと感じる。 「久しぶりに、楽しい話ができました」 僕と池原はそんな挨拶を交わしたあと、再会の約束をするともなしにして、 別れた。 * * 「まーったく、笑っちゃう。あの人って、自分では論理的人間のつもりなんだ ろうけど、実体が伴っていないって言うか」 「笑ってられる場合なの? 世間は狭いものね。回転寿司屋の一件が、あなた の彼の耳に入るなんて」 「パソコン通信とやらのせいね。嫌な時代になったもんだ、ふん」 「それで、真相がばれそうな気配は、ないのね?」 「安心していいよ、姉さん。アリバイ作りだっていう説が出たときは、内心び くっと来たけれど、正解には到達せず」 「そう、助かった」 「寿司屋の真正面の、スナックだっけ? そこの二階にいる姉さんの彼氏、一 体何をしでかしたのかなあ?」 「うるさいわね。そのことについては、何も説明しないって言ったでしょうが」 「確かに約束したけど、気になる。妹の私に派手な格好で、回転寿司屋で目立 つ振る舞いをさせたのは、彼氏のアリバイ作りのためなんでしょう? スナッ クの二階からその様子を目撃していたっていう……。実際はあの時間、彼氏は スナックの二階にはいなかった訳だよね。どこで何をしてたのさ?」 「……」 「姉さん? どうかした?」 「あんたねえ……いい加減にしないと、コワイ目に遭わせるよ」 −−終わり ※もっとすかっとできる解決を、どなたか考えてくださいませんか?(^^;)
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