長編 #3779の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
二学期最後の学校も放課後を迎えたが、純子と相羽は教室に残っていた。 「こんなの、書かないといけないのか」 相羽は片肘を机につき、その手で頭を抱えた。もう片方の手に握った鉛筆は、 紙の端っこを単調に突っつき続ける。 「一学期の終わりに立島君達が書いていたの、見てなかったの?」 一足先に書き上げた純子は、相羽の机のすぐ横に立っていた。両手を腰に当 て、待ちくたびれた姿勢。 「全然、知らなかった。自分が委員長に選ばれるなんて、想像もしてなかった から」 突っつくのをやめると、手の上で鉛筆を一回転させる相羽。机の上の原稿用 紙は、ほとんど埋まっていない。 「劇の台本を書けるほどなんだから、感想文ぐらい、さらさらっと終わるでし ょうが」 委員長と副委員長は、学期の終わりにクラス委員の仕事をこなした感想を文 章にし、担任の先生に提出する決まりになっている。純子は決まりを知ってい たせいもあってか、割に早く仕上げられた。が、相羽はそうは行かないらしい。 「そんな簡単には……。思い出せないことだらけで」 「やったこと全部を書く必要なんか、ないの!」 声を大きくして、純子。 「一緒に出すようにって言われたから、待ってるのよっ。早くしてっ、寒い」 「軽々しいことは、書きたくないんだけどな」 「待たせてるくせに」 「帰っていいよ。僕が出しておくから」 原稿用紙とにらめっこしたまま、手を突き出してくる相羽。純子は、そんな 彼を見下ろしながら言い返した。 「そうしたいところだけど、何を書いたか読まれたくない。だから」 「盗み読みなんかしないよ」 面を上げると、気疲れしたように相羽は抗議した。 「信用できない?」 「……いいわよ、もう。待ってるから、早く書いてね」 手近の席に座る純子。心の中で、「疑うような言い方して、ごめんなさい」 と言いながら、そっと相羽の横顔を見る。怒っていないらしくて、ほっとした。 「だいたいさ、分からないのよね。国語が苦手なのに、本を読むのが好きで、 劇の台本を書けるなんて、どう考えたって変だわ」 「涼原さんこそ、化石が好きなくせして、理科が得意じゃないなんて、矛盾だ よ」 あっさりと言い返された上、実に見事な切り返しだったため、純子は二の句 が継げなくなった。 (わ、私の場合は、好みが化石に偏っているだけよ……多分) 「手品の種、分かった?」 いささか唐突に、相羽は純子へ顔を向けた。 「何を言ってるのよ。それよりも、早く書いて」 「気になるんだよな。会が終わったとき、僕が『教えられない』って言ったら、 何て言ったか覚えてる、涼原さん?」 もちろん、忘れていない。「いいわよ。自分で見破ってみせるから」と言い 返したのだ。 「え、そ、それは確かに見破るって言ったけど、簡単には解けないわ。手品の 知識なんて、ないんだもん」 「僕がやった手品をひとまとめにして考えたって、無理さ。どれか一つに絞っ て考えれば、何か分かるよ、多分」 「そう言われたってね。あなたはそりゃあ、全部知ってるから、そんなこと言 えるんだわ」 「そうでもないよ。理由もちゃんとある。あのとき、僕はある手品で失敗して、 涼原さんにだけ、ヒントを見せちゃったから」 「−−ほんとに?」 にわかには信じられず、首を傾げる純子。もはや、相羽の手が止まっていて も気にならない。 「……おかしいわ。失敗してないじゃないの。全部、成功してた」 「小さな失敗なんだ。そこに気付いて、考えたら、その手品についてはやり方 がばれると思う」 「小さな失敗……ひょっとして、最後にやった手品で、紙を落としたあれ?」 「当たり、凄いね!」 何故かしら嬉しそうに微笑む相羽。 「凄いねってねえ、言ってみただけなのに……。だいたい、どこが手がかりに なってるのよ? 何も具体的に思い浮かばない」 「そう? じゃ、ヒントその二。あのとき落とした紙を他の人に見られたとし ても、種に気付かれる可能性は、涼原さんに見られるよりは低いんだ」 「な、何よ、それ」 おかしな言い種に興味を引かれ、純子は立ち上がると、相羽の机に手をつい た。そうして、たしなめるように言う。 「まるで、種と私が関係あるみたいじゃない? 変よ」 「そう、関係ある」 秘密めかした表情をし、いたずらっぽく笑う相羽。そしておもむろに、原稿 用紙に取り組み始めた。 「え、どうして?」 問い返したが、相羽はもう答えてくれなかった。 「ちょっと。ここまで話しといて、黙るなんて」 「書くこと、やっと見つかった。待っててよ。書き上げるから」 純子の方を振り向きもせず、相羽はことことと鉛筆を走らせる。 (相羽君、わざとやって、私をじらしているんじゃあ……) そんな疑念も浮かぶまでに、純子はむくれた。種明かしを、肝心なところで 打ち切られたせい。 「終わり。行こっ」 手提げに筆記用具を押し込むと、相羽は立ち上がった。 クリスマスも終わった二十六日の昼過ぎ、涼原家の電話が鳴った。なかなか 呼び出し音がやまない。 (−−しまった。お母さん、出かけてるんだっけ) いつまでも母が電話口に出ないのにいらいらしていた純子は、不意に思い出 した。すぐに階段を駆け降り、電話に飛び付く。 「はい、涼原です」 「っと、いたんだ。出かけてるのかと思った」 「相羽君? ごめん、出るのが遅れて」 思わぬ相手に戸惑いながら、とりあえず謝っておく。 「いい、気にしてない」 「何かあったの? 学校の連絡?」 「ううん、違う。つまらないこと。でも、忘れない内にと思って」 「だから何?」 声が若干、高くなる。じれったい。 「もし、外食する機会があったら、**駅の南通りにある『レジェンド』に行 ってみると、面白いかもよ」 「……何、それ」 ちっとも意味が飲み込めず、電話を耳に当てたまま首を傾げる純子。 「『レジェンド』っていうレストラン、行ったことある?」 「ないわよ。だいたい、そういう名前のお店を知らないわ」 「なら、ちょうどいいや。行ってみてよ」 行ってみての一点張りで、全くらちが明かない。 (もしかして、お店の宣伝をしている……なんてことないわよね。もしそうな ら、ちゃんと言えばいい) 電話のコードをいじっていた手に、少し力が入った。 「相羽君、怒るわよ。きちんと言ってよ」 「見てのお楽しみってわけに行かないかな……」 語尾を濁す相羽。純子のいらいらはますます募る。 「分かんないっ。あんた、そこにいつ行ったの?」 「昨日。母さんと一緒に行ってさ。……ある発見をしたんだ」 「その発見が、話に関係してるのね?」 「そう。これ以上は秘密。とにかく行ってみてよ。できれば、店の真ん中辺り の席に着くのが特。太い柱の側にある席」 「……くだらない落書きを残してきたとか言うんじゃないでしょうね」 「違うよっ。クリスマスに母さんと二人で行って、ばかな真似するほどガキじ ゃない」 (それはそうよね) 納得するのに時間を要しはしなかった。 (お母さんを大事にしているはずの相羽君が、二人きりで食べに行って、落書 きみたいな無意味なことするわけない) 「どうしても言いたくない気?」 「うん、まあ、そうなる」 「だったら、電話してこなきゃいいのに」 「君に伝えたかったんだよ。伝える意味のある友達、涼原さんぐらいしか思い 浮かばなかった」 急にどきっとする純子。友達という単語が、これまでになく新鮮な響きを持 って届いたから。 「そこまで言うのなら、いつか行ってみる。もちろん、お母さん、お父さん次 第だけど」 「ぜひ、行ってよ。ちょっとびっくりすると思うな」 「期待せずに覚えているわ。それだけ?」 「それだけと言われればそうだけど−−もう一つ。手品の種、分かった?」 無理に通話を引き延ばした様子もなく、自然な調子で転じてきた。 「分かったら、こっちから電話かけてるよーだ。得意になってる誰かさんを、 へこませるために」 「得意になってなんかないよ。種がばればれの手品なんかやったら、みんな、 つまんないだろ。そうじゃないってことが確かめられて、うれしいってのはあ るけど」 「見せてもらってたときは、楽しかった。でも、考えても考えても分からない なんて、悔しくなってくるわ。このままだと、お正月を迎えられない気分」 正直なところを告げる。 「まさか、手品用の特別なトランプを使ったんじゃないわよね?」 「普通のカードだよ。最後にやった手品なんか、トランプじゃなくても、みん なにそれぞれ願い事でも書いてもらってもよかったんだ」 「それって……あの紙に書いたことなら、何でも当てられたっていう意味ね?」 「……一応、そうなる」 ゆっくりした返答。「一応」という注釈が気になったが、純子は、トランプ については無視していいんだと判断した。 「結局はね、涼原さんが拾った紙に何が書いてあったかが、重大なんだ。それ にさえ気が付けば、一気に分かる」 「そう言われたって……」 口ごもる純子。しばし逡巡して、ここ数日に考えて思い付いたことを言って みた。 「あのさ、紙を拾って、ちらっと見たとき、変な感じを受けたのよね。それが 何故なのか考えたの。そしたら、変な思い付きが浮かんできて」 「言ってみてよ」 相羽の声は弾んでいた。純子は笑われるのではないかとためらいながら、お ずおずと続ける。 「拾った紙に書いてあった文字……私の字によく似てたなって」 応答は、すぐにはなかった。 (全然、的外れ? あぁ、言わなきゃよかった!) 心中、後悔していると、相羽の声が聞こえてくる。 「何だ、気付いてたんだ?」 「え?」 「そこまで来たら、もう一押し。僕は超能力者や予言者じゃないんだから、紙 に書かれた内容を知る方法は一つだけ」 「ちょっと待って。つまり、あの紙は私が書いた分……」 「そうだよ」 「嘘っ。そんなの、絶対にないわ。あの手品で、私の書いた分は最初に取り出 されて、丸められたんだから」 「引っかかってくれたね。−−さて、どうでしょう」 謎めかした相羽の口振りに、純子はわけが分からず、表情をしかめた。 「ど、どうでしょうも何も、ないじゃないの! あなたは私の選んだトランプ を当てて、それを確かめるために紙を見た−−」 「僕が最初にビニール袋から取り出した紙が、本当に涼原さんの物だったかど うか、誰か確認した?」 「え……。それって一体」 「あとは自分で考えてよ。楽しみが減るよ」 ヒントの時間は終わりらしい。 (ここまで来たら、何としてでも解かなくちゃ気が済まない) 純子は送受器を持ったまま、根を詰めて考え始める。 そこへ、相羽の声。 「冬休み、どうしてる?」 「どうって」 (まだ二、三日しか経ってないじゃないの) そんな言葉を飲み込み、話を探す。 「宿題、少しだけやって……そう、クリスマスプレゼント、買ってもらったわ」 「何を? よかったら教えて」 「お母さんにはアニメのCDを買ってもらって、お父さんからは恐竜のぬいぐ るみ」 純子はそう答えてから、はっとして口をつぐんだ。 (お父さん、だなんて……。なんて無神経なの、私って) 動揺してしまって、声が続かない。 −−つづく
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