長編 #3869の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
入学式当日は、快晴とはいかなかった。昨晩から降ったりやんだりしていた 雨は、どうにか上がったものの、空にはどんより、黒い雲が立ちこめており、 いつまた降り始めてもおかしくない。 「あ、来た来た。純ちゃーん」 幾分緊張して校門をくぐるなり、聞き覚えのある甘えた声に呼ばれ、ほっと する。純子は方向を見定め、富井の姿を確認した。井口もすぐ隣にいる。 「ひっさしぶりー。と言っても、春休み中、しょっちゅう会ってたっけ」 「それより、クラス分け、見に行こうよ」 「まだ見てないんだ?」 「さっき行ったけど、張り出してなかったのよ」 井口が答えるのに合わせるかのように、校舎近くがざわついた。振り返ると、 職員らしき男の人が二人がかりで、大きな紙を掲示板に張り出そうとしている。 「やっと出るみたい」 小さく声を上げ、そのまま揃って駆け出す。 当然、他の新一年生も集まる。あっという間に、掲示板の前は大混雑となっ た。 紙にはまず、上の方に一から十までの漢数字が大書されていた。これがクラ スを表すらしく、その下には比較的小さな字で、名前をずらりと列挙してある。 一クラス四十名ほどだろうか。 「あった。私、五組だ」 三人の中で、井口がいち早く自分の名前を見つけた。名前は男女別で五十音 順に並んでいるから、井口のような最初の名前の者にとって、見つけやすいの だろう。 続いて、富井が声を上げる。 「あー、離れちゃった。四組だよぅ」 「残念。純ちゃんは?」 「ちょっと待って……あ、あったわ。三組。ばらばらになっちゃったね」 少しがっかり。それでも、他に友達の名前はないかどうかを見たくて、掲示 板の前を離れられない。 「わ。前田さんと町田さん、同じクラス」 立て続けに知っている名前を見つけ、純子は手を叩いた。 そんな彼女の肩を、富井が突っつく。 「何? 誰かいた?」 「相羽君の名前、探してよ。見つかんないー」 泣きそうな顔をしている。やれやれと呆れて、苦笑いを返す純子。 「四組でもないわね」 井口も残念そうに言う。 (『あいば』だから、一番か二番目ぐらいのはず) 純子は各クラスの最初の方をざっと見てみた。 簡単に見つかった。 「え……。あらら、三組だわ。腐れ縁」 また苦笑いしながら、二人の方を向く純子。本心では、うれしくないことは ない。少なくとも、中学一年目が楽しくなると保証された、そんな予感を抱く。 「……ほんとだ。何が腐れ縁よー、贅沢な」 「そうよ。何で純ちゃんとばかり。代われっ」 抗議されても、責任が純子にあるわけでなし。弱ってしまう。腰に手を当て、 言ってやった。 「代われるものなら、代わってあげるわよ」 「無理だって、分かってるくせしてえ」 富井と井口、二人揃ってぶうぶう言ってる。 「第一小の方から、もっと格好いい子が来てるかもよ」 「そうかもしれないけど、それとこれとは話が別」 富井の返事に、純子は肩をすくめたくなった。どうして、ここまで相羽に執 着するのか分からない。 (友達としてならともかく、好きとかどうとか、そういう対象からは外れてい る気がするな、相羽君って) 一人、首を捻ると、ふと、当人の姿が視界の中に入ってきた。 「噂をすれば」 つぶやいてから、富井達にも教えてやった。 学生服姿の相羽が、一人で校庭をうろついているのが捉えられた。詰め襟に 慣れないのか、しきりと喉元を気にしている風だ。そのため、顔が若干、上向 きになっており、周りへの注意が払われていないらしい。 「相羽くーん!」 富井が大声で呼びながら、手を振った。気付いてもらえないので、業を煮や した末の行動。そんなところかもしれない。 相羽は襟に手をやったまま、ぼんやりと視線を泳がせ、やがて純子達に気が 付いたらしく、瞬きを何度かする。 「や」 挨拶が極端に短くなったのは、やはり詰め襟が気になるせいに違いない。 「どうかしたのぉ?」 早速、富井が聞いた。 「襟が喉に当たる感じで、嫌なんだ。春休みの間、何度か袖を通してみたんだ けど、まだ慣れない」 「似合ってるのに」 「校則で、きちんと留めてなきゃいけないんだっけ。大変ねえ」 井口も同情の言葉を口にした。 (男子は全員、同じ条件なんだから……) 言葉にはしなかったものの、純子は井口のひいきぶりに呆れながら、みんな のやり取りをそのまま聞き流す。 「女子は服装の校則、あんまり厳しくないみたいで、うらやましい限り。−− あ、こういうときは、制服、似合ってるねと言うべきなのかな?」 とぼけた口振りで、相羽は純子達を見渡してきた。 ちなみに校則によると、入学式など行事のある日や、授業の一環で学校の外 に出るときは、制服の着用が義務付けられていたが、それ以外の場では私服で もかまわないと定められている。無論、中学生らしい、華美でない物に限ると の注意書き付きではあるが。 「ばか言ってないで、早くクラスを確認したらどう? そのためにここに来た んでしょ」 やっと口を利いた純子は、いつものように反発した口調で始めてしまった。 「っと、そうだった」 掲示板を見上げる相羽。 「純ちゃん、何で教えてあげないのよ」 富井が腕を突っついてきた。その声を聞きつけた様子の相羽が、頭だけ振り 返る。 「ということは、もう見つけてくれてるわけ?」 「そうよ。相羽君、三組よ」 にこにこして答え、掲示板の方を指差したのは井口。些細なことでも役に立 ててうれしい、といった感情が露。 「そうなの?」 再び掲示板を見上げる相羽は、すぐに自分の名前を見つけたらしく、 「あ、ほんとだ」 とうなずいた。うなずくと、喉に襟が当たるのか、また気にし始める。 「……それで、涼原さん達のクラスは?」 「あーん、私、四組。悲しいよー」 今度は富井が真っ先に答えた。泣き真似のおまけ付き。 続いて井口が口を開く。 「私も別のクラス。五組なの。で、純子は同じ三組よ」 「−−へえ? 何だか、面白いな」 「何が面白いのよ」 純子は、相羽の笑顔をきつくにらんでやった。 相羽は身を引き加減に、ちょっとびっくりしたような表情を見せ、それから また笑顔に戻って答える。 「卒業式の日、教室で涼原さん、僕に言ったじゃない。十ぐらいクラスあるか ら、きっと縁切りよって」 相羽の口真似を耳にして、初めて思い出した純子。 (そういえば言った、そんなこと。私はでも、春休み、相羽君の家に遊びに行 ったとき、最後に言ってくれた言葉の方が印象強くて……) 同じクラスになれてよかったと感じている気持ちが、少ししぼんだような錯 覚にとらわれる。 (これだと、本当に腐れ縁になりそうだわ) 「口に出したのと逆のことが実現するっていう、あれね。あのとき、言わなき ゃよかった」 「それなら、私は言っとけばよかったあ!」 気楽な調子の富井。 「他に誰か知っている奴、いるかな」 右手を目の上にかざしながら、みたび、掲示板を見やる相羽。 「男子は見てないけど、女子なら前田さんや町田さんがいるの、確認したわ」 「ふうん。−−あっ、勝馬がいた。また騒げる。清水も一緒だ」 「えっ?」 知らなかった純子は、清水の名を聞いて、少し憂鬱になった。 「やだなあ」 「あいつ、もうちょっとだけ、悪ふざけを遠慮すればいいんだけど」 「うん、同感だわ」 この点については、純子と相羽の意見は完全に一致を見た。 やがて、放送があった。曇天のため、当初の予定を変更し、体育館で入学式 を行うという案内だった。 式後、生徒は各クラスに移動した。 座席については何の指示もなかったので、めいめいが勝手な席に座って、仲 のいい者同士でグループを作り、お喋りしていると、さして時間を置かずに担 任の男性教師が現れた。 教室の様子を見るなり、先生は開口一番。 「しまったな。今日のところは出席番号順に、廊下側の席から座ってくれと言 うの、忘れていた」 背が高く、鼻髭豊かな先生は、見た目ほど恐くはなさそうだ。もっとも、初 日だけで判断するのは、早計に過ぎるかもしれない。 とにもかくにも、先生の言葉に従い、席を移る。相羽は廊下側から見て一列 目の先頭になり、純子達女子は、校庭に面した窓側寄りとなる。 「んー、何だな。やはり、挨拶から始めようか。誰か号令を」 と、先生が教室を見回す。何とはなしに、みんな、伏し目がちになった。 「今日のところは、彼にやってもらおう。出席番号一番クン。えっと、相羽信 一君か」 「は、はい」 指名された相羽は、さすがに慌てたらしく、がたごとと音をさせて立ち上が った。襟元をまた気にしている。 「号令、分かるな? 起立、礼、着席、だから」 「分かりました」 早くも落ち着きを取り戻した観のある相羽は、軽く深呼吸する仕種を見せた。 そして、号令。六年生の二学期に委員長をやっただけあって、堂に入ってい る。 「ほう。いい声してるなあ」 挨拶が終わって、感心したように言う先生。 (先生に気に入られたんじゃないかしら、相羽君?) おかしくて笑い出しそうになるのをこらえ、純子はそんなことを思う。 「声変わり、もう済んでるか?」 「いいえ、まだです」 「はあっ、変声期前でそれかあ。変わらない方がいいかもしれんな」 言うだけ言って、先生はチョークを手に取り、黒板に字を書き始めた。さら さらっと名前を書き終え、手をはたく。やや、右肩上がりの文字だ。 「えーっと、体育館ですでに聞いただろうけど、もう一度、念押しだ。僕は牟 田敬司郎(むたけいしろう)。担当は難しい算数、つまり数学だ。まあ、数学 に関してはなるべく分かり易く教えていくが、理解できないところは聞いてく るように。おっと、今は数学の授業中じゃないから、こういう話をするときじ ゃないんだよな。さて。配る物、配ってしまおう」 牟田先生の言葉の通り、山ほどプリントや冊子、それに教科書を配られた。 教科書は全教科というわけではなく、現時点で配布できる物だけらしい。 「あとの教科書は、各授業の最初のとき、もらえるはずだ。ああ、それから、 これは言っても聞かない奴ばかりで、毎年困ってるんだが……持ち物には名前 を書け。ださいとか何とか言って、なくしたときに往生するのは自分達だから な。今日のところは、強制しない。が、なくしたときには遅いぞ」 やたらと強調する牟田先生。案外、本人が物をなくすことが多いのではない かと、想像できた。 (それに、牟田先生って、『今日のところは』が口癖? さっきから何だか耳 につく) 純子は思った。 (『今日のところは』、素直に名前を書こうっと) 「さあて、それから……えー、自己紹介だな。僕は済んだから、君らの番だ。 突然で悪いが、またもや相羽君から、行ってみよう」 相羽はと言えば、すでに先生のペースを読み切ったのか、動揺した様子は微 塵もなく、すっくと立った。 「前に出るんですか? それとも、ここでいいですか?」 「あっと、そうだな」 相羽の質問に、牟田先生は片手を顎に当て、少しばかり考える仕種だ。 「顔が見えた方がいいだろ。前でやってもらおう」 えー!と、ちょっとしたブーイング。が、それをまるで気にしない風に、先 生は折り畳みのパイプ椅子を押し広げ、どっかと腰を下ろした。 「僕も覚えなきゃいかんからな。とりあえず、名前と……得意な科目、苦手な 科目ぐらいは言ってもらおうか」 −−つづく
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