長編 #3915の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「まずいわ………」 険しい目をして、麗花が言った。 「抑えきれる、かな?」 美鳥もまた、感じた不安を言葉に出す。 「難しいかも知れないわ。完全体かどうかは別にしても、優一郎さんの【日龍】 の力は、予想以上。覚醒時の、精神の不安定さも、かなり大きい………」 「お姉、優一郎は私一人で、抑えてみせるよ」 「駄目よ、無茶だわ」 美鳥の提案は、麗花によって即座に否定される。 「けど、あの力を抑えるのは、たぶん音風の時より厄介だよ。これ以上お姉に負 担を掛けさせられない………」 「そんなこと………初めから予想していたことよ。言ったでしょ、私の覚悟はも う出来ているって。だからあなたは、私の心配をしなくていい。朧の悲劇を終わ らせることだけを考えて」 姉は優しい笑顔を浮かべて言った。 「でも、でもやっぱり、私はお姉に、いつまでも元気でいて欲しい。だって私じゃ 、音風や真月の力には、なってやれないもの」 そして美鳥は、その言葉に対する麗花の返事を待たず、沼を跳んだ。 「美鳥!」 制する姉の声を、遥か後方に訊きながら。 沼の上を跳び、優一郎のいる対岸に近づくにつれ、美鳥は目に見えぬ圧倒的な 力を感じた。空気の密度は増し、風は無いのだが気を抜くと、即座に後方へと押 し戻されそうである。 「優一郎、もう終わったんだよ!」 優一郎の正面に着地して、美鳥は叫んだ。 きっ、と射抜くような視線が、美鳥を捉える。 「お前は………敵か?」 「違う、私だよ。美鳥、み、ど、り。分かるだろ」 応えず、優一郎は剣を構える。敵意に満ちた目。 いまの優一郎は、覚醒したばかりの力に支配され、完全に我を失っている。 危ない! 斬られる。 そう察知した美鳥は、咄嗟に横へと飛び退く。 間一髪、それまで美鳥の立っていた位置に光で構成された朧の刀が振り下ろさ れた。 「くっ!」 かすりもしなかった刀から、空気を通し強い衝撃が美鳥の身体へと伝わる。皮 膚の表面から骨の中心まで、びりびりとした細かい振動が及ぶ。 「ふん、避けたか」 優一郎は刀を構え直し、美鳥を睨み据える。手加減するつもりも無いようだ。 いま優一郎は、完全に倒すべき敵として美鳥を捉えている。 『私に抑えられるか?』 力だけでは、美鳥のそれは優一郎に遠く及ばない。同じ朧であれば傷を受けず 力だけを、己の体内を通過させる事も可能だ。麗花の放った朧の矢を、美鳥の身 体を通過させ力を増幅させた上で敵に当てた事も幾度か有った。 だが優一郎の力は、純粋に朧ではない。もう一つの【日龍】の力を含んでいる。 それに何より圧倒的であった。度を過ぎた激流が堤防を決壊させるように、膨大 な量の力は美鳥の身体が耐え得るものではない。 「死ね」 咆哮のような叫びを上げ、優一郎が再び斬り掛かって来た。 『やるしかない』 もともと相手に致命傷を与えるだけの力は、美鳥にはない。だが優一郎を倒す 必要はないのだ。なんとか意識だけ、失わせればよい。 両の掌に力を集中させる。手にした光の玉で、頭上に振り下ろされる刀を受け とめた。元より、圧倒的に劣る力でそれを防ぎきる事は出来ない。容易く光の玉 に、優一郎の刀が食い込んで行く。 「たあっ!」 切断されるのを待たず、美鳥は腕を捻った。光の玉によって僅かに勢いを弱め た刀が、軌道を変えて美鳥の横をすり抜ける。 「いまだ」 防御のために消耗した力の残り全てを掌に集め、美鳥は優一郎の懐へと飛び込 んだ。体勢を立て直す前に、力を打ち込んでやれば意識くらいは失なわせる。が、 どん。 強い衝撃が美鳥の腹部を襲った。 伸ばした腕が肘に阻まれ、僅かに優一郎へと届かず、美鳥の身体は地へ落ちる。 「ひ、膝?」 鈍い痛みに身体の自由を失い、美鳥は自分を襲った衝撃の正体を知った。 「これまでだな」 残忍な笑みが美鳥を見下ろしていた。歪んだ口もとは、悪鬼の形相を連想させ る。 これが【日龍】の力を持つ者の姿なのか。 美鳥たちが希望を託すべく、完全体の可能性を秘めた者の顔なのだろうか。 死の予感の中、美鳥はぼんやりと考えていた。 「最期だ」 優一郎の持つ刀の切っ先が、美鳥の背中から首筋へと向けられる。このまま突 き刺すつもりらしい。 腹部の痛みと、有りったけの力を放出してしまった美鳥には、それを避ける体 力も無い。 背中越しに空気が動くのを感じた。次の瞬間、刀は確実に美鳥の首を刺し抜く だろう。だが、それは起きなかった。 パアッと頭上で光が瞬いたかと思うと、美鳥の前に有った優一郎の身体が消え 失せた。 「なに?」 よろよろと身を起こした美鳥は、近くにあった木の幹へもたれる優一郎を見つ けた。その胸には光輝く矢が刺さっていた。 「お姉………」 振り返ると、そこには矢を放った姿勢のまま、弓を立ち構える麗花の姿があっ た。 「分かったでしょ? あなたでは優一郎さんを、抑えきれない。ここは私が命に 代えても、なんとかしてみせる。下がっていなさい」 「けど………」 「下がりなさい、美鳥」 姉の厳しい口調に、美鳥は従うしかなかった。麗花にこれ以上力を使わせたく はないが、美鳥にはいまの優一郎を抑える事は出来ない。放置しておけば、異形 より恐ろしい存在となってしまうのだ。自分の非力さを情けなく思いながら、美 鳥は姉の後ろへと下がった。 「女、貴様も敵なのだな」 いまの優一郎には、普段の記憶が残されていないらしい。きっ、と麗花を睨む。 胸に刺さった矢は光を失い、身体へと吸収されていく。 「来なさい、私が相手をします」 手にした弓が、ふうっ、と消失する。代わって、麗花の全身を朧気な光が包み 込む。朧気な光は次第に輝きを増す。 美鳥は唾を飲み込んだ。 いま麗花が使っている物は、美鳥と同じタイプの力だった。朧の力によって、 自らの肉体を強化する。しかし力の絶対量が、美鳥と麗花では大きく違った。部 分的な強化しか出来ない美鳥に対し、麗花のそれは全身くまなく及んでいる。 だがそれさえも、優一郎の力の前では心許ない。 「俺と同じ力か。面白い」 にぃ、と笑い優一郎は麗花へ向き直った。刀の輝きが一層増したような気がす る。 澱みのない動きで、頭上へ掲げられた剣が麗花を目指す。 麗花は避けない。構えも取らない。 真っ直ぐ麗花へと振り下ろされる刃。が、額の直前で動きが止まる。 「くっ」 僅かに膝が落ち、声を出す麗花。 「斬れぬ! なんだ貴様」 麗花が、優一郎が、煌々と輝く。 二人を中心とした光は高速で広がり、周囲全てのものを飲み込む。もちろん、 やや離れた場所にいた美鳥をも。 美鳥の視界は、白一色に統べられる。 麗花も優一郎も。 空も地も。 木も草も。 森も沼も。 針が刺さるような痛みを持つ光。 いったい、どれほどの時間が過ぎたのだろう。ほんの数秒の事だったのかも知 れない。あるいは何時間も掛かったのかも知れない。 ストロボに眩んだ目が、徐々に回復していくように、美鳥の真っ白な視界に色 が甦ってくる。 そして完全に視力を取り戻し美鳥は、二人の人物が倒れているのを発見した。 当然、麗花と優一郎である。 「お姉!」 慌てて駆け寄り、麗花を抱き起こす。 「だいじょうぶ………よ」 言葉とは裏腹に麗花の顔色は悪く、息も苦しそうだ。 「それ…より、優一郎………さんは?」 「うん、寝ている、みたい」 目だけで確認する美鳥。優一郎の方は心配する事はなさそうだ。本当に寝息を 立てていた。 「そう、よかった………そろそろ、戻らないと………悪いけど、私はもう、力が ………」 「心配しないで、いつもより一人多いけど、私の力でなんとかなるから。音風の 力が借りれないぶん、来るときより時間が掛かるのは、いつもの事だけど、ね」 疲れ切った姉を励まそうと、美鳥は軽い口調でぺろりと舌を出して言った。け れど、声の震えまでは抑えきれなかった。
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