長編 #3918の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
特にする事もなく、優一郎は居間でテレビを観ていた。 午後からこの辺りを優一郎に案内してくれると約束した真月は、自分の部屋で いまのうちに宿題をしている。 午前中、のんびりとしていられるのは優一郎にとって幸いだった。美鳥の湿布 薬を馬鹿にしてしまった手前、身体の痛みについて誰にも言えなくなってしまっ たが、こうしてのんびりしている間に、だいぶ楽になってきた。 つけてはいるが、テレビの内容は頭に入っていない。ただする事がないとテレ ビをつけてしまう。悪い習慣だ。気がつくと、十一時半を過ぎてニュースが始まっ ていた。 「優一郎、お昼はそうめんでいい?」 いつの間にか台所に立っていた美鳥が声を掛けてくる。 「ああ、いいよ」 応えるため、美鳥の方を振り返ったとき。 「月ヶ丘高校の三年生の釘崎輝明さん、同じく堀江香奈さん………」 聞き覚えのある名前が、テレビから聞こえてきた。 「えっ?」 テレビに視線を戻す。 優一郎の住む街の公園内の映像をバックに、二人の顔写真が映し出されている。 間違いなく、優一郎の学校の同級生だった。堀江香奈は、以前優一郎が想いを寄 せていた事のある女の子だ。噂で、釘崎と婚約したと訊いていた。 さらにテレビは優一郎の知った顔を、次々と映し出す。 計十一人、男性四人の女性七人。うち十人までが、優一郎と同じ高校に通う者 達だった。 この十一人が、数日の間に次々と行方が分からなくなっているそうだ。当初家 出、誘拐の可能性も考え報道を控えていたが、短期間に行方不明者が相次いだこ と。その誰にも家出の理由が見当たらないこと。十人が同じ学校の生徒であるこ と。そして香奈たちが入っていくのを目撃された、先程の公園で釘崎のものと思 われる血痕が見つかったとこ。これらから、事件性が極めて高いとして公開捜査 に踏み切ったことが述べられていた。 続いて映像は、どこか広い部屋に変わる。優一郎の高校の職員室だ。電話の対 応に追われる教員たちの姿が映る。その中には、優一郎の担任もいた。 「美鳥、電話を貸してくれ」 「何かあったの?」 「これ、俺の学校なんだ」 「えっ」 優一郎は電話を取ると市外局番を押した後、番号案内に掛ける。学校の電話番 号を調べるためだ。自分の通っている学校とはいえ、電話を掛ける事などほとん どない。当然、番号など覚えてはいない。 調べてもらった番号を素早くメモし、それを見ながら今度は学校へと電話を掛 ける。一度目は話し中、二度目で呼び出し音が鳴る。一回目の呼び出し音が終わ ると同時に、受話器が取られた。 『月ヶ丘高校です』 「もしもし、3−Cの陽野優一郎ですが、担任の………」 『おお、陽野か。探したぞ』 受話器からこぼれた音が、割れて聞こえる。直接担任が電話を受けたようだ。 「探した?」 『おおう、事件があってな。全教員休日出勤で、それぞれ生徒の所在を確認して いたんだが。うちのクラスでもお前の他何人かの行方が、どうしても分からんで なあ。自宅に電話しても、昨日からずっと留守電になってたろ。いま、どこにい る?』 「………市の親戚の家に、一昨日から厄介になってるんです」 『親戚? おい、お前親戚っていたのか』 「それが」 優一郎は簡単に事情を説明した。 『そうか、お前も大変だったんだな』 「いえ、俺の方は別に。それより堀江さんたちのこと、何か」 『なんだ、ニュースを観てたか。いまのところ、さっぱり分からん。無事だとい いんだが………なんで、よりによってうちの生徒ばかり。お前の方で心当たりは ないか?』 「すみません、何も」 『ん、そうか。もし何か思い出しでもしたら、学校でも警察でもいい。連絡して してくれや。それから、まあ親戚の所にいるなら大丈夫だと思うが、お前も充分 注意しろよ』 やたらと声の大きな担任だったが、やはり疲れているようだった。 「はい。あのそれで、他のみんなの居所は確認出来てるんですか」 『何しろ、夏休みに入ったばかりだからなあ。うちのクラスでは女子がまだ六人、 大野も含んでだが、確認出来ん。男子はお前と田邊が捕まらなかったが………』 「そう言えば、田邊は自分専用のマンションがあるとか」 ふと、一学期最後の日に田邊が自慢げにそんな話をしていたのを思い出す。 『ああ、家の方に訊いて電話した。やっぱり留守電だったが、メッセージを入れ ておいたらさっき本人から連絡があった』 「そうですか、じゃあ」 『くどいようだが、くれぐれも気をつけてくれ。それから進路のことも、考えて おけ』 「はい」 優一郎は電話を切り、受話器を置いた。 寝付けない。 蒸し暑い夜。 風も吹かず、虫も鳴かず。 熱を持った空気が、ねっとりと全身に絡み付く。 噴き出した汗が、頭から水を浴びたかのように下着を濡らす。 厭な夜だ。 昼間訊いた事件のことが気になっているせいもあり、熱帯夜の中、ますます寝 付けない。 クーラーをつけよう。 優一郎は手のを伸ばし、枕元のリモコンを掴みスイッチを押す。電子音と共に 送風が始まる。熱湯のような室内の空気が、徐々に温度を下げていく。 適当に涼しくなったら、クーラーを止めよう。寝入るまでの間涼しければいい。 そう思って、優一郎は送風の響きを聞きながら、暗い部屋の中で天井を見つめる。 それにしても、行方不明になった連中に何が起きたのだろう。同じ学校の生徒 が十人、夏休みに入って僅かな期間に、行方が分からなくなっているというのは 異常だ。 堀江香奈は婚約者がいるとは言え、以前優一郎は秘かに想いを寄せていた。大 野佳美はクラスメイト。他の八人にしても、一、二年の時に同じクラスだったり して、知らない名前の者はいなかった。それだけに気に掛かる。 周囲には秘密にして、みんなで旅行にでも出かけたのだろうか。だがこの十人、 優一郎の知る限り特に親しい仲間、という訳でもない。中には大学受験の熱心な 者も含まれていて、この時期秘密の旅行など考えにくい。ましてこれだけの騒ぎ となっていれば、旅行先で聞きつけ、誰か連絡の一つもしてくるだろう。 学校と無関係な者が一人含まれているのも気になる。或いは偶然時期が重なっ ただけで、他の十人とは別の事件なのかも知れないが。 いずれにしろ、考えたところでどうにかなる訳ではない。十人の行き先につい て、優一郎に思い当たる物はなかった。 そろそろクーラーを止めよう。室温もだいぶ下がってきた。汗も退き、濡れて いたシャツが、今度は冷たく感じられた。その時。 ぎっ。 板の軋む音に、はっとして外の方を見る。障子に打つ映る影。 幽霊など信じない優一郎だったが、心臓が飛びださんばかりに驚く。 「まだ起きてる?」 影が柔らかな声を発した。 「え、その声………美鳥か」 「うん」 すっ、と障子が開かれ、膝を着いた美鳥が現れる。薄暗闇のなか、はっきりと 顔を見ることは出来なかったが、幽霊ではなさそうだ。一瞬の事とは言え、馬鹿 らしい物を想像してしまったと苦笑する。 「なんだよ、こんな時間に」 「その、なんだか眠れなくて。少し、お話ししてもいい?」 優一郎が答えるのも待たず、障子が閉じられる。 「あ、ああ………今夜は寝苦しいからな。いま明かりをつけるから」 「待って」 立ち上がり、室内灯のスイッチに伸ばした優一郎の手を、美鳥の手が抱き付く ようにして止める。その勢いで、明かりが灯される事なく、二人は布団の上に座 り込んでしまった。 間近にある美鳥の顔。心なしか紅潮しているようでもあった。明かりがないた め、本当の色は分からないが、淡い色調のパジャマの襟元から胸の谷間とそれを 包む白い布の存在が見えた。 「お、おい、何を」 言葉がどもってしまう。美鳥の肩をつかむようにして、自分の身体から遠ざけ る。 「優一郎、私のこと、嫌い?」 弱々しい声。それは一昨日までの美鳥からは、想像のつかないものだった。 「今日の………お前、おかしいぞ」 「ううん、おかしくなんかない。だって、まだ優一郎は本当の私のこと、知らな いもの。私………私」 ぐっと、美鳥の顔が近づいてくる。優一郎は思わず、身を固くしてしまう。緊 張が優一郎の全身を支配する。下半身の一点に、急激に血液が送り込まれて行く のを感じた。 まずい、これ以上は。優一郎の男が抑えきれなくなってしまう。 「私のこと、嫌いなの?」 悲しげな瞳が、真っ直ぐに優一郎を捉える。男っぽい言動ばかりが目立ってい た美鳥。それがいま弱々しい姿で、優一郎に迫っている。そのギャップに、優一 郎の男が興奮している。 「き、きらいじゃ、ない」 「じゃあ、私を抱いて」 すうっと立ち上がった美鳥が、音もなくパジャマを脱ぎ捨てた。少し陽に焼け た肌に、白い下着姿の美鳥が、目の前にいる。 「お、おい。俺たちは、し、知り合ってまだ三日だぞ」 優一郎は辛うじて保っている理性で、美鳥を止めようとする。しかしその理性 も、あと僅かな刺激で崩れてしまうと、優一郎自身が感じていた。 「時間なんて、関係ない。好きになってしまったんだもの」 両手を広げ、美鳥はまるで抱っこをねだる子どものように優一郎に抱き付いた。 優一郎はそれを拒めない。抱き留めた躰の暖かさを、しばらくそのまま感じて いた。 お世辞にも大きいと言いがたい美鳥の胸が、優一郎の胸に押し充てられている。 それだけで優一郎の男は、爆発しそうになる。 『いいのか………このまま』 美鳥の激しい鼓動を感じながら、優一郎はまだ理性を保っていた。そよ風一つ で、跡形もなく吹き飛びそうではあったが。 最後の一線を越えられずにいた優一郎に、美鳥が震える声で言った。 「へ、平気だから………私、初めてじゃないから」 優一郎は、取るべき態度を決めた。 そっと美鳥の躰を離し、落ちていたパジャマを拾って背中に掛けてやる。 「どうして?」 涙に潤んだ瞳が、優一郎を見上げる。 「歯の根も合わないほど、震えているくせに」 自分でも信じられないほど、優しい声。それは真月に対して話す時の物とは、 どこか違っていた。 「初めてじゃ……ないから? 私が、初めてじゃないから、嫌なの」 「そうじゃない………俺も美鳥のこと、嫌いじゃない、好きだよ。でも違う、い まの美鳥は何か無理をしている。それが何か分からないけど………本気じゃない くせに、無理をしている」 「ううっ」 美鳥は顔を伏せて、泣き出した。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE