長編 #3466の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
だが、インターバルにあげる魔の山の主の双眸からは、一向に妄執の炎が消えるこ とはなかった。 うめき、睨めあげる血走った眼は、さしつらぬくようにアリユスを打つ。 胸部の炎が、ふいに燃えつきた。 (ここまでか……!) 奥歯をかみしめつつ、アリユスは思った。 風を放ちつづけるが、徐々に効果はなくなっていく。 いたずらに体力を消耗するだけと思いさだめ、攻撃を中止した。 直立し、視線で妖霊と対峙する。 あえぎ、うめきながらサドラ・ヴァラヒダは身をくねらせ――ふしゅうと、燃え立 つ熱気のような吐息を噴きあげた。 「招くぞ……」 地獄の底からひびきあげるような声音で、口にした。 「おまえたちを、わが神域に招くぞ……。そこで進呈しよう……わが呪詛を!」 顔をあげ、十数枚の舌を出して哄笑した。 「永遠に絶えぬわが呪詛を、幽鬼となりはてて嘆くがいい!」 笑いながら両手をさしあげた。 お、お、お、と雄叫んだ。 バン! と、背後で何かがはじける音がした。 ふりかえったアリユスの前に、レブラスを封じこめた結界がいとも簡単に消失して いく光景が展開された。 落書きのような赤黒い巨体が地におりたち、裂けたような目と口とが笑いの形に歪 んだ。 「レブラス!」 その化物にむけて、妖霊が叫んだ。 「わが領域にてこの不遜の者どもを迎える。歓迎の準備だ!」 王のように高らかに宣告し、両手をひろげた。 「訪え! 待っている!」 叫び、嵐のように吠えた。 咆哮を追うように、口腔内から暗黒が噴出した。 黒雲のようにわきあがり、一瞬にして室内を闇に染めた。 視界を奪われだれもが立ちつくし、空間を占拠する不快な哄笑ばかりをなすすべも なく耳にした。 9 出発 「炎を、使ったか」 老タグリの館の、客間のベッドに仰臥する占爺パランが、よわよわしく口にした。 枕辺に腰をおろしたアリユスが無言でうなずく。 ふふ、と占爺は力なく笑い、いった。 「洞察じゃの」 「でも、わけがわからないわ」 静かな口調で、アリユスは正直に困惑を口にした。 「ダルガ――暗黒の龍。名前からして属性は空。わたしの見立てでも、そうとしか見 えないわ。でも――炎の力が、彼の内には宿っている。――なぜ?」 老人は身じろぎひとつせぬまま目をとじ、沈黙した。 答えるつもりがないのか、それとも眠ってしまったのか。 アリユスがそう疑いはじめた時にいたってようやく、つぶやくようにして口をひら いた。 「あれは、内に神を秘めておる」 アリユスは目をむいた。 ――シェラのことを想起していた。 払暁。 紅の空を背に、ダルガは剣を手に直立していた。 水が流れるような動作で、ゆっくりとふるう。 弧を描かせ、地をはわせ、十字を切り、左右に薙ぐ。 つ、と利き腕の右肩によせて佇立させ、そのまま凍りついた。 数刻、姿勢を保持したまま、陽光をあびていた。 ふいに――たん、と地を蹴り、緩から急へ、剣をふるう動作を移動させた。 銀の刃が陽光をうけて複雑な軌跡を描いて舞い踊る。 優雅に。 獰猛に。 熟練した踊り手のように。 獣のように。 白い朝の大気にみたされはじめた世界を、縦横無尽に切りきざんだ。 そして――動から静へ。 断ち切るようにして唐突に剣舞を中断し、鞘におさめた凶器の柄から手をはなして 向きなおる。 たたずんだまま無言で修練をながめやっていたシェラが、動作の唐突な中断におど ろきの目を見ひらき、ついでうろたえたように強ばった笑みをうかべてみせた。 「すごい技ですね」 ダルガのほうに歩をふみだしながら口にする。正直な感想だった。 それだけに、ダルガの顔にほんの一瞬うかんで消えた表情が理解できなかった。 苦痛のように、見えたのだ。 が、そのことを問いただす間もなく、ダルガのほうが口をひらいた。 「わかるのか」 解答などどうでもいい、とでもいいたげな口ぶりの質問だった。 もちろんシェラは律儀に答える。 「少しだけですけれど。わたしも、ほんの少しですけれど剣技を習ったことがあるん です」 ほう、と気のなさそうな返事をかえし――しばし考えてから、おもむろに剣の柄を シェラに向けてさしだした。 「見せてくれないか?」 きいた。 とまどい、シェラはダルガの表情を見つめる。 酔狂ではなさそうだった。 「いいですよ」 シェラはうなずきながら剣をとり、 「でも、わたしの剣技なんか見てもおもしろいことはないと思うけれど」 「そういうつもりじゃない」 淡々とダルガは否定した。 「同行するからには、使えるならどの程度の使い手なのか見ておきたいんだ。おれが どの程度あんたやアリユスを守る必要があるのかないのか、な」 いって、自嘲するようにしてつけ加える。 「もっとも、おれの剣技が通用する相手かどうか、というのは――昨夜のできごとか らしてきわめて疑問だが」 「そんなことは――」 ありません、と、つづけかけて言葉をのみこんだ。 ダルガの視線にいきあたったからだった。 何を考えているのかはわからなかったが、真摯な視線であることはシェラにも理解 できた。 ユスフェラの山の妖魔に対して自分がどれだけ対抗できるかどうかに、疑問を抱い ているのだろうか。 シェラはちいさく首を左右にふり、いった。 「あなたがいっしょにきてくれるというだけで、わたしたちはずいぶん安心できるの よ」 ダルガは無表情にうなずいてみせただけだった。 シェラはため息をつき、剣をかまえてみせた。 「なにをすればいいんです?」 「おれに打ちこんでみてくれ」 返答に目をむき、抗議しかけて――ため息をつきながら、あきらめてうなずいた。 ダルガも無言でうなずきかえし、十歩ほどの距離をおいて剣をかまえるシェラと対 峙する。 「殺すつもりで来てくれ」 平然と、物騒なセリフを口にした。 「よけるから安心していい。もういい、というまで好きなだけ頼む」 「怪我をしないようにしてくださいね」 眉宇をよせて心の底から心配するシェラに、ダルガは初めて微苦笑をうかべてみせ た。 「おれに手傷を負わせるほどの腕がきみにあるなら、護衛の剣士は必要ではないさ」 意外にやさしげな口調でそういった。 シェラも思わず微笑みかえしていた。 そんなシェラにダルガは、無造作に腕をくんでたたずみ、うなずいてみせた。 来い、という意味だ。 シェラはあらためて剣をかまえなおし、うん、と自分にむけてうなずいてみせてか ら――地を蹴った。 銀の刃が直線を描いてダルガの喉に吸い込まれた。 残像に。 「悪くない」 すぐかたわらで、ダルガが無表情にそういった。 「どんどん来い」 いって、つう、と身をひいた。 ひきずりこまれるように、シェラは剣を横薙ぎにはらった。 刃はまたも空を裂き、 「さそいに乗るな」 背後から声とともに、とん、と軽く肩をたたかれた。 思わずちいさく悲鳴をあげながら飛びすさり、つっかけた。 ひょいとよけられた。 「焦りは隙を生むぞ」 シェラは唇をひきむすび、距離をおいて剣をあらためてかまえなおした。 充分に気をためる。 ダルガは微動だにせず、あいかわらず腕を組んだままだった。 視線をすえ、呼吸をととのえた。 そして、気合いもろとも打ちこんだ。 よけられた。 計算のうちだった。 すぐに体勢をかえて剣の軌道を修正し、ダルガの足をねらった。 つい、とよけられるのを、そのまま下からの突きに変えて突き上げた。 刃はダルガの頬をかすめて過ぎた。 ぎりぎりで見切られていた。 余裕の技だ。格がちがいすぎる、とシェラは思った。 ぽん、と肩をたたかれ、剣をにぎる手に少年の手が重ねられた。 見かけの印象より、大きな手だった。 「充分だ」 いって、魔法のようにシェラの手から剣をぬきとっていた。 「あ……どうだったんでしょうか?」 なおも呆然としながらも、シェラはそうきいた。 「悪くない」 ダルガはくりかえした。 そして、さらに何かをいいかけて、やめた。 「なに?」 シェラはダルガのそんな態度を目ざとく見てとって、身をよせるようにして一歩を ふみだしながら問いつめた。 こまったような顔をしてダルガは同じ距離だけ後退し、そして目をそらしながらい った。 「実戦をつめば、使える技になるだろう――そう思っただけだ。だが実戦など――つ まずにすめばそれに勝ることもないだろう」 シェラは不満そうに眉をひそめてみせたが、何も口にしなかった。 「もどろう」 ダルガはいい、一夜をすごした老タグリの館に向きなおった。 歩きだしかけて、動作を中断する。 門のところに、人影がたたずんでいるのを見つけたからだった。 「どうしたの?」 問うシェラに、ダルガは短く答えた。 「エレアだ」 と。 館へとひらかれた巨大な門の外側に、刺すような視線をダルガにすえて少女はたた ずんでいた。 腕を組み、顎をさげて、下からにらみあげるようにしている。 ダルガはゆっくりと近づいていきながら、そんな少女の視線を真正面から受けてち らりと見やった。 そのまま無言で少女のわきをすりぬけようとして―― 「いっしょにいくわ」 氷のような言葉を肩ごしに受け、立ちどまる。 なにか言葉をかけていこうとしてエレアの前に立ちどまったシェラが、ハッとした。 そんなシェラなど目に入らぬように、しなやかだが意外に厚い少年の背にむけてエ レアは言葉を重ねた。 「わたくしも、ユスフェラの山へいく」 「下賎の者と行動をともにするのか」 抑揚を欠いた口調で、ふりかえらぬままダルガは冷たくいい放った。 「やむを得ないわ」 唾棄するような口調で、応じた。 ダルガはフン、と鼻をならす。 「護る義理はないぞ」 「おまえに守ってもらおうなどと、こちらでも毛頭考えてはいない」 いきどおりに嘲りを加えてエレアはいった。 「ソムラが護衛につく」 巨漢の二人の衛兵のうちの一人の名を口にした。 はらはらと見守るシェラを尻目にダルガは、それはよかった、といい捨ててふたた
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