長編 #3941の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
だがいずれにしろ、元木と言う名前が共通して登場している。 あの日、静音が学校で会った人物とは元木だった可能性が、高いのではないか。 裕樹は自分が、事件の核心に迫っているような気がした。 念のため、他のグループの話にも加わってみる。あまり友人の多い方ではない 裕樹に、怪訝な顔をする者もいたが、皆同様に琴音たちの事件には興味を持って いたため、話を聞き出すのに苦労はしなかった。 その結果、話を聞き出せた者のうち、静音のクラスでは三分の一程度、裕樹の クラスでも四分の一程が、元木の名前を知っていた。 放課後、裕樹は真っ直ぐに元木の教室へ向かった。 彼が部活動に出てからでは、部外者である裕樹が話を訊く機会がない。 「あのぉ、すいません。元木先輩はまだ、教室にいますか?」 裕樹は教室から出て来た、二人連れの女子生徒に尋ねた。 「あら、きみ元木くんの後輩? 元木くんなら、もういないよわ」 「あ。もう部活に行っちゃいました?」 「ううん、なんか今日は、帰っちゃったみたい」 部活をサボった事をすぐに事件と結びつけるのは、あまりにも短絡的すぎると 分かっていたが、それでも裕樹にはやはり元木が何か関係しているように思えた。 「そうですか、ありがとうございます」 裕樹は女子生徒たちに礼をして、立ち去ろうとした。それを女子生徒の一人が 呼び止めた。 「ねぇ、きみ。ちょっと」 「は? 何ですか」 「元木くんって、あの『双子殺人事件』となにか関係あるのかな?」 声をひそめ訊いてきた。 それにしても『双子殺人事件』とは。いつの間にか、何とも無責任な命名がさ れていたものだと思う。 それに、双子のうち一人は殺されてはいない。それが琴音であるのか、まだ分 からないが……… その女子生徒の、無責任な興味本位だけと思われる物言いに、気分が悪くなっ たが表情には出さぬようにする。 「どう言う意味ですか?」 もしかするとこの女子生徒は、何か知っているのかも。 「私、訊いちゃったの。私の席さあ、元木くんのすぐ前なんだよね。さっき先生 が元木くんのとこに来て、耳打ちするが聞こえたのよ。放課後、警察の人が元木 君の話を、訊きたがってるって」 「さあ、ぼくは何も………だいいち、元木先輩とどうして今中さんの事件が関係 するんです」 「だって元木くんって、今中静音さんとつき合って………あっ、きみこれって知 らなかった? 言ったらまずかったかなあ」 女生徒はわざとらしく、口を押さえて見せた。 どうもかなりの噂好きらしい。もしかすると、静音と元木の噂も彼女が発信源 なのかも知れない。 結局、無駄な事をしていたのかも知れないと裕樹は思った。 元木の噂を訊いた時には、事件の核心が迫っているような気がした。だが、裕 樹が知らなかっただけで、その噂はかなり知れていた事らしい。 それだけ知れた噂であれば、当然裕樹よりも早く警察が聞きつけている。 元木と言う、唯一の頼りも警察に目を付けられたいま、裕樹自身で事件の真相 を探り出す手だては無くなってしまった。 他に何かないものかと考え、とりあえず事件現場となった場所をもう一度、見 ておく事にした。 校門から、あの日と同じように校庭のフェンス沿いに、プールへと歩く。ただ あの日とは違って空はまだ明るく、校庭では野球部や陸上部が、大きなかけ声と 共に練習をしている。 途中、足を止める。高橋と出会った場所で。 そしてまた歩き出し、プールの水面が見えるところまで進む。しかし、金網す れすれまで近寄っても、水面を見ることは出来なかった。 あの事件の後、プールの水は抜かれ、使用禁止になっていたのだ。 裕樹はしばらく、空になったプールを見つめた。 月明かりを受け輝く水面。 ゆらゆらと踊る少女。 寒気を覚えながらも、美しく思えた光景。 そして。 黄昏時、声を震わせ告白をする自分。 少女の唇が微かに動く。 「はい………」 なんとか聞き取ることの出来た声。 二つの時間、二つの瞬間。 裕樹の中で重なり合い、一つとなる。 目が熱くなる。 そうであって欲しくないと願いながらも、あの日水面に揺られていた少女と、 黄昏時の少女のイメージが同じものとなっていた。 しばらくプール前で佇んだ後、もう一人の少女が倒れていたと言う場所を、校 庭の隅から眺めて見た。陸上部のコースとなっていたため、直接その場に立つ事 は出来ない。 何も見い出す事は出来なかった。いま裕樹のいる所からでも分かるような物を、 警察が見逃すはずもないだろう。 今日一日の動きは、全く意味のないものだった。沈んだ気持ちのまま、裕樹は 学校を後にした。 入院中の少女は、未だ記憶の戻る気配はなかった。 見舞いに立ち寄った裕樹だが、結局何も話すことなく病室を出てしまった。相 手が誰であるのか分からないまま、交わす言葉も見つからずに。 病室を出る際、裕樹に何度も礼を言った、彼女の義理の母親ばかりが印象的だっ た。 彼女も、血は繋がっていなくとも事件に巻き込まれた二人の娘を、見分けるこ とが出来ない自分をもどかしく感じているのではないだろうか。裕樹はそう思っ た。 帰り道、これからどうするべきかと裕樹は考えた。 わずか一日ではあるが、思いつくまま行動して得られた情報は警察に対して、 後手に回っていた。 警察が優秀であったと言うより、所詮裕樹は素人だと言う事だろう。 無駄な事は止めて、全て警察に任せるか? そう考え始めた時、裕樹は自分の唇に笑みが浮かんでいることに気がついた。 自嘲の笑みが。 自分の琴音に対する想いは、この程度のものだったのか? 一中学生にすぎない裕樹が、警察に後れを取る事など初めから分かり切ってい たではないか。それを承知の上で、それでもじっとしていられないから、なぜ琴 音が事件に巻き込まれなければならなかったのか、ただ警察の調べを待つのでは 無く自らの手で調べてみたい。そう思ったからこそ、動いたのではないか。 それに警察によって事件が解明されたとしても、その背景まで詳細に知らされ るとは限らない。 新聞やテレビニュースで、その根底まで明かされた事件がどれ程あると言うの だ。その大半は表面的な事実の報道だけで、終わっている。 萎えかけた気持ちに、再び火がつく。 よし、とことん調べてやろう。警察は関係ない。 しかし意気込みが高まったからと言って、すぐに事が上手く回りはじめる物で は無い。 ようやくたどり着いた、元木と言う静音の彼氏らしき人物も、警察にマークさ れた以上、裕樹が個人的に接触するのは難しいかも知れない。 幸い、裕樹と琴音の関係に比べ、こちらの方は周囲の噂になるほどであるから、 調べればもっと詳しい事を知る者もいるだろう。 『噂………』 ここでふと、一つの疑問が浮かぶ。 思ったより簡単に、元木という男子生徒の存在が分かったため、気にもしなかっ た事。 静音と元木がつき合っていた。 確かにそんな噂はあった。だがあくまでも噂であり、まだその事実を確認して いる人物の話は訊いていない。 それどころか、元木に関して別の噂も存在していたではないか。 『静音にはしつこく付きまとってた奴がいたの、知ってるか?』 『あ、俺も知ってる。ラグビー部の元木先輩だろ』 裕樹が最初に訊いた噂。 それは静音と元木の二人がつき合っていた、ではない。元木が静音に付きまとっ ていた、である。 もし元木が事件に関係しているとしたら、後者の噂の方が真実味がある。もち ろん前者の噂が本当であっても、そこは男女間の事。何かしらのトラブルが起き たとも考えられるが。しかし裕樹が知る限り、元木と言う人物が入院中の少女を 見舞ったと言う話は訊かない。これも気に掛かる。 どちらの噂が本当なのか、確認する必要がある。いや、もしかするとどちらの 噂とも、噂だけで事実ではないのかも知れない。 正しい道筋をたどっているのかは、分からない。だがこれからすべき事は見つ かった。ならば明日を待たず、すぐに行動しよう。 自宅へ戻った裕樹は、机の横の本棚から、学校の名簿を取り出した。一人のク ラスメイトの名前を見つけて、電話番号を調べる。 阿川大吾、裕樹と同じ小学校の出身で現在ラグビー部に籍を置くクラスメイト だ。 すぐに阿川へ電話を掛け、在宅である事を確認すると半ば強引に、これから訪 ねていくと告げた。 「珍しいな、橘が俺に用なんてさ」 玄関先で裕樹を迎えた阿川は、不思議そうに言った。同じ小学校の出身とは言っ ても、裕樹が阿川の家を訪れるのはこれで三度目、二年振りのことである。それ に一人でとなれば、初めての事だった。 「うん、ちょっと話があって」 「まあとにかく入れよ」 阿川に案内され、部屋へ上がる。 「で、なんの用なんだ?」 部屋に入るなり、阿川は用件を訊いてくる。裕樹にしても、それほど親しい訳 でもない阿川の家に長居するつもりはない。必要な話は早めに訊ければ、それに 越した事はなかった。 「あのさ、元木先輩のことなんだけど」 「ああん、お前もかあ」 大袈裟な声を上げて、阿川はベッドの上にぽんと倒れて見せた。 「例の今中姉妹の事件だろ? お前も元木さんと静音の噂を訊いて、興味を持っ たクチか?」 「ん、まあ、そんなトコなんだけど。その…元木先輩って、警察に疑われている のかな」 「あれ、ひょっとしてお前、知ってるんだ。元木さんが警察の調べ受けたの」 裕樹は頷く。 「はあ………おい、誰かにその事話したか?」 「いや、言ってない」 「そうか、ならいいけど。よし仕方ない、俺の知ってる範囲のことは教えてやる けど、他の奴には言うなよ」 「ああ、約束するよ」 裕樹は阿川の態度が、あまりにも前もって予想していた通りなのに笑いが出そ うになるのをぐっと押さえた。 他にも数人、同じ小学校出身でラグビー部に所属する者はいたが、阿川を選ん だ理由はここにある。阿川と言う男は、根っからのお喋りなのだ。小学生の頃も、 「誰にも言うなよ」と前置きをして、どれほど噂話を訊かされたかは、数知れな い。 「お前がどんな噂を訊いたかは知らないが、元木さんが事件には関係ないと、俺 は断言出来るね」 「それはどうして?」 「簡単さ、実はこれ、警察にも話したんだけど、元木さんにはアリバイってヤツ がある。しかも証人は、この俺なんだ。 つまり事件のあった時間、俺たちは元木さんと一緒にいたんだ」 「俺たち………俺たちって事は、阿川くんだけじゃないって事だよね。その証人 は」 「ああ、えっと確かプールの方で美術の高橋と誰かが音を聞いたってのが、七時 四十分頃だっけな」 時間に間違いはない。現場にいて確認したその「誰か」は他ならない裕樹自身 なのだから。 阿川は更に話を続けた。 「あの日は雨が降ってたんで、空き教室を使っての柔軟体操中心の練習だった。 ま、ラグビーなんてのは、本来雨でも中止になるスポーツじゃ無いんだけど、学 校側の指導もあるんでね」 「その日、元木先輩は練習に参加していたんだ?」 「ああ、珍しく、な。つーのもよ、ここだけの話、元木さんってレギュラーにな れるほどの実力はないから、最後の夏の大会前に諦めも入ってたんだろうな。 んで、練習が終わったのが六時半になったかならないかだったかな。その後俺 なんかは、二年生連中とほら、三丁目のラーメン屋。そこに行ったんだ。そこで 飯を喰ってる時、三年の先輩たちが店に入って来た。そん中に元木さんもいたん だ。俺らが店を出たのが丁度その事件の起きた時間、七時四十分だったんだ。そ ん時、先輩たちはまだ喰ってる最中だった」 「その時間は間違いないの? どうやって確認したの?」
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