長編 #3702の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「余計なお世話ですな、そいつは。あんたこそ、殺されんように充分、気をつ けることだ。私はご覧の通り、頼りないんでね」 やけになったのか、刑事の捨て身の皮肉だった。 「もう、困るなあ」 いささか子供じみた言い種で、実道が取りなす。 「事件解決のためには、疑心暗鬼が一番よくない。板倉さんを始め、皆さん、 かなり精神的に疲れておられるようです。一刻も早く、事件を解明してもらい たい。それが僕らの共通の願いですよ」 「犯人を除いてね」 一言、神代。彼女の神経は、相当に図太いと見える。 「犯人は、プラグをどこに隠してるんでしょうね」 「ん?」 法川の思わせぶりな言葉に、皆が注目した。 「考えてみたんですよ。実道さんの船に細工した者が殺人犯だと仮定して、そ いつは何故、エンジンを壊さず、プラグを取り外すにとどめたのか。真っ先に 思い付いたのが、犯行が成功したら、一番に逃げ出すためというもの」 「ああ、そうか。それはあり得るな」 「だけど、だめなんです。犯人が逃げたら、その時点で僕らはそいつが犯人だ と知ることになる。まさか、本土に戻って、自分以外の者は海に落ちて行方不 明になりましたと言って、信じてもらえるはずない。遅かれ早かれ、ここから 救助されるでしょう。だから、犯人だけが逃げ帰るためじゃあない。 もう一つは、犯行をなし終えたら、広間のテーブルにでもこっそり、プラグ を置いとくんですね。事件は未解決だが、とにかく島を出ようと考えるのは、 誰もが同じだと思います。犯人にとっても好都合。事件に巻き込まれた者の一 人として、何食わぬ顔をして戻れる」 「そっちの方がありそうだ」 刑事はころころと意見を変える。 「だが、それならば犯人の奴は、まだ罪を重ねようってことか。プラグを隠し たままなんだから」 「そうかもしれませんし、そうでないかもしれない」 「説明してくれ」 「永峰、君が気をつけることだよ」 いきなり、忠告を受け、私はどぎまぎしてしまう。自分でも気が小さいと思 うが、片手を胸に当て、聞き返す。 「何に気をつけるって?」 「犯人の奴、君を犯人に仕立てたがってるだろ? だから、プラグも君の荷物 にこっそり、忍ばせたいんじゃないかな。そのチャンスを窺うために、まだプ ラグを衆目にさらせないでいるのかもね」 「そんなことが」 言いかけて、やめた。これまでの犯人の行動を思えば、ありそうだ。 「ひょっとしたら、すでに忍び込ませてあるのかもしれない。君が気づかない だけでね」 「まさか!」 「冗談さ。けど、一応、荷物や部屋の中を注意しておいてくれよ」 法川は笑ったが、こっちは心配になってきた。急いで食事を片付け、「失礼」 と言い残し、食堂を去ろうとする。と、刑事が呼び止めた。 「ああっと、永峰さん。単独行動はいかんですな。仮にも容疑者だ。私が付き 添いましょう」 その後、新たに決められた私の部屋、法川の入っていた七号室内を二人で隈 なく捜し、荷物もひっくり返してみたが、プラグは出て来なかった。幸いと言 っていいのか、それとも悲しむべきなのか分からない。 食事を終えた法川達と合流し、犯人はどこにプラグを隠しているんだろうと いう話になった。板倉を除く全員が集まっている。板倉は自室に引きこもり、 メイドに運んでもらった食事を食べているという。 「怪人物の衣装と違って、いくらでも時間的余裕があった。だから、屋敷の外 だろうが内だろうが、どこにでも隠せるだろう」 これが結論だった。 進まぬ捜査に、ほとんどの者がいらいらしていた。 何かのヒントになるかもしれないと、法川がビリヤードをやろうと言い出し たのは、食後三十分ほど経った頃だった。 「私は遠慮しとく」 素気なく言い放ち、早々に立ち去ってしまったのは、名人級の神代だ。 「どうしたんですか、あの方? 神代さんにトリックショットを披露いただき たいと思っていたんですが」 法川が誰とはなしに聞くと、実道が応じた。 「恐らく……鈴木が死んだ場面を思い出してしまうからじゃないかなあ。そん な状態でトリックショットをやっても、失敗する確率が高いのかもしれない。 僕には分からないけど」 「残念だな。じゃあ、普通の競技と行きましょう。どなたかお相手、願えませ んか」 「私、やりたぁい」 風見がすぐ名乗りを上げたが、やんわりと法川は拒絶した。珍しい。 「どうして? 私じゃだめなの?」 「だめじゃないんだけど、昨日と違う人とやりたいのさ。今は我慢して。いい だろ?」 「……あとで埋め合わせ、してよね」 およそ子供らしからぬことを言って、引き下がる風見。隅の椅子に腰掛け、 足をぶらぶらさせ出した。 「じゃあ、僕が」 実道が言って、キューを手に取った。 「戸井さんもいかがです?」 「いや、私は結構。遊ぶ気分になれないんで」 刑事は立ったまま、腕組みをし、ときどき首を捻っている。法川のやること が理解できないのだろう。私にも理解できない。 「もう一人ぐらい、ほしいな。と言っても、他にビリヤードができるのは、永 峰ぐらいか。君でいい」 「ご挨拶だな」 口ではそう言いながら、私も参加することにした。 ファーストゲームは、法川のブレイクショットで始まった。三人とも勝負に はこだわらず、お喋りを交わしながら、淡々と進む。和気あいあいと言っては おかしいが、殺人があったことを一時忘れさせてくれる雰囲気があった。 何回かゲームを楽しみ、終わったのは三時を回った頃だった。 「何をしていたんだ?」 散歩に出ようとした私と法川、それに風見について来て、刑事が不平たらし く言った。 「何をって、ビリヤードですよ。分かりませんでしたか?」 「そんなことを聞いてるんじゃない!」 怒鳴る刑事。いくら屋敷の外とは言え、あまり大声を出すと、他の人に聞こ える。 「何をのんびり、遊んでたんだってことだ」 「脳を休ませることは、絶対に必要ですよ」 「だが、今は緊急事態だ」 「分かってますって。遊ぶついでに、ちょっとした実験をしたんですから」 「実験だと? どんな? 玉突きしているとしか見えなかったな」 法川の前方に先回りすると、刑事は仁王立ちし、行く手を遮ってきた。法川 は苦笑いして、立ち止まる。私達も足を止めた。 「人が打つ間際に、色々と囁いたんです。『どうやって殺したんでしょうね』 とか『もしあなたが犯人だとしたら……』という風に」 ゲーム中、法川が妙なことを喋るなと思っていたら、あれは探偵の一環だっ たのか。 「何の意味があると言うんだ」 「永峰もしくは実道さんが犯人ならば、動揺してミスショットをするかと期待 したんです」 「心理的探偵法というやつか」 感心したのか呆れたのか、刑事は大きく息を吐き出した。 「で、首尾はどうだった?」 「全然だめ」 目を瞑り、首を振る法川。 「お二人とも、元々お上手でないから、ミスも何もあったもんじゃない。フィ ロ=ヴァンスのようには行きません」 「そりゃ、そうだろうなあ!」 がははと、刑事はぶしつけに笑った。 私は内心、「どうせ下手だよ」と腐っていた。 人の動きを見張ると行って刑事が引き返してからも、私達三人は散策を続け た。浜辺まで出る。昨日、のんびりと泳いでいたのが嘘のようだ。今は景色も、 沈んだものに感じられる。 「戸井刑事は分かってない。見張りを続ける限り、犯人は動かないよ」 「警察の立場では、そうするしかないだろう。これ以上、犠牲者が出ないよう にしてるんだ」 「それでは解決できない。罠を仕掛けて、捕まえるぐらいの機知がほしいもの だね」 「君にいい案があるのかい?」 「いや、思い浮かばない」 拍子抜けする答だった。 「法川、それでは戸井刑事を悪く言えないぜ」 水内際で風見と戯れている彼に、私は腹立たしさを覚えた。人が二人死んで おり、私も襲われたのだ。のんきに子守しているときではないだろう。 「一つ、気になる点があるにはある」 「何だ? 解決に結び付くことか?」 「分からない。ただ、僕のおぼろげな推理が当たっているとして、その証拠を 見つけるのは……難しい。島から出れば簡単……しまった!」 突然、叫んだ法川は、風見の相手を放り出して、走り出す。屋敷を目指して まっしぐらだ。 「おい、法川?」 私の間抜けな呼びかけは、少女の叫び声にかき消された。 「統、ひどい! 私を置いて行く気?」 風見の手を引き、屋敷に戻ると、法川の姿が見当たらない。二階に上がって、 鈴木の部屋にいるところを見つけた。 「どういうことよ」 収まらない風見を、私と法川でなだめてから、改めて私は法川に尋ねた。 「何を慌ててるんだい」 「うん、どうにかね、間に合ったようだよ。いや、ひょっとしたら何の関係も ないかもしれないが」 曖昧な返事にさらなる説明を求めようとしたが、邪魔が入った。戸井刑事が 現れた。 「これでいいか」 「ああ、どうも。鍵、かけてください」 刑事の手には、鍵が握られている。それを使って、鈴木の部屋は施錠された。 「合鍵も含めて、私が預かる。それでいいんだな?」 「ええ、お願いします」 刑事と探偵は、二人して満足した様子である。私にはさっぱり分からない。 「おい、説明してくれないか」 「永峰、君はこの部屋に入っていないよな?」 私の言葉を無視して、法川は質問を返してきた。この部屋とは、鈴木の部屋 のことである。 「ああ、入ってないよ。襲われたとき、押し込められた以外はね。なあ、一体、 何なんだ。何をしているのか、分かるように……」 「言えない。悪くすると、君の命が本当に危なくなるかもしれないんだ」 「……脅しだろ?」 「本気だよ。せいぜい、慎重に振る舞うことだね」 「……戸井刑事はどう思ってるんです?」 埒が明かないと見て、刑事にターゲットを変更する。 「ん? 私も詳しくは知らないんだ。とにかく、事件に関わる重要なことかも しれんと言うから、六号室を閉鎖しただけでしてね」 刑事が本当に何も知らないのか、法川から知らされていながら隠しているの か、私には判断できない。 「まあ、安心したまえ。戸井刑事が、今夜は見張りに着くと言っているから」 「見張りに?」 法川の言葉の意味を測りかね、戸井刑事を見やる。 「二階の廊下のど真ん中で、人の出入りを観察してやるんですよ。犯人が第三 の殺人を画策しているかどうか、それは分からんが、万全を期したいのだ」 「はあ……。でも、二階を見張るだけじゃあ、万全じゃありませんよ。もしも 一階にいる幸道さん、森田コック、メイドの江梨さんのいずれかが犯人なら、 他の二人のどちらかを殺そうとしても、戸井さんには分からない」 私の疑問に対し、刑事は抜かりはないと、鼻を鳴らした。 「コックとメイドには、二階の部屋に入ってもらう。命令ですよ。鈴木の部屋 は閉鎖するにしても、錦野の部屋が空いていますから、そこにメイド。私の部 屋だって空く訳ですからな、こちらにはコックが入ればいい。一階は幸道さん 一人にして、二階の廊下を見張る。これで完璧でしょう」 「なるほど、そういう理屈になりますね」 戸井さんが犯人じゃなければ、という思いが浮かんだが、口には出さないで おいた。味方してくれる彼を変に刺激しても、私に利はない。 −−続く
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