長編 #3714の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「そんな」 否定しようとして、何の根拠もない事実に思い当たる。 「早く解決すればいいんです」 言い切った上島。その表情を見れば、いつもの笑顔でなく、きつく結んだ唇 に真剣さが浮かんでいた。 「本気です、私。亡くなったのが高倉先輩じゃない可能性がある内は、面白半 分でいましたけど、もう」 「……ありがと、上島さん」 野瀬は唖然としてから、次に弱く笑った。 「ですから、できるだけ早く、引っ越し、やっちゃいましょう」 上島の提言に、千堂と野瀬は顔を見合わせ、首を捻った。 「どういう意味だ? 事件と部屋の入れ替えが関係しているとは……」 「決まってる、現場を見ておくチャンス! それも、事件が起こってから日が 経たない内がいい」 「……なるほどね。たまにはいいことを言う」 次の瞬間、千堂は頭をはたかれていた。 それはともかく、すぐに院協に部屋を移る意向を表明すると、大学側を通し て警察まで連絡が行ったようだ。 「グッドタイミングだってさ」 蔭山から折り返し、知らせが入った。直接会って、話を聞く。 「警察も、現場の部屋−−四〇一号室の中を今日中にひっくり返すつもりだっ たとか。だから、今日の昼三時から刑事立ち会いの下、荷物を運び出していい って」 「三時ですか」 時計を見ると、午前十一時十五分頃だった。 「僕らも手伝いますよ」 千堂が言うと、野瀬はすぐに返した。 「まず、プリンター室にスペースを作って、それから千堂君の物をプリンター 室に移さないとね」 不景気そうな顔をした若いのと、仏頂面した中年。彼らが刑事らしかった。 「念のため、軍手をしてください」 若い方から申し渡されたので、千堂達三人は手に白い軍手をはめた。 「運び出す物は全て、我々に見せてください。じゃあ、始めて」 命令口調にかちんと来ながらも、千堂は黙って作業を開始した。が、他人の 物なので、どれをどうすればいいのか勝手が分からない。自然、口を開くこと になる。 部屋から運び出した物は、ひとまず廊下に置く。いちいち、最終目的地であ る二一六号室まで運んでいては、時間を取ってしまうからだ。 「あん? これは……何ですか?」 スチール製の本棚の底に、ある程度の空間があるらしい。本棚を移動させた とき、下からその見慣れぬ物が覗いたのである。 「え……」 野瀬も戸惑いを露にしている。直方体の形状をした銀色のそれに手を当て、 眉間にしわを寄せた。 「こんな物、知らない……。見たこともないんだけど」 「見せてください」 と、上島が手を伸ばし、ひょいとその物体を持ち上げた。裏側に四つの車輪 が付いている。 「案外、重たい。これ……ロボットじゃないですか? 工学の……」 「そうか。四角形に収まっているけど、アンテナみたいな物や腕みたいな物も 付いているな」 うなずいて、続ける千堂。 「それにしても、ほこりをあまり被ってないな。いや、そんな点よりも、どう してこんな物が」 「私にはさっぱり……。思い出したんだけど、騒ぎがあったじゃない? ロボ ットが盗まれたって。これのことかしら?」 「ああ。でも、話に聞いたのと、大きさが違う気がしますよ。もっと大きくて かさばるイメージが……別のロボットじゃ?」 「聞いた方が早いですよ」 上島の意見に被さるように、だみ声が響き渡った。 「おまえら、何をやっとるんだ?」 出入口のすぐ前、廊下で待っていたはずの仏頂面が、大股で歩み寄ってきた。 「変な真似をすると−−」 「見たことない物が出て来たんです」 きっぱり言い切った千堂。初めて顔を合わせたときから刑事の態度の大きさ にむかむかしていたので、つい荒っぽい調子になる。 ところが、野瀬は千堂の言葉を否定した。 「い、いえ。私の勘違いでした。自分が預かっていた物です」 千堂は顔をしかめて、野瀬を見る。野瀬の方は何事もなかったように、すら すらと答えていた。 「本棚の下に仕舞い込んでいたのを、忘れてて……。つまらないことでお騒が せして、すみません」 「ん……分かったから、さっさとやってくれ。鑑識は一通り終わっているとは 言え、好ましからざる状況だからな」 刑事は当てつけるように言うと、どたどた足音をさせて廊下に出た。 「野瀬さん……」 小声で尋ねる千堂に、野瀬は目配せをした。 「これも運び出しておいて」 「……分かりました」 野瀬の瞳を見て、千堂はその真意が飲み込めたような気がした。 その後、さっさと荷物を運び出し、刑事達に形ばかりの礼を述べると、今度 はそれら荷物を持って、二一六号室に向かった。何度か往復して、ようやく運 び終わる。 「ご苦労様……と、ひと休みしたいところだけれど」 野瀬は二一六号のドアを閉めると、例の銀色の物体に目をやった。 「そいつの出所をはっきりさせるのが先決。電話して、宮田君か西村君に来て もらおうか」 「いいですね。もしも盗まれていたロボットだとなれば話がややこしくなりそ うです。蔭山さんにも立ち会ってもらいましょう」 千堂が言う間に、上島が室内の電話の送受器を取り上げ、適切な連絡をした ようだ。 「すぐに来るそうです。蔭山さんと宮田君。西村って人は、また用事があって、 来るの、無理みたいだけど」 「当事者が一人いれば充分だよ。さて、どう転ぶかな」 「千堂君」 不安そうに、野瀬が口を開いた。 「何ですか?」 「私、思わずあのロボット、持って来ちゃったけど、大丈夫かな。事件に関係 あった場合、ちゃんと証拠になる? ううん、それより、私が疑われるかも」 「そんな心配はいりませんよ。いざとなれば、高倉さんからメモ書きで、預か ってくれと頼まれたと言えばごまかせます。メモということにしておけば、偽 の伝言だった可能性も残せますからね。高倉さんには悪いけど」 「そっか……それしかないみたいだね」 安堵したような、まだ不安を引きずっているような、微妙な顔色をなす野瀬 だった。 電話をかけてから三分もした頃だろうか、ドアが鳴った。声から蔭山だと分 かる。 「どうぞ。入ったら、ドアは閉めてください」 「何事だい?」 どこかしらわくわくしているように見える蔭山は、言われた通り手早くドア を閉めた。宮田も一緒である。 「最初に、そこにある物を見て欲しいんです」 野瀬は、デスク上の銀の物体を手で示した。 「これは?」 怪訝そうに言って、目を凝らす蔭山。その横で、宮田は眼鏡の位置を直して から、あっと叫んだ。 「こ、これ……」 「やはり、宮田君達が言ってたロボットなの?」 上島が色めき立って聞いた。宮田は、喜びと疑念が入り混じった様子の、複 雑な表情を見せながら答える。 「そ、そうみたい……。だけど、何でこれがここに? しかも、大幅に改造さ れている」 言っている内に腹立たしくなったのか、憤慨口調になる宮田。 「私の部屋で見つかったの、それ」 「え?」 野瀬の答に、また眼鏡の位置を直す宮田。野瀬は抑えた感じの口調で続けた。 「正確に言えば、事件が起こった四〇一号室。本棚の下に、潜り込むような感 じに置いてあってね。当然、形はそのまま」 「だ、誰がこんなことを」 「信じてもらいたいのは、私が持ち出したんじゃないってこと。亡くなった高 君も、そういうロボットをいじっていた様子はなかった」 「じゃあ、つまり」 声を高くしたのは、蔭山。 「殺人犯が置いていったかもしれないと?」 「そうなります。人殺しの現場と盗難品の隠し場所が偶然一致する可能性は、 無視していいと思う」 野瀬が答えて、千堂と上島がうなずいた。 蔭山も同意の仕種を見せたが、宮田だけは違った。 「待ってくださいよ。死んだ人に失礼だけど、高倉先輩が盗んで、こっそり隠 しておいた可能性は残るんじゃないんですか。いや、高倉先輩だけじゃない。 言いにくいですが、野瀬先輩が嘘を言っていることも」 「宮田君、あのな」 千堂はたまらず、口を出す。 「色々と反論できる部分はあるが、一番大きな問題をぶつけるよ。どこで改造 するって言うんだい? 僕ら情報科の人間には、ロボットの改造なんて無理だ とは思わないか? ほんのちょっとの手直し程度ならともかく、大きさが全然 違うんだろ、これ?」 「そ、それはそうだが」 「仮に知識や技術を身に着けていたとしても、作業を行う場所がない」 「……どこか他の大学に行けば……。あるいは工場」 「まだ言うか。いいかい? 宮田君の考えが当たっているとしたら、君は自分 で自分の首を絞めることになりかねないんだぜ」 「どうしてだ?」 いきなり意外な話を突きつけられたためか、宮田は動揺したような口ぶりに なった。 千堂は唇を湿して、話を続ける。 「君が殺人の容疑者になるってこと」 「ええっ?」 狼狽ぶりが一層激しくなる宮田。 「わ、分からないな。何でそんな風になるんだ」 「簡単明瞭。もしも高倉先輩が君と……そう、君と西村君のロボットを盗んだ としたら、そしてそのことに君達が気付いていたとしたら、当然、恨みを持つ だろうね、先輩に」 「な……」 「もしかしたら、殺してやろうと思うほどに恨むかもしれない。僕は工学の人 間じゃないから分からないけど、ロボット制作者はロボットを自分の子供のよ うに思うものなのかもね。そうなると、動機は充分、警察だって調べてみたく なるだろうさ」 「やめてくれよ!」 宮田は大声で叫んだ。心なしか、顔が赤くなり、息も乱れている。 「じょ、冗談じゃないぞ。おもちゃ程度のロボットを取られたぐらいで、人を 殺すなんて」 「だから、そういうことじゃなくて、高倉さんも野瀬さんも、ロボットを盗ん でなんかいないってこと。そう信じてくれてもいいんじゃないか」 「……分かった。分かったよ」 ふてくされたようにうなずいた宮田。 「それで? どうしようってんだ」 蔭山は雰囲気を読んだように、声を発した。答えるのは上島。 「ともかく、宮田君にロボットをざっと調べて欲しいな。どんなことができる のか、本当に動くのかってことなんかを」 「調べてどうする?」 「事件との関係が見えてくるかもしれない」 断言すると、上島は軍手を宮田へと突き出した。 「何のつもりだい、これ?」 「分からないの? 指紋をべたべた着けたら、あとで面倒になる。そりゃあも ちろん、元々宮田君達のロボットなんだから、指紋はいくらか残っていると思 うけど、用心しといた方がいいって」 「そういうことか」 軍手を受け取ると、不器用な手つきで左右の手を通す宮田。 「道具がないとやりにくいから、持ち出しますよ」 「かまわないけど、なるべく他人には見せないようにした方がいいと思う」 野瀬が言うと、宮田はこくりとうなずき、外に出て行った。 「くれぐれも、指紋をべたべた着けないように!」 「自分はどうしたらいいのかねえ」 蔭山が情けない声を出していた。思わぬ事態に、途方に暮れた様子だ。 −−続
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE