長編 #3630の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ぼく、手術受ける」 直樹の声に、努は我に返った。 みんなも同じようだ。惚けたほうに、周囲を見回したりしている。 奇妙なサンタクロースから手渡されたプレゼントを、直樹が開けた瞬間、煙が出 たように見えた。そして天井から、いくつもの金色の光の粒が降ってきた。 それから数秒間の記憶がない。 サンタクロースの姿は消え、窓も閉まっている。 直樹の手元には、プレゼントの包みも残っていない。 あれは夢だったのだろうか? 「先生、ぼく、手術受ける。元気になって、みんなと遊びたい」 まだ少し、苦しそうに息をしている直樹だったが、その言葉ははっきりとしてい た。そして力強い。 「直樹………」 お母さんが直樹の手を握りしめた。 「だいじょうぶだよ、お母さん。ぼく、絶対、元気になるから」 直樹は笑った。 それはお母さんを安心させるため、無理に作った笑顔ではない。自分の言葉に、 確信を持っての笑顔だ。 「そう、そうね………元気になるわ、絶対に」 「うん。だってぼく、舞雪お姉ちゃんと遊ぶ、約束したんだもん」 「舞雪ちゃん?」 「うん」 直樹は、しっかりとした様子で頷いた。 「よし、じゃあ直樹くん。がんばろう」 お医者さんの励ましの声。 直樹を乗せたストレッチャーは、病室の外へと運び出されて行く。 『舞雪?』 この騒ぎの中、忘れかけていた名前を努は思いだした。 直樹の手術は、間違いなく成功する。 努は確信した。 しかしそれと引き替えに、舞雪はもう帰ってこない………そんな気がする。 もしかすると、あのサンタクロースも舞雪と関係あるのかも知れない。 直樹のために、舞雪はどこか遠くへ行ってしまったのではないだろうか。 努にはそう思えた。 直樹に着いて、みんなも病室を出ていく。 仁史も、病室を出ようとした。 しかしまだ一人、動こうとしない紗紀に気が付き、足を止めた。 紗紀は窓のほうを見たまま、直樹たちが出て行ったことにも気づいていないよう だった。 「木崎さん、みんな手術室のほうへ行ったよ」 そっと声を掛ける。 「夢…じゃないよね?」 窓を向いたまま、紗紀が言った。 「えっ」 「サンタクロース、いたよね」 「ああ、ぼくも確かに見た。夢じゃない」 仁史は、それが自分の夢だったように思っていたが、どうやら紗紀も同じものを 見ていた。夢ではなかったのだ。 「あのサンタクロース、舞雪ちゃんが連れてきてくれたんだわ」 「春野さんが?」 「いたの……舞雪ちゃん」 震えている。 紗紀は泣いている。 後ろからでも、それがはっきりと分かった。 「春野さんがいたって? どこに? 田崎くんも知らせないと……」 「もう、いないわ」 紗紀が振り返った。 目に大粒の涙をためた紗紀が。 泣いている紗紀を見たのは、いまが初めてではない。 けれど、いいまでにない感覚が仁史を包み込んだ。 息が苦しい、締め付けられる。 なにか言いたい、声を掛けてやりたい。 なにも言えない、声が出ない。 「窓の外にね、サンタクロースの………へんてこなソリがあったの……その上に… 白い着物の、舞雪ちゃんがいた。踊ってたわ………舞雪ちゃんが踊ると…それに合 わせて、雪が降るの……舞雪ちゃんが、雪を降らせていたの。そしてね……わたし に気づいてね、正座したの。それから、にっこりと笑って言ったの………さような らって」 突然、紗紀が仁史の胸へ飛び込んできた。 その勢いに、後ろに倒れそうになるのを、仁史はかろうじて堪える。 紗紀は泣いている。 仁史の胸の中で。 紗紀の髪の香り。 紗紀の温もり。 紗紀の鼓動。 目眩がしそうだ。 心臓が破裂しそうなほどに、高鳴る。 こんなに近くで、女の子を感じたことはなかった。 そう、紗紀は女の子だ。 当たり前のことに、初めて気がついた。 「だいじょうぶだよ、紗紀ちゃん…あっ」 思わず紗紀を名前で呼び、そのことに狼狽える。 「どうして、どうしてだいじょうぶなの」 紗紀はそのことを、気にしてはいないようだ。 気づいていないのかも知れない。 しかし、ほっとしてはいられない。 根拠もなく、だいじょうぶと言ってしまった。 「だって、きっとそれは夢だよ。そう夢だ。サンタクロースも、春野さんも」 「結城くん、見たって言ったじゃない」 「いや、あるんだよ。こういうことって。ある緊迫した状態で……この場合、直樹 くんのことだけど……それで複数の人間が、同じ夢や幻覚を見るって。精神学では、 珍しいことではないらしいよ」 口から出任せを言った。 少しでも、紗紀を安心させてやりたかった。 「そうなの………」 「そうさ、だから春野さんは帰ってくるよ。あの、元気ものが居なくなるわけ、な いじゃん。ぼくが保証する」 なんの確信もない。 後でかえって、紗紀を傷つけてしまうかも知れない。 そう思うと胸が苦しい。 「だから、いまは………直樹くんのところへ、行こう」 「え、ええ」 紗紀が顔を上げ、仁史と目が合う。 一瞬、ほんの二、三秒の沈黙。 頬を赤らめ、飛び退くようにして紗紀は離れた。 「ご、ごめんなさい………わたしったら………」 耳たぶまで紅くした紗紀が、恥ずかしそうに謝った。 「いや、別に、謝らなくても………」 顔が熱い。 きっと自分も耳たぶまで紅くなっているのだろうと思った。 「そ、それより早く手術室へ行こうよ、紗紀ちゃん」 今度は意識して、紗紀を名前で呼んだ。 紗紀が頷くのを見て、仁史は手を取り、病室を出た。 キツネもタヌキも、ねぐらへ帰って行った。 朧車も、どこかに帰って行った。 古寺には舞雪と、天狗のサンタクロースから元の姿に戻った和尚さんの二人きり だった。 和尚さんは、火鉢の上でしゅうしゅうと湯気を立てる鉄瓶のお湯で、お茶を煎れ てくれた。 舞雪はふうふうと息を掛け、少し冷ましたお茶を飲む。 冷え切った身体に、熱いお茶が染み渡るようだ。 「失礼します」 声がして襖が開いた。 疾風さんだ。 襖の向こうから現れたのは、菱形の帽子を被りくちばしを持った人。そして鳥の 翼を持つ、カラス天狗。 それが舞雪の目の前で、疾風さんの姿に変わった。 静かに襖を閉めて、疾風さんは和尚さんになにか耳打ちをした。 「さて」 寺に戻ってから、初めて和尚さんが口を開いた。 「おまえさんの力、たしかに見せてもらった」 「はい」 和尚さんが目でなにか合図をすると、疾風さんが静かに部屋を出て行った。 また部屋は二人きりになる。 舞雪は正座をして、和尚さんの次の言葉を待った。 けれど和尚さんは、難しそうな顔をして黙っている。 重苦しい時間が流れていく。 「正直言って…」 ようやく和尚さんが、話しの続きを始めた。 「失望したよ」 「失望………した?」 「つまり、雪神としては失格と言うことじゃ。おまえ程度の力では、とても雪神は 務まらん」 和尚さんの声が、変わったような気がした。 とても怒っているようにも思える。 舞雪には、和尚さんの顔が天狗の顔と重なって見えた。 和尚さんの正体は、この辺り一帯を束ねる天狗なのだ。本気で怒った和尚さんが、 どれほどの力を持つのか、それを考えると舞雪の身体は震えてくる。 「それじゃあ…わたしは、どうなるんですか?」 「どうしたものかのう」 和尚さんの目が、舞雪の目を見据える。 怒ったお父さんより、もっと恐いその目から、舞雪は目をそらすことが出来ない。 緊張しきった身体が自由にならない。 「わしはおまえさんの頼みを、訊いてやった。じゃが、おまえさんは、わしの期待 には応えられなんだ。やはり、人の血の混じった者に期待するのは、無理じっゃた か」 「わたし、がんばりますから………一人前の雪神になるよう、一生懸命がんばるか ら」 もう、舞雪には帰るところはない。 紗紀に姿を見られてしまった。 舞雪が人でないことを、紗紀は知ってしまっただろう。 雪神として生きる以外、舞雪の居るべき場所はない。 「雪神の力と言うものはな、人の技術とは違うのじゃよ。修練して、身に付くもの ではない。持って生まれたものじゃ。おまえさんの力、これ以上には決してならん」 舞雪は、全ての場所を失ってしまったことを知った。 「わたし、殺されるんですか?」 舞雪の本当の父親だった男の人を森の木に変え、雪神のお腹の中の舞雪をも殺そ うとしていたのだ。役に立たないと知れば、舞雪の命を奪うことなど躊躇いもない だろう。 けれどもう、恐くはなかった。 生きる場所を失ってしまったのだから。 ただ悲しかった。 人として生きることを道を失い、雪神として生きることも叶わない。 不要な存在として、死ぬことが悲しかった。 一つだけ、気になることがあった。 せめてそのことだけでも、知ってから死にたい。舞雪はそう思った。 「あの、最後に一つだけお願いが………」 そう言いかけたとき。 「持って参りました」 そう声がして、疾風さんが戻ってきた。 手には綺麗にたたまれた、オレンジ色のコート。 「あの子どもの、手術とやらの結果が、気になるかね?」 和尚さんは、そう言いながら疾風さんからコートを受け取った。そしてそれを舞 雪の前に、そっと置いた。 「?」 それがどう言う意味か分からず、舞雪は和尚さんの顔を見つめた。そこには、ま た優しくなった和尚さんの顔。
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