長編 #3479の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
べはない。 ダルガは、かっと怒りがわきあがるのを覚えた。 前後も考えず地を蹴り、全速力でかけ下った。 急接近するダルガに気づいて身がまえたのは、デュバルひとりだけだった。 残りふたりは、気づいたときには怒涛のごとくかけ下ってきた銀閃のふたふりで胴 を切り裂かれていた。 絶命はしなかったが、戦意を喪失させるには充分な一撃であった。 ひとりは大仰に叫びながらたおれこむほどのいきおいで後退し、もうひとりもまた 少女を放りだして逃走にかかった。 きゃあ、と悲鳴をあげて地にころがるエレアを助け起こし、ダルガはデュバルを睨 めあげた。 髭面が満面に喜色をうかべつつ、にらみかえす。 「逃がさんぞ」 べろりと、ぶ厚い唇をなめあげながらつぶやくようにしていった。 「さがってろ」 抑揚を抑えた声音で背後にかばったエレアに告げた。 告げながら、剣をかまえた。 抜き身だ。 抜刀による一閃をふるうには、鞘と刀身のなじみ具合がまるでたりなかった。 最初から抜いたまま、対峙するしかなかった。 抜き打ちが本領のダルガにとって、あからさまに不利ではあった。 もっとも、マラクの大剣にくらべれば扱いやすさに雲泥の差があるのも事実だった。 どこまで対抗できるかはわからない。 だが、もう逃げない、とダルガは決めていた。 腰をすえ、剣をかまえて真正面からデュバルをにらみやる。 デュバルもまたゆったりと鞘から長剣をぬいた。 正面にかまえ、距離を保ったままゆっくりと左に向けて移動しはじめた。 下方に位置するおのれの足場を、移動することによりダルガと対等の位置にまでも ちこもうとしているらしかった。 斜面上の対峙だ。 下方のほうが比較すると有利だった。 下に向けてふるう剣技はまず、ない。 あったとしても邪法である。正面から対峙するにふるう技ではない。 したがって、そのままの位置関係であれば、斜面の下方に位置するデュバルのほう があきらかに有利だった。 その有利さを、デュバルはわざと捨てにかかっているのである。 いずれ打ちあいになれば上下のとりあいになるだろう。 だが、初撃の足場関係は大きい。 それをあえて、対等に近い条件にもちこもうというつもりらしかった。 ダルガは――待たなかった。 おお、と気合いもろとも、打ちかかった。 上段から思いきりよく打ちおろす。 がぎりと、刃が鳴った。 にやりと、ダルガは笑った。 鍔競り合いなら、上方に位置するダルガのほうがだんぜん有利だった。 フェイントだった。 刃が打ちあったのはほんの一瞬――すぐにデュバルの長剣は降ろす力をいなすよう にぬけてダルガの凶刃を流し、間隙をついて反撃に転じていた。 おそるべき踏みこみのはやさで、デュバルの身体が前進してきた。 氷のような突きがダルガの胸もとめがけて急迫する。 わきへよけた。 が、いきおいのままダルガは、完全にバランスを崩していた。 斜面へへたりこむように腰をつくダルガに、ここぞとばかりに必殺の一撃が飛びこ んだ。 ころがる。 間一髪で、白刃の強襲をかわすことができた。 が、体勢は完全にくずされていた。 さらに打ちこまれる一撃がダルガの腹を襲う。 ころがりつづけた。 背中が、どんと衝撃とともに何かに打ちつけられた。 樹幹だった。 動きが、一瞬停止した。 デュバルは隙を逃さなかった。 弾丸のごとく、長剣の切っ先がダルガの胸めがけて打ちだされた。 く、とうめきながらダルガは、軌道だけを見さだめた。 避けることはできなかった。 剣で受けるにも余裕はなかった。 残る手はひとつだけだった。 左腕をさし出した。 がぶ、と異様な感覚が二の腕にのめりこんだ。 はじける痛覚が脳裏を焼きつくす。 苦痛にわめきながら腕をねじった。 肉にくいこんだデュバルの長剣の刃が、ねじった腕の動きにとられて後方にひっぱ られた。 剣を離せば、デュバルの勝利は確定したかもしれない。 剣士の本能が、奪われようとする愛刀に執着した。 上体を泳がせた。 ほんのわずかだった。 ほんのわずかだが、致命的だった。 ひらいたデュバルの上体に、気のぬけたよう斬撃が下方からくいこんできた。 むりな体勢から、からだをひねるようにして打ちあげられたダルガの一撃であった。 通常であれば、避けて攻勢に転じるだけの余裕をデュバルに与えていただろう、き わめてぶざまな攻撃だ。 が、それが、わき腹にくいこんだ。 やわらかな肉を裂いた。 痛覚よりは恐怖の感覚が勝っていた。 デュバルは剣を離して後退する。 切られたわき腹をおさえながら、大げさな足どりでそのままダルガとの距離を大き くとった。 痛覚は、傷が微妙なものであることをデュバルに告げていた。 内臓にまで刃が達したかどうか、というところだ。 内臓をやられたのであれば、命にかかわる。 旅の途上に身につけてきた衣服だった。雑菌の宝庫だ。傷はたいしたことはなくて も、化膿する。 高熱を発して動けなくなれば、この深山であるという条件とあわせて助かる見込み はほとんどなくなる。 焦りが、はじめてデュバルの身裡にうかんだ。 追う一方だったはずの立場が、とつぜんガルガ・ルインの駆る“時間”という名の 猟犬に追われる立場へと一転したのだ。 奥歯をかみしめた。 痛みよりは屈辱に炎を燃えたたせながら、ダルガをにらみすえる。 顔をしかめて腕にくいこんだ長剣をひきぬき、ダルガはゆっくりと立ちあがった。 両手に剣をもち、デュバルの顔を見つめる。 「おれたちを追うな」 やがてダルガは静かに、そういった。 「目的を遂げたら、戻ってくる。おまえもそのあいだに町へおりて傷を癒してくるが いい。お互いにからだが自由になったら、あらためて勝敗をつけよう。逃げも隠れも しない」 いって、がらりとデュバルの眼前に長剣をほうり投げた。 かみしめた唇の端から血をしたたらせながらデュバルは、眼前に投げだされた己が 長剣を凝然と見やった。 ダルガを見やり――瞳から力をおさえて視線をそらし、腰をおって長剣をひろいあ げた。 ひとふりして鞘に当て―― 「おおおお!」 咆哮とともに、ダルガに向けて打ちかかった。 予測していた。 ダルガは身をひねりざま獰悪な突きをかわし、ずばりとデュバルの胴に斬りこんだ。 超絶の体技が、わずかに致命傷をかわさせた。 デュバルは腹から胸を裂かれながらも身をひねり、下方に向けて追撃を逃れるよう にかけ下った。 だが、即死にはいたらなくとも浅い傷ではなかった。 デュバルは後方にかけぬけながらごぼりと口中に血のかたまりがわきあがってくる のを自覚した。 あふれるように唇をわって真っ赤な液体が飛び出し、びちびちと地をぬらした。 痛みよりは灼熱感が、斬られた部位を責めたてた。 ぐぶぐぶとあとからあとからあふれ出る血で喉をならしながらデュバルは、よたよ たとした足どりで退却した。 闇に消える剣士をあえて追撃はせずダルガは、剣を片手にしたまま見送った。 その姿が完全に見えなくなるまで待って、くるりとエレアに向きなおる。 反抗的ににらみかえすが、少女の瞳に先までの強さはなかった。 ダルガは無言のままエレアに歩みより、その眼前に左腕をさし出した。 無惨な刺し傷から、血塊がつぎつぎにあふれ出していた。 エレアは歯をくいしばり、言葉で何かをかえそうとしたが声は出なかった。 ダルガはひとしきり傷口を少女に見せつけてから、剣を革帯にたばさんだ。 そして、たおれこんだ少女にむけて右手をさしだした。 エレアはさしのべられた手を凝然と見かえしていたが、ふいにわきあがってきた激 情についにこらえきれず、 「なんのつもりよ!」 叫びながら、ダルガの手のひらを強く払いのけた。 「わたくしがおまえに感謝するとでも思ってるの? もとはといえばおまえが――」 みなまでいわせず――払いのけられたその手で、ダルガは少女の頬に平手うちをか ましていた。 あまりいい音はしなかった。 ダルガのような使い手にはふさわしくなく、打つ手にためらいがあったからかもし れない。 それでも、呆然としながら抑えた手の下で少女の白い頬がみるみる赤くなっていっ た。 そしてふいに、エレアの瞳に涙がうかんだ。 堰をきったように、あふれ出した。 声を出して泣きはじめた。 うろたえたダルガがなだめようと肩に手をかけると、少女は泣きながらその手をさ らに払いのけ、大声で聞くにたえない罵詈雑言をならべ立てはじめた。 なだめすかして立ちあがらせ、どうにか移動を承服させたものの、泣きながら口に される罵倒の言葉はいつまでも絶えることがなかった。 第3部 闇の神話 19 地神の亡霊 青の月が山の端に隠れようとしていた。 アリユスは慎重に運んでいた歩みをとめて前方に視線をこらす。 小さな崖になっていた。 天の微光がふりそそぐ中、巨大な穴の底に沈んでしまったような錯覚をおぼえる。 その穴の底には、奇妙な光があった。 幻の光である。 ゆらめく幻火を前にして、アリユスはひざをついた。 わき水の出る崖下の小さな空間だった。 垂直に切り立つ岩にはさまれて、小さな亀裂がはしっている。 苔の生え具合などから見るに、その亀裂はつい最近きざまれたものであるようだ。 その亀裂の奥深くに、幻火は燃え盛っているのだった。 炎、というよりは霊的な生命力のあらわれ、といったほうが正確かもしれない。 アリユスは眼前に両手のひらをかかげて、ダルガにしたのとおなじように三角の空 間を介して視線を、そのまぼろしの光に向けた。 深く、静かで、永遠を体現しているように見えた。 派手に燃え盛っているわけではない。 むしろ逆だった。 ひっそりと、いましも消え入ってしまいそうなまでにほそぼそと燃えている。 それでいて、その炎を完全に消してしまうことはたいへん困難であろう、ともアリ ユスは感じた。 三角の空間のむこうで幻火はゆらめきながら、アリユスに向けてかすかに呼びかけ ていた。 その呼びかけがなく、これほどアリユスの精神と同調する波動を放っていなかった としたら、アリユスもまたそれがそこに存在することに気づくことはなかったかもし れない。 それほどにささやかな、静かな輝きだった。 ヴォール、という言葉がもう一度脳裏にうかぶ。 フェリクスからこちら、西イシュール一帯に住む者ならだれでも知っている言葉だ った。 地の神ヴォール。かつてこのバレースを簒奪し、支配した大いなる十二神のひとり である。 世界を支配し、大いなる慈悲をもって君臨してきた十二神。 それもいまは伝説の底にうもれてひとの世にかかわることはほとんどない。 なぜならば、狂乱せし英雄神によって、十二神の支配する黄金の時代は終焉をむか えたからだ。 いまでは名をとなえてはならぬ恐るべき存在と化した十二神のひとり――英雄神ア ル・ジュナス。 かつては神々の中でももっとも光輝にみちて神々しく、また力にみちた崇むべき神 であった。 それがなぜ狂乱してほかの十一の神々に牙をむき、世界を暗黒の時代へと導き入れ
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