長編 #3833の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「あ、当たってる。どうして」 口を半開きにした樹理は、右手の人差し指を相手に向けた。 「占いみたいに神秘的じゃない。単純に、現実的に考えただけ。まず、うちの 学校で現在、F・Fというイニシャルを持つ女子は、船井先輩だけと分かった から、船井先輩と渡部さんに共通して知り合いの男子を探って、その枠を狭め ていった」 「それで分かったの? 何だか……恐い」 赤面するのが、樹理自身も分かった。顔を背け、続ける。 「案外、簡単にばれるんだ?」 「うーん。僕は、占いでずばりと言い当てられる方が、よっぽど恐い。ま、と もかく当たっていたようで何より。この前提が崩れたら、お話にならないから。 ああ、ついでに確認しておこう。もう一人のF・Fは、藤枝先生のことを言っ てたんだろう?」 「ええ」 「その二人に対して、伊津森先輩がどういう態度を見せるから、探ってみた。 どうも、期待したような反応が見られなかったんだよ」 「……二人とも? 船井先輩も?」 「そう」 答えるなり、いきなり手を前に伸ばした園田。 何事かと思った樹理は、カウンター前に生徒が二人、立っていることに気付 いた。 「どうも。このカードに日付を記入して−−」 手際よく応対する園田。 貸し出しのやり取りが終わるまで、樹理は待っていた。ひそひそ話をしたた めに乾いた唇を、舌で湿しながら。 「お待たせしました」 手をはたくポーズを取る園田。冗談でやっているのだろうが、顔がまじめな ままなので、どうも不釣り合いである。 「えっと、どこまで話したかな」 「二人とも、伊津森先輩の想ってる相手じゃないらしい……ってとこまで」 「ああ、そうか。どうやら、そうみたいなんだ。想っている相手に関わること で、あんな冷めた話し方はない。多少なりとも、出るものなんだ。うっすら汗 をかいたり、心持ち早口になったり……。それがないから、九分九厘、船井先 輩と藤枝先生は違う」 「じゃ、じゃあ」 ほっとする一方、頭の中に混乱が生まれた樹理。 「伊津森先輩、誰のことを言ったの?」 「一応、嘘をついた可能性も考えてみた。占いで有名になった渡部さんをから かうために、伊津森先輩は相談を持ちかけたっていうパターンだ」 「私をからかう? 何のために」 自らを指差しながら、樹理。 園田は肩をすくめた。 「からかうのに理由はないよ。からかいたい、それだけの理由でからかう。渡 部さんの占いが結構当たると評判なのを、嘘を言って試してやろうという魂胆 かな。まあ、たわいないいたずらと思えば、ない話じゃないだろう?」 「それはそうかもしれない……けど、変よ。からかうつもりなら、そういう噂 が広まると思うわ。嘘も見抜けないで、占いなんて、ていう感じ」 「そう。僕もそう思う。だから、そんな噂がないってことは、伊津森先輩はあ くまで真剣だと考えるべき。F・Fは実在する」 「だったら、一体、誰? 校内にいると思ったのが、間違いだった?」 「いや、多分、そうじゃない」 幾分、園田の口が重たくなったかもしれない。 「渡部さんも名簿で調べたんだろう? F・Fを」 「もちろん。他にないでしょ」 「そのとき……女子しか調べなかったんじゃないか」 「……どういう意味?」 相手が何を言いたいのか、樹理はすでに分かった。でも、敢えて尋ねる。 「僕は、男子も調べてみた。そしたら一人だけいたんだ、イニシャルF・F」 「……」 園田の沈黙と視線に、樹理も沈黙で応じる。 「深川文哉、やっぱり二年生。しかも、伊津森先輩と同じクラスだ」 「確かめたの?」 次に樹理の発した声は、若干、甲高かった。 「伊津森先輩の言ったF・Fが、その深川という人かどうか」 「それは」 「−−あっ」 園田の返答を聞く前に、樹理は思い出した。唐突に、しかし鮮明に。 「どうかした?」 不思議そうにする園田へ、考えをまとめてから答える。 「私、知ってる、その深川っていう人を。占いの相談で、名前が出たわ」 「へえ?」 「えっと、ある先輩、もちろん女の人よ。その三年生の想い人が、深川文哉先 輩。私の占い、そのまま進むのがいいって出た。今、二人はうまく行ってるは ずよ」 「何だ、それなら問題ないじゃないか」 「え?」 園田の言葉が理解できず、樹理は首を傾げた。 「いや、最初の問題を考えてみたら、これですっきりした。違う? 深川先輩 とその女の人がうまく行っているなら、伊津森先輩が入り込む隙間は最初から なかったことになる。渡部さんの嘘は、結果として正しい占いだった訳だよ」 「……言われてみると」 ぽかんとしてしまう。でも、肩の荷が降りた実感もあった。 「だろ? 事実、伊津森先輩は渡部さんの言葉に従って、少なくとも表向きは 深川先輩のことをあきらめたようだし。だから、残るは……渡部さんが伊津森 先輩に対して、どう思うかだけ」 「……」 調べてもらっている内に、新たな問題を抱えてしまっていた。 「何で、男が男を……よりによって伊津森先輩が、どうして。汗くさいスポー ツやってると、なっちゃうのかな。もう、信じられない」 「その辺は、僕も完全理解はできない人間だから、何も言えないが」 園田は正面を向き、何気ない調子で話す。 「伊津森先輩を振り切りたいのなら、いい機会だと思う」 「他人事だと思って」 恨めしさを込めて、隣の図書部員を見やる樹理。 園田は、その視線をまるで感じていないかのように、同じ格好のまま、口を 開いた。 「振り向かせたいにしても、今がチャンスかもしれないなあ」 「……あのさあ」 目を何度かしばたたかせ、そして尋ねる樹理。 「何?」 「打ち明けた方がいいと思う?」 「また、相談?」 やっと顔を向けてきた園田。呆れたような色が、表情に浮かんでいた。 「占い師が他人に悩みを、こうも頻繁に持ちかけるもんじゃないと思うんだけ ど」 「答はいらない。アドバイスがほしいの」 「僕なんかの?」 「うん。知り合って間もないのに……考えてみたら、不思議よね。何でも話せ て、安心できる感じがする、園田君」 「誉め言葉として受け取るよ。でも、恋愛問題なんて、僕はちっとも経験豊富 じゃないから、参考にならないだろう」 「何を言ってるのよ。私よりは経験してるじゃない。告白して、ふられたって 言ってたじゃない」 「……五十歩百歩だ」 頭痛でもしたのか、頭を両手で抱える園田であった。 カウンターの上に本が一冊、滑り出されたのを察して、園田は面を上げた。 「これ、お願いします」 渡部樹理だった。 「分かりました」 うなずき、手続きの準備を始める園田。 (ふむ。何だかんだとぐずぐずしていたのが、結局のところ、うまく行ったよ うで) 渡部の後ろに、伊津森の姿を見つけることができた。 やがて貸し出しの手続きが完了。 「はい。期間は二週間です」 「……何も聞かないのね」 後ろを気にするように、渡部が囁く。 「聞いてほしいの?」 使った鉛筆を片付けながら、園田は応じた。 「ううん。ただ、お礼が言いたくて。私、感謝してるよ」 「そりゃどうも。将来、僕の方で何かあったら、占ってもらえるかな」 「大歓迎するわ」 渡部がにこっと微笑むのと、伊津森が声を発したのがほぼ同時だった。 「おおい、早くしてくれよ」 「ごめんなさーい! もう終わった」 図書室にふさわしくない高い声と共に、渡部が振り返る。 いつもなら注意するところだが、このときばかりは園田も黙っていた。 それからしばらくして、園田の下を尋ねてくる生徒が増えた。 しかも、園田とは知り合いでも何でもない連中ばかり。全員が全員、悩み事 の相談を持ちかけてくるのだ。 最近では、図書室にある新聞を読むためのテーブルは、しばしば悩み相談室 の場と化すようになりつつある。 (渡部さんの仕業だ) 園田はやられた、と思った。 今日も、相談客を適当にあしらって帰したあと、胸の内で一くさりぶちまけ る。 (恐らく、占いを頼みに訪れた客に、僕を紹介しているんだ。やれやれ、無茶 してくれるよ。身勝手なんだからなあ!) 左右のこめかみを指でもんだ。他人の悩みを聞くだけでも、意外と疲れるも のだとしみじみ感じる。 やがて園田は、ため息をついた。 (ま、仕方ないか。渡部さんは今、『恋愛』で忙しいんだろ、きっと) −−終わり ※園田俊明が登場する作品 『バトン・タッチ』 長編ボード #3284〜3295 『ファースト・ステップ』 長編ボード #3427〜3438 上記二作品の内容は、似て非なる物とお考えください。作者としては一応、 『ファースト・ステップ』の世界を優先して考えていくつもりです。
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