長編 #3992の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
7 脅威の博物館 話には聞いていたが、これほどまでに素晴らしいコレクションとは知らなかった。 枝葉のことは割愛して、珍しい多数の博物につき説明したいと思うが、なにしろ一 度だけの触察と記憶にはおよそ限界がある。 博物館と言っても、自宅の敷地に建て増ししたプレハブの二部屋と、居室の一部屋 を当てているに過ぎず、棚には動物の剥製がびっしり並べてあり、狭い通路に全盲者 を含む23人が入ると、満員で動きが取れない。 さくさんはそれを物ともせずに、次から次へと大小のコレクションを引っぱり出し ては説明を続ける。温厚な人柄で控えめな彼が、この時ばかりは雄弁になり、その生 き生きとした様子は、正に「この道一筋」という感じがする。 二つの班に分け、一方はさくさんが、もう一方の班は奥さんが説明したが、本当は 両方とも彼自身で解説しないと気が済まないらしい。しかし、彼も偉いし奥さんも偉 い! 鮫:まず度肝を抜かれたのは3匹の鮫の剥製だ。丸太ん棒のような体は人間よりも 大きく、無論鰭もあるし鋭い歯も並んでいる。こんなのに襲われたら人間など一溜ま りもあるまい。中にシュモク鮫というのが居て、なるほど両側のハンマーのような出 っ張りの部分に目が付いている。 ノコギリ鮫の鋸:これはまた何としたことか! 鉄で作った模造品かと思われるほ ど頑丈で重たく、その手触りも固くて美しい。例えて言うなら、大きな魚の背骨のよ うな形になっていて、太い棒を中心に、左右へ水平に無数の鋭い突起が並んで出てい る。全体の長さは1メートル・幅が20センチ・重さが10キロくらいはあったと思 う。これなら武器としても十分使えそうだ。 カジキマグロ:これも有名な魚らしいが、私は初めて見た。魚自身の大きさはどの くらいだったか忘れたが、なにせその口吻(上唇)が刃物のように伸びていて、80 センチの長さはあったと思う。もし海中を泳いで来るカジキマグロにぶつかったら、 たちどころに刺し殺されてしまうだろう。 水牛の角:両手を広げたよりも大きな角が前頭骨から伸びていて、こんな重たい物 を頭に乗せて、はたして歩けるだろうかと心配になる。 オサ亀:長亀と書くのかどうか、世界一大きな亀で、ここに在るのは小さい方だと 言うが、人間よりも大きな剥製が壁際に立てかけてあった。 コブラとマングース:蛇の仲間で世界一の猛毒を持つコブラ、そんなコブラにも、 マングースという天敵が居る。ネズミくらいの小さなマングースを、今まさにコブラ が絞め上げようとしている所、剥製になっていても恐ろしい! 各種動物の剥製:おっとせい・あざらし・むささび・孔雀・ミンク・もぐら・狸・ 子牛・狼・アルマジロ・ペンギン・テン……。ただ単に列記するだけでも膨大な数で ある。 隣の部屋に移動すると、ここにまず、太陽系の縮尺の模型が作ってあって、地球の 大きさが小豆粒くらい、水星が仁丹の大きさ、木星や土星はハンドボールほどの大き さがあるのには驚いた。そして太陽は、運動会の『大玉転がし』に使うあの大玉より もでかい。頭の中で分かっていても、実際に手で触ってみると、また新たな認識が湧 くものだ。 鯨の骨格模型:模型と書いたが、本物の骨格である。髭鯨の髭・腰椎・第一頚椎・ 第二頚椎・椎間板・上腕骨・前腕骨……。我々は理療科が本職なので、解剖学を学ば ねばならないが、特にさくさんは比較解剖学に詳しい。部屋の入口近く、鯨のペニス が立ててあり、人の腕よりも太く、1メーター半の長さはあった。これでも安静時の 状態だそうだ。 海に住む生き物:マンボー・トラフグ・ハリセンボン・タカアシガニ・大シャコ貝 ……。 第三の部屋に入って、ジュースなどご馳走になりながら、さらに珍しい品々を見せ てもらった。 アンモナイトの化石:直径20センチもある大きなのと、やや小ぶりだが、円い石 の中につつましく納まった化石を見せてもらった。後者のは三分解になっていて、貝 の渦巻状の模様が見事に浮き出していた。 「これはね、ヒマラヤで見つかった化石なんだよ。ということは、昔はヒマラヤが海 の底だったと言うことさ!」 と、さくさんが説明してくれる。 私好みの品々:大瓢箪・長瓢箪・夕顔・駝鳥の卵・自在鈎・脱穀機……。大きさも 手触りも重量感も抜群と言うしかない。 各種レプリカ:姫路城(白鷺城)・名古屋城の金の鯱・ピラミッド・前方後円墳・ スフィンクス・モアイ象・馬踏飛燕……。カーネギー博物館とか言っていたが、なる べく本物通りの縮尺に製作してあるそうだ。 「こういうのを全盲の人たちに触らせても、ほとんど誰にもわかんないんだよなあ! いかに我々の知識が耳学問かと言うことさ。」 と、さくさんは言うのであった。 8 民族楽器 帰りの時間がきて、三々五々皆が去ってしまうと、後にはさくさんと私たちの両夫 婦だけが残った。 いよいよこれからが私の嬉しい時間となる。と言うのは、様々な民族楽器を見せて もらえるからだ。先ほど帰って行ったメンバーは邦楽の名手揃いだから、当然楽器類 にも興味があり、熱心にあれこれ調べていたが、まだ他にも色々在るらしい。 「楽器なんかより、もっと見せたい物がいくらも在るんだよ!」 と言うさくさんに、 「いやまあ、そう言わずに…」 と無理遣り頼んで、奥の方から面白い数々の民族楽器を取り出してもらう。 以前の経験で、外国の名前は絶対に覚えられないことがわかっているから、妻に楽 器の名称と原産の国名だけはメモしてもらった。 ところが、それを今読み返してみても、どんな形でどんな材料を使っていたのか、 すんなりと思い出すことが出来ない。それに、楽器の音色や演奏法を分かりやすく文 章に書くことは至難の業であるから、ここが旅行中の最も重要な場面でありながら、 詳細を省かざるを得ないこととなった。 打楽器類 ネパールのつづみ ダムラー:インドのでんでん太鼓 ハテリ:インドのガラガラ あまぼう(雨棒):南米の楽器、サボテンの種を木製の筒の中に封入してあり、砂 時計の要領で、筒を一方へ傾けると雨音のような涼しい響きが50秒間も聞こえる。 ラカタク:ギニア、瓢箪の皮を10枚使ってある。 カスカド:ギニアのコラの実、コラの実というのは、山羊の首に付けるベルを少し 扁平につぶしたような形で、これが50個くらい紐でつないであって、振り回すと、 「カラカラカラカラ」と、何とも言えず素朴な音を立てる。 チャスチャス:インドの山羊の爪、山羊の成長とともに抜け落ちるらしく、その爪 を百個ばかり紐でつないであり、これまた「シャラシャラシャラシャラ」と爽やかな 音を発する。 瓢箪マラカス:ギニア チベッタンベル:チベット、分厚い金属製のやや大き目のベルが二つ、それを紐で ぶら下げてシンバルのように鳴らす。 バラフォン:西アフリカの木琴、裏側(木の下側)に取り付けた瓢箪が共鳴箱の作 用をし、竹の枠にも情緒がある。音階は日本の陽旋法に似ているが、微妙にずれてい て、これが甚だ素朴だ。 スティールドラム:中米、本体は半球形に近い金属製のボウルで、このボウルを仰 向けにすると、内壁の8箇所に膨らみ(鈍い山形)が付けてある。各山形の中心部を スティックで叩くと、ドレミファの音になっていて、なお驚くことには、時計と反対 廻りで、しかも一つ飛びに、ド レ ミ ファ ソ ラ シ となっており、高音のドはド ラムの中心部を叩くのである。音程が正しく調律されているから、製作者の技術はも のすごいもので、また、それを巧みに演奏する人がいるのは驚嘆に値する。 ペンカ:巨大ないんげん豆かササギの鞘のような形で、幅3センチ・長さは40〜 50センチもあり、マラカスのように振って音を出す。 瓢箪ギロー:ペルー ボンバマラカス:プエルトリコのマラカの実 クイカ:ブラジルの摩擦太鼓、摩擦太鼓とは私が勝手に付けた名前で、片面に皮を 張った太鼓であるが、叩くのではない。皮の裏側の中心部から細い棒が胴(太鼓の円 筒)の中に伸びている。タオルなどを水でぬらして、筒の中の細い棒を摩擦すると、 「ブー ブー ブー ブ ブ 」と奇妙な音が出る。 シェケレ:ブラジル、大きな瓢箪の外側に紐でつないだビーズ(細かいガラス玉) が被せてあり、これを振ると鋭く甲高い音がする。 サヌカイト:有名な四国産の石、叩くと金属製の音がする。 弦楽器類 サーランギ:ネパールの弦楽器、四本の弦が張ってあり、材料の木も凝った作りも 味わい深いものだが、残念ながらうまく音を出すことは出来なかった。 バラライカ:ロシア エクタール:インドの一弦楽器、ネジを絞めたりゆるめたりしながら演奏し、ある いは、外枠の二本の棒を摘んで揺り動かすことによりビブラートを掛けることも出来 る。 スワルマンダル:インドの古代ハープ チャランゴ:ペルーの弦楽器、小型マンドリンに似ており、楽器の胴がアルマジロ の甲羅で作られ。弦は2本ずつ5組張られている。 笛類 サンポーニャ:中南米の葦笛、よく磨かれた葦[アシ)の茎を正しい調律に切りそ ろえ、糸で二列に束ねてある。 タルカ:中南米、木製の縦笛 アンタラ:中南米、一列の葦笛 プーンギ:コブラ使いの笛、瓢箪に三本の笛を取り付けた形で、一定の高さの音を 延々と鳴らしつつ、他の笛は指穴を開閉して和音を奏でる。息を一度も吸わずに、長 時間音を連続させて吹くのだという。ひちりきのような音色である。 ケーナ:アンデスの笛 ディジュリドゥ:オーストラリアのアボリジニー地方の笛、ユーカリの根 モセーニョ:南米の横笛、二本笛になっている。 ピンクージョ:南米の長い縦笛、サトウキビで作られ、1メーターもの長さがあっ て、私たちはついに鳴らすことができなかった。 ブーメランのような楕円形の金属板に紐を結んだ楽器が在ったので、 「これはどのようにして鳴らすの?」 と聞いたら、さくさんが、 「ジャア、外へ行こう。」 と言い、二人は玄関から表に出た。 彼の振り回したブーメランが屋根のひさしにぶつかったので、 「これはまずいなあ。」 と言って、さくさんが数歩前に出て、もう一度振り回したその途端、紐が切れてブ ーメランが何処かへ飛んで行ってしまった。 妻や奥さんも呼んで、暫くその付近を捜したが、深い植え込みの中にでも入ったも のか、とうとう見つからなかった。五日後の今もなお見あたらないらしいが、よく考 えてみると、不幸中の幸いだった。今までにも何人かの人があの楽器に挑戦し、音の 出た人と出ない人が居たそうだが、偶然持ち主のさくさんが紛失させたからよかった ものの、他の人だったら申し訳なく思うだろうし、それより何より、たまたま通りが かりの人にでも当たったら大けがをさせたかも知れない。
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