長編 #3832の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「園田君ね。じゃあ、園田君は女子の気持ち、全部分かってあげられるの?」 「さて? 確かめようがないから」 姿勢を変え、肩をすくめる園田。 「それに、気持ちと一言で言っても、当然、悪感情もある。そういうのって、 内に秘められたら、他人は案外、気付かないものじゃないかな。いい感情は、 秘めても出てしまう物だろうけど」 「そこまで話を広げられても、困るんですけど。聞きたいのは、分かってたと したら、どうして園田君、ふられたのかってこと」 「ゴー フォー ブローク。当たって砕けろだったから」 かすかに笑いながら、園田。 「結局、誰それが好きだなんていう問題では、自分を一番大事にせざるを得な い。だから、その男の人が渡部さんの気持ちに鈍感だったのも、渡部さんが嘘 を言ったのも仕方ない。それが考えに考えた末の行動なら」 「それでいいのかな……」 罪悪感がまだ去らない。 「相手が私のこと気付いてくれないのと、わざと嘘を言うのとは違うと思うの」 「なるほどなるほど。だったら、調べてみたら? 渡部さんが言った嘘が、相 手の男にとって、よかったのか悪かったのか」 「調べるって、どうやって?」 「F・Fの正体を一人に絞り込む。判明したF・Fに接近して、想っている相 手がいるのか、それとなく聞き出す。要するに、両想いかどうかを調べるんだ。 両想いだったら、渡部さんの嘘を訂正したらいい」 「そんな簡単に訂正なんて」 伏し目がちに訴えると、園田は対照的に気楽げな口調で応じた。 「占いにミスがあった、本当は正反対だったのって言えば、通じるんじゃない かな」 「でも……F・Fが誰だか分かる? 興信所じゃあるまいし、うまく行かない と思うんだけど」 「やってみなくちゃ分からない。二人までに絞れてるんなら、どうにかなるよ。 もし、詳しい話を教えてもらえるなら、僕がやってみてもいいな」 「お客の秘密は言えない」 「……それもそうだ。残念」 叩くようにして、額に手をやる園田。 「なら、こうしていい? F・Fというイニシャルだけを手がかりに、僕が調 べる」 「イニシャル……そっか、本当なら、イニシャルも言っちゃだめだったんだわ」 今さらながら自分のミスに気付き、両手を頬に当てる樹理。 「僕が勝手にやることだから、気にしない気にしない」 手を振りながら立ち上がると、園田はカウンターの方へ向かう。 「うまく行ったら知らせるから」 「あの……どうして、そんなに力入れるの? 他人のことなのに」 椅子から腰を浮かした体勢のまま、樹理は聞いた。 園田はぴたりと足を止め、首を捻る。 「うーん。よく分からない。……多分、血筋」 「血筋って?」 樹理の問いかけに、園田は初めて明快な笑顔を見せた。 「うちのじいさん、神父なんだよ。懺悔を聞くのが『商売』」 (イニシャルF・Fの女子は、校内に一人だけ。船井不二子っていう二年生だ) 図書室の受け付けに座ったまま、園田は頭の中だけで考えていた。 (男子の中で、船井先輩と渡部さんに共通の知り合いは何人かいたけれど、渡 部さんが想っていそうなのはただ一人。伊津森隆太っていうこれも二年生。渡 部さんに占ってもらった数少ない男子ってことで、ちょっとした噂になってた し、間違いないだろう) 様々な情報のほとんどは、図書室で掴んだ。 書架の谷間や隅っこの席で、ひそひそ話をする生徒が多い。書籍の整理にか こつけて、聞き耳を立てるぐらい、園田にとって朝飯前である。 (渡部さんの話の通り、もう一人は先生の中にいた。こっちは人数少なかった から簡単だったな。しかし、よりによって古文の藤枝先生だなんて、ちょっと 考えられない。だからこそ、船井先輩が本命だとにらんだんだが……) 腕組みをし、天井を見上げる園田。知らない者が見たら、気味悪く思うかも しれない。 (ここからがおかしいんだよな。伊津森先輩の気持ちを見ようと、ああいうこ としてみたが) 図書室に落とし物があったと言って、園田は伊津森に接近した。 園田が用意した落とし物は、メモ書き。船井から伊津森への伝言という形を 取ってみたが、無論、園田の手による偽物だ。図書カードにある船井の文字を 真似て、そっくりの筆跡で書いた。 それなのに、伊津森は照れ笑いは愚か、顔をかすかに赤らめることもなく、 実に素っ気なく紙を受け取ったのである。 (船井先輩の名前を明記しておいたのに、ああいう反応しかないってことは、 どうやらこっちは違うらしい……。となると、先生? いくら何でも、子持ち で、もうすぐ『おばさん』の域に入ろうって人を。それに、口に出しては言え ないが、そんな美人て訳でもない。分からん。十人十色ってやつなのかね) 頭では否定しつつも、可能性はそれしか残っていないようだ。 園田は念のため、調べることに決めた。 「先生、藤枝先生」 名を呼ばれた藤枝は、机に手を置いたまま、首だけ巡らせた。 ポケットサイズの参考書を片手に、男子生徒の一人が近付いてくる。 「あなたは、伊津森君、だったわね。何かしら。質問でも?」 「いえ、質問じゃ……。用と言うほどでもないんですが、おかしいんですよ。 これ、俺の机の中に入ってて」 かすかに首を傾げながら、伊津森は手の辞書を差し出してきた。 それを目にした藤枝は、やがて気付いた。 「これは……私のだわ」 深緑色のその書物は、間違いなく藤枝の物であった。 「一昨日辺りから見当たらなくなって、弱っていたんだけど……どこにあった って?」 受け取ってから、生徒を見上げる。 「俺の机の中です。二年五組の教室」 「変ねえ。あなたのクラスで授業したとき、置き忘れたのかしら。それにした って、何もあなたの机の中に入れなくても、ねえ」 「はあ、そうですね」 頭をかく伊津森。物を渡せば、さっさと退散したい。そんな気持ちがにじみ 出ていた。 藤枝は参考書をぱらぱらとめくって、中身を確かめた。 「うん、まあ、どこも汚れたり傷んだりはしていないようだし、無事に戻って 来ただけでよしとしましょう。わざわざありがとう、伊津森君」 「いえ。あ、できれば、期末の点数、ちょっと甘めにお願いしますよ」 帰り際、伊津森はぼそっと付け足した。 藤枝は苦笑の上、眉をひそめながらも、こう言った。 「赤点になりそうなら、助けてあげようかしらね」 園田は、数学の教師の対面の会話が終了したと見るや、質問を強引に終わら せた。 「あ、そうか。分かりました。どうもありがとうございました」 「ん? 何か、いきなり閃いたみたいだな。まあ、分かったんなら、いい。ま た質問があれば、いつでも来いよ」 「はい」 殊勝に返事して、そそくさと職員室を出る。 廊下に踏み出した途端、歩くスピードを落とした。 (さっきの藤枝先生と伊津森先輩の会話から判断する限り、こっちも外れみた いだ……) 芝居のために持っていた数学の教科書を、ぎゅっと握りしめた。 (わざわざ先生の参考書の拝借までしたのに、こういう結果か。八方塞がりな らぬ、二方塞がりだ) 難しい表情になり、丸めた教科書で自分の首筋を軽く叩く。ときたま、詰め 襟のカラーに当たり、ぽこんという変な音がした。 (学校で二人しかいないF・F。その両方が消えた。どう解釈すればいいんだ ろ? 伊津森先輩が、渡部さんに嘘を言った? 何のために? 占ってもらい たいくせして、嘘の情報を与えたら意味ないだろう。 ああっ。どうしてこんなに、男と女って、分かりにくいんだろうね。 ……待てよ。まだ可能性がある。調べていない領域があった) 先ほどの職員室内とは違い、本当に閃いた園田は、珍しくも気まずそうな色 をなした。相手もいないのに、一人で百面相じみたことをやっている。 「参ったな」 思わず、そんな言葉が漏れ出た。 (これが正解だとしたら、ちょっと気が重いぞ……。とにかく、家に帰って、 もう一度名簿に当たらなきゃならなくなった) 樹理は居心地悪く感じていた。 「あの、ここ、図書部員じゃないと座っちゃいけないんじゃないですか……」 初めて言葉を交わしたときのように、丁寧な口調で恐る恐る尋ねる。 「いいんです」 園田の方も、です・ます調で応じてきた。 「何しろ部員が二名しかいないって言うのに、カウンターには三つも四つも丸 椅子がある。このまま無駄にするのももったいない」 「二人だけ?」 しょっちゅうカウンターに座っているなと思っていたら、そうだったのか。 樹理は納得した。 「そう。僕の他は、部長が一人。三年生なのに部長をやってもらってるんだ」 「貸し出し当番、大変でしょう?」 「そうでもない。砂漠の水売りみたいに利用者が押し掛ける訳じゃないし、部 員の手が空いてないときは、司書の先生がやってくれるからね」 説明しながら、カウンターの奥にある司書室へ目をやる園田。 司書室の大きなガラス越しに、初老の男の先生が、何やら書き物をしている のが見えた。 「それより、結果、聞きたい?」 「そのために来たんだから」 前に向き直ると、園田の顔を見つめた。 「本当に分かったの? まだ信じられないんだけれど……」 「うん。でも、気が進まないんだな。本人に無断で言っていものかどうかとい うのもあるし、渡部さんだって知りたい話じゃないと思う」 「本人て、私に相談を持ちかけてきたのが誰だか分かったの? 言ってみてよ」 試すように言う樹理。 園田は眼鏡を指で軽く押し上げると、さすがに得意そうに言った。 「伊津森隆太先輩、だよね? 二年生の」 −−続く
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE