長編 #3473の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
呆然とマラクは目をむいてシェラを見やる。 「歳格好もおっしゃるとおりだ。ほかに娘は――」 「いたはずだ。いずれにせよ、この娘はちがう」 憮然とした口調でヴァラヒダがいった。 なおも信じられぬていで、ヴァラヒダとシェラとをマラクは見くらべた。 ぐつぐつと、異様な音がふいにおこった。 見ると、レブラスが腐肉のような体をふるわせている。 笑っているらしい。 汚物を溶かして煮立てたような異様な笑い声だった。 シャダーイルは無言のまま。 ヴァラヒダは憮然としたまま、苦痛にうめきあげながらマラクを凝視していた。 「なんということだ……」 呆然と、マラクがつぶやいた。 「馬鹿者めが」 応えるように、ヴァラヒダが口にした。 「これは老タグリが雇った魔道士のひとりだ。この愚か者めが! 役たたずめが!」 叱責をうけてマラクがにわかにうろたえはじめる。 ついで、その表情が屈辱に朱く染まりはじめた。 「知恵足らずの妖怪めが!」 追いうちをかけるようにヴァラヒダは、吐き捨てるように口にした。 そしてかたわらのレブラスをふりかえる。 「この小娘めを洞牢にとじこめておけ」 ぐつぐつと笑いながら肉塊は大仰にうなずいてみせ、来い、と声をかけながら、あ とずさろうとするシェラの肩にむりやり手をかけて先導する。 そのあいだにヴァラヒダは、ふたたび視線をマラクにすえ直していた。 「おまえは罰をうけねばならぬ。愚かさの代償にな。こちらに来い」 告げた。 うめき声をあげてよわよわしくからだを揺すりながら力なく手招きをする。 おそるべき妖魔どもをたばねる深山の魔王とはとても思えぬありさまであった。 にもかかわらず――怒りと屈辱に染まっていたマラクの顔貌からふいに、みるみる 血の気が失せはじめた。 「おお、ヴァラヒダ……」 うろたえながら、懇願するようにひざまずいた。 「どうか、それだけは――」 「ならぬ。前へ」 妖魔の首魁は無情にいい捨て、くりかえした。 「シェラがつれ去られるぞ」 水盤をのぞきこみながらダルガがつぶやいた。 「洞牢……?」 「シェラを追うわ」 呪文の合間をぬうようにアリユスはいいつつ、印を組みかえた。 ゆらり、と水面がゆらめいた。 いくつもの映像が交錯する。 それがふたたびひとつの像に結びなおされようとした、まさにそのとき―― 「いたぞ!」 樹木にかこまれた上方から、ふいに叫び声が下った。 ぎくりと三人が視線を向ける。 山中で下生えががさがさとゆれていた。 かきわけて、ひょいと顔があらわれる。 ふたつあった。 「隊長に知らせろ、ここはおれが受け持つ」 ひびく声音が、やけにはっきりと聞こえてきた。どうやら、一行を追ってきた何者 かであるらしい。 人影はすぐに二手にわかれ、そのうちのひとつが、三人が水盤をかこむ川原に向け ておりてきた。 「何者だ?」 つぶやきながらダルガは、不審そうにアリユスとエレアとを交互に見やった。 二人とも、判然としない顔をして首を左右にふってみせる。 川原までおりてきた。 革鎧に身をつつんだ。剣士であった。 「……おれの客らしい」 いいつつダルガは大剣の柄を握り、革帯からぬいた。 呼応するように、男がいった。 「“闇の炎”!」 14 剣舞乱流 ち、と、ダルガは舌をならして顔をゆがめた。 「バラルカの手の者か」 問う。 「タイイッドという名だ」 と、男は答えた。 「高名な“闇の炎”さんには覚えのない名前かもしれんがな」 いって、ちろりと舌で唇をなぞる。 無精髭をはやした、目つきの鋭い肌の浅黒い男だった。フェリクス以東、おそらく は東イシュール大陸の南端あたりに住む種族の男であろう。 両腰に丈の長さがちがう湾曲した剣をさげ、たがいちがいに交錯させた手をそれぞ れの柄にかけていた。臨戦態勢だ。 「きいたことがあるぞ」 ダルガもまた腰を落として大剣をかまえながらいった。 「おれが脱走する直前に、競技会でかなりのところまで昇りつめてきていたな」 「光栄だな“闇の炎”ダルガ。おまえと闘う日を心待ちにしていたのだ。“闇の炎” を斬れば名実ともに頂点に立てるはずだったのだからな」 「悪かった」 揶揄の口調ではなく、ごく単純な事実を口にするようにしてダルガはいった。 タイイッドが唇の端でかすかに笑った。 「デュバルどのが間もなく降りてこられるだろう」 デュバル、という名をきいてダルガの眉宇が、つ、とひそめられた。 が、無言のままあえて何もいわなかった。 タイイッドはつづけた。 「その前に、おれと決着をつけてもらおう」 いいな、と口にしざま――真正面から正対した姿勢のまま、フッと腰を落とした。 電光と化した。 斬撃が×印を描いてつきぬけた。 間一髪、ダルガは後方に飛びすさって強襲を避けた。 「みごと」 つぶやき、タイイッドは再度、地を蹴った。 今度は短いほうの剣身が下方から弧を描いてつきあがった。 身をひねって避けた上体に、長剣の刃が頭上から急降下。 お、とうめきつつダルガはあわてて体をさばく。 間髪入れず、側方から短剣がもぐりこんできた。 地にころがった。 ころがりながら、今度はさらに長剣がうなりを立てて落下してくるのを見つけた。 さらに短剣。 竜の顎が間断なくとじつづけるように、凶刃は息をつくいとまさえ与えず上下動を 中心としてあらゆる角度から、ダルガを強襲した。 とぎれめがない。 みごとな連撃であった。 長剣と短剣を縦横無尽にあやつりながら、息ひとつ乱さず舞踏のようにつぎつぎと 凶刃の雨をダルガにむけて繰り出しつづける。 避けるのがせいいっぱいだった。 体勢をととのえなおすいとまさえなかった。 ころがる場所が砂利や小岩の集積する川原であることも、ダルガのダメージを蓄積 する要因となっていた。 わずかに救われる事実は、同じ荒れた足場がタイイッドのおそるべきリズムにわず かな狂いを生じさせているという一点だけだ。 ころがり、及び腰であとずさり、首をすくめて身をかわしながらダルガは水辺に踏 みこんだ。 必死でころがりながら、手で川水をすくってタイイッドに投げかける。 躊躇するどころか、いっそうの正確さを保ちながら剣士は連撃の刃をいよいよダル ガに肉薄させた。 くそ、とうめきながらダルガは小石をつかんでタイイッドの顔面に投げつけた。 一瞬だけ、隙ができた。 その一瞬に意識を集中してダルガは大剣をかまえ、打ちこんだ。 半月の斬撃が剣士の胴を薙いだ。 誘いだった。 かるくいなしてタイイッドは、ふたたび斜め十文字の降撃を打ちおろした。 後退は、間にあわなかった。 胸部を十字型に裂かれていた。 浅い。 だが、驚愕がダルガの動きをとめさせていた。 タイイッドの笑い顔が、固定された映像のようにダルガの視界に静止した。 切り裂くように、下方から長剣の一撃が打ちあがる。 呆然とするダルガの脳裏に、応戦、と痴呆のように言葉がうかんだ。 ほとんど反射行動だった。 柄の部分で、打ちあがる長剣の刃の先端を弾きかえした。 「おおっ」 タイイッドが呆然と目を見はる。 通常の防技であれば難なく受けとめながら、次の攻撃へとつなげることができる。 だが、ダルガの示した反応はまったく予想外だった。 受け面の極端に少ない柄の部分で、急迫する刃を受けとめるだけでも無謀な所業と しかいえない。 それを、いとも簡単に弾きかえされたのである。 タイイッドは瞬時、放心していた。 その瞬時に、ダルガの身心に刻みつけられていた野獣の本能が反応した。 マラクの大剣が無造作にふりおろされた。 タイイッドは後退してかわそうとした。 ダルガの体格や動きから、攻撃の軌道を予測していた。 その予測力こそがタイイッドの連撃を可能にする最大のポイントであった。 外界からの刺激に相手がどう反応するかを、タイイッドはものごころついたころか らほとんど本能的に、察知するすべに長けていた。 それを自覚し、その能力をのばすために血のにじむような鍛錬をくりかえしもした のだ。 剣を一人前にふれるようになるころには、どんな相手でも次にどう動き、攻撃を受 けてどう反応するかが手にとるごとくわかるようになっていた。 体技をみがき、その能力にあわせて向上させた。 二つを駆使すれば、たいていの相手など剣をまじえる敵手というよりは、息のあっ た舞踏の対手のようなものであった。 受けにまわっても、相手がどう動くかは手にとるようにわかっているつもりだった。 だから、必要最小限の動きしかしなかった。 紙一重でかわすのだ。 それが――ダルガを相手にしては災いした。 おそらくマラクの大剣をダルガが一度でもふるっていれば、その動作のぎこちなさ がタイイッドに情報を与えて印象を修正させていただろう。 あいにくと、鉈にもひとしい妖魔の使剣をダルガがタイイッドにむけてふるうのは、 これが最初であった。 そして最後でも。 重さが、いきおいを後押ししていた。 剣はタイイッドの予測をはるかにこえる速度でふりおろされ、わずかに頭上への落 下だけは防いだものの――肩口に、とてつもない重量を受けることとなった。 負傷だ、とタイイッドは予測した。 ひどい油断だ、と後悔のほぞをかんだ。 わずかな救いは打たれたのが利き腕ではない左肩のほうである、という事実だろう。 これで左手はほぼ使いものにならなくなる。 タイイッドは斬撃を受けながらおのれの身体状態に関する認識にすばやく修正を加 え、攻撃の終了した時点でどう反撃するかまで決めていた。 まるで早計だった。 伝わってくる衝撃は、剣で斬られたときのそれではなかった。 大ハンマーで思いきりぶちのめされるにひとしかった。 肉がひしゃげ、骨を道連れにしてはじけ、押しつぶされた。 一撃は心臓まで軽々と達してタイイッドの半身を圧縮した。 肩から半分を、砕かれた肉塊と化してぶら下げながらタイイッドは呆然と目をむく。 視線から光が消えてぐるりと裏返り、一瞬の間をおいて剣士はばしゃりと川面にた おれ伏した。 しぶきを受けてダルガは手で顔をぬぐい、ふう、と息をついた。 ふりかえり、顔をしかめる。 残照を背にした山を背景に、藍色に濃く沈みゆく山間の下生えをかきわけるように して、三つの影が川原に降りようとしているところだった。 そのうちのひとつ、ごつい、岩のような体格をした男の雰囲気や動作には、たしか に覚えがあった。 「くそ」 とダルガはひそかにうめく。 かぶせるように、 「ダルガ! ようやくとらえたぞ!」 力強く底響く声音が叫んだ。 言葉というよりは、咆哮に近い叫び声であった。 これも聞き覚えのある声だ。 バスラスの闘技場で、ダルガをもっとも戦慄させた戦士の咆哮である。 ダルガは肉片のこびりついたままの大剣を肩にかつぎあげ、水を鳴らしながら川辺
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