長編 #3758の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
私は、鏡修羅の友人であり、デルファイの売人でもある塔秋夫の家の前にいる。 塔秋夫の父親は、さる電気会社の重役であり、その家は高級住宅であった。防犯 設備も念入りらしく、カメラにより訪問者を監視できるようになっている。 私は、塔秋夫の家のインターホンを押した。母親らしい女性がでる。私は、私 が仕事を貰っている保険会社の名前を出した。必要に応じて使用できるように作 ってあるその保険会社の調査員の肩書きの入った名刺を、カメラに向かってかざ してみせる。 私は、さる事件の保険支払にからんだ調査をしており、その事件を目撃したら しい塔秋夫に話を聞きたいと訴えた。インターホンの女性は私に入るよう、告げ る。鉄の大きな門がゆっくりとモータ音を立てながら自動的に開いていく。 私は、玄関の前に立った。扉の開いたのは、青年というよりは、少年に近い男 の子だ。塔秋夫らしい。 「入ってよ」 秋夫は、私を招くと応接間に招きいれた。子鹿のように華奢な体の少年は、落 ち着いた澄んだ瞳をしている。とうてい麻薬の売人とは思えない。 コーヒーカップを私に渡した秋夫は、黒くきらきら輝く瞳を私に向ける。私は 話を切り出そうとした。 「ちょっとまってて、かあさんも一緒に話を聞くといってたから」 私は苦笑する。秋夫は部屋から出ていく。 「今、かあさんを呼んでくる。コーヒーでも飲んでいてよ」 邪気のない笑顔につられてコーヒーを口に含んだ私は、急に眠気に囚われる。 私は自分でも気づかぬうちに、眠りへ落ちていた。 そこは、海の底のような静けさに支配されている。冥界のように、心地よく湿 った薄暗さに満ちた空間。私は、荘厳さを漂わす木造の建築物の中にいる。 凝った曲線の装飾を施された階段の手すりを辿り、玄関ホールを二階へと上が った。そこは、水晶の煌めきを持ったシャンデリアに照らされる、黄昏の空間で ある。玄関ホールの上は不思議と霧の立ちこめているような気配のある、薄闇に 閉ざされたロビーだ。 優美な曲線を描く階段から離れ、私の身長の2倍はありそうな大きな木の扉に 手をかける。金属のひんやりとした感触が、手に伝わった。 扉の向こうは、画廊である。部屋の両脇に、百号くらいの大きな絵が並んでい た。天井は高く傾斜しており、天窓から紅い血のような夕日が差し込んでいる。 私は少し軋み音を立てる木の床を踏みしめ、冥界の神聖なる気配を持ったその画 廊の中を歩きだす。 その画廊の絵はすべて凄惨な場面を、宗教画の厳粛さを持って、描いたものば かりだ。神に祈りを捧げる敬虔な瞳を持った女性は、斧で顔面の半分を断ち割ら れており、受胎告知を受ける聖母は悪魔に肉を喰われている。 聖人は妖婦に屈し、赤子を踏み殺し、信徒たちは異教徒を焼き血祭りにあげて いた。それらの絵は太古の黄昏のようなうっすらとした黄金の光につつまれてい るようであり、宗教画特有の毅然とした情景描写を持っている。 私は、ゆっくりと画廊を歩む。私は画廊の中に居るのが私一人では無いことに 気がつく。片足を失った老人が、憑かれたような顔をして杖をつき、傍らを通り 過ぎてゆく。黒いドレスを着た、片手のない貴婦人が私の前を横切る。 私は、正面の扉を開き次の部屋へ入った。そこにも、同じように絵が並んでい る。私は絵の中から抜け出してきたのかと想う程、体の一部を失っていたり、血 の滲む包帯を顔面に巻いていたりする人々の間を進む。 やがて、一際昏く、神聖な静けさに満ちた部屋に入り込んだ。その部屋の奥に は優美な放物線を描くドームに覆われたステージがある。天井は、曲線を描き高 い。教会の礼拝堂を思わせる場所だ。 正面のステージの奥には、二百号くらいの絵が飾られている。絵の中で一人の 裸体の女性が海の中から誕生したばかりの美神のように夢見る笑みをみせ、佇ん でいた。 それは、写真のように緻密で写実的な絵である。その女性は、美しく微笑んで いるが、その手は血塗れであり、日本刀を握っていた。日本刀は死肉の脂がつい てはいるが、冬の日差しの鋭利な輝きを放っている。その足下には、惨殺された 死体が幾つも転がっていた。その死体は切り刻まれ、手や足は胴から離れ、破壊 された人形の部品のように放置されている。 私は、その絵の中で笑みを浮かべる女性を凝視した。その女性は私と同じ顔を している。その女性は、私だ。そう、思った瞬間、私は絵の中にいた。ステージ の上から、白いコートを身に纏った私を見つめている。その、私が見つめる私は 叫びだすように、口を開いた。 私は、自分の叫び声で目覚めた。私は塔秋夫の家の、応接間のソファで目覚め る。大きく息をつく。素肌の感触が自分が全裸であることを、知らせる。左手に 持っているものが、日本刀である事を確認した。 私は自分が夢の中で見た、絵の中の自分の姿と同じ状態である事に気づく。部 屋には紅い薔薇の花びらを散らしたように、血の滴の後がある。私は、その血痕 を辿った。部屋の外の廊下にも、血は続いている。 私は血を辿って、階段を上がった。一つの部屋の前で、血の後は途絶えている。 順当に考えれば、この部屋に私はいたのだろう。そして、血塗られた日本刀を持 ち階下の応接間で眠った。 私は、ドアのノブに手をかける。開かない。ドア自体には鍵穴はないことから 考えると、どうやら内側で鍵がかかっているようだ。 私は、ドアに体当たりをする。二度目でドアは開いた。まず、私の目に飛び込 んできたのは血の赤だ。 部屋は沈みゆく太陽の深紅の光が照らし出したように、飛び散った血によって 紅く染められている。死体が屠殺場の肉のように、無造作に放り出されていた。 その体は、かつて人間であったとは思えぬ程、ばらばらに斬られている。 肉の切断面は、とても鋭利な刃物で斬られたものと思えた。私の手にしている 日本刀のように。転がっている手足と胴の数を勘定してみると、3人が死んだよ うだ。 一人は女性、一人は男性、一人は少年。肉体からそう判断する。少年は塔秋夫 であり、二人の男女は両親だろうか。 私は、少年の切断された首を探す。見あたらない。外でサイレンの音がする。 警察らしい。 鬱蒼とした森に覆われたその建物は、老いた王のように荘厳さを持った木造の 館だ。私は、錆びた鋼鉄の重い門を開ける。門は苦鳴のような軋み音をたてて開 く。 人の手の入ったことの無い、原始の森を思わす木々が私の前に立ちふさがる。 穏やかに微睡む老いた王を守る、緑の巨人のようだ。 私は地面を埋め尽くした羊歯や、茨を踏み分け、建物へ向かう。私は、建物の 玄関に立った。 私は、塔秋夫の家から逃げだし、途中事務所に立ち寄り塔の家で手に入れた衣 服を処分し、自分の服に着替えてここにいる。私はこの館へ入る必要があった。 大きな、身長の倍はある扉を開く。扉の奥は玄関ホールであった。床には水が 満ちており、玄関ホールは冥界の湖と化している。 ホールの奥には優美な曲線を描き上方へと延びる、二つの階段があった。その 階段は静かな湖から飛び立とうとする黒鳥の翼のように、玄関ホールの両側へと 柔らかな曲線を描いて広がっている。 私は、幽玄の闇につつまれ深緑の色をした水を湛える玄関ホールへ、足を踏み 入れた。水に踏み込んだ足が、神聖な静寂を破り、水飛沫の音が館のうちに響く。 酷く古びて荒れてはいるが、この建物は塔秋夫の家で見た夢の建物と同じだ。 玄関ホールを過ぎ、階段に足をのせる。腐りかかった木の階段は、それでも私 の体重を支えた。私は二階のロビーへ出る。 撃ち落とされたガラスの天使のように、シャンデリアが床に墜ちていた。落ち た星が散らばっているような、ガラスの破片を踏み分け奥へ進む。 大きな木の扉をあける。そこは、深海の静けさを湛えた画廊だった。破れた天 窓から光の柱となった日差しが、差し込む。 腐りかけ、軋む床を歩んで行く。壁面には絵は無く、ただ、華麗な彫刻を施さ れた額縁だけが残っている。 私は荒廃している以外は夢の通りである事を確認し、先の部屋へ進んでいく。 私は、荒れ果てた部屋を突き抜け、最奥の礼拝堂を思わせる作りの部屋へたどり 着いた。 そして、そこで私を待ちうけていたのは、予想したとおりの人物である。半ば 崩れたドームに立つ、中世絵画の天使が見せる無垢の笑顔を浮かべたその少年は、 塔秋夫であった。 いや、塔秋夫はおそらく死んでいる。 「君が、鏡修羅か?」 少年は、笑った。 「樹理のもってきた写真を見たんだろう」 「写真とは違うが、顔は変えれるからな。私が塔秋夫の家にいつた時、君は、も う塔秋夫とその両親を殺した後だった。私が眠りについた後、目覚めるころを見 計らって警察へ通報し、惨殺を起こした現場に潜んで私を待つ。私が来て警察の サイレンを聞いて逃走した後に、部屋から逃げ出した」 少年は無邪気な笑みを見せたままだ。 「なんの為にそんな事を僕がしたんだ?」 「私に、物語を与える為だろう。呪詛の為のプロセスといってもいい。私に人殺 しのスティグマを与え、塔秋夫の怨念を憑依させる事により、自分を祓う為のプ ロセスに入らせないようにした」 少年は髪をかき上げる。物憂げな瞳が私を見る。少年は、酷く老いたふうに見 えた。 「僕が鏡修羅では無いように、あなたも椿真夜子ではないね」 私は頷く。 「私は、椿破瑠夫だ。真夜子の兄になる」 少年は肩を竦める。 「いつ憑依した?」 「君が、塔秋夫とその両親を生け贄にして呪詛を行おうとした瞬間。死者の念が こもった密室は、心霊的エナジーが高まる。そこに入った瞬間、真夜子の意識が 飛んだ。君が呪詛をしかけようとしたそのタイミングは、私にとっても憑依する タイミングであったのでね」 ステージの上に腰を降ろした少年は、膝に肘を置き、頬杖をついた。その瞳が きらきらと楽しげに輝く。 「君はようするに私と会いたかったと見える。なぜだ」 「あなたなら、気づくと思ったんだよ」 「ここが君の見せている夢だということにか?」 少年は首を振る。 「確かに僕は、あなたの心の中からこの館を選び、夢を編んだ。生き霊として真 夜子に憑依することにより、夢の中でこの館に居ればあなたと会えるだろうと思 った。そんな事じゃない。僕は何者だい」 「鏡修羅に憑依した霊、ではないね、君は」 「もう一度聞くよ、僕は何者だい」 「シュラウト・ローゼンフェルト。ああ、そういうことか」 私は、手で目を覆った。 「すべては、夢」 それが私、ツバキ・ロンドンナイトのキーワードであった。 甦る記憶が巨大な渦となって、私を巻き込む。私は、その渦の中に巻き込まれ 自分自身を失っていく。暗黒が私を覆い、私は意識を失った。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE