長編 #3647の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
5 時間はほとんど残されていなかった。フレンの警告が数秒でも遅れていたら、ケ ラーマンは上司の死体の目の前で、6人の男女と顔を合わせることになっていただ ろう。 フレンは6人の男女の身分については断言しなかった。 「おそらくポリスサービスマンだと思うけど……でも、ピンを送っても、シティ・ ポリスの識別子が返ってこないのよ」 彼らに見つからずにコンドミニアムから出るのが、ほとんど不可能だということ はすぐにわかった。そこでケラーマンはバスルームに駆け込んだ。 ケラーマンがドアを閉めた瞬間、開け放してあったエントランスドアの方から、 複数の足音が届いた。 プライバシーのためバスルーム内を映すカメラはないが、その逆は可能だった。 ケラーマンは音を立てないように、ホロモニターを操作して、コンドミニアム内の 映像をVVに転送した。 ついさっきまでいた、ホルツハウゼンのオフィスルームを映すと、ちょうど侵入 者たちがなだれこむところだった。ケラーマンは映像を拡大すると、侵入者たちを じっくりと観察した。 6人は黒いジャンプスーツを身につけ、気密ヘルメットをかぶっていた。どこに も所属を明らかにするマークなどはない。手にしているのは、ケラーマンが見たこ ともないような武器だった。火器というよりは、何かの計測装置のようだった。 「フレン?」 「見えるわ。あれを火器だって言ったのは訂正する。そうじゃないともいいきれな いけど」 侵入者たちは、ホルツハウゼンの崩れた死体を目にしても、それほど驚いた様子 を見せなかった。何を見ることになるのかについて、充分な予備知識を得ていたら しい。一人が小さなケースを取り出し、中から透明なシリンダーが3本くっついた ハンドガンのような器具を握った。ケラーマンは、その男が、器具の先端をホルツ ハウゼンの頭部に埋めるのを見た。 低い吸引音とともに、器具のシリンダーに赤黒い液体が満ちた。 「バイオ・アクセサーだわ」フレンが囁いた。「ポリスサービスの鑑識が使うやつ よ。その場でDNAマップを作成できるし、簡易分析もできる」 男はバイオ・アクセサーを引き抜くと、他の5人に頷いて後退した。5人が進み 出て、手にした奇妙な形の装置をホルツハウゼンに向けた。 次の瞬間、ケラーマンは危うく声を出すところだった。目も眩むような白熱した 光が飛び出し、ホルツハウゼンの死体に躍りかかったからだ。ようやくケラーマン は彼らが何を持っているのかを知った。HPGG----高出力粒子ビーム兵器である。 出力を上げれば、一個小隊でシティひとつを蒸発させることもできる。 フレンも同じことを考えたらしかった。 「人間が携帯できるぐらいの大きさのグレインガンを所有しているのは、統合軍だ けだわ。厳重に管理されているから、シンジケートには流れていないはずよ」 「つまり、あいつらは、統合軍兵士なのか?」 「わからない」フレンは慎重さを取り戻して断定を避けた。「でも、可能性は高い わ。きっと不正規戦闘部隊のどれかね」 「不正規戦闘部隊?」 「いわゆる特殊部隊ってやつよ」 ホルツハウゼンの死体は、わずか数秒で分子レベルにまで還元されてしまった。 侵入者たちは、血で汚れたシートまで蒸発させ、さらに周囲の床を念入りに焼き払 った。 一人が指で合図した。残りの5人は、足音ひとつ立てずに素早くドアの方へ戻っ ていった。合図をした男は、何かを探すように念入りに室内を見回していたが、や がてきびすを返すと、幽霊のように駆け去っていった。 しばらくしてからフレンが告げた。 「行ったわ」 「寿命が縮んだぜ」ケラーマンはバスユニットに座り込んだ。「ボスを殺しに来た わけじゃなさそうだな」 「そうね。死体を完全に焼却するのが目的だったようね」 「やはり、あれは未知のウィルスか何かが原因でああなるんじゃないのか?」 「それなら例のユーザの検屍で発見されていたはずよ」 「とにかく、ここを出なければ」ケラーマンは立ち上がった。 「オフィスに戻るのはやめた方がいいわ」 「なぜだ?」 「今、フルークマークの前に、さっきの奴らの仲間が20人以上到着したわ」フレ ンは冷静に告げた。「うちのセキュリティはあっさり突破されたわ。全ての出口は 封鎖されているわ。全員が手にグレインガンを持ってる。目的が何かはまだわから ないけど」 公認一級魔法使いオットー・クラウセンは、割れるような頭痛とともに、意識を 取り戻した。ぼやけた視界が鮮明になってくるにつれて、自分が立ったまま気絶し ていたことに気がつく。全身の筋肉が小刻みに震動しているようだった。許容量を はるかに越える魔法が逆流したからだ。 「一体、今のは……」 しわがれた声でオットーは呟いた。記憶にも混乱が生じているようだった。心を 静める簡単な呪文を唱えるのにすら、数秒を要した。 不意に右手が何かを握りしめていることに気付く。右手を持ち上げようとしたが 力が入らない。諦めて視線を落とす。 誰かの手を握っていた。落雷したかのように黒焦げになっている。肘から上はな くなっていた。 オットーは悲鳴をあげた。同時に全ての記憶が甦った。 握っているのは、さきほど助手として選んだ女子学生の手に違いなかった。右手 の地面を見ると、両眼をかっと見開き、苦悶の表情を浮かべた女子学生が仰向けに 倒れていた。衣服はほとんどちぎれ飛び、全身が被爆したような火傷で覆われてい る。一目見ただけで、絶命していることがわかった。 さらに周囲を見回すと、ドレスデン総合大学のグラウンドが、爆撃でも受けたよ うな有様になっているのが見える。魔法陣は完全に消滅し、その周囲を取り巻いて いた大勢の学生たちは、折り重なるように倒れていた。ほとんどの身体が焼けただ れているようだった。 何が起こったかは明白だった。ドレスデンの封鎖突破を試みたオットーに対して、 誰かが想像を絶するような魔法の力を叩きつけた。不意を突かれたオットーは、そ の力を吸収することができず、飽和状態の波紋がオットーを中心に周囲に放出され ることになった。 明らかに攻製の波紋だった。皮肉なことに、避雷針の役割を果たしたオットー自 身のダメージは少なくて済んだ。が、周囲の無防備な人々は、波紋に襲われ、身を 護る暇も逃げ出す間もなく焼き尽くされたのだ。 右手をゆっくりと開くと、半ば炭化していた女子学生の腕は、ぼろぼろに崩れな がら離れていった。 そのときオットーの心に警報が鳴り響いた。一瞬だが、誰かが心に触れるのを感 じたのだ。同じ感触を、オットーは以前にも感じたことがあった。統合軍技術開発 部の要請で、波紋探知装置のテストに参加したときである。 誰かが魔法使いを探しているのだ。その魔法使いがオットーであり、探索者がド レスデンを封鎖している者と同じであることは間違いない。 オットーは数本の髪の毛を抜き取った。そして、それらに波紋を流し込み、囮と してばらまくと、自分はできる限り波紋を抑制しつつ、反対の方向へ駆け出した。 フルークマーク・メディアラボは、4つの棟と1つのレクリエーションドームで 構成されている。VR産業は、常に産業スパイにつけ狙われているので、セキュリ ティシステムには、金を惜しむことがない。フルークマークのセキュリティは、物 理的にも電子的にも魔法的にも完璧に限りなく近いと言われるバークレイ製だった。 初期投資コストおよび年間維持コストを合わせると、シティ一つを丸々買い取れる ほどにもなる。 この日は、バークレイ・セキュリティ・システムが突破された最初の日となった。 何の前触れもなく、24人の男女が、4方向からフルークマークに突入した。全 員が黒のジャンプスーツとヘルメットで、手にグレインガンを持っている。 最初の一人が敷地内に侵入した瞬間、セキュリティシステムは、敵性の侵入者と 判断し、警戒レベルを最高に設定した。全社員に警報が発せられ、ポリスサービス にも緊急連絡が送られる。ただし、この日は、ドレスデン内のコミュニケーション は大混乱に陥っており、ポリスサービスは受信確認すらよこさなかった。 ----警報。警報。敷地内に武装集団の侵入を感知しました。全社員は、すみやかに 所定の避難エリアに退避して下さい。これは訓練ではありません。繰り返します。 これは訓練ではありません。 その時点で、フルークマーク内には、79人の人間がいた。 全ての防弾・耐熱・耐爆シャッターが降りた。火器管制システムが封印を解かれ、 侵入者を求めて猟犬のように情報を漁りはじめる。 先手を打てば、防御側を有利に導くことができたかもしれない。だが、火器の使 用は敵が発砲した後に許可される設定になっていた。侵入者たちはそれを知ってい た。 フルークマークに侵入した12秒後、彼らは一斉に発砲した。狙いは正確で、あ らかじめ計算されていた。第一射で対人レーザーキャノンの半分が消滅し、第二射 で残りの半分が消滅した。 ----屋外対人防御手段の97パーセントが失われました。 次に、侵入者たちは、社屋の外壁を攻撃した。外壁にも一通りの防御コーディン グが施してあったが、高出力粒子ビームは、それらを数秒で融解させた。 ----警告!警告!社屋内に侵入者を確認。屋内迎撃システムが活性化されます。社 員のみなさんは絶対に避難エリアから出ないように。 通路の天井から、対人レーザーの細い銃身が生えた。 だが、侵入者たちは順当に通路を進んではこなかった。彼らは壁を粒子ビームで 蒸発させると、ほとんど一直線にレクリエーションドームに向かっていた。ときお り、迎撃システムが彼らの姿を捉えたものの、攻撃する間もなく蒸発させられた。 まもなくセキュリティシステムは、侵入者たちの目的が何であるかを推測した。 セキュリティMIは、フルークマークMIにそれを伝えた。 ----フレン。こちらはセキュリティ。 ----状況は? ----侵入者は、まっすぐ君の場所に向かっている。 ----やはりね。時間は? ----今のペースで進めば、6分12秒から18秒で到達する。 ----迎撃手段は? ----ほとんど役に立っていない。 ----社員の被害は? ----9人が避難エリアごと蒸発させられた。 ----外部支援はどう? ----連絡がつかない。 ----ありがとう。阻止努力を続けて。 フルークマークMIは、ケラーマンとのコンタクトを最優先に設定した。 ----ケラーマン……
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