長編 #3974の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「わあ、ありがとうございます」 もらった写真を早速取り出し、順番に見ていく。 一枚目は空港での写真。たかだか十日ほど前のことなのに、懐かしい。 「相羽君は見ないの?」 「もう見たから」 相羽の返事に、純子はすぐ納得。 (昨日までにできてたら、見てて当たり前よね。学校に持って来るわけに行か ないし。それにしても……) 相羽が どことなくにやついているように見える。 気になったものの、二枚目以降に目を通していく。 「−−あっ、いつの間に!」 思わず叫び、面を上げて相羽とおばさんの顔を見た。水着姿の物があったの で、焦ってしまう。明らかに、モデルとして撮影されてるときのもの。 「梶浦君に−−私と同じ仕事場の人に任せていたんだけれども……そんなとこ ろまで撮っていたのね」 「はあ」 頬を赤く染めながら、純子は、さっき相羽が笑っていたように見えた理由に 思い当たった。 予感したとおり、水着での写真が何枚か続く。撮影中の物だけでなく、海に 出て遊んでいる場面もあった。 (自分で言うのも変だけど、笑い方が、区別付かないときがある。モデルの笑 顔と遊んでるときの顔……。これって、喜んでいいのかしら) 水着のスナップが終わり、安心していると、今度は別の意味で意外な一葉が 出て来た。 「これ……」 写真そのものを指差しながら、独り言のようにつぶやく。 それは、夕方の浜辺に、並んで腰を下ろしている二人のシルエット。沈みか けの赤い太陽。その光を返す波と白い泡。何本かの木々も、絶妙の配置にある。 「し、知らなかった。撮ってたなんて」 「僕も知らなかった」 抑揚のない口調で、相羽が応じる。その目は、特に純子の手元を見つめてい る風でもない。いつものように、ぼんやりとした眼差しだ。 「その写真は、カメラマンの梅津さん直々にね。偶然、窓ガラス越しに見えた そうで、何だか撮ってもいい雰囲気だったから、近くにいた梶浦君をつかまえ て、そのカメラで撮ったらしいわ」 「はあ、そうなんですか……」 返事しながらも、写真に見入る。見入ってしまう。 (これじゃあ、映画の一シーンみたい。できすぎ、だよね) と思いつつ、何故かしら、どきどきしてくる。 「さすが、本職だけあって、よく撮れてると思わない?」 相羽の母の言葉に、黙ってうなずく。 自分がいっぺんに大人になったような、そんな気持ちにさせる「絵」だった。 「こんな写真も、素敵……」 つぶやいていた。 と、おばさんから早い反応があった。 「お仕事でっていう意味? だったら、服のモデルだけやってたって、絶対に 無理よ。そういう写真だと、何を着てるんだからさっぱり分からないものね」 「……そうですよね」 しょんぼり。気持ちが落ち込むのに合わせて、顔もうつむき気味になる。 すると、おばさんが、今度は慌てた風に言い添えた。 「純子ちゃん、勘違いさせちゃったかしら? 私はね、あなたに他のモデルの お仕事もやってもらいたいなって、そういうつもりだったのよ」 「そ、そんなこと言われても、私みたいな普通の子、モデルができるとしたら 子供服ぐらいしか……」 「欲がないわねえ、惜しい」 砕けた調子になって、純子の目を覗き込むおばさん。少なくともこのときば かりは、おばさんという呼称を用いるよりも、広告プランナーとか何とかの、 職業を表す呼び名こそふさわしい。 「もしもあなたが望むんだったら、使ってくれるよう、色々な方面に推薦した いんだけれども、どうかしら」 がたん。 不意に起こった騒音は、椅子が床板をこすったため。 純子の隣に座っていた相羽が立ち上がっていた。 と思う間もなく、彼は純子の手を取ると、「行こう」と言った。 「あ、あの、相羽君。まだ、お話の途中……」 呆気に取られるあまり、言葉がすらすらとは出て来ない。 腕を強く引かれたまま、純子も席を離れざるを得なくなる。持っている写真 を落とさないようにするのが、精一杯だ。 「信一」 相羽の母は、息子の名を一度だけ呼んだ。その声に、特に怒ったような響き はない。 相羽はそれに振り返りも返事もせず、自分の部屋の戸を開け、先に入ってか ら純子を招き入れた。そしてドアをきつく閉めることにより、風が起きる。 「……しょうがないわね」 台所のテーブルに、一人だけ残った相羽の母は、両肘をついて手を組むと、 苦笑いらしき表情を作った。 「どういうつもりよー、全く」 戸惑いが消えぬまま、小さな声で純子は聞いた。 (これじゃあ、私のせいで親子喧嘩になったみたいじゃないのよ……) 相羽は勉強机とセットになっている椅子に座り、頬杖をついている。唇を噛 みしめているのが、見て取れた。 「おばさん、機嫌を悪くされたよ、きっと」 「涼原さんが今日、僕の家に来たのは、CDを借りるため」 「? 何のことよ」 ぽかんと口を開け、聞き返した。でも、相羽はずっとそっぽを向いたままで、 話を続ける。 「母さんが仕事の話を持ち出すのは、違反だよ」 「違反って……しょうがないじゃない。実際に、おばさんから頼まれて、モデ ルをやってるんだもの、私」 「……」 「前、言ったわよね、相羽君。モデルをするかどうかは、自分で決めることだ って。だったら、おばさんから話を聞くのも−−」 「言ったさ。だけど、今は嫌だ。ここは母さんの会社じゃない。母さんが仕事 の話をするって、あらかじめ約束してたわけでもない」 「それはそうだけれど」 「さっきの話がどうしても聞きたいんなら、僕との用事を終わらせてからにし てくれよっ」 かつてないほどの、厳しい剣幕だった。 純子は瞬間、呆気に取られ、言葉が出ない。 でも、何だか腹が立ってきた。 ドアが確かに閉じられているのを目で確認して、よそを向いたままの相羽の、 すぐ前に立つ。 相手がこちらをゆっくりと向いたところへ、言葉を投げかける。 「怒鳴ること、ないでしょう? 最初から、普通に理由を言ってくれてたら、 私だっておばさんだって、後回しにしたわ、きっと」 「……我慢できなかった、僕は」 「我慢って何よ? 分かんないっ」 純子に詰め寄られ、何ごとかを言いかける相羽だったが、唇をなめただけで、 やめてしまった。 「もういいわ。CD、渡してよ。借りたら、用事は終わりよね」 純子が右手を、手の平を上にして真っ直ぐに突き出す。 相羽は唇を噛みしめたまま、机の上を探っていたが、はたと気付いたように 立ち上がり、プレーヤーの中からディスクを取り出した。 「ほら」 「ありがとっ。返すのは来週。いいのね?」 「いつでもいいよ」 「じゃ、さよなら。今日は楽しかったわ!」 言っていて、自分が嫌になりそう。 (どうしてこんな、とげとげしい言い方になっちゃうの……? これじゃ、相 羽君のさっきの態度、悪く言えない) でも、謝るきっかけは見つからない。相手だって悪いんだものという意識が、 少なからず残っている。 CDを仕舞い込んだ鞄を持ち、部屋を横切り、ドアの前に到達。ノブに指先 が触れたとき、振り返ると、相羽が黙って片手を小さく振る姿が目に入った。 「−−また明日」 「……うん」 気まずさから、それだけ答えると、純子は勢いづけて前に向き直る。 吹っ切るため、ドアを一気に開けた。 振り返ることなく、後ろ手で、しっかりと閉める。 「純子ちゃん?」 相羽の母は、とうにテーブルを離れ、別の部屋にいた。開いたドアの隙間か ら、アイロンがけをしているのだと分かる。 ところが、このときの純子ときたら、制服のことは忘れているは、おばさん から話の続きを聞く気にもなれないでいるはで、とにかく早く帰りたいという 気持ちでいっぱいになっていた。玄関へ一直線に向かいながら、早口で言う。 「あ、あの、お邪魔しました。今日は、失礼します。ありがとうご−−」 「純子ちゃん?」 挨拶に被せるように、もう一度呼ばれて、足を止めた。 「制服、もう少し待ってちょうだいね」 「−−あっ」 慌てて引き返し、声のする部屋に接近。戸口に立って、顔だけ覗かせた。 「す、すみません。あの、もう雨も小降りになったですから、手で持って帰り ます。乾いてなくても、大丈夫ですから」 「そうは行かないわ。今着ている服が泥跳ねで汚れるかもしれないなんて。新 品なのに、もったいない」 冗談めかし、笑いの混じった物腰のおばさんに、純子は強く言えなくなって しまった。部屋の内側に入り、壁際、ぽつんとたたずむ。 「適当に座って、待っててね」 「あ、はい」 空気が、どことなく固い。最前のもめごと(?)の雰囲気を、相羽の母もま た引きずっているのかもしれない。 「……信一、どうだったかしら」 つぶやくように、おばさんが言った。 部屋の中をあちこち眺めていた純子は、急いで目を向ける。 「え、あ、ど、どういう意味、ですか」 「−−ごめんなさいね」 台から顔を上げ、アイロンの電源を落とした相羽の母は、困ったような笑顔 を作っていた。 「あの子は……私が家に仕事の話を持ち込むの、嫌がるのよ。それを忘れて、 おばさんがあなたにさっきみたいな話を始めてしまったものだから、怒ってし まったのよね」 考え考え言葉を紡いでいるのか、口調にはリズム感があまりない。歯切れが 悪いと言うべきか。 「信一ったら、部屋できっとぶすっとしていたと思うけれど、純子ちゃんは気 にしなくていいから。あとで、私から謝っておくから」 「−−はい」 肩の荷が降りた気がした純子。 「さっきの話は、また別の機会を設けるわね。純子ちゃんと、純子ちゃんのお 母さんや、できればお父さんにも聞いてもらいたいわ」 純子が返事しない内に、制服が差し出された。 「はい、これで大丈夫と思うわ。染みも取れたし、着てみて」 「どうもありがとうございます。お風呂場、いいですか?」 「もちろん。どうぞ」 立ち上がり、胸に抱くようにして服を受け取ると、純子は脱衣所に向かった。 純子がマンションを出たときには、雨はすっかりやんでいた。空はまだ暗か ったが、雷はもう鳴りそうにないから、安心して歩ける。 (何故、気にするの?) 極端に遅い足取りで、思い悩みながら。 (ついでに話をするぐらい、いいじゃない。相羽君だってお母さんのことを考 えたら、認めてくれてもいいと思うのに。私、こんな気持ち、二度と味わいた くない。 だいたい、私が何しようが、勝手でしょ。……勝手なのに、私も相羽君の反 応、気にしちゃってるけど) こん。 きれいに閉じた傘が、街路樹の幹に当たった。 足を止め、傘と鞄、それに相羽の母からもらった服の入った紙袋を、改めて 持ち直す。 ほとんど歩いていない。マンションがまだ見える位置にいると気付いた。 (それとも、私が家に来るのが、よほど大事なのかな、なんて。まさか! ば かばかしい、そんなことないわよね。じゃあ、何で? 分かんない。けど−−) 眺め上げた視線は、五階の相羽の部屋を探している。 十秒近く見つめていただろうか。純子は、道を行き交う人や自転車、自動車 の音に気付いて、はたと目を戻した。 少しだけ顎を上げ、頭を振って、息をつく。 (こんなに胸が痛いのは、どうしてなの) 一つ、深呼吸。そして歩き始めた。 −−『そばにいるだけで 11』おわり
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