長編 #3495の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
うねっているのをシェラは見た。 亀裂はかわききった泥土がはげ落ちるようにしてつぎつぎに砕け落ちながら、螺旋 の軌道にそうようにして移動をつづけた。 湖の上空に、さしかかっている。このまま移動しつづければ、その焦点は―― 小島の“祭壇”だ。 「ダルガ!」 叫びながら追ってはしり――湖の直前でためらってたたらをふみかけた。 そして目を見はる。 満々とたたえられていた青い粘液質の水が、干上がるようにしてほとんど枯れかけ ていた。 ――ようやく 闇の奥底で、地獄に通じるどこかから、それはうめくようにして口にした。 傲慢にガレンヴァールを嘲弄した少女の声音では、だんじてなかった。 ――ようやくとどいたぞ。 深い、地鳴りのようなひびきのその声音が、歓喜をにじませてそういった。 ――力があふれるようだ。 そして何かが、巨大にゆらめく気配。 恐怖にかられて邪法師は、よろよろと無意識のまま後退していた。 「あ……まさか……」 うごめく暗黒の存在が、まるでマグマが地中から噴き出すようにして膨れあがって いく気配をまざまざと感じながら、無意識のまま呆然とつぶやく。 「転生魔道……?」 だれか見知らぬひとがうめいてでもいるようにおのれのつぶやきを耳にしながら、 ガレンヴァールは、うごめく存在が肯定するように歓喜の哄笑を放つのをたしかにき いた。 「あ……あ、父様」 暗闇の奥でその小さなからだを身もだえさせながら、少女が恍惚と口にした。 ――還ってきた。 あふれ出る歓喜を爆発させるようにして、それは宣告した。 切り刻みつづける疲弊も切り刻まれる恍惚もおきざりにして、アリユスとレブラス はひとしなみに呆然と、同じ方角に視線を向けていた。 その先では、やはり闘争を中断したマラクとシャダーイルが同様に呆然とした視線 を、同じ線上にのせている。 その先――そそり立つ石柱の内部に、異様な気配がみちあふれていた。 「遊んでいる場合じゃないわね、レブラス」 その異様な存在に視線をすえたまま、アリユスは背中ごしに妖魔に向けて呼びかけ た。 肉塊はこたえず、痴呆のように思考も感覚も根こそぎ奪われた視線を、石柱に向け ているだけだった。 はじける。 大音声。閃光。暗黒。腐臭。衝撃。 噴出した混沌がそこにいる者すべての意識を嵐のように擾乱し―― そそり立つ岩柱に、稲光のようにして縦一文字の亀裂がはしりぬけた。 左右に、裂けて崩れる。 その底から――暗黒が噴き出した。 暗黒の魔形が。 ずしゅうううと、無骨な動力機関が黒煙を吐きあげるようにして、翼をひらくごと く左右に大きく暗黒はひろがり―― ひらかれた闇の花道に、ひとつの小さな影が、はいだした。 どす黒い血にまみれたその小さな影は――赤ん坊だった。 四つん這いで不器用にその小さなからだを運びながら、そのつぶらで邪気のない瞳 で、おのれが生まれでた世界を感動にみちてながめやりでもするかのように、ゆっく りと睥睨する。 そのさくらんぼのような小さな口もとに――笑いがきざまれた。 天使のような笑顔であった。 そして赤子は、笑いながら――口にした。 「還ってきた」 歓喜の声音は、天使の歌声のようにすずやかに、洞内にひびきわたった。 呼応するように、赤子の周囲をつつんだ暗黒がゆらめいた。 「サドラ……」 アリユスが呆然とつぶやき―― かぶせるようにして、三匹の魔が異口同音に口にした。 「おお、ヴァラヒダ!」 と。 転生魔道。 死界を経ることによって超越を手に入れる、究極の黒魔道である。 それを媒介にして、サドラ・ヴァラヒダが最凶の形で、その復活をはたしたのであ る。 33 妖魔王暴虐 く、とうめき、アリユスはちらりとシェラのたたずむ方角に視線を向けた。 目にとめた亀裂は崩れてその彼方から混沌が顔をのぞかせていたが、いまだ第四の 妖魔も救世主の姿もそこには見あたらない。 唇をかんでひとり、はしりだした。 レブラスにも、マラクやシャダーイルにもわずらわされぬよう距離をとってゆらめ く暗黒をしたがえた赤ん坊に正対し、かたひざをついて身がまえる。 赤子のあどけない天使の瞳が、真正面から魔道士を見つめた。 微笑んだ。 春の陽射しが降りそそいできそうな微笑みであった。 闘志が、その微笑みに吸われていくように錯覚し、アリユスはつよく唇をかむ。 その端から、真紅の筋がたらりとしたたった。 「サドラ・ヴァラヒダ……ユスフェラの死の元凶!」 おのれをはげますように口にして、すばやく印形を組みかえる。 大気を裂いて、かまいたちが疾走した。 ぱん、ぱん、と、四つん這いで顔をあげた赤ん坊の両側面で爆発の煙があがった。 嘲弄するように、暗黒にのまれていく。 「く」 と、アリユスはうめいた。 はずすつもりはなかった。 それがみごとに左右にはじけたのは――無意識が魔力の影響をうけているからだ、 と感得していた。 左右に噴き上がった炎を見て、赤ん坊は無邪気そうに、だあ、ともみじのような手 をたたいて笑った。 「愚弄するな、サドラ・ヴァラヒダ!」 アリユスはむりやり怒りをかき立てて叫んだ。 つぶらな瞳が、くもりのない凝視でこたえる。 世界にむけて、おまえがそれほど美しいのはなぜかと賞賛とともに問いかける視線 であった。 唇の端にたまった血を、アリユスはかたまりにしてべっとかたわらに吐き捨てた。 「冗談じゃないわ」 ひとりごち、氷の視線を赤ん坊の顔上に固定した。 「サドラ・ヴァラヒダ!」 なかば悲鳴のように、叫んだ。 だあ、と、赤子は微笑みながらたどたどしく両手をあげた。 「サドラ・ヴァラヒダ! イア・イア・トオラの名にかけて“風の槍”に打たれよ!」 叫び、印形とともに気合いを打ちだした。 白い閃光が――赤ん坊の顔面にむかって一直線に疾走した。 悲鳴が心中にひびきわたる。 自分自身のあげる、悲鳴だった。 思わず、目をとじて顔をそむけてしまいそうになる。 奥歯をかみしめ、凝視した。 妖魔の顔面に、風の槍がえぐりこむのを。 それが―― パン、と、はじけるような音とともに四散した。 ――赤ん坊のもみじのような手のひらの前で。 かわいらしい声を立てて、赤ん坊は笑った。 そして――天使の声音で、言葉を発した。 「なんのためにわたしは転生したのだと思う?」 と。 アリユスは、唇をかんだ。 そのとおりだった。 転生魔道は、おのれをより高いレベルの存在と化さしめるためにおこなう呪術であ る。 “風の槍”が抗すべくはずもなかった。 赤子は――転生した妖魔王、サドラ・ヴァラヒダは――声を立てて笑った。 無邪気な赤子の笑い声に重なるようにして――まるで幻聴のようにおぼろに、どこ か遠いところから、不気味な底ひびく地獄の邪鬼のごとき哄笑がひびきわたった。 ゆらめく黒い巨影が、その異様な笑い声がひびくたびに力を得るようにしてひろが っていく。 そして異妖の存在はふいに、笑いやめた。 つぶらな瞳に猛悪な邪気をこめて、四囲を見まわす。 「ある」 そして、つぶやくようにしていった。 「ある。あるぞ。どこかすぐ近くだ。求めていたものが、すぐ近くまでやってきてい る。――どこだ?」 ぎくりとしながらアリユスは、おのれの胸に――珠をしのばせた懐中に思わず手を やりそうになるのを、かろうじて自制していた。 それには気づかず、妖魔王はもどかしげに首をめぐらせていたが、癇癪を起こした ようにその小さな足で地面を蹴りつけた。 同時に―― 地下世界が、まるで蹴りつけられた衝撃に悲鳴をあげて身をよじらすようにして「 「轟音を立てて震動した。 ほんの一瞬のことにすぎなかった。 それでも、いましも壁が崩れてすべてが瓦礫の底にうずもれてしまいそうなほどの 衝撃力を、その震動はともなっていた。 アリユスばかりか、なりゆきを見守っていた三匹の妖魔までもが恐怖にごくりと喉 を鳴らした。 「見えぬ」 そのような存在の動揺になど気づきもせぬ、とでもいいたげに赤子の姿をした妖魔 王は、うめくようにして口にした。 その声も、幼子の無邪気な歓声に重なるようにして、異様な悪夢のひびきを底ひび かせていた。 「見えぬ。ここまでたどりついていながら、まだ見えぬのか。すぐ近くにあるはずだ というのに」 ため息をついた。 ごう、と、蒸気のように暗黒の霧が吹きだした。 その口もとに笑いをきざむ。 もはやそれは、天使の笑いではなかった。 地獄からの帰還者にふさわしい、猛悪にしておぞましき妖魔王の笑いそのものであ った。 そして、ぎろりと視線をはしらせる。 ――三匹の妖魔に向けて。 「おまえたち――レブラス」 告げるその声もまた、天使の歌声から化物のうなり声へと移りかけていた。 肉塊の妖魔にその悪夢の凝視をすえ、暗黒の息を蒸気のように吹き出しながら笑っ た。 「レブラス。おまえだ」 短く無造作に告げて――きょとんと見返す造作のくずれた妖魔に向けて、赤子は翼 をひろげるようにして両手をひろげてみせた。 同時に、背後にひろがる暗黒が――くちばしに獲物をくわえこむ猛禽のように、赤 ん坊の小さなからだをくわえこんだ。 ふわりとうきあがる。 影にささえられて赤ん坊は、宙をすべるようにして移動した。 移動するさきは、レブラスがたたずむ洞廊の前。 高い高いをされて歓喜する幼子のように笑いながらサドラ・ヴァラヒダは滑空し、 赤黒い肉瘤を盛り上げたかのような巨体の前に魔鳥のごとく降り立った。 はいはいの姿勢で、たたずむ化物をにらみあげた。 すると、幼児をここまで運ぶ形をとっていた背後の暗黒が、その翼をのばすように、 ぬう、とレブラスめがけておどりかかった。 逃げるべきか受け入れるべきか判断がつかぬままレブラスはあっという間に暗黒に のみこまれ―― 腐臭を放つその手足をばたつかせながら、宙につるしあげられる。 赤ん坊の姿をした、死界からの帰還者の頭上へと。 「レブラス、おまえはわたしの力となれ」 邪悪に笑いながら赤ん坊はそういって、つるしあげられた妖魔の巨体にむけて―― あんぐりと、口をひらいてみせたのである。 「おお、ヴァラヒダ――」 悲鳴とも歓喜ともつかぬ声をあげて身をよじらせたレブラスが、つぎの瞬間―― まぼろしのように赤ん坊の小さな口の中へと、ひとのみで飲みこまれていた。 ほんの一瞬――おのれの体直径よりはるかに巨大な卵を、あんぐりとひとのみにし たへびのようにして赤子の喉がぐばりと伸張し―― すぐに、なにごともなかったかのように、もとどおりになった。 腹がふくれたわけでもない。 赤子はあいかわらず、その小さな尻を地につきながらつぶらな瞳で四囲をながめわ たしているだけだ。 にもかかわらず――レブラスが消失し果てた、まさにその瞬間に、妖魔王の気配が
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