長編 #3782の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
一月も半ばを過ぎて迎えた週、最初の登校。 「……何だか、気味悪いな」 待ちかまえていた純子の様子を、相羽はそんな風に表した。 「にやにやしてる」 「分かっちゃったもんね、手品の種」 「え、ついに?」 相羽の返事には、大方予想していた響きが感じられる。 純子の言葉を聞きつけ、相羽本人よりも、他のクラスメートが騒がしくなる。 「種が分かったって?」 「どの手品?」 瞬く間に、人垣ができあがる。朝早いせいで、全員がいるわけではないが、 それでも凄い熱気で、寒さを忘れられそうなほど。 「最後にやった、全員のトランプを当てる手品よ」 答えながら、純子は相羽の気持ちが分かるような気がした。 (気分いい! 相羽君が得意そうにしてたの、うなずける。−−これで間違っ てたら、恥ずかしいけど) 周りで、早く説明してくれという声が上がる。純子は、相羽の様子を見た。 「言うよ?」 「それはいいとして、口での説明だけじゃなくて、実際にやってほしいな」 「トランプがないのよ」 「先生が持ってるかも。頼む価値はあると思う。なかったら、手書きでもいい んだし。そうだ、いっそのこと、放課後にしない? その方が全員揃うだろ」 「私は……かまわないけれど」 純子が了承し、手品の種明かしは放課後まで持ち越されることに決まった。 そして、あっと言う間に放課後。みんな、早く種明かしを見たいせいか、終 わりの会などはものの一分ほどで幕となる有り様。 福谷先生はトランプを持っていなかったが、他の先生に聞いてもらい、運よ く借りられた。おかげで、純子の再現はトランプを使ってやれる。 「同じようにやるから、人数、数えなくちゃ」 「全員いるわよ!」 純子が頭数を指で数え始めるよりも早く、声が飛ぶ。 横で手伝ってくれる町田に、用意する紙の枚数を伝えた。 「これでいい?」 切り揃えた紙を振る町田に、純子は「ありがとうね」と軽く頭を下げる。 手元のトランプからは、余分な枚数だけカードを取り除いておいた。 「えっと、やることは一緒なんだけど……」 いざ始めようとしても、とっさには口上が出て来ないものだと気付く。戸惑 っていると、相羽が助け船を出してくれた。 「僕が代わって説明するよ? えー、これからカードを一枚ずつ引いてもらっ て、カードの数字とマークを配った紙に書いてほしい。ただし、他の人には何 を書いたか絶対に見られないように」 みんな、口をつぐんで聞き入っている。わくわくしているというのが、一番 適切だろう。 相羽から「さあ」と促されてから、純子はカードを何度も切って、机の上に 置いた。このとき、ある単純な方法によって、カード一枚を覚える。そしてク リスマス会のときと同様、透明なビニール袋を一つ取り出し、机に載せた。 「私が背中を向けている間に、一人ずつ順番に、上からカードを取ってくださ い。それから、えっと、カードの数字とマークを書いた紙は、字が見えなくな るように折り畳んでから、自分の名前を書いて、このビニール袋に入れる。取 ったカードは持ったまま、誰にも見せないようにして、席に戻ってください。 最後の人まで取り終わったら、教えて」 このように、カード当ての手品は、十二月のクリスマス会で相羽がやったと 同じように進められていく。 「終わったよ」 最後にカードを取った鈴木が告げた。振り返る純子。 「終わった? じゃあ、これから当てて行くけど……鈴木君からにしようっと」 「僕?」 まだ着席していない鈴木が、戸惑ったように言う。純子は笑顔でうなずいた。 「最後に取った人の方が当てやすいから。その前に」 と、純子は袋を手にし、中身を机の上に出した。丸められた紙を一つ一つ、 並べていく。その中から、一つをつまみ上げた。 「これが鈴木君の。このままだと中に何が書いてあるか分かりません」 「もちろん、そうなるよな。普通なら」 鈴木を始め、多くの者が同意。 純子が横目で相羽を見ると、いつものぼーっとした目つきで、それでもどこ か楽しそうに微笑んでいるのが分かった。 (間違ってないよね?) 笑みの意味を測りかねて、ほんのわずか、不安な気持ちが起こる。 純子はともかく、手品を続けた。つまみ上げた紙を、強く握り込む。 「−−分かった。私、もったいぶった言い方はできないから、そのまま言うわ」 純子はいよいよ緊張していた。実に簡単なことなのに、どきどきしてしまう。 (覚えているカードを言うだけ。絶対に当たっている) 自分を落ち着けると、純子はあらかじめ覚えておいた数とマークを言った。 「スペードの三、だよね」 「え? ……当たってる」 純子にできると思っていなかったらしく、鈴木は目を白黒させている。 「よかった。あ、鈴木君、持ってるカード、みんなに見せてあげて」 鈴木が左胸のポケットから取り出したのは、間違いなくスペードの三。 拍手が起こった。 純子はほっと息をつき、手の平を開くと紙を机の上で広げる。 「紙に書いてあるのも間違いなく……スペードの三ね」 そうつぶやいてみせ、紙をくしゃくしゃに小さく丸めると、元のビニール袋 に入れた。 実は、先ほど広げた紙には、スペードの三なんて書いていない。裏面に書か れている名前も、当然、鈴木ではない。井口だった。そして彼女が引いたカー ドは、ダイヤの七と知れた。 鈴木の書いた紙を確認するふりをして、他の人の紙を覗き見るわけだ。この 場合、「井口」と「ダイヤの七」を、純子は覚えればいい。そして次に井口の カードを言い当てるときに、三番目の人の紙の内容を知る仕組みである。 純子は、相羽のやり方と少しでも違うようにしたくて、「次に当ててほしい 人、手を挙げて!」なんていうこともやった。紙を選ぶとき、名前が見えてい るのだから、次に当てる人を先に決めるのもたやすい。 「相羽君は……あら? 前の、私のカードと同じ。ハートのクイーンだなんて」 「当たってまーす」 最後の一人−−そのつもりはなかったが、相羽が残った−−もきちんと当て てみせ、やっと緊張が解けた。純子は何度目か大きな息をついて、やっと人心 地つけた。 「これでおしまいです」 袋に、最後の紙を入れる。相羽の失敗を繰り返さないように、慎重に、運び 入れる手つきで。 「同じ手品ができるのは、よーく分かったけど」 富井が不満そうに口を開く。 「さっぱり、種が分からないよぅ」 「どうしようかな」 予想以上にうまく行ったので、種を明かすのが惜しくなる。 純子は朝と同じく、相羽を見やった。 「僕は自分から種明かしする気はないけど、見破った人が他の人に教えるのは 自由だからね」 「でも、私も教えたくなくなっちゃった」 「そんなぁ」 いたずらげな笑みを浮かべる純子に、富井ら種を知らない者全員の不平の声。 なかなかやかましい。 「仕方ない。こんなのはどうだ? 僕がこれからやる『簡単な』手品の種が分 かったら、教える」 相羽の提案に、最初は迷う気配を見せた「観客」も、やがて承知した。何故 って、きっと、相羽の新しい手品を見られるのが楽しみだからに違いない。 「できるの? 準備もなしに……」 「いいからトランプ、貸してよ」 手を出された純子は、ちょっぴりの不安とともにトランプ一組を渡す。 受け取った相羽は、純子に代わって皆に向き直った。普段通りの落ち着いた 表情が、余裕を表しているかのよう。 「一人、手伝ってくれる人がいてほしいんだけど、やりたい人、いる?」 いないはずがない。大多数の者が挙手し、「はい」「はい」と自己主張する。 「じゃあ……清水、君だ」 指名を受け、清水は立った。相羽の前まで出て来て、半ば勝負を挑むような 調子で言う。 「俺を選んで、後悔するかもしれねえぞ。こう見えても、疑い深いんだ」 「いいね。疑り深い人相手にうまくやってこそ、価値があるってもんだぜ」 負けじと相羽。それから彼は、左手に握り込んだカードの端を、右手の人差 し指でとんとんと叩いた。 「さあ、どこでもいいから、一枚、選んで。もちろん、僕には見えないように」 「よし」 舌なめずりをして、清水は相羽の顔をじっと見る。そしてさらに迷う素振り から、カードの山の半分よりやや下から一枚、抜き取った。その瞬間、もう片 方の手で覆い隠す念の入れよう。これでは清水本人でさえ、選んだカードが何 なのか知ることはできまい。 「これから何のカードか確かめてもらうけど、僕は後ろを向く。これなら絶対 に見えないだろ? みんなに見せるのも忘れるな」 「分かってるよ」 相羽が後ろを向くのを待って、清水は手の中のカードを裏返した。まず自分 一人で見てから、他のみんなに見えるように、高くかざす。クラブの十だった。 清水は再び手の内にカードを隠すと、相羽に声をかける。 「確かめたぞ」 「オッケー」 相羽は間を置かず、振り返った。そして、やはり左手に握り込んだカード一 組を指差した。 「裏向きのまま、この山にカードを戻してくれよ。どこでもいいから」 「どこでもいいんだな。ようし」 今度はちょうど真ん中の辺りに差し込んだ清水。 「最後まできちんと押し込んで」 「細かいこと、言いやがる」 ぶつぶつと文句を言いながらも、清水はカードをきっちり、山の中に押し込 んだ。もはや、どれが清水の選んだクラブの十なのか、誰も分からない状態だ。 「これで、どれを選んだのか、区別つかないよな?」 相羽は、清水だけじゃなく、全員に尋ねる口調である。もちろん、誰もがう なずいた。 (分かりっこないわ) 純子はむしろ、手品が成功するのかどうかの方が、心配になってきた。 (これなら、最初から、自分が見破った種を言っていればよかったかも……) 純子の心配を知る由もない相羽は、自信たっぷりの物腰で手品を続ける。 「でも、僕は背中に目があるんだ。特別な目だ。どのカードが選ばれたのかは、 こうして」 と、相羽はトランプ一組を持ったまま、左手を背中に回した。かと思うと右 手も後ろに回し、再びトランプを前に持ってくる。左手にあったトランプは、 背中で右手に移された形になる。ぱっと見たところ、どこも変わっていない。 「どのカードが選ばれたかを見つけて、みんなに分かりやすいように、その一 枚だけ表向きにしておいたよ」 「は? 何て言った?」 相羽が突拍子もないことを言い出した−−。見物するクラスメート全員が、 そう思ったであろう。 相羽は山の一番上のカードの縁に指を当て、ずらし始めた。 「よく見てて」 相羽の声で、皆、額を集める。 一枚ずつずらされていくカードは、しばらく裏向きの模様が続いた。と、そ こへ突然−−。 「あ!」 クラブの十が表向きになった状態で、姿を見せたのだ。 「これだろ?」 クラブの十を抜き取ると、清水に示す相羽。 清水は声もなく、ただただ小刻みにうなずくばかり。 「何でー?」 「どうやったのか、さっぱり分かんねーっ!」 驚きで騒然となる教室内。蜂の巣をつついた騒ぎとは、このことかも。 (準備を何にもしてないのに……凄い) 純子もみんなと同じだった。一つ見破って気分よかったのがしぼんで、元に 戻ってしまった。 「さ、種が分かった人、いる?」 結局、相羽の新しい手品を見破った者は、いなかった。 (あーん、私が分かった手品の方だけでも、みんなに言ってやろうかしら?) 悔しくてそんなことまで考えた純子だが、手品の前に相羽が言った言葉を思 い出し、踏みとどまった。 (また一つ、宿題を出された気分ね、全く) −−つづく
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