長編 #3627の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「その赤ちゃんが、わたし………なんですね」 舞雪の言葉に、和尚さんは頷いた。 「思った通り、その子はここに戻って来た。じゃが、前例のないこと故、おまえさ んがどれほど雪神としての力を持っているか分からん。わしがおまえさんの望みき いてやる代わり、おまえさんの力も見せてもらう。なに、ほわいとくりすますと言 うのを、演出してくれればよい」 「はい」 「が……一度は殺そうとしていた赤子が、いまこうしてわしの前戻ってきている。 そして、わしはその子の力に期待をしている。縁とは不思議なものじゃのう」 和尚さんは、さも愉快そうに笑った。 「和尚さま、支度出来ました」 襖越しに、疾風さんの声がした。 「なんか、ちょっとおかしいみたいだけど………」 用意されたソリを見て、舞雪は首をひねった。 いや、それはソリではない、車だ。大きな車輪が付いている。 「これ、歴史の教科書で見たこと有るけど………昔の偉い人が、乗ってたやつでしょ ?」 ギッシャ 「よくご存じですね、牛車と呼ばれていたものです」 疾風さんが説明してくれた。 「だめ、なの、か」 それは、その場にいる三人以外の声だった。 「えっ」 舞雪は疾風さん、そして和尚さんの顔を見た。二人とも笑っている。 「俺では、だめか?」 今度は牛車の方を見てみた。 車の後ろに大きな顔が浮かび上がり、それが喋っていたのだ。 「えっ?」 舞雪は目を見開き、瞬きを繰り返した。 オボログルマ 「彼は、朧車という物の怪ですが………彼でだめなら、あとは全体が炎に包まれて いるのとか、そんなのになりますが」 疾風さんは笑顔でそう言った。 なにも妖怪でなくて、普通のソリを用意してくれればいいのに、と舞雪は思った が仕方ない。いまから用意してもらっていては、いつになるか分からない。それに 遠目でみれば、これでもなんとか恰好はつくだろう。 「いいえ、朧さんでいいわ。あとは、トナカイだけど………」 「それなら」 手を挙げて疾風さんが合図をすると、茂みからキツネとタヌキが二匹ずつ、現れ た。よほど歳をとっているのだろうか。どれも動物園で見た物より、倍ぐらいの大 きさがあった。 キツネとタヌキは車の前に、二列に並ぶと、くるんと宙返りをする。するとそこ には四頭の立派なトナカイが現れた。 「わあ、すごい! キツネとタヌキが化けるって、本当だったのね」 「では、参るとするかな」 和尚さん、いや、いまはサンタクロース。が、御者の席に座り、手綱を握った。 「あ、待って」 慌てて舞雪も、車の屋根にぽんと飛び乗る。 「行ってらっしゃいませ」 疾風さんが、サンタクロースに何か手渡した。大きなかえでの葉っぱ。 「いざ、参る」 サンタクロースは、かえでの葉を高々と挙げた。 前方に、ぽつ、ぽつ、と二列に明かりが灯る。飛行機を誘導するライトのように。 あの明かりの一つ一つが小さな炎の妖怪なのだ。 トナカイたちが「ヒヒーン」といななき、車はゆっくりと光の道を進み出す。 「ちょっと、ひひんって馬じゃないんだよ」 苦笑しながら、舞雪は言った。 「飛ぶぞ!」 サンタクロースの声。それはいままでの優しげな、老人の声ではなかった。威厳 に満ちた声。 一瞬、舞雪は体が重たくなるのを感じた。次ぎに、ふわっと軽くなる。 「それ、下を見てみい」 言われたとおりにしてみると……… 眼下に見える森、遠くに街の明かり。 舞雪たちはいま、空にいた。 「わあっ」 思わず感嘆の声が出た。 「どうじゃ、空を飛ぶのは初めてじゃろう? 恐くないか」 舞雪を振り返ったサンタクロースの顔は、真っ赤だった。 顔の色だけではなかった。サンタクロースの顔そのものが、先程とはまるで違う 物になっていた。 細くていつも笑っているように見えた目は、大きくぎろっとした物に。 なによりも鼻が………太く長く変わった。 「恐くない、なんだか、とってもわくわくするわ。天狗のサンタクロースさん」 「さすが雪神の子、と言いたいところだが、おまえさんの力量を見せてもらうは、 これからじゃぞ」 「ええ」 奇妙なサンタクロースたちは、一路、直樹の病院を目指して飛んだ。 「ほほっ、メリークリスマス。仁史くん」 道の曲がり角から、突然現れたサンタクロース。仁史は、呆れ顔でそれを見つめ る。 「あのさあ………なんのつもりだよ、田崎くん」 「あれ? 分かっちまったか?」 帽子をとり、ヒゲを外すと、努の顔が現れる。 「どこで用意したんだよ、そんなもの」 「演劇クラブのヤツに借りたんだけど、だめかなあ」 努は首をひねった。 「だめもなにも………それで直樹くんを喜ばすつもりだろうけど、ばればれだよ」 仁史は手に持っていた物を、気づかれないように、そっと後ろに隠した。 「だいたい、お医者さん………大人の人が変装してだめだったのに、小学生の田崎 くんなら、なおさらだめに決まってるじゃない。やっぱり、学校の成績どおり、あ んまり頭、よくないね」 「この野郎」 努は拳を握って見せた。しかし、すぐにそれを降ろした。 「ま、もっともだけどな。ところで、おまえ、こんなところでなにしてたんだ?」 「べつに……さ、散歩してただけだよ」 いきなり、努は仁史の腕をつかみ、それを前に引っ張った。 「あっ」 仁史の手に握られたものが、こと、と下に落ちた。 「ば、ばか。壊れたらどうするんだよ」 慌てて仁史が拾う。 リボンの掛けられた、小さな包み。「直樹くんへ」と書かれた、カードが添えら れていた。 「なんだ、おまえも直樹くんに、プレゼントか」 努が笑う。 「た、たまたま今夜、うちで開くはずのパーティが………パ、パパの仕事で明日に 延期になって。そう、それで余ったプレゼントを捨てるのも、もったいないと思っ て。ぼくは、木崎さんの家族なんて………その、どうでもいいって言うか………で も、他に思いつかなかっただけで……」 しどろもどろの仁史。 「なんか、おまえの言ってること、おかしくないか? 腐るもんでもあるまいし、 延期になったってそのプレゼント、まだ使えるだろう」 意地悪く努が言う。 「く、腐る…そう、腐るもんなんだ」 「おい、食べ物はまずいだろ。直樹くんは病気なんだぜ? 病院で出されるもの以 外、勝手に食べられないんじゃないか?」 「た、食べ物じゃないよ」 「ふーん、まあ、いいか」 どちらが促すでもなく、二人は並んで歩き始めた。病院に向かって。 「こんなことで、直樹くんの力になれるなんて、思ってないけどな」 「うん」 「けど、おれには、これくらいしか出来ねぇし」 「ぼくも、だよ」 「やっぱ、紗紀にも元気になって欲しいしよ」 「ああ」 仁史もそう思った。 どうしてだろう、紗紀に対する憎しみは、もうない。 いや、もともと憎んでなんかいなかった。 憎んでいると、思い込んでいただけなのかも知れない。 思い込むことで、いまの自分を、自分の家族を優位に感じたかったのかも知れな い。 「けど………」 足下に落ちていた空き缶を、努が蹴った。 からんからんと、けたたましい音を立てて、空き缶は転がって行った。 「舞雪のやつ、どこに行っちまったんだ。あいつくらいだろ、紗紀や直樹くんを元 気づけてやれるのは………その舞雪が、こんな大事な時によ。みろ、紗紀のやつ、 落ち込んでたじゃねぇか。直樹くんのことだけだって、つぶれそうなのによぉ。ば か舞雪が!」 『つぶれそうなのは、田崎くんじゃないのか?』 心の中で、仁史は呟く。 本当は、紗紀や直樹のことより、舞雪の事が心配なんだろう? 仁史にはそう思えた。 ついさっきまで、思いつく全ての場所を努が探していたことを知っている。 きっとこうしているいまだって、まだどこかを探したいと思っているはずだ。 でももう思いつく場所がない。 それにもし舞雪がここにいたとしたら、紗紀や直樹の力になりたいと願うだろう。 だから努は舞雪のことを、おじさんたちにまかせ、直樹のところに行こうとして いるのだろう。 『田崎くん、春野さんのこと、好きなんだろ』 努に聞こえないように、呟いた。 「お、おい」 震えるような努の声に、仁史は顔を上げた。 「え?」 「あれ、なんに見える」 そう言って、努の指が空を指す。仁史はその指さす方向に、視線を送った。 「ええ? なんだ、あれは??」 なにかが飛んでいる。 なにかは、よく分からないが赤い光に囲まれたものが、こちらのほうへと飛んで くる。「サンタクロース!」 叫ぶように、努が言った。 「でも、へんだよ、あれは!」 炎の玉たちに包まれた、奇妙なソリを操るサンタクロース。奇妙なのはソリばか りではなかった。それを操るサンタクロースは、真っ赤な顔に太く長い鼻を持って いた。 「赤鼻のトナカイってのは、あるけど…」 ソリが真上を通過し、二人は顔を上げた。その顔に、幾ひらもの冷たい物が、降 りかかった。 「雪だ! 雪が降ってきた」 高い高い空の彼方から、舞い降りる白いかけら。 いくひらも、いくひらも。 見つめていると、夜空に吸い込まれそうになる。 「そ、それよりいまのソリの上、女の子が乗っていなかった?」 はっと、我に返って仁史は言った。 「あ、ああ………あれは、舞雪だ」 二人は顔を見合わせ、頷いた。 後は、なにも言わず走り出した。 ソリの飛んでいった方向、病院へと。 走りながら、仁史はがさっと言う物を聞き、ちらりと後ろを振り返った。走りな がらだったので、はっきりとは分からなかったが、物陰から何かが飛んでいくのが 見えた。 「た、田崎くん」 「なんだ」 どちらも足は止めない。 「なにか、と、んだ」 走りながら話すと、余計に息が苦しかった。 「なにか、って、なに、が?」 「わ、分からない…けど、人、みたい………羽の生えた人……天使、かも」 「そりゃあ、サンタがいれば…天使がいて、も、いいだろう。それより、急ぐ、ぞ」 雪が目に入って、走りにくかった。 それでも仁史は、これまでで一番速く自分が走っているように感じた。
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