長編 #3716の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
保安の宍戸他数名の協力を得て出来上がったリストは、次のようになった。 「当日、研究棟の部屋で寝泊まりしたのは、まず、私」 と、上島が読み上げていく。 「もちろん高倉先輩も。その他では工学科が都築俊郎さんと辺見百合子さん、 情報科学科では須川さん、横井さん。それから研究生の村木和義さん」 「七人しかいなかったとは、案外、少ないじゃないか。まあ、犯人探しするに は好都合」 「馬鹿言わないでください。もっと大勢が泊まっていたら、事件そのものを防 げたかもしれないんですから」 「そ、そうか」 虚を突かれて、はっとする千堂。結果論で言えば千堂の意見は決して間違い ではないが、つい、調子に乗ってしまった。 「野瀬さん、この中で、特に高倉先輩とつながりのある人って言ったら、誰に なりますか?」 「……工学の人達は知らない、分からないわね。村木さんは部屋が向かいにあ るから、たまに話をしたことあったみたいだけど、そんなに親しくしてた訳じ ゃなし。やっぱり、情報科学科に限られてくる。高君、須川さんとは学部生の 頃から仲がよかったよ。横井さんとは院に入ってから知り合って、結構、教え てもらっていた」 「親しいけれど、恨まれる覚えはない……と」 「ええ、そうなる」 二人が話し込んでいるのを耳にして、千堂はある閃きを得た。 「学部生の頃のことまで考慮するんだったら、部活なんかも調べてみないと。 当たりが出て来るかもしれない」 「一理あるかな……。野瀬さん、高倉先輩が学部生の頃のこと、何かご存知で すか?」 「ご存知も何も……同じテニスサークルに入っててね。先に高君が入って、私 が誘われたのが二回生のとき」 思い出すような目つきになる野瀬。 「サークルは学部卒業と同時に当然、辞めたけど、それ以降も付き合いは続い て来たのに。……あっ、思い出した。辺見さんって、私がサークルに入るのと 入れ替わるようにして、辞めた人だ」 「それ、本当ですか?」 何かの手がかりになるかも。そんな期待を込め、声を揃えて聞き返す千堂達。 「昔の話だから忘れてしまっていたけれど、間違いない」 「辺見さんと高倉さん、何か特別なつながりでもあったんでしょうか……」 尋ねにくいなと感じつつ、千堂。 「いいえ、それはないと思う。サークルを辞めたのだって、他の部活が忙しく なったからだって、当時、聞いたし」 「じゃあ、関係なし、ですか……」 つぶやきながら、心中で考える千堂。 (万が一、辺見さんが高倉先輩あるいは野瀬先輩を恨んでいたとしても、五年 も経って行動に移すのはおかしい。何かきっかっけがあったとも見えないし… …。やはり無関係なのかな) ごんごんと、荒っぽいノックの音がした。どうぞと三人揃って言うと、「開 けてくださーい」という男の情けない声。 ドアに一番近い千堂が開けると、宮田ともう一人の男が、手に機械類を山と 抱えて突っ立っていた。 「あ、ひょっとして、調べ終わったとか?」 「そう。いやあ、このロボット、よくできてる」 宮田が答える。もう一人の神経質そうな男は、予想通り、西村だった。 「どんな機能があったの?」 上島が、待ってましたとばかりに駆け寄り、興味津々に尋ねる。 「簡単に言えば、コンパクトさ。一本腕を伸ばして物を押したり引いたりや、 前後左右に移動できるのは変わらないんだけど、とにかくコンパクトにまとめ られているんだ。ただ、気になったのは、アーム−−腕の部分は僕らが作って いたのを取り外し、丸ごと取り替えている」 「それって、つまり、タイヤやモーターの部分だけが使われたという意味?」 「そうなるね。それに」 と、宮田は西村に目配せをした。西村はうなずきもせず、手にしたロボット のボディカバーを取り外す。あらかじめビスは抜いておいたようだ。 「ここ、見てください」 丁寧な口調になったのは、野瀬に対して言ったからだろう。 宮田が指差した先には、何やら小さな電子部品がごちゃごちゃとある。 「何、これ?」 「新たに付加された箇所で、一種の制御装置です。少々の悪路でも本体は水平 を保ったまま、移動できる仕組みになってます」 「ふうん……ここで動かしてもらえるかな?」 「いいですよ」 宮田と西村は、澄まし顔でてきぱきと準備を始めた。カバーを戻し、ネジを 締め上げていく。二人の外見からは、ちょっと想像できない手際だ。 「行きますよ……」 細いアンテナの延びた、ボタンやレバーが露出したコントローラーを手に、 西村がぼそっと言った。 息を飲んで見守っていると、「うぐる、うぐる」と妙な音を立て、ロボット −−今や無線機と言うべきか−−は動き出した。 西村の指の動きに合わせて前後に動くロボット。デザインが全くされておら ず、金属がむき出しであるため、銀色の弁当箱が動いているようにさえ見える。 「腕を出してみます」 西村がボタンを押すと、弾かれたように腕が上方へ伸びた。反動で、いくら か揺れる車体。消防のはしご車を想起させる。 伸びきった腕の届く高さを見て、千堂はあることを思い付いた。 「−−ドアノブのボタン、押して!」 「何だ?」 「ドアのボタンを押して、鍵をかけられるかどうか、やってみて欲しいんだ」 「……分からないけど、やってみるよ」 首を捻りながらも、西村は千堂の言う通りにコントロールする。 「千堂さん、まさか……」 小さな声で、上島が聞いてくる。 「ああ。密室が解けたかもしれない。ほら、高さはぴったりだ」 見守る中、ロボットはドアのすぐ下まで接近して行く。高く掲げた腕の先が ノブの中央に位置するボタンを正確にとらえ、力が加えられる。 やがて、かちゃりという音と共にボタンが押し込まれ、施錠された。 「これは驚いた……」 感情に乏しい声で、西村がぽつりと漏らした。 「まるでこのためだけに作られたみたいだ」 「恐らく、その通りなんだよ」 千堂が言っても、詳しい事情を知らないらしい宮田と西村は、ますます首を 傾げるばかり。 「ロボットを部屋に残して、ドアを閉め、廊下からの操作で施錠できるかな?」 上島がロボットの腕をしげしげと見つめるように腰をかがめながら、工学科 の二人に聞いた。 「あ、ああ。多分。電波は届くし、腕の高さは一杯に伸ばせばいいから簡単だ。 コースさえきちんと取れば、子供にだってできるだろうね」 「そうなんだ−−」 上島と千堂は、これで一つ謎が解けたと言わんばかりに強くうなずき合った。 「もう終わった? 自分達、そろそろ帰りたいんだけど」 「うん、とりあえず、いい。ありがとう」 野瀬が言った。 「でも、悪いんだけど、ロボットは置いていってほしいな。いいかしら?」 「え……」 「頼むわ。事件に関係している確率が高いの」 「そういうことなら……」 宮田達は互いに顔を見合わせ、納得した様子だ。 「じゃ、失礼します」 宮田と西村が去ってから、今度は千堂達三人が顔を見合わせる番となった。 「鍵をかける方法は、これで決まりでしょう、恐らく」 「そうみたいだけど……」 野瀬は右手の人差し指を顎に当て、考え込む仕種。 「次は、何のために鍵をかけたのか、分からない」 「そうなんですよね」 賛同の意を示した上島。その思考方法はかなり推理小説に毒されているが。 「普通、自殺や事故死に見せかけるために密室を作るのに、今度の場合、最初 から他殺だって分かるじゃないですか。それなのにわざわざ密室を作るなんて」 「しかも、その密室のために、またわざわざロボットを盗んでいる。ここまで 手間をかける理由が何なのか、興味を惹かれるね。理由が分かれば、犯人も分 かるかもしれない」 「そういうものなの?」 野瀬が不思議そうにしている。彼女は普段、推理小説の類は滅多に読まない 上、テレビでその手のドラマを観ることもないらしい。 「部屋に鍵をかけたことで、かえって犯人だと分かるなんて、本末転倒だと思 うんだけど」 「常にそうなるという意味じゃありません。今度の事件がそうかもしれないと 感じただけです、あまりにも間怠っこしい密室だから」 「あ、そういうこと……。何にしたって、このロボットが現場にあった事実を、 警察に知らせないと」 「そうでした。多少、どやされるかもしれませんが……」 千堂は弱りながらも、気持ちを楽観的に持っていった。 「警察へは明日でいいでしょう。それより、研究棟にいた人達から話を聞くの が先決」 上島の提案を採用し、千堂らは他の部屋を回ることにした。と、その前に、 千堂が言った。 「村木さんにだけは、事前に連絡を入れておく方がいいんじゃないか。あの人、 機嫌が悪いときは、誰も寄せ付けないそうだから。それに、乗ってるときに邪 魔されるのも、凄く嫌がるって」 「それもそうですね。電話しましょうか」 電話へ手を伸ばしかける上島へ、野瀬がストップをかけた。 「電話のベルで邪魔されるのも嫌うよ、村木さんは」 「そうなんですか。じゃ、メールで穏やかにお知らせを。村木さんの部屋には ワークステーション、あるんでしたよね」 三人で部屋を出て、まずはコンピュータ演習室に向かう。 村木へのメール送付は上島に任せ、千堂は野瀬に言った。 「村木さん、あの日は特別だったんですね」 「あの日って?」 「……遺体を見つけた日です。随分、協力的でしたよ」 「そうだったね。あの日はショックを受けて気持ちが乱れて忘れてたけど、最 初に村木さんが積極的に動いてくれたとき、妙な感じを受けたっけ」 「遺体を見ても冷静だったのは、噂に聞いたイメージに重なりましたけれど」 そんな話をしていると、やがて上島の「終わりました」という声が聞こえた。 三人以外に誰もいない演習室をあとにして、他の院生を尋ねに回ることとする。 「久しぶりに歩き回っている気がするよ。メールで聞き込みする訳にもいかな いよな、さすがに」 エレベーター内で愚痴をこぼす千堂。上島が応える。 「リアルタイムで普通のお喋りを楽しむなら、直接会おうが通信回線上だろう が差はないと思うけど、聞き込みは相手の顔が見えないとだめです」 「テレビ電話のようなシステムがあれば、解決されるのかな」 「コマ送りレベルの動画だったら、簡単にごまかせるんじゃないですか? あ らかじめ用意しといて」 短い議論の内に、最初の目的地に着いた。 「須川さん、います?」 年長者という立場から、野瀬が三一一号室のドアをノックした。隙間から明 かりが漏れている。 「どうぞ、開いてるよ」 ドアを押すと、須川ただ一人が部屋にいた。 「おや、珍しいな。野瀬さんに……千堂と上島か」 机のパソコンに向かっていた彼は、椅子ごと身体の向きを換え、型にはまっ た台詞を口にした。二つ年下の千堂らは呼び捨て扱いである。 「今、よろしいですか?」 「歓迎したいぐらいだ。詰まって、頭が痛くなってきたところでね。ま、適当 な椅子に座ってくれ」 「私達の話も、決して愉快な内容ではありません」 野瀬の緊張感を帯びた口調が伝わったか、須川の表情が引き締まる。 「……事件の話だな?」 「はい。須川先輩は当日、泊まっておられた一人でしょう? 何かご存知かと 思って。不審な物音を聞いたようなことは、ありませんでしたか?」 「警察も同じ質問をしてきたよ。残念だけど、特別変わったことはなかった」 「高倉先輩の言動に、何かおかしな点は見られなかったですか?」 横合いから、上島が質問する。 「いや、あの夜、彼とは自販機の前で会っただけだった。八時前だったな。弁 当を買って戻ったとき、偶然に。缶コーヒーを買ってたな」 「話は」 「挨拶程度。『頑張ってる?』『ぼちぼちです』って具合の、他愛ない会話さ」 「他の人達について、様子がいつもと違うなって感じた人はいませんでした?」 「俺が覚えている範囲じゃ、みんないつも通りだったなあ。だいたい上島、お まえも泊まってたろ、あの日?」 「え、まあ、そうですけど」 聞き返され、へどもどする上島。 「おまえは何か気が付いたか?」 −−続
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