長編 #3841の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
車を出るなり、どよめきを耳にした。 「か、かっわいいー!」 「似合ってるよ、純子」 女子二人が、声援を飛ばしてくれている。 純子は自分の着ている服を、目だけ動かして見下ろした。白と焦げ茶色の端 切れを大きなメッシュになるよう、左右に配したワンピース。大きな襟がポイ ントとか。 さて、一方の男子だが、勝馬はぽかんと口を開け、目をしばたたかせるばか り。最初、呆気に取られた様子だった立島は、口笛を小さく鳴らし、どういう 意味があるのか、首を一度、捻った。 相羽は……ほんの一瞬だけ目を見張り、あとは普段のぼんやり目つきに戻る。 ジャンパーの左右のポケットに両手を突っ込んで、足は貧乏揺すりをしていた。 (き、気になるよ。いくら友達と言っても、見られるのって、恥ずかしい……) 声を出さず、富井らクラスメートから目線を外した純子は、スタッフ達の顔 色を窺った。 「あの、どうすれば」 蚊の鳴くような声。緊張と寒さのせいに違いない。 「ん、とりあえず、真ん中まで。そう、カメラの真正面に」 カメラマンの人が、存外、優しい口調で言った。先ほどの、プロのモデル相 手のときと比べて、少しばかり柔らかだ。 「それじゃ、無理に笑わなくていいから、まず、好きなポーズ、やってみよう」 「は?」 思わず、首をひょいと前にやり、聞き返す。指示通りやるものだと考えてい ただけに、戸惑いが一気に起きた。 「好きなポーズ。ああ、止まらなくてもいい。自由に動いてみて」 やはりそうだ。聞き間違いでないと分かり、戸惑いはピークに。 そのとき、強めの風が吹き、純子の体温を奪っていく。思わず、両腕を抱く。 (あ−−いっそのこと、このまま) 思い切って、閃いたままを実行に移す。 腕を抱きしめた格好から、わずかに力を抜くと、純子は左足を半歩、前に出 し、つま先を立てた。そして胸をそらすと共に空を見上げ、真っ直ぐに降ろし た長い髪が背中に流れるようにする。ついでに、心持ち首を傾け、ほぅっと白 い息をついた。 おっ。−−そんな声が聞こえたような気がした。それがどういう意味を持つ 反応なのかは、全く想像できない。そして、シャッターが切られる音が、今度 ははっきり聞こえた。 やがて、カメラマンが言った。 「いいね! そのまま、手をほどいて、降ろしてみてくれる?」 「は、はいっ」 初めての具体的な指示に、純子はぎくしゃくと腕組みを解くと、だらんと足 の線に沿わせた。 「ああっと、ちょっと違うよー。少しでいいから、腕、開いて。そう、身体から 離す。鳥が翼を休めてるみたいな形」 言われるがまま、操り人形みたいに手を動かす。するとシャッター音がまた。 「オッケー! 今度は頭、もっとはっきり傾げて、こっち向くっ」 「こ、こうですか」 「いいよ、それで。さあ、笑って」 (無理に笑わなくていいんじゃあ?) 焦りのせいか、口元をむずむずさせるだけで、うまく笑えない純子。 「だめだめっ。記念写真のときを、思い出す。はい、チーズ!ってね」 号令をかけられても、純子は歯を覗かせるのが精一杯。 「スマイルスマイル! 早くしないと、固まっちまうよー!」 やっと頬の筋肉が言うことを聞いてくれた。ひきつったような笑みを作る。 (あれ? だめだ、こんな顔) と、自分自身、分かっているのだが、どうしてもうまく行かない。 「梅津(うめづ)さん、純子ちゃんはぶっつけなんですから」 カメラマンの名を呼び、相羽の母が、フォローの言葉を入れてくれた。 「分かってまっす。けどね、基本は笑顔でしょ。小栗さんは、いかがですか?」 「それはもちろん、笑っているカットもほしいよ」 小栗は特段こだわる風でもないが、口ではそう言った。 「涼原さん! こっち! 見てみなよ!」 突然、立島の声がした。 振り向くと、いたずらを仕掛ける寸前の顔をした立島が、相羽の後ろに立っ ていた。見る間に、相羽の目の下辺りを引っ張る。 「お、おいっ?」 不意をつかれた形の相羽は、なす術もなく、変な顔にされるがまま。 「−−っ、くっ」 笑うことができた。いや、『笑った』のだ。 同時に聞こえたシャッターの音。 「いいよ! じゃあ、次は……前に出してる足に、体重かけて−−」 あとはまずまず、順調だった。 都合三度着替え、純子は何枚も撮ってもらった。シャッターが落ちる瞬間、 瞬きしてしまうことも何回かあって、プロより長くかかったのは、当然だろう。 「はい、終わりっ。お疲れさん」 梅津カメラマンの上機嫌な声で終わりを告げられ、純子は深く息をついた。 そのときになって、緊張が完全に解けたのか、膝がかくんと折れる。 「大丈夫?」 近寄りつつあったおばさんや友達に手を引かれて、立ち上がる。 「はい。あは、安心したら、力、抜けちゃった」 「よかったわよ、純子ちゃん。本当にありがとう。お礼を言うわ」 相羽の母は、純子の手をしっかりと握り、何度も感謝の言葉を述べてくれた。 そのため、照れ臭くなってしまう。 「いえ、そんなことないです。無我夢中で。終わってみると、楽しかったぁ」 「いやいや、よくやってくれましたよ」 今度は、小栗。のんびりした足取りで、近づきながら声をかけてきた。 「次回の広告にも出てもらいたいぐらいだ」 「も、もう、結構です」 慌てて答える純子。それに重なるように、くしゃみが小さく出た。 「大変! 風邪を引かせてしまったら、申し訳が立たないわ」 相羽の母の腕に包まれるようにして、純子はワゴン車へ向かう。そしてクレ ンジングクリームで化粧を落とすと同時に、自分の服に、着替えにかかった。 「見物させてもらってたけど、やるじゃない」 タオルで顔を拭いているときに、唐突に声がした。面を上げると、髪の毛が 茶色のモデルさん。 「あ、どうもありがとうございます」 何と答えていいのか分からなかったが、ともかく礼を言っておく。 黒髪の人も、声をかけてきた。 「モデルの経験、ないって聞いたけど、本当に?」 「はい」 「そうなんだ? 歩き方なんか、それっぽかったのに」 「あ、あれ、寒くて、固くなってましたから」 ありのままを伝えると、本職のモデル二人は顔を見合わせ、一人は吹き出し、 一人はくすりと口元を緩める。 「偶然だったのね、傑作!」 「ひょっとしたら、モデル、やる気になって、このままどっか、所属しちゃう とか、考えてない?」 「ま、まさか。無理です、とても」 苦笑いで答えた純子。すると、若い方のモデルがしきりとうなずいて応じる。 「その方が賢明だよ。一から始めると、大変なんだから。所属されるようにな るだけでも一苦労。やっとモデルになれても、最初はカットやフィッティング の仕事ばっか」 「江美香(えみか)ぁ。何を現実的なこと、小学生に教えているのよ。小さい 子の中には、最初からブレイクする場合もあるって、せめてこれぐらいの夢は 残しておいてあげなくちゃ」 二人のやり取りを聞いても、純子にはぴんと来ない。とにかく、大変そうな のはよく伝わってきた。 そこへ、車外から声が届いた。 「終わったら、折角だから、全員で記念撮影と行きましょう。フィルム、まる まる余ったってことだし」 「了かーい!」 元気よく答えた茶色い髪のモデルさん。 純子は雰囲気に圧倒されながらも、楽しんでいた。 「お父さんには、まだ言わないでよ」 家に戻ると、純子は前置きして、今朝の出来事の一部始終を、母に伝えた。 「−−電話したかったんだけど、時間なくて……。怒った?」 恐る恐る、探るように上目遣いをする。 母は、想像外の話にいくらか唖然としていたようだったが、その表情がふっ と緩んだ。 「困ったものね、あなたにも」 「え……ごめんなさい」 「モデルを引き受けたのは、謝らなくてもいいのよ。でも、そういう大事なこ と、自分だけで決めるのは、あなたにはまだ少し早い。今日は一人で決めても よかったけど、もし、何か危ないことや、詐欺みたいなことだったら、どうし てた? 言ってること、分かるでしょう?」 「う、うん」 「もちろん、最後に決めるのは純子自身よ。その前に、お母さんやお父さん、 先生、大人の意見を聞いて参考にする。忘れないで」 心遣いに感じ入る。素直にうなずけた。 「さあ、それで、どうだったの?」 「えっ」 「楽しかったのかってことです。きれいに撮ってもらったり、いい服、着させ てもらったりしたんでしょう?」 「あ、あのね。実は、服、一着もらって……」 「もらった?」 高い声を上げる母。 「うん。モデル代の頭金代わりとかって……」 「どこにあるの? あなた、手ぶらで帰って来たじゃない」 「玄関の、下駄箱の陰に隠してる……怒られたら、返そうと思って……」 肩を小さくする純子に、母はふっと笑みを漏らした。 「心配性ねえ、この子ったら。持って来なさい」 「はぁい」 立ち上がると身を翻し、玄関へ。立てかけていた紙袋を手に、すぐ引き返す。 「これだけど。あの、相羽君のお母さん、近い内に、ご挨拶に伺いたいって… …おっしゃってた」 慣れぬ敬語に、話すスピードが落ちる。 「あら、そう? 別に私はいいと思ってるのに。今日、見学させてもらったの は、あちらのご厚意だし」 母の手は、袋から服を取り出す直前で止まった。 「来てもらったら、だめ?」 「そんなことありません。ただ、お父さんがいないときの方がいいでしょう?」 「それは……うん」 (想像だけど、お父さんはきっといい顔しないと思う) そんな予測があるから、母に先に話してみたのだ。 「相羽さんに会ってから、お父さんには、機嫌のいいときに話すわ」 「ありがとうっ、お願いよ」 「もう笑ってるんだから……。あら、ほんとにいい服じゃないの、これ」 紙袋の中身を見た母は、声のトーンが一段、高くなった。 「そ、そうなの?」 お洒落は気にする方でも、どこの会社の服かなんて、ほとんど注意しない。 「逆に、こちらがお礼を言わなくちゃいけないかもしれないわね。さすが、広 告用にいい物を使うのかしら」 母が、ため息混じりに言った。 月曜。撮影のあった次の日、学校に行っても、純子がモデルの代役を務めた ことは広まっていなかった。それも道理で、相羽の母を始めとする関係者一同 のお達しがあったから。お喋りな富井達も、約束を守っているらしい。 それでも、純子が来ると、待ってましたとばかり、富井と井口は昨日の話題 に花を咲かす−−ひそひそ声で。 「いいなあ、純ちゃん。私ももっと、おめかししてればよかった」 「あれ? もらった服、着て来なかったの?」 「だって、高そうだもの。着てたら、気になってドッジボールもできない」 「そっか。でも、よく似合ってたよ。きれいだったし」 そんな会話を交わしていると、前田が輪に加わった。 「昨日の話でしょ? どんな風だったの?」 都合が悪くて行くのを断念しただけに、興味ありげに聞いてくる。 「モデルの人が、きれいだった」 さっきの言葉を聞かれたかもと考え、取り繕うようにおざなりな感想を言う。 「寒いのに、春物や夏物の服着てね。それなのに、全然、寒そうな顔しない」 「今の内から、春のファッションなのね」 感心した様子の前田の声を聞きつけたか、そこへ立島が輪に入る。 「前田さんがいたら、どうなってたか分からなかったかもしれないのに」 「どういう意味?」 怪訝そうに小首を傾げる前田。 「た、立島君!」 焦ったのは、純子達の方。 (話しちゃまずいよ) −−つづく
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