長編 #3514の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「準備が進められたと、そう言いましたね? 実際の捜索は?」 「警察による捜索が始まる寸前に、女の子の遺体が見つかったのですよ。湖を 封鎖して浚う予定だったのがなくなり、商売という意味では打撃が少なくて済 んだようですな」 「湖の中は、捜索されてなかったんですか。知らなかった。あ、じゃあ、警察 が動く前に有山さんを捜した人達がいたんですね?」 「大宮家の人達ですよ。正確を期せば、大宮家の命により、何人かの人間が動 員されたと、こうなります。丸二日かかって発見できそうにない状況だったの で、いよいよ警察がというときになり、見つかったのです」 「ぎりぎりだったんですね……」 応じながら、違和感を覚える菊池だった。 「有山さんの遺体の確認は、誰がされたんですか?」 「いや、そこまでは聞き及んでないが……当然、親御さんであろう。女の子は 家族と共に、ペンションに泊まりに来ていたという話でしたからな」 「焼死体の確認は、難しいと思うんですが」 「それについては、おっしゃる通りだったようですなあ。遺体の側に落ちてい た何かが−−そうだ、帽子でした。帽子がその子の物だと判明したので、本人 に間違いなかろうとなった。こんないきさつだったはず」 「帽子ですか……。当時の警察の結論が正しいとして、有山さんは暴行されて いたんですよね。夜、帽子を被っての外出も少し変ですが、暴行を受けたらき っと帽子は脱げ落ちると思うんです。そのあと、帽子を忘れずに拾い、自殺す るためにさまようのはおかしい感じがするんですが」 「ははあ、なかなか鋭いことをおっしゃる」 かかかと、初めて快活な笑い声を立てた住職。 「ですがな、それ以上に妙な話が持ち上がったものだから、菊池さんのおっし ゃる子細な点は放逐されたのでしょうな」 「妙な話と言いますと」 「その子の親御さん……母親でしたかな。こう言い出しましてな。行方が分か らなくなった当日、娘は帽子を被らずに外に出た。帽子はペンションの部屋に あったはずだ、と」 「……それはまた、おかしな話ですね」 息を飲んでから、菊池はゆっくりと答えた。 山地の方は、何故か得意げな顔つきになっていた。 「不可思議な点が多々あったにも関わらず、大宮開発は全て丸め込んで収めて しまうのだから、その力は、あなたのおっしゃるように、恐ろしくも強大です な。いやはや、口が過ぎたようですわい。拙僧が知っておるのは、この程度の ことですが、役立ちましょうかな?」 「ええ、恐らく」 礼を言ってから、菊池は深く息をついた。 菊池は再び、中村を訪ねた。 まず、有山の帽子の一件について、確認しておく。 「ああ、そう言えば、そんな話もあった。母親の勘違いだろうと、簡単に片付 けられてたから、俺も忘れていたよ。ついでに、名前、有山って言うのもやっ と思い出した」 「じゃあ、事実なんだな。そんな話が上がったのは」 「ああ。また不審点が加わったってところかな、おまえにとっちゃ」 「異常に思えてきたよ」 中村の言葉には応じず、感想を述べる菊池。 「何が異常だって?」 「この街の連中みんなが」 「おいおい、それだと俺も異常者か」 冗談のように返す中村だったが、その表情は笑っていなかった。 「だってそうじゃないか。僕だったら、大宮家のような得体の知れない、力を 持った存在は敬遠する。ホテルも、今日中に出るつもりだ」 「中に入っちまえば、そこそこ居心地いいんだがな」 自嘲気味に言う中村。その視線が、窓の外に移されたようだ。 「我慢できるのは、この自然のおかげかもしれんな。半分は造り物だが、この 眺めがなけりゃ、俺も、とっくにおかしくなっていたに違いない。そんときは、 湖に飛び込んで」 「あ、そうだ。湖での純粋な事故は、これまでになかったのかい?」 「言っただろ。ここらで事故らしい事故は、一年前の自殺と、今度の事故死ぐ らいさ。オープンして二年で、もしもそんなに水難事故が発生しちゃあ、本当 に観光地として危ないぜ」 「つまり、湖に潜った人は、いないんだね」 「潜る必要がなかったからな」 当たり前だと言いたげに、中村は口を尖らせた。 「人造湖の水底を調べる奴なんかいるはずないし、人が溺れたこともなかった。 もっとも、さっきおまえが言った一年前のあれは、女子高生−−有山って子が 行方不明だってことで、もう少しで湖を浚う話になっていたがな」 「なあ、中村」 口調を改める菊池。 「思うんだが、大宮家の人間が事件を穏便に済ませたがるのは、観光地のイメ ージダウンを避けるためじゃなく−−いや、それもあるかもしれないが、それ 以上に、湖の中を見られたくないからじゃないのか」 「見られたくないとは、どういう意味だ?」 「潜ったり、水位を極端に減らしたりは、絶対にさせたくないんじゃないかっ てことだよ。君自身、いくら農家から頼まれたって、絶対に水を放流するなと 厳命されているんだろう?」 「確かにそうだが」 「一年前の事件も、湖を浚われるのを恐れたから、大宮家は警察に介入したん じゃないか。湖を浚う前に有山さんが見つかってくれなきゃ、困ってしまうん だよ。だから、タイミングよく、焼死体で彼女は発見された」 「おまえの言い方だと」 言葉を選ぼうとしているのか、きょろきょろと上目遣いをする中村。やがて 絞り出すように言った。 「大宮家にとっては大変運のいいことに、湖に捜索の目が向けられる寸前に、 有山の遺体が見つかったと」 「違うよ。大宮家の手で殺されたんだ」 「馬鹿な」 中村は鼻で笑った。 「よく考えて、物を言え。殺されたと言うからには、大宮の者は有山が生きて いる状態のとき、見つけたということだろう? その子が生きていたのなら、 万々歳じゃないか。わざわざ焼き殺してから発見させる必要は、どこにもない」 「有山さんは結局、見つからなかったんじゃないか。そして、大宮家は身代わ りを用意した」 「……」 「身代わりの子は、有山礼子さんによく似た体格で、できれば血液型も一致し ているのが望ましい。時間があれば、東京かどこかの大都会の中から見つけ出 し、L高原へ連れて来るのは、不可能ではないだろう。実際、大宮家には二日 間の余裕があったそうじゃないか」 「大胆不敵にも程がある仮説だな」 菊池を呆れたような目線を向けてきた中村。 当の菊池はしかし、話す内に自信を深めていく。 「帽子は、ペンションの部屋から、こっそり持ち出せばいい。身体を焼くのに 使われた燃料だって、同じだ。ボートの管理小屋の鍵も、大宮家は自由に扱え るんだろう。睦吉の死については、改めて言葉にするまでもないと思うが」 「分かった。分かったよ」 降参とばかり、中村は軽く目を閉じ、お手上げのポーズをする。 「細々とした不審な点を埋めるには、大宮家のせいにすればすっきりするのは、 分かった。だがな、菊池。そんな無茶な主張をするからには、証拠がいるぜ。 それからもう一つ。動機の説明もだ。そこまでして、湖の底を見られないよう にするからには、相当な動機があるはずだ」 「証拠はまだ掴んでいないが、動機−−湖を浚われたくない理由なら、一つの 推測があるんだ。何かを隠しているんじゃないかとね」 「隠す……沈めたってことか?」 「沈めたのかもしれないし、埋めたのかもしれない……。キーとなる事象は二 つ。去年の春に完成したばかりの人造湖。屋敷の水を別個に購入。これらにプ ラスして、もう二つ。大宮真理子の帰国した期日。その真理子をたった一人で 迎えに行った幸一郎の、現在の地位。これらを組み合わせると、一つの絵が浮 かび上がって来るんだが……想像に過ぎない。だが、事実であれば動機となり 得るし、その確認も実に簡単なんだ。その確認の前に、君に尋ねたいことがあ ってさ」 不意に砕けた口調に戻し、菊池は軽く首を傾けながら、中村を見た。 「な、何だ。改まって」 「大宮真理子は昨春に帰国するまで、ずっとアメリカ暮らしだったのかな? つまり、大宮次貴さんと知り合ってから以降の話だけど」 「そうだろうな。次貴氏が参ってしまった女性とはどんな美人なのか、その容 姿についてあれこれと推測が飛んでたね。写真一つ、情報として入ってこなか ったんだからな。想像だけが膨らんで、えらい美人に仕立てちまってた。ま、 実物もそこそこきれいだったから、よかったようなものの」 「なるほどね。後ろ姿の美人画って訳だ。ついでに聞くけど、次貴さんて人は、 愛妻家だったのかなあ?」 「愛妻家の部類に入るだろうな。ビジネスと家庭とをきっちり分ける人だった みたいだから、単身帰国もすんなり受け入れたんだろう」 「それでも、写真の一枚ぐらい、手帳に忍ばせるなんてことは……」 「なかったんじゃないか? 当時、次貴氏が写真を持ってるぐらいなら、社員 の間での噂話に、それらしい情報が混じっていいはずだ。だが、実際はなかっ た」 「ふうん」 菊池は合点が行って、大きくうなずいた。 (刑事に考えを聞いてもらって、確認させなきゃな) −−続く
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