長編 #3780の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「へえ、いいなあ。何のアニメ? ぬいぐるみって、恐竜の種類は?」 尋ねてくる相羽の声に、特に気にかかった響きはないようだ。 純子はそれでもまだ、さっきの返事を後悔しながら、早口で説明した。そし て、やはり早口で逆に相手に尋ねる。 「あ、相羽君はどうしてたのよ」 「僕も似たようなもの。宿題はほとんど手つかず。クリスマスにはさっきも言 ったけど、外食に行ってさ。ああ、『レジェンド』のミックスフライ、いいよ。 貝や海老とかのシーフードが好きなら、お薦め」 「え、ええ。行ったとき、そうする」 「プレゼントは本を買ってもらった。前からほしかったけど、自分には高くて とても手が出なかったんだ。お年玉待つのを覚悟してたのが、少し早く手に入 れられたってわけ」 「おばさまはお元気にしていらっしゃる?」 「−−急にかしこまっちゃって」 おかしそうな相羽の声が聞こえる。 「気になるんだもん、いいでしょっ」 「元気だよ。仕事も順調みたい。これも親孝行な僕のおかげ。はははっ」 「あのね、相羽君。余計なお節介かもしれないけど……お母さんのこと、大切 にしなさいよ。真面目な話」 純子の声に真剣味がこもる。 相羽からの返事が来るまで、間が空いた。 「−−うん!」 突然、元気いっぱいの返事。 思わず、耳から送受器を遠ざける純子。 「な……」 「母さんのこと、大切にしてるよ、僕。でも、君に言われたら、もっと大切に しようと思えてきた。頑張ろうっと」 「あ……そう」 純子は呆気に取られていた。相羽の子供っぽい面は何度か目の当たりにして きていたものの、ここまであからさまなのは知らなかった。 「あ、いつの間にか長くなっちゃったな」 「そう? 全然、長話じゃないわ」 「ええっ? だってもう二十分は経ってるんだぜ」 「まだ二十分よ」 「……女子の感覚にはついていけないや。それとも、人の電話代だと思ってる とか?」 「そ、そんなことない。何なら、今すぐ切りましょうか?」 「いいよ、いいよ。そんな、後味の悪い……。まあ、そろそろ切るつもりだけ ど。宿題、また教え合えないかな」 「それが本題?」 「違うって。話の流れってやつ」 「どっちでもいいわ。困ったときは助け合いましょ。三学期、始業式当日で充 分に間に合うんじゃない? 夏休みほどたくさんあるわけじゃないんだし」 「そうしよう。国語、教えてもらうことになると思う」 「じゃ、私の方は理科。国語は頑張っておくから、そっちもお願いよ」 「努力しまっす。えっと、今の季節の挨拶は……よいお年を、涼原さん」 「ふふっ。相羽君もね」 笑い声で電話は終わった。 あまりの人出に、最初っからうんざり。 大晦日は買い物をするのにふさわしい日じゃない、と分かっていても、何か いいことありそうで、つい足が向く。 「近頃は二日か、早いところだと元日から開けているお店も多いから、買い込 む必要なんてないのにね。どうしてみんな、出て来るのかしら」 周囲を見渡しながら言う母に、純子は苦笑い。 (私達だって、その仲間だよ) 行き着けのスーパーに入ると、まず三階に行き、お正月用品で忘れていた物 や足りない物を買う。 「コンロのガス、まだあったかどうか、覚えてる?」 「知らないよー」 「まあ、いいわ。買いすぎても、鍋物を増やせば使いきるでしょう。あ、そう そう、電球の買い置き、あったかしら?」 こういう風にして、余計な買い物をしてしまうのだ。 それから一階は食料品フロアに向かい、買い物かごを二つ取って、カートに 乗せる。 「お刺身、牛乳パックと卵、お豆腐だけは絶対に買わなきゃ」 やや上目遣いに、指折り思い出そうとする様子の母の手を引っ張る。 「ねえ、年越しそば、するんでしょう?」 「それもあったわね」 「忘れそうなら、メモをすればいいのに……」 愚痴っぽく言う純子に、母はきっぱりと応じた。 「だめだめ。メモに頼るようになると、早く老けるのよ」 「そういうものかなあ」 納得しかねた純子だが、現在、そんな些事にこだわる暇はない。人の波をか き分けかき分け、なるたけ迅速に必要な物を手に入れなければ。 暖房の効いた店内を、額にうっすら汗さえ浮かべながら巡り、最後に酒類の コーナーにたどり着く。家で一人、大掃除に精を出す父の顔を思い浮かべなが ら、缶ビールの六本パックと日本酒とをかごに入れた。 と、ちょうどそこで、友達と顔を合わせた。 「あ、純ちゃんだ」 「郁江ー、偶然だね」 カートを押してレジに並ぶ母のことを放り出して、純子は富井と手を取り合 ってから、お喋りを始める。 「郁江は一人で来たの?」 「ううん。お母さんと一緒。買い忘れがあったから、取りに来た」 と、小振りなワインの瓶を示した富井。うっすらと黄色がかった透明な液体 が、中で揺れる。 「まさか、郁江が飲むとか」 「きゃはは、違うよー。お正月に来る伯父さんがワイン党なんだって。だから」 「ふうん。お酒なんて、どこがおいしいのか、さっぱり分かんないもんね」 「そうだね」 二人とも、親にねだって一口ほどなら試しに飲んだことがあるのだ。 「それよりさ、今年……じゃなかった、来年のお正月も初詣、行くでしょ?」 「あ、そのこと。電話しようと思ってたんだ」 「何日にしよう?」 「久仁ちゃんと話したんだけど、二日は無理だって。だから元日か三日か」 「私のところは、全然予定ないから、いつでもいいよ」 返事していて、少々、寂しくなる。 「郁江のとこの予定は?」 「うちの親は行き当たりばったりだからさぁ。それに、伯父さんが来たら、ど うなるか分からない。伯父さん、輪をかけてでたとこ勝負の人なのよねぇ」 「じゃあ、決められないんじゃあ……」 「うん、多分、元日は大丈夫。お父さん達、一月一日から動く元気はないと思 うから」 「だったら、一月一日にしようっと。場所はいつものバス停。時間もいつも通 り、お昼の二時でいい?」 「そうしよう。久仁ちゃんに伝えておくね」 「お願いするわ」 約束をして別れた。 すぐにレジへと向かい、母親の姿を探す。 (……ほんと、人、多いよね) 結構時間を食ったはずなのに、列に並ぶ母の位置は変わりがないようだった。 足かけ二年の夜更かしをしたので、当然ながら初日の出は拝めなかった。 それでも、大幅に寝過ごしもせず、八時前には起床した。 「ねむーい」 あくびをこらえながら下に降りて、朝の挨拶もそこそこに、洗面所へ。 「純子。お雑煮、入る?」 早々と起き出していた母親が、張りのある声で聞いてきた。 「……」 すぐには答が出て来ない。 (これがほんとの年越しそばだなんて、真夜中に食べたから) 「純子!」 大声で呼ばれて、急いで洗面所を出た。 「その前に飲み物、ほしい」 「何がいいの?」 「牛乳。ぬるくあっためたやつがいい」 「それぐらい自分で……。まあ、いいわ。さっき、郵便屋さんが来たみたいだ から、郵便受け、覗いて来て」 「はい。分かりました」 まだ完全には目覚めきってないせいで、返事がしゃちほこばっている。 「年賀状、年賀状」 変な節を付け、何度も口ずさみながら、のんびりした足取りで郵便受けを見 に、外に出る。やっとここで、本格的に目が覚めてきた。 (来てる来てる) 思わず微笑みながら、葉書の束を取り出した。 「来てたよ」 「ああ、そう。テーブルに置いといて。暇だったら、分けて」 言われなくとも、自分宛とその他とは区別する。 (前田さん−−久仁香−−町田さん−−遠野さん−−郁江−−) 純子宛のは、やはりクラスの女子からが多い。差出人の下の名前を見て行け ば、誰からなのかだいたい分かる。 「うん?」 と、その途中で、手が止まった。女の名前ではなかったから。 「信一?」 目線を少し上に移し、「相羽」の文字を認識した。印刷文字だった。 (なーんだ、相羽君か。男子からもらうのって珍しいから、びっくりしたじゃ ないの) 興味が出て、すぐに裏返した。 そして文面を解した途端、顔が赤くなるのを意識して、葉書を持っていない 方の手を頬に当てた。 「はい、牛乳」 レモンイエローのマグカップを運んできた母が、純子の様子に気付いたらし く、覗き込むようにしてくる。 「どうかしたの?」 「え? ううん、何でもない」 手を顔から離し、ぶんぶんと髪を振り回すようにして返事する。 「そう? それで、お雑煮は?」 「え、えっと、うん、食べられると思う」 純子が答えると、母は台所へと引っ込んだ。 その様子を確かめてから、改めて葉書へ視線を落とした。恥ずかしさは去っ て、今度は自然と笑みが出る。 (全く、あいつったら、よくやるわ。『もう一度、古羽相一郎になって』だな んて) 「明けましておめでとう」のあとに、そのフレーズが中抜き文字で印刷され ていた。その傍らには、どうやって作ったのだろうか、純子が演じた探偵役に よく似たイラストが青い線で、これもくっきりと刷られていた。 待ち合わせ場所のバス停に着くなり、すでに来ていた二人と新年の挨拶をに ぎやかに交わした。 「お年玉、いくらもらった?」 「まだお母さんとお父さんからしかもらってないけど、この分なら期待できそ う」 などとお喋りを続けていると、バスが到着。座れはしないが、案外、空いて いるので安心した。 「あ、晴れ着の人だ」 窓の外を眺めやっていると、着物姿の女性がちらほらと見受けられる。 「早く似合う年齢になりたいよね」 小さな声で純子が言うと、富井と井口も同じ思いらしく、強い調子でうなず いた。今日の三人は、長めのスカートに黒系統のタイツ履きあるいはジーパン 姿である。 「一昨年だっけ。みんなで着物来て、初詣に行ったの」 「うん。あのとき、最悪ぅ。バスも神社も信じられないぐらい混んでて、危う くだめにするところだった」 「その上、慣れない格好してたから、何度も蹴躓きそうになって、危なっかし くて、大変だった」 思い出話に興じている内に、目的地である神社前に到着。乗客のほとんどが、 ここで降りる。 −−つづく
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