長編 #3814の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
美鳥の掌と脚を包む光が弱くなっていく。いつしか攻守が入れ替わり、美鳥はじ りじりと後退し始めていた。 「麗花(れいか)お姉、もう限界………早く!!」 叫ぶと同時に、美鳥の光が失われた。 それを好機とみた異形が、左肩を突き出し、アメフトのタックルをするように突 進してきた。美鳥を楯にしつつ、もう一方の女まで一気に突き飛ばしてしまおうと 言う勢いだ。 だが女は美鳥が楯となっていることにも怯まず、矢を放った。 矢は真っ直ぐに美鳥の背を貫いた………刹那、美鳥は笑みを浮かべる。 そして美鳥の胸の中央からは、放った時の倍以上の大きさとなって矢が飛び出し てきた。 鏃(やじり)が異形の額に伸びた角の先端に当たる。 がり、と鈍い音がして、角は砕け四散する。 そのまま矢は、異形の額を貫いた。 「これでフィニッシュ。やったね!」 ぱちんと美鳥が指を鳴らした。 そのセーラー服の胸元に、矢が貫通したような痕跡は見られない。 「思ったより、手こずってしまったわ」 少々浮かれ気味の美鳥とは対照的に、冷静な声で麗花が言った。 目の前で、額を射抜かれた異形の躯が、二度三度痙攣して、動きを止めた。絶命 した異形の躯は急激に収縮をして、裸の三十代半ばの男性になる。さらに男性の躯 は、古くなった紙を握りつぶすよう、もろもろと崩れて行った。 最後に、人骨のみを残して。 「可哀想に………きっとこの人も、最期まで自分の身になにが起きたか、知らない ままだったんでしょうね」 白骨の前で、手を合わせてから、麗花は妹を振り返った。 「美鳥、またあなた、勝手についてきたわね。留守の間に、あの子たちにもしもの 事があったら、どうするの」 「だいじょうぶよ。音風も力をつけてきたし、少しの間なら………。最近、お姉も 苦戦することが多いみたいだから、助っ人がいると思ったの」 美鳥は両手を頭の後ろで組み、ひょいと顎で白骨を指した。 「たしかに………徐々に連中も強くなっているわ……完全体が現れるまで、思った より早いかも知れない」 麗花の顔が曇った。 「にしても、なんであなた、セーラー服なの?」 「へへっ。これ?」 美鳥は、自分の胸元をつまみ上げた。 「だって、なーんか、カッコイイと思わない? テレビアニメのヒロインみたいで さ」 「あきれた」 ふうっと一つ、麗花はため息をついた。 「さあ、帰りましょう、美鳥。もうすぐ朝よ、あの子たちが起きてしまう」 東の空が、うっすらと紫に染まり始めていた。 「はあい」 二人は山を下りた。 (わたしたちも早くみつけなければ………わたしたちの完全体。もう一つの『おぼ ろ』を) 「な、もっと良く考えてみろ」 何回目になるだろう。 目の前の教師が、この台詞を吐くのは。 「はあ……」 同じ数だけ繰り返した、曖昧な優一郎の返事。 教師の言葉の内容より、少し伸びすぎた髪の方が気になっていた。 「奨学金制度だって使えるわけだし………もったいないぞ、陽野。おまえの成績な ら、かなりいいところが狙えるのに」 職員室へ呼び出された陽野優一郎は、担任教師によって進路についての説得を受 けていた。 校内でも上位の成績を保ち続けていた優一郎だが、三年生になって早々の時期か ら、進学はしないことに決めていた。 特に決めた就職があった訳ではない。 中学の頃に父親を亡くし、昨年母親も亡くした優一郎は、誰かに学費を頼るのが 嫌だった。 幸い、僅かばかりだが残された遺産で、高校卒業までの生活は困らない。 しかし大学に進み、入学金や学費を支払うまでには充分でない。 特に目的があって行くわけでない大学に通いながら、アルバイトをするくらいな ら、すぐに就職してしまった方がいい。 優一郎はそう考えていた。 ところがそんな優一郎の成績を惜しんだ担任教師が、こうして奨学金制度を勧め てくれている。 ありがたいとは思うが、いずれは返さなければならない金。 優一郎にとってそれは、借金以外の何物でもない。 行きたいわけでない大学に、借金をしてまで行く必要を感じられず、断り続けて いた。 今日もまた、その気にならない優一郎に教師は深くため息をついた。 「その気にならんか………まあ、ともかく夏休みの間、考えて見ろ」 「はい」 ようやく解放されるという安堵感から、優一郎は初めてしっかりとした返事をし た。 「やあ、優一郎くん。ようやくお解き放ちかい?」 「なんだ田邊、まだいたのか」 気安く声を掛けて来た同級生、田邊克俊に対し、優一郎の眉が僅かに歪む。 「二学期最後の日だからね。優一郎くんと語らいながら、帰ろうかと思ってね」 度の強い金縁眼鏡の奥の細い目をますます細め、田邊が笑った。 優一郎より頭半分身長の低い田邊の肩には、無造作に伸ばした髪から大量のフケ がこぼれていた。 正直、優一郎はこの男が好きではない。 それどころか、田邊になつかれていることを疎ましく思っている。 高校に入学した当初から、どこか人を馬鹿にした物言いをする田邊はイジメの対 象になっていた。 それを助けて以来、田邊は何かにつけて優一郎にまとわりつくようになっていた。 優一郎にしてみれば、田邊を助けたのは決して正義感からではなかった。 理由は詳しく知らない。あの日、田邊は教室で運動部に所属する男子生徒三人に、 殴られていた。話の内容では、どうも田邊が彼らの部活を馬鹿にしたらしい。 その場に通りかかった優一郎は、初めは助けるつもりはなかった。暴力自体は許 せる好意ではないと思ったが、彼自身、田邊から何度となく不快な発言を受けてい た。 たがその時、その現場を遠巻きに見ている同級生の一人が目に入った。 当時、優一郎が秘かに好意を抱いていた女生徒だった。 田邊が男子生徒に暴力を受ける度、辛そうに顔を背けていた。 心優しい子なのだろう。 ほとんどの同級生に嫌われていた田邊でも、暴力を受けている事を悲しく思って いるに違いない。 女生徒の様子を、優一郎は勝手にそう解釈してしまった。 そしてその子の前で、いいところを見せてやろうと、その場を止めに入った。 優一郎が介入した事で、その場は簡単に納まった。 優一郎に対しての人望はクラスの中でも、高かった。そして喧嘩が強いことも、 みんなに知れていた。 「ちっ、陽野の顔を立てて、今日は勘弁してやる」 まだ不満を残した様子ながら、男子生徒たちは不承不承、優一郎の仲裁を受け入 れた。 その時以来、田邊は優一郎にまとわりつくようになってしまった。 後で知った事だが、例の女子生徒が辛そうにしていたのは、田邊に同情してでは なかった。 彼女は、三人の男子生徒のうちの一人とつき合っていたのだ。 自分の彼氏が、暴力をしていることに辛そうにしていたらしい。 そしてその彼女は、今でもその男子生徒とつき合っている。噂では結婚の約束を した、などとまことしやかに言われている。 一方優一郎は、それなりに女子生徒の人気はあるのだが、三年生になるまでとう とう、特定の彼女をつくることが出来なかった。 いい雰囲気になり掛けたこと事も何度かあったのだが、その度に田邊がしゃしゃ り出てきた。一際女生徒の間で評判の悪い田邊が側に来るだけで、大抵の女の子は 逃げてしまう。 優一郎の方でも田邊に対し、遠回しに自分につき纏うなと言ってはいるのだが、 鈍感なのか、さっぱり効き目は無い。 「夏休みの予定は決まっているのかい?」 身長が低いので当然ではあるのだが、必要以上に上目遣いをしながら田邊が言っ た。 「いや、別に………まあ、アルバイトでもするつもりだけど」 本当はそのつもりも無かったのだが、とりあえずそう応えておく。 「何も予定は無い」と言ってしまえば、夏休みの間中、つき合わせれ兼ねないと 思ったからだ。 「ふうん、やっぱり進学はしないつもりなんだ。もし良ければ、ぼくの行くゼミに まだ余裕があるんだけど」 冗談じゃない、と内心で思いつつ、優一郎は笑顔を作った。 「そんな身分じゃないからね、俺は」 「けど、就職にしたって、いまから会社訪問とか、あるんじゃないの?」 「ん、かもな。別にやりたい仕事がある訳でもないし……いろいろバイトしながら、 探すつもりさ」 「ふうん、三年生だって言うのに、気楽なんだね。羨ましいや」 その言いぐさに、腹が立つ。 出来ることなら拳のひとつもくれてやり、こいつと縁を切ってやりたいと思う。 しかし優一郎が見放せば、田邊を嫌っている不良連中に寄ってたかって袋叩きに なるだろう。 自分が正義感の強い方だとは思わないが、分かっていながら切り捨てる事も出来 ない。 どうせ卒業まで、あといくらもない。 卒業して別の道に進んだ後、田邊がどうなろうと関係ない。 それまでの辛抱だ。 「そうそう、今日は優一郎くんに見せたい物があったんだ」 終業式であったのにも拘わらず、やけに膨らんだナップサックをまさぐりながら 田邊が言った。 「ほら、これ。ぼくの最高傑作だよ」 取り出したのは一体の20センチ程の人形だった。 セーラー服を模した戦闘服に身を包み、なにやら決めポーズらしきものを取って いる。 「『セーラーファイターΣ』のアクア・ファイターのフィギアさ」 田邊は人気のテレビアニメのタイトルを口にした。 優一郎も、テレビアニメが嫌いと言う訳では無かったが、女の子向けのその作品 は殆ど観た覚えがない。 「なんだ、いい歳してこんな物買ってるか、おまえ」 「ちっちっち」 田邊は人差し指を立て、わざとらしく振った。 「ぼくの最高傑作って言ったろ。創ったんだよ。定岡模型のリリナちゃんをベース にね」 さも得意げに言う。 「苦労したんだよ。特にこの表情なんて………」 すれ違った他校の女の子たちが、怪訝な目でこちらを見て行った。 気恥ずかしくなった優一郎は、田邊を無視して歩き出した。 「ちょ、ちょっと待ってよ! これだけじゃないんだ」 不器用に、しかし慎重に人形をナップサックに戻しながら、田邊は後を追ってく る。 優一郎の前にまわった田邊は、ナップサックを腹側に掛け、両手に先程と同じキャ ラクターの人形………フィギアを二体持っていた。 ただ二体とも、先程見せた物と着ている服が異なっている。 一体はごく普通のセーラー服。 もう一体はそのセーラー服が破け、半裸になったものだった。 「こっちがアクアに変身前の奈々ちゃん、そしてこっちは変身途中、んでさっき見 せたのが変身完了。どう、すごいでしょ?」 得意げに笑う。 「ああ、凄い、凄いよ。分かったからもう仕舞え」 「ふふっ、そうだね。あんまり太陽の下に出しておくと、肌に悪いもんね」 大事そうに人形を仕舞いこむ姿は、実に不気味だ、と優一郎は思った。 「そうそう、今年こそ、夏コミに一緒に行こうよ」 「あん? 夏コミ?? なんだそれ」 「もう、何度も説明したのに。結構物覚え、悪いなあ………同人誌の大イベントだ よ。日本中からアニメや漫画の同人誌が集まってくるんだ。凄いよぉ」 そう言えば、そんな話を聞いた覚えもある。が、優一郎にはたいして興味が持て なかった。 「悪いけどパスだ」 「そんな事言わずにさあ、行こうよ」 そのしつこさに腹が立ち始めた。 それが限界に達しそうになる寸前。
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