長編 #3632の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
しかしその期待は叶わなかった。 冬休みに入り、閉ざされた校門の前に紗紀は一人で立っている。 人気のない校舎を見つめていると、涙が出た。 そんなとき、後ろで人の気配がした。 「舞雪ちゃん」 期待して振り向いた分だけ、失望も大きい。 「あっ」 紗紀の顔には、誰もがはっきり分かるように落胆が出てしまった。けれどそれが 相手に対して、失礼であることに気づき、笑顔を作る。 「おはよう、田崎くん、結城くん」 「ごめんな………変に期待させちまったみたいで」 申し分けなさそうに、努は頭を掻いていた。 「ううん、わたしの方こそ……でも、どうして二人が学校に?」 「別に、先生に呼び出されたんじゃないぜ」 紗紀を元気づけるつもりだったのかも知れない。努は冗談を言って笑った。 「まあ、田崎くん一人なら、あり得るけどね」 そう言って仁史も笑った。 「たぶん、ぼくたちも紗紀ちゃんと一緒だよ………と言っても、ぼくは田崎くんに つき合わされたんだけどね。なんとなく春野さんと、会えそうな気がして」 仁史の言葉の後の、長い沈黙。 それによって、みんなまた自分たちの期待が空振りと終わったことを、改めて確 認しているようだった。 「直樹くん、手術成功したんだろう」 沈黙を破ったのは仁史だった。 「ええ、結城くんや、田崎くんのおかげよ。ありがとう」 「いや、おれたちは……」 「ぼくらは、なにもしていないよ」 努を制して、仁史が答えた。 「よかった、直樹くんの手術、成功したんだって?」 「そうだよ、おまえいまさらなに言ってんだ………えっ?」 突然割り込んできた、四人めの声。 努と仁史が、振り向く。 そして紗紀の目からは涙が落ちる。 失望の涙ではない。 悲しみの涙ではない。 喜びの涙。 「舞雪」 「春野さん」 「舞雪……ちゃん」 そこにいつもと変わらない笑顔の、舞雪がいた。 いきなり努が舞雪の頭を叩いた。 「いったー、女の子にいきなり、なにすんのよ」 この声だ、と紗紀は思った。 聞きたかったのは。 どこまでも明るい声。 ちょっと怒った声。 とても優しい声。 聞いているだけでとても元気になれる声 「ばかやろう、みんなに散々心配させやがって。いままでなにしてだんだ………」 めずらしく、努が鼻声になっている。 きっと紗紀に負けないくらい、努も舞雪を心配していたのだろう。 仁史は腕組みをして、泣いているようにも、笑っているようにも見える顔をして いた。 「ま…ゆき……ちゃん」 紗紀は足を踏み出した。 足下がふわふわと感じる。 歩いているという、実感がない。 これは夢なのかもと言う、不安。 紗紀に気づいて、努が前を空けてくれた。 舞雪の顔が正面から見えた。 「舞雪ちゃん」 足がよろけ、そのまま舞雪に飛び込んでしまう。 それを舞雪が受けとめてくれた。 「紗紀ちゃん、だいじょうぶ?」 舞雪の声。 舞雪の胸。 舞雪の腕。 舞雪の温もり。 間違いなく、舞雪はそこにいた。 夢じゃない。 「舞雪ちゃん、舞雪ちゃん、舞雪ちゃん、舞雪ちゃん、舞雪ちゃん」 ただその名を呼ぶだけで、精一杯だった。 涙が止まらない、止められない。 このまま、一生分の涙を流してしまってもいいと、紗紀は思った。 「ごめんね、紗紀ちゃん………ごめんね」 舞雪の手が、頭を撫でてくれた。 舞雪も泣いているのが分かった。 ぽんと、肩を叩かれて仁史は振り返った。 努が向こうに行こうと、手で合図をしていた。 頷き、二人はその場を後にした。 「おれ、ああ言う雰囲気って苦手なんだよ。まあ、あとは女の子どうしに任せてい いだろう」 舞雪たちからだいぶ離れて、努が言った。 その努の顔が紅いのを、仁史は見逃さない。 「ふふっ、そう言う田崎くんだって、春野さんの顔を見て、泣きそうになってたじゃ ないか」 「ば、ばか言うんじゃねぇよ。別におれはよお………」 「なにをむきなってるのかな、田崎くん」 からかえばからかうほど、面白いように努の顔が紅くなった。 それを見ていると、自然に頬の筋肉が緩み、仁史の顔はにやけてしまう。 「そう言う、おまえこそなあ」 「ぼくがなにか?」 「おまえ、いつから紗紀を『木崎さん』じゃなくて、名前で呼ぶようになったんだ」 「そ、それは」 言葉に詰まる。 やぶ蛇だった。 努の反撃に、今度は仁史の顔が紅くなってしまった。 「田崎くんの聞き違いだろう」 「いーや、たしかに『紗紀ちゃん』って呼んでたぞ」 「じゃあ………そう言う事にしておくよ」 「あ、開き直ったなあ」 「さあ」 努に攻め込まれる立場になって恥ずかしかったが、なぜか不快ではなかった。 「まあ、いいか」 素直にそう思えた。 「なにがいいんだよ」 「全てが………さ」 努は笑顔で答えた。 「ねぇ、舞雪ちゃん、踊り踊れる?」 「えっ」 紗紀の問いに、舞雪の鼓動が高まった。 あの時、雪を降らせるための舞いを紗紀に見られている。 その事は分かっていた。 紗紀の流してくれた涙は、その舞雪の姿を知った上でのものだと思う。 けれど改めて、自分の正体をさらしても紗紀は友だちでいてくれるのだろうか。 不安、いやさらに上の恐怖が鼓動を高め、頭に激しく血を送り込む。 頭がぼーっとする。 「うん、踊れるよ」 いまさらごまかすことは出来ない。 そこまで舞雪は器用ではなかった。 「踊ってみせて」 なにを思ってだろう。 紗紀の目は期待に輝いているように見える。 その様子に舞雪は少しだけ、安心した。 少なくとも舞い踊る舞雪の姿に、恐怖を感じているようではなかったから。 「いいわ、見てて」 瞳を閉じる。 心を静かに。 風を感じ、雲を感じ、土の匂いを感じ。 手を、足を、感じるままに動かす。 形は決まっていない。 感じるままに。 心の赴くままに。 「ふふっ」 笑い声が聞こえる。 気にはなったが、舞いを続けた。 「ふふふ、ふふふ、あははは」 笑い声は大きくなった。 雪も降ってはこない。 舞雪は踊るのをやめて、紗紀を見た。 紗紀は両手でお腹を押さえ、苦しそうに笑っていた。 「そんなに、おかしい?」 あまりにも予想外な、紗紀の反応。 なんだかとても恥ずかしいことをしていたような気になり、舞雪の頬は紅くなっ た。 「あはははっ、ご…ごめんなさい……ふふっ、わたしが頼んだのに」 すー、はー、すー、はー。 ゆっくり、大きく息をして、紗紀は息を整える。 ようやく笑いもおさまった。 「笑うなんてひどいよ、紗紀ちゃん」 頬を膨らませ、怒ってみせる。 もちろん、本気ではない。 「本当にごめんなさい………でも、やっぱり舞雪ちゃんらしくない、って言うか… ……あの、あんまり上手じゃないわね」 紗紀はそれが、とても嬉しいことのように話す。 「あーひっどおい」 「あ、でも、その………舞雪ちゃんの踊りが変だから、笑ったんじゃないの。あの ね、わたし、変なこと考えてた自分がおかしくて」 「変なことって?」 「昨日、いろいろ夢を見て………どこから夢で、どこからほんとうだか分からなく なってしまつたの………それでちょっと、それを知るために舞雪ちゃんに、踊って もらったの。ほんとうに、ごめんなさいね」 「それ、夢じゃないよ」 言わない方がいい。 夢だと言ってくれるのだから、そうした方がいい。 そうは思う。 けれど紗紀に嘘はつきたくない。 それで嫌われることになったとしても。 「ううん、夢でいいのよ」 紗紀は微笑んだ。 「でも……」 「それ以上は、言わないで」 紗紀の人差し指が、舞雪の唇へと充てられる。 「人には、いろいろ秘密があるもの。いくら友だち同士でもね。まして女の子だも の、秘密の一つや二つ、当然だと思うわ。でも、どんな秘密を持っていたって、わ たしたちはお友だちよ。わたしは舞雪ちゃんが、一番大切なお友だちだわ。それは、 これからもずっと変わらない」 「わたしだって、紗紀ちゃんは一番大切な友だちよ。だから、秘密を持つなんて出 来ない!」 それを聞いた紗紀は、またくすりと笑った。 「そうかしら?」 「えっ、どういう意味?」 「だって、舞雪ちゃん、田崎くんのこと、好きでしょ? それを秘密にしてるじゃ ない」 「な、な、なによ、それ」 声が裏がえってしまう。 唐突な紗紀の言葉。 「ばかなこと、言わないで」 「じゃあ、嫌い?」 「そ、それは………友だちとしては、いいやつだと思うけど」 「じゃあ、好きなんでしょ?」
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE