長編 #3654の修正
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12 ドレスデン封鎖の詳細を入手するには、スカルバーユの情報ネットワークをフル に利用しても数日を要した。作戦を実行したのは最小限の人数であり、統合軍の将 官レベルにも知らされていなかった。参加した大部分の兵士や下士官は、ショート ケーキカットと呼ばれる記憶の部分的消去処理によって、参加した事実そのものを なくしてしまっている。 「かなり大がかりな隠蔽工作が行われたみたいね」スカルバーユの相棒たるMI、 チコは告げた。「現在、ドレスデンとのあらゆるコミュニケーションは途絶中。当 局は、テロルによってコミュニケーション網が破壊されたと発表。ドレスデンだけ が注目されないように、シティ・メンフィス、シティ・バイコヌール、シティ・カ ワサキのコミュニケーションを同時に切断したわ」 「それにしても、まさか、一つのシティを丸ごと封鎖するとはな」スカルバーユは あきれたように首を振った。「ドレスデンの市民は、今頃……」 「死んでいるでしょうね。ところで、このことは例のドナ・マドウと何の関係があ るのかしらね?」 「さあな。だが、シンジケートのエーデルマンが世間話をするとも思えないしな」 「彼らはテロリストなのよ」チコは警告した。「統合政府のダメージになることな ら、どんなことでもやるわよ。あんたに余分な仕事をさせるつもりかも」 「だったら別料金を請求してやるさ」 「あんたの罠をあっさり看破するような奴らが、素直に金を出すかしら?」 「あのパークエリアのトラップを設定したのは、お前だろうが!」 「怒鳴らなくても聞こえるわよ」 「とにかく、もう少し裏を探ってみよう。ドナの件では金にならなくても、どこか に売れるかもしれない」 「こういう情報は、うかつに売ると消されそうね」 「どうしてそういうことを言うんだよ、お前は」 「どこから始める?」 「そうだな。まず、封鎖作戦の指揮を執ったマンチェック中佐からだな。どうも、 こいつはうさんくさい」 「OK。あら、どこか行くの?」 スカルバーユが立ち上がり、服を着替え始めたのを見て、チコは不審そうに訊い た。 「セーラのところだ」 「病人相手に恋愛ごっこやってる場合じゃないでしょうに」 「セーラは病人じゃないぞ」スカルバーユは穏やかに答えた。「それに、今日あた りドナが帰って来ているはずだ。もうすぐレヴュー9関係で多忙になるはずだから な。おれの目的はそっちさ」 「どうかしらね。アタシもついていけるといいんだけど」 「ドナが相手じゃ危険すぎる。じゃあ、行ってくる。調査は頼んだぞ」 「ハイ、リチャード」セーラは嬉しそうに顔を輝かせて、スカルバーユを迎えた。 リチャード・ランサムというパーソナリティに変化しているスカルバーユは、身 をかがめて、セーラと軽いキスを交わした。 「ハイ、セーラ。元気だったかい?」 「元気元気。来てくれて嬉しいわ。ほんとに」 「ケーキ買ってきたよ」スカルバーユは小さな箱を手渡した。「ガトーショコラ」 「また太っちゃうじゃない」 「いらないなら、ぼくが食べるよ」 「だめよ!」セーラはムービングチェアの上で飛び上がりそうになった。「待って て。今、お茶淹れるから」 「うん」 スカルバーユは、三日に一度はリチャード・ランサムになって、マドウ家を訪問 していた。セーラの側から、ドナの行動を調べるためである。セーラの場合、政府 関係者として行動記録が義務づけられているドナとは違って、自分の生活の記録を データベース化する必要などない。従って、セーラの記憶を知りたければ、セーラ から直に訊き出さなければならなかった。もちろんセーラも、三日も四日も前の事 を細かく記憶しているはずはない。スカルバーユが足繁く通っているのは、その記 憶が薄れてしまわないうちに訊くべきことを訊いてしまいたいからである。もっと も、スカルバーユもセーラと会うのを楽しんでいることは認めざるを得なかった。 幸い、セーラは記憶力に優れているうえに、姉のドナのことを話すのが好きだっ た。スカルバーユが、さりげなく水を向けるだけで、二人の話題はドナのことにな っていく。あまりに露骨にドナのことばかり話していれば、そのうち怪しまれるこ とになりかねないので、スカルバーユは自分の(偽の)経歴や、セーラの身体につ いての話をするのを忘れなかった。ドナへの関心は、あくまでも礼儀以上のもので はない、というわけである。 セーラが淹れた香りの高いハーブティーを飲みながら、二人はしばらくいろんな 話をした。スカルバーユは情報屋であるから、その気になれば一晩中でも話を続け られたが、リチャード・ランサムという青年の性格はどちらかというと控えめに設 定してあったので、ほとんど聞き役に回っている。 「そういえば」スカルバーユは思いついたように言った。「この前、お姉さんを見 たよ」 「へえ。どこで?」 「どこだったかなあ。第4レベルのレクセンターの近くだったかな」 「いつのこと、それ?」 「8日……って昨日だ」 5月8日は、ドレスデン封鎖作戦が実行された日である。 「姉さんは昨日から泊まり込みで仕事してるみたい」何も知らないセーラは、スカ ルバーユの真の目的に気付かないまま答えた。「あちこち飛び回ってるみたいだか ら。これだけシグが発達しても、人間がその場にいないといけない仕事って、なく ならないのねえ」 「ふうん。いつも大変だね。寂しい?」 「前はね。ちっちゃな子供だった頃はね」 「セーラは今でも子供だよ」 「ひっどーい!あたしはもう大人よ」 「そういうことにしておくよ」スカルバーユはにやにやしながら言った。 「今度、証拠見せてあげるからね」セーラは、ドナが聞いたらどきっとするような ことを口にした後、真顔になった。「今は、リチャードがいるから寂しくないよ」 「セーラ……」 セーラは目を閉じた。スカルバーユがテーブルに身を乗り出して、顔を近づけた とき、フラットの玄関のロックが外れる音が届いた。 「あ、姉さんだ」セーラはがっかりしたようにつぶやいた。 「ただいま」ドナが少し疲れた顔でリビングに入ってきた。「あら、リチャード、 いらっしゃい」 「お帰り、姉さん」セーラは手を伸ばしてドナを抱きしめた。「もう少し遅く帰っ て来てくれればよかったのに」 「あれ、お邪魔だった?」ドナはにやりと笑うと、スカルバーユを見た。 「い、いえ、とんでもありません。お仕事ご苦労さまです」 「リチャードったら、顔が赤くなってる」セーラがはしゃいだ。「かわいいでしょ う!」 ・・・・ 「やめなさい、セーラ」ドナが妹をたしなめた。「かわいいリチャードをからかっ ちゃ可哀そうよ。私にもお茶をちょうだいよ」 スカルバーユは情けなさそうな表情を作った。 「あなたたち姉妹には、魔女の血でも流れているんですか?」 ドナとセーラは、にたにたと意地の悪い魔女のように笑った。 ハーブティーが淹れなおされた。ドナも交えた楽しい四方山話の時間が続いた。 スカルバーユはタイミングを見計らって、切り出した。 「昨日、またテロがありましたね」 「ああ、4つのシティとの連絡が途絶えたやつね」セーラが応じた。「テロリスト って、一体何考えてるのかしら。楽しいのかしらねえ、人に迷惑ばかりかけて」 「被害に遭ったシティに、お知り合いでもいたの?」ドナが静かに訊いた。 「ええ、まあ。シティ・ドレスデンに」 スカルバーユはドレスデンという単語を口にするとき、さりげない表情の下から 最大限の注意をドナに向けていた。だが、ドナの表情は、こんなとき一般市民なら ば示す程度の関心しか浮かべていなかった。 「それはお気の毒ね」本当に気の毒そうな口調だった。「でも、心配されることは ないわ。すぐにコミュニケーションは回復するから」 「だといいんですがね」 「これは非公式に耳にしたんだけど」ドナは必要もないのに声をひそめた。「すで に、破壊活動を実行したテロリスト20名が逮捕され、シティ・カワサキと、シテ ィ・メンフィスとのコミュニケーションシステムは、ほぼ回復したそうよ。残りの 二つもすぐに回復すると思うわ」 「そうですか、ありがとうございます」スカルバーユは殊勝げに礼を言った。 「お友だち?」セーラが訊いた。 「うん。男だから心配しないでいいよ」 「何であたしが心配なんかするのよ」セーラは顔を赤くしながら、そっぽを向いた。 「どっちにせよ、姉さんがそう言うんだから大丈夫よ」 スカルバーユは内心でセーラに感謝しながら、次の矢を放った。 「移民局の方はどうですか?お忙しそうですけど」 「ええ。忙しいところよ」ドナは微笑んだ。「将来、政府関係の職に就くつもりな ら、移民局だけはお薦めできないわ」 「レヴュー9への移住計画はどうなってるの?」セーラが訊いた。 内心、小躍りしながら、スカルバーユはセーラを制した。 「ダメだよ、セーラ。公務員の人は、仕事の事を話せないんだから」 「でも、そろそろ移住計画が開始されるって、噂を聞いたわよ」 「どこで聞いたの?」 「ニュースグループのどれか」セーラは肩をすくめた。「どれかは忘れちゃった」 実のところ、その噂をセーラの目に止まるように流したのは、スカルバーユだっ た。 「うーん。まあ、それほど秘密ってわけじゃないのよ。詳しいことは話せないけど 最優先で準備は進められてるわ。ネイティブ・アンシアンとの交渉も含めてね。相 手は魔法を基盤にしている人たちだから、なかなかこっちの文明を理解してくれな いんだけど」 「移民の募集はいつごろの予定ですか?」 「そうね。1年以内には募集枠を設定できると思うわ。実際の移住開始は、2年後 というところかしら。移住したいの?リチャード」 「あたしも行きたいなあ」スカルバーユより早く、セーラが手を上げた。「姉さん のコネで、何とかしてよ」 「遊びに行くんじゃないのよ」 「わかってるわよ、そんなこと」 「ホロムービーみたいに、かっこいい開拓生活なんて望めないのよ。特に、第一世 代の移民は」 「そんなんじゃないわ」 セーラは少し躊躇ってから顔を上げた。真剣で悲しげな表情が浮かんでいる。 「本物の草や花や木が見たいの」セーラが静かな声で言う。「本物の太陽を見たい の。川の水に触ってみたいの。汚れていないきれいな夜空を見上げて星を数えてみ たいの。それだけなの……」 ドナとスカルバーユは沈黙してセーラを見つめた。いつのまにか細い頬には涙が 一筋流れていた。 「いつか行けるわよ、セーラ」ドナは妹の身体を抱きしめた。「私が連れていく。 約束するわ」 スカルバーユは黙って、二人を見守った。そして、どうしておれは、こんなに悲 しい気分になっているんだろう、と考えていた。 「ごめんなさい、リチャード」セーラは玄関でスカルバーユの手を握った。「なん か、湿っぽくなっちゃった」 「謝ることなんかないよ、セーラ。ぼくだって、同じこと考えてたんだから」 「ねえ、夕食ぐらい食べていってよ」 「ごめん。約束があるんだ。そんなに長居するつもりじゃなかったんだけど、つい 楽しくて」 「また来てね」 二人は軽いキスを交わした。 「もう別れを惜しむのは終わったかしら?」ドナが玄関に現れた。「ちょっとそこ までワインを買いに行って来るわ。すぐ戻るから、夕食の準備お願いね」 「サービスに頼めばいいのに」 「宅配サービスじゃ、扱ってない銘柄なのよ」ドナはスカルバーユを見た。「途中 まで一緒に行きましょうか、リチャード」 「はい、ドナ」 「姉さん、リチャードに手を出さないでね」 「わかってるわよ。じゃ、ちょっと行ってくるわ」 スカルバーユとドナは、とりとめのない話をしながら、ムービングロードを避け て、自分たちの足で歩いた。パークエリアに入ったとき、ドナが話題を変えた。 「セーラのことではあなたに感謝しているわ、リチャード」 「いえ、そんな感謝されるようなことはしていません」 「いいえ。あの子は、あなたと知り合ってから、すごく生き生きしてる。本人が自 覚していなくても、何のために生きているのかわからなくなっていたみたいだから。 私は何もしてやれなかったしね」 「…………」 「でも、それを差し引いても、他人にプライバシーを探られるのは気持ちのいいも のじゃないわね。そう思わない?」 あまりにも普通の口調だったので、スカルバーユは見事に虚を突かれた。 「あなた、何者なの?リチャード」
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