長編 #3478の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
シェラはひそかに背筋をふるわせていた。 そしてふいに、その奇妙な人物の正体に思いあたって目を見ひらいた。 「あなたは……ガレンヴァール、と呼ばれるかたですか?」 丸顔の男は笑いながら何度もうなずいてみせた。 「そのとおりさ。わたしがそのガレンヴァールと呼ばれるおかただよ、お嬢ちゃん。 “ヴォールの紅玉”をさがしてここにいるんだ。さて、では話してもらおうかね、お 嬢ちゃん。見たかね?“紅玉”を。洞窟の中で」 いいえ、とシェラは首を左右にふってみせた。 “ヴォールの紅玉”。 聞き覚えはまったくない。はじめて耳にする言葉である。 それに類するものをあの洞窟のなかで見た記憶も、ひとつをのぞいてはまったくな かった。 玉というからには、宝石のたぐいであろう。 あるいはマラクが首にしていた血のような赤の宝玉がそれかとも思い、問うてみた が、ガレンヴァールはそれはちがうといった。 「それでは、そのような宝玉のたぐいなどほかに見た覚えはありません」 シェラは正直にそういって、悪いけれど、と肩をすくめてみせながらつけ加えた。 そんな少女の様子を見てガレンヴァールはふたたび快活に笑った。 異国の魔道士が気を悪くしていないと見て、シェラもほっと息をつきながら、逆に 問いかけてみた。 「その“ヴォールの紅玉”というのは、いったい何なのですか?」 問いに、ガレンヴァールの笑いがふいに消えた。 刺すような視線をシェラに向ける。 ぎくりとしてシェラは思わず声をつまらせた。 やはり尋常の人ではないのだろうかという不安が、にわかにわきあがる。 眼光の異様さは、ある意味ではマラクやレブラスなどよりよほど剣呑なものを秘め ているようにも見えた。 背筋をふるわせる。 そんな少女の様子をガレンヴァールは無表情にながめやっていた。 が――ふいに、もとどおり破顔した。 そしていった。 「“紅玉”かい。伝説の玉さ」 「伝説の玉?」 おうむがえしに聞くシェラにガレンヴァールは笑いながらうなずいてみせる。 「そのとおり。それを手にした者は不死になるのさ」 18 刃と刃 とつぜん、足をとられて剣士は転倒した。 苦鳴とともに灼熱の痛覚が喉からまろび出る。 立ちあがろうとして、腰に痛みを感じた。 ふりかえる。 樹間からこぼれる月光に目をこらしてみると、自分の足をとったのが門状に結んだ 草であることに気がついた。 怒りがわきあがる。 単純な罠だ。実に単純だ。 だが、きわめて効果的な罠でもあった。 足どめには至らずとも、多少の時間はこれでかせげるだろう。 怒りにつづいて義憤が、胸を燃えたたせる。 長、デュバルが人生を賭けて追う“闇の炎”ダルガという男はどのような男であろ うかとながいあいだ想像しつづけてきた。 年端はいかなくても、剣の天分は脅威的なものがあるのだろうとおぼろげに認識し ていた。 その認識を核にして想像していた人物像と現実のダルガとは、まるでちがっていた。 拍子抜けだった。 剣の腕がどれほどのものかは、正直いってデュバルとの短い、ぶざまな対峙を見た だけでは判断がつかなかった。 だが、いずれどれほどの使い手であろうと、あのぶざまな闘いぶりとその後に見せ た卑怯未練ぶりからすればろくでもない人物にちがいない。 その人物がほどこすにふさわしい、卑怯で卑小な罠である、と思った。 毒づきながら剣士は立ちあがり、追跡を再開しようとした。 ふと違和感におそわれて、闇に目をこらす。 月光の下におぼろにうかぶ樹間の道には、あちこちに結んだ草の罠が無数にほどこ されていた。 なぜ、この地点にこれほど執拗に罠をしかけてあるのか。 疑惑に解答が出る寸前―― 背後から、腕がまわされた。 一瞬にして首がしまる。 もがきながら、視線をやろうとした。 余裕はなかった。 つぼをおさえられていた。 意識が急速に遠のいていく。 それまでだった。 ほどもなく、あっけなく落ちていた。 ぐったりとなった剣士の身体を樹幹にもたせかけて――ダルガは剣士の腰から長剣 をとりあげた。 さしたる装飾もほどこされてはいない、ごくふつうの長剣だ。 刃の手入れはされている。月光にすかして見たかぎりでは、人を切った際に付着す る油のたぐいもほとんど見あたらなかった。 タイイッドのような凶悪な使い手ではなさそうだった。 罠にかかりっぱなしで、警戒心を一向にわきたたせなかった呑気さにもそれはあら われている。 いずれにせよ、殺しておくほどのことはなさそうだった。 ダルガは剣のふりぐあいをたしかめるように三、四度、上段にふりかぶって空を切 ったが、それをすませると腰の革帯に剣をおしこんでふたたび山上をめざしはじめた。 先行するアリユスとエレアに、ほどもなく追いついた。 「滝の音がするわ」 息を切らせながらもアリユスが、追いついたダルガに気づいてふりむきふりむきそ う告げた。 ダルガは「わかった」と答えて、先頭に立った。 エレアはもうふらふらになっている。いましもたおれこんでしまいそうだった。 しばらく先導したが、むりと見て休息を宣言した。 三人は腰をおろす。 後方に意識をとばしつつダルガは、アリユスの言葉どおり滝の音が上方からひびい てきているのをおぼろに耳にしていた。 当てにならぬとはいえ、地図には滝がたしかに記されていた。 その滝を擁する崖をどこかからのぼれば“青の洞窟”はもう目と鼻の先であるはず だった。 が、目的地に意識を飛ばしたことで、むりやりに意識の片隅に追いやっていたシェ ラのことが無性に気になりだした。 占術なりで動向をさぐってもらおうとアリユスをふりかえり――眉根をよせる。 女魔道士は、虚空をにらみすえていた。 刺すような視線だ。 方角は――追手の迫りつつある後方でも、滝の音がひびいてくる上方でもなかった。 上は上だが、めざす方角とは微妙にずれている。 ダルガは腰をうかして強奪したばかりの剣の柄に手をかけ、問うた。 「どうした、アリユス」 身じろぎひとつせずアリユスは視線を上方にすえたまま、鋭い声音で答えた。 「なにかが……なにかがあるわ……」 つつ、とすべるように移動しながらダルガはアリユスのかたわらに身をよせ、ひざ をついて魔道士の凝視する方角に視線を向ける。 闇があるだけだった。 「……なにがある?」 問いに緊張感が欠けなかったのは、アリユスの超絶感覚に信頼をよせている証左だ った。 応えるごとく、アリユスはダルガの眼前に両の手のひらを交錯させた。 親指を底辺にして三角形の窓をつくり、のぞかせる。 奇妙な、ゆらめくフィルターのようなものがその内部にたゆたっていた。 森の像の奥深く――はるか頭上に、赤みのかった奇妙な輝きのようなものがおぼろ げにゆらめいているのが、ダルガにも見えた。 「なんだ?」 ささやくように問う。 アリユスはすえた視線をはずさないまま、首を左右にふってみせた。 「わからないわ。でも、かなり遠い。弱いけれど……深いわ……わたしに……同調し ている……?」 何かに憑依されたかのように、アリユスの口にする言葉が断片的にあいまいに変わ った。 問いかえそうとして、魔道士の美貌が催眠状態におちいってでもいるようにもうろ うとしたものに変わりつつあるのに気づいて、ダルガは言葉をのみこんだ。 アリユスは目を細めて虚空を見つめ、見えぬ存在と無言の会話でもかわしているか のようにぶつぶつと口中でなにごとかをつぶやきはじめる。 が、やがて一言だけ、はっきりと口にした。 「ヴォール……」 と。 ダルガは目をむき、身をのりだした。 直後、アリユスはハッと気がついたように目を見ひらく。 あらためて問いかけようとダルガが口をひらきかけたとき―― 「ダルガ」 背後からエレアが、疲れたような声音で呼びかけた。 舌打ちしたいのをこらえながらふりかえる。 「どうした?」 問いに、エレアは樹幹に背を深くあずけたまま、下方を指さしてみせた。 「おいついてきたみたい」 ぎょっとして目をむく。 耳をすませてみると、たしかに下生えと枯れ葉をふみしだく音がかすかに、はるか 下方からとどけられた。 ち、とダルガは舌をならし、 「いくぞ!」 鋭く宣言して、走りはじめた。 ふりかえり、眉をひそめて立ちどまる。 立ちあがったアリユスの背後で、エレアは樹に背もたれたまま自堕落にダルガを見 あげているだけだった。 「いくぞ、お嬢さま! それとも、置いていってほしいのか?」 気怠げに見上げていたエレアの視線に、剣呑な光がまたたいた。 反抗的に両の脚をわざとらしく投げだしてみせる。 「わたくしに口をきくときは、もうすこし気を使うべきなのよ、この愚か者」 なに? と目をむき、ダルガは改めてからだごとふりかえった。 「何様のつもりだ」 責める口調を抑えきれなかった。 対して、エレアのほうも憤然とかえした。 「おまえこそ何様のつもり? わたくしに命令できる立場だとでも思ってるの? だ いたい、あの連中はおまえを追ってきたのではなくて? だったら、わたくしがおま えの愚かな過去の行いにつきあっていっしょに逃亡する必要などどこにもないはずよ」 ちがう? と、エレアはつんと顎をそびやかして問うた。 ダルガは怒りに拳を握りしめてエレアを見かえした。 いいかえす言葉を考えたが、灼熱の感情がすべてをおし流した。 「かってにしろ」 吐き捨てるように投げかけ、くるりと背を向けた。 アリユスはとまどったように両者を見くらべていたが、ダルガが憤然とした足どり で登坂を再開しはじめると、ためらいなくその後を追った。 エレアはそっぽをむいたまま、腰をあげようとさえしない。 しばらくの間、ダルガもアリユスも無言のままのぼりつづけた。 エレアをはるか背後におきざりにしてしまってから、ダルガはふりかえった。 心得顔ですぐにアリユスも立ちどまり、樹の幹に背をもたせかけて腕を組んでみせ る。 どうする? とでもいいたげなアリユスに見つめられて、ダルガはばつが悪そうに うつむいた。 そのまま舌をうち、 「ひきずってでも、つれてくる」 いって、アリユスとは顔をあわせないようにして降りはじめた。 わかったわ、と微笑みながらアリユスはうなずいてみせ、そしてつけ加えるように 口にした。 「わたしは先にいっているわ」 ハッとしてダルガはふりかえり、しばしアリユスの美貌を呆然としたていで見つめ ていた。 が、ここでもアリユスに対する信頼が心配を凌駕した。 「わかった。気をつけて」 いって、微笑むアリユスにうなずきかえして背を向ける。 アリユスに対するからこそ抱き得る信頼感だったかもしれない。これがべつの相手 だったら、たとえ占爺パランであったとしても一人で先行させるなど承諾できなかっ ただろう。 ともあれ、背にして走り出してからはアリユスのことはダルガの脳内からはひとま ず消え去った。 転倒にのみ気をくばりながら小走りにかけ降りたせいか、すぐにエレアをおきざり にした場所が下方に望見された。 降りきるよりはるかにはやく、少女が追手の三人にとり囲まれているのに気がつい た。 中のひとりが、少女の両手首を捕縛して宙につるしあげている。 ダルガが罠にかけて剣を奪った剣士であった。 小柄なからだが宙でじたばたともがいていたが、もとより剣士の膂力にあらがうす
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