長編 #3882の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
呆気に取られてしまう。 「どこかプロダクションに所属していただいていれば、また別の形になるので すが、なにぶん、希なケースですので」 相羽の母が純子の母へ、目線を送りながら説明する。 「−−っと」 澄ましていた純子の母も、これには戸惑った様子。 「その、よく分からないので、おかしな質問をするかもしれませんが、相羽さ ん。こういう契約って、結ばなければいけない物……」 「いえ、そうではありません。ですが、常識的に言って、たとえばAR**の 広告に出ている人が、同じ衣料関連の他企業の広告に出るのは問題があるのは、 お分かりいただけますでしょう?」 「ええ、分かります」 「それをはっきり約束してもらうために、最低限、こういう覚え書きを交わし たい。そういう意味なんですの。その他、条件面で取り決める点があれば、小 栗さんが言われましたように話し合いということで」 「はあ……。では、プロダクションに所属するしないというのは……」 「こちらはもう、純粋に仕事の話になります。簡単に言いますと、仕事を受け やすくするということに尽きますわね。涼原さんの方でご希望でしたら、私の 事務所に近いプロダクションを紹介します」 「−−どう、純子?」 母親に聞かれて、純子は慌てて首を振った。 「や、やだなあ、お母さんまで。そんな、他からも仕事を頼まれるはずないで しょ。AR**の仕事だけで、充分」 「これは、嬉しいことを言ってくれる」 馬面の小栗が、口を押さえて笑みを漏らす。まさしく機嫌のいい馬みたいだ。 (AR**の仕事だけで手一杯、という意味なのに……) 純子は内心、冷や汗をかいた。今さら言い直しも利かず、身を縮める。 「それでは、ひとまず、次回のモデルは引き受けてもらえると受け取ってよろ しいでしょうか、涼原さん? 純子ちゃん?」 「う、うん」 すっかり子供に戻って、うなずく。その横から、母親が口を挟んだ。 「あの、すみませんが、その内容を……」 「そうでしたね。急な話なんですが、再来週の土日にも沖縄へ飛んでもらって」 「沖縄? って、あの南の……」 唐突すぎて、素っ頓狂な声を純子は上げてしまった。 「そうですよぉ、うちの恒例になってましてね。そこで、ルミナちゃんと一緒 に−−あ、前にも話したよね。うちの広告にずっと出てもらってるモデルの子」 「はい、聞きました」 「その子と一緒に、夏物をね。あ、盲腸や他の手術をやったことはないですか」 「盲腸?」 戸惑う純子に代わって、母が答える。 「純子は、手術するような大きな病気はやっていませんが……それが何か?」 「よかった。水着もありますからね」 小栗のさらりとした言い様に、聞き流しそうになった純子。でも、一瞬の間 をおいて、気が付く。 「み、水着ですか!」 純子に対して、小栗だけが「はい」と答えた。 純子の母はもちろん、このときばかりは相羽の母も、困ったような苦笑いを 浮かべていた。 試験が終わってすぐ、その日は来た。 朝休みの時間、純子が、相羽君が来たなあと意識するともなしに見やってい ると、着席した彼に、白沼が近付いて声をかけるのが分かった。 「相羽君。はい、これ」 「ん?」 座ったまま、ぼんやりと見上げる相羽。彼の目の前に差し出されたのは、細 長い箱。手の平を縦に少しはみ出す程度の大きさで、きれいに包装されており、 水色のリボンが十字にかかっている。 「何、白沼さん?」 「受け取って。お誕生日おめでとう」 教室にいるたいていの者に、彼女の声は聞こえただろう。たちまち注目を浴 びる事態に。 (わぁ……やっぱり、白沼さんて積極的だわ) 純子はこうなるのを予想しないでもなかったから、比較的平静に受け止め、 状況を見守ることができる。 「へえ、今日、誕生日なのか」 隣の席の唐沢は、日付の方に注意が向いたようだ。 「そうだけど」 相羽は戸惑った顔つきで、再び白沼を見上げた。まだ箱を受け取っていない。 「どうして白沼さんが知っているの」 「もちろん、調べたのよ」 強く言い切る白沼を見ていると、純子は冷や冷やした。 (私の名前、出さないでよ。下手したら、郁江達から恨まれるっ) 幸い、相羽本人はそんな細かい点までは気にしなかったらしく、深く問うこ とはなかった。 「ね、受け取って」 「でも、もらう理由が」 「ないことないわよ。誰でも人の誕生日を祝福していいはずよね」 「だったら、僕だけじゃなく、他の人にもあげたら」 ため息混じりに言う相羽だったが、それに被せるように、外野から声が飛ぶ。 「何、遠慮してんだよ、こいつぅ。分かってるくせに」 「白沼さんも、相手のことを考えてやらなくちゃ。この状況じゃ、もらいたく てももらえないぜ」 それに反応して、白沼が口を開く。 「そうなの、相羽君?」 「違うよ」 相手にしてられなくなったのか、目線を外し、即答する相羽。 (もったいないことするわね) じれったさから、純子はつい、現実的な思考をした。 (好きな子がいるって言ってたけど、そんなに大事なのかしら) 「じゃ、今、もらってくれていいじゃない」 相羽の返答を、白沼は別の意味に受け取ったようだ。手にした箱を、半ば押 しつけるように出す。 「これ……中身は何?」 悠然、いや、超然とした物腰と動作で箱を指さす相羽。 「やあね、開けてみてのお楽しみよ」 「もしかすると、腕時計?」 「……どうして分かったの?」 狐につままれたように、ぽかんとする白沼。恐らく、こんな様子の彼女を見 た人はいないのではないかと思わせるほど、普段の知的で落ち着いた感じから かけ離れていた。 「あれ、当たっちゃったか? 参ったな。はは」 頭に片手をやり、相羽は笑い始めた。 「あ、笑ってる場合じゃないよな。ごめん、白沼さん。箱の形から適当に言っ ただけだよ。シャープペンシルみたいな筆記用具か、腕時計ぐらいしかないだ ろうと思って。僕が腕時計していないのは見れば分かることだから、わざわざ くれるとしたらこっちの可能性が高いかなと考えたら、当たってたみたい」 「−−すご」 周りから声が上がっている。 (当てるなんて……確かに凄いかも。でも!) 自分の席に座ったまま、様子を見守る純子は、両拳で机を叩きたい衝動に駆 られていた。 (わざわざ言わなくたっていいじゃないっ。相手に恥をかかせるようなことし て。言うんだったら、せめて二人きりのときに。あ、でも、みんながいる場所 を選んだのは白沼さんの方だから……どう考えたらいいのかしら、これって) 「とにかく、もらって。使ってよ」 長い髪を一つかき上げると、気を取り直した風に白沼は言った。だが、相羽 の返事は相変わらずであった。 「使いたいけど、僕、腕時計はしないことにしてるんだ」 「ええ? ……理由を教えて」 「必要ないから」 あっさりした答に、白沼はがっくり来たらしい。続く言葉は、もはや金切り 声に近い。 「納得させてよ。腕時計があった方が、便利じゃないの」 「そうかなあ」 説明が面倒と思っているのか、間延びした声の相羽は、後頭部を指先で二、 三度かいた。 「学校にいる間は、どこかに時計があるよ。教室にだってあるし、チャイムだ って鳴るしさ」 「外は? 外ではあった方がいいでしょっ」 「見回したら、時計なんてどこかに一つぐらいある。通学路だけでも、公園や スポーツセンターの時計がよく見通せるんだ。知らない?」 「……かもしれないけど……道端で時間が気になったときは、どうなの?」 なかなか引き下がらない白沼。みんなの前でプレゼントを渡そうとした手前 もあるに違いない。 相羽はしかし、この質問にも簡単に答を示した。 「そういうことは滅多にないな、僕の場合。まあ、時間を知ろうと思えば、簡 単だよ。駐車してある車を覗きに行くんだ。ちょっと見えにくいかもしれない けど、車内の時計がアナログだったら、読み取れるから」 しんとする。さっきまで盛り上がっていたのが、嘘のようだ。 「……おまえ」 静けさを破ったのは、唐沢だった。相羽に話しかける。 「理屈を考えるの、うまいな」 「考えたんじゃなくて、前からそう思ってるんだよ」 「じゃあ、受け取ってやれって。何が嫌なんだ」 「嫌じゃないけど……」 白沼へ視線をやる相羽。 「そう……。そんなに受け取りたくないわけ」 白沼の声の調子が変わる。とにかく、低い。 「そういう意味じゃなくてさ、つまり、腕時計ならもらっても仕舞ったままで、 使わないからもったいない」 「腕にはめなくてもいいから、家に置いておくだけでいいから、受け取ってよ」 「……いいよ」 根負けした感じで、軽く両手を挙げた相羽。 すると、白沼の態度が再び一転した。 「ほんと? うれしい!」 抱きつかんばかりに相羽の手を取ると、腕時計の入った箱を握らせる白沼。 「私の立場、考えてくれて、ありがとうねっ」 「そ、そういう意味でもないんだけど……」 弱り切った様子の相羽。箱を持つ手に、戸惑いが如実に現れていた。 (変な感じ!) そこまで見届けた純子は、笑いそうになっていた。 (白沼さんは相羽君の切り返しに戸惑ってたし、相羽君は白沼さんの押しの強 さに困ってるわ! あんな顔する相羽君、初めて見た。うん、これなら、白沼 さんが押し勝っちゃう場合、なきにしもあらずってとこね。このこと、郁江達 に教えてあげなくちゃ) 声に出して笑ってしまわないよう努力していると、町田がやってきた。 「やられたわ」 彼女の第一声に、全てが込められていると言って過言でない。 「芙美は結局、相羽君狙い?」 「一本槍じゃないわよ。基本的に、手広くやってますから。それにしても、相 羽君に白沼さんはねえ、ちょっと。似合わない感じがする」 「そう?」 「具体的にどうこう言えないけれども、噛み合わない印象ってとこね」 これには今のところ同感できたので、純子は黙ってうなずいた。委員長と副 委員長として見ればさして違和感はないのに、カップルとして見れば噛み合わ ない感じが多分にある。 (でも、だからこそ、相羽君をうまく振り向かせられるかもしれない。そんな 気もするんだけどな) 「それより、純。郁や久仁に言うの?」 「そのつもり。二人とも、白沼さんのことを全然知らないだろうけど」 「知ったら、焦るんじゃないかな」 「それは……白沼さんの方が見た目よくて、成績もいいから?」 「ええー? そんなこと、言ってませんわよ」 おほほほと、わざとに違いない笑い声を立てる町田。どうやら、純子に言わ せようと引っかけたらしい。 「ひどーい」 「冗談だって。ま、あの二人なら、新たな強敵出現ということで、逆に燃える んじゃない?」 「どうかしらね。今日があいつの誕生日だってこと、認識してるのかどうかさ え、あやふやよ」 純子が言い切るかどうかの間際に、チャイムが鳴った。朝の休み時間は、相 羽と白沼の騒動で塗りつぶされた観があった。 昼休み、給食が終わってから、純子は相羽に呼ばれて、廊下に出た。 「朝一で話すつもりだったのが、あんなことがあったから」 「それはいいけど、何の話?」 「……モデルの話で、また迷惑かけることになったみたいだから……」 −−つづく
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