長編 #3461の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
することをはばかるように、アリユスに向けてうなずいてみせる。 そうして、奇怪で昏い話がはじめられた。 そもそものことの起こりは、アリユスとシェラが隣村でその神秘めいた秘技の一端 を開示したことからはじまった。 村を騒がす幽霊さわぎはさほど根の深いものでもなかったが、都城からは遠くはな れた僻村のことゆえ有効な対応となるいかなる方策も、ずいぶんとながいあいだ見出 されることはなかったらしい。 怪異は人死にをだすほどの凶悪さを内包していたわけではないが、夜ごと村内をお とずれては意味ありげな、うらめしげな視線を村のあちこちに無言で残していく奇怪 な亡霊はひとびとの安眠と平安な日常をたしかに奪っていた。 そこへ通りがかった美貌の娘の二人づれが、とざして語られぬ亡霊の口から錯綜し た村内の人間関係と重なる偶然のせいで自分が命を落としてしまったことを明かされ、 親しんだひとびとの暗い部分にかかわる物語を語るに語れず思い悩んだまま幾晩もの あいだ、ただようばかりであったことなどをきき出したのである。 村内のすくなからぬ部分で、安寧に鎧われた影の部分がさらけだされた影響が不穏 に噴き出しはしたが、それでもおとずれた美貌の女魔道士の尋常ならざる手腕に関す るうわさはまたたく間に近隣をかけめぐった。 なかばは追われるようにして、それでも陰ではいくつかの感謝の念を背にうけて村 を辞し、ツビシと呼ばれる山間のこの町にたどりついたのが二日前。 「そこでわたしたちは、ある人物の招待をうけることになったの」 とアリユスはいった。 宿をさだめるやいなや、うわさをききつけたらしい町をたばねる老タグリと名乗る 豪族の使者と称する者の訪問をうけて晩餐へと招かれ、その席で奇妙な話をきかされ ることとなったのである。 すなわち、ユスフェラの山深くすまう凶悪な妖魔どもの物語を。 この地方で街道は奇妙な迂回路を形成している。 山稜にはさまれた谷をいけばほぼ直線ですむところを、わざわざ崩れやすい崖など の難所を擁する方向にまわりこんでいるのである。 なぜならば、谷には古くよりひとを喰らう複数の妖魔が出没するかららしい。 “ヴァラヒダの魔物”と呼ばれるそれらの妖魔を退治するために、古来、多くの豪傑 が山深くわけいってはきたのだが、そのほとんどは帰還することさえあたわず、化生 のものの餌食になってきたという。 だが、山間に道がひらけば、山むこうに港を抱く街との往還が格段に楽になり、ひ いてはそれがこちら側の発展にもつながるとあって、妖魔をどうにか調伏しようとす るやからはひきもきらなかった。 老タグリの息子も、そのひとりであった。 そして案の定、危惧していたとおりに息子は戻らず、亡き者とあきらめたのが一月 ほど前のこと。 「ところが、話はそれでおわらなかったの」 アリユスは、ひそめた眉のもと、いってちいさく首を左右にふった。 そしてつづける。 息子が死んだとおぼしき日から三日ほど経って、奇現象が老タグリの屋敷をさいな むようになったのである。 すなわち、夜ごと当主の枕辺に――妖霊と化した息子サドラが姿をあらわし、娘、 つまりタグリの孫であるところのエレアを生け贄にさしだせ、と迫るのである。 むろん、いかな息子のたのみとはいえ変容してまるで化生の仲間いりをはたしたと しか思えぬ息子のおぞましき要請などききいれる気にさえならず、屋敷まわりに結界 をほどこして護りをかためた。 だがサドラの姿をした妖霊は苦悶しつつも地元の名高き高僧が構築した結界を夜々 切り崩し、一度などはあやういところでエレアを拉致されるのをかろうじてふせぐの がせいいっぱいであったほどの仕儀らしい。 そこで苦慮のすえ、老タグリはうわさの女道士が町へむかっているとの報をきき、 わらにもすがる思いで晩餐に招いたのだという。 「ふむふむ、きくだにおそろしげな話じゃのう。よもやおまえさんがた、そのような 物騒な依頼などうけなんだじゃろうの?」 冗談めかしてきく占爺パランに、アリユスは肩をすくめてみせた。 「最初はわたしもそのつもりだったんだけれどね」 いって、ちらりと横目でシェラをながめやった。 目をとじて奇妙な動作をくりかえしていたシェラが、雰囲気に気づいて顔をあげる。 アリユスの視線に困惑顔でちいさくなりつつ、 「だって――おじいさんが、かわいそうだったから……」 弁解口調でちいさくいった。 うすく笑ってアリユスがうなずいてみせると、シェラはなおもすまなさそうな顔を してちいさくうなずいてみせてから、テーブルの上の石をひろい集めてふたたびから からと音を立てて新たにひろげ直し、おなじ奇妙な動作を再開した。 なるほどの、と苦笑しつつ占爺がうなずくのへ「それだけでもないの」とアリユス がつけ加える。 「占爺パラン、見たところ、あなたはたいした明日読みの力の持ち主だと思うのだけ れど、どうかしら?」 「さてさて。つい最近まで居をかまえていた街では、まあそれなりに客もついてはい たが」 飄々とした口調でいって、変形した肩を大仰にすくめてみせた。 アリユスとシェラがダルガに視線をうつす。 ダルガはちらりと占爺に目をむけて口もとをへの字に曲げ、 「この爺ィはひどいインチキ野郎で、口先だけで老いさらばえてきたとんでもない詐 欺師だ。信用するんじゃない」 吐き捨てるようにいい放った。 目を見ひらいてアリユスとシェラがたがいに見やる隙をついたように、 「と、いいたいところだが」 にやりと笑ってダルガはつづけた。 「うわさじゃ、イシュールでも一、二をあらそう先読みだって話だな。おれも夢解き を依頼して道を得た。それどころかある神秘的な存在から予言を下されて、道先案内 をしてもらってさえいる」 「そうなの。あなたも意外とひとが悪いわね」 ほっとしたように笑いながらアリユスはいった。 「それなら話ははやいわ。見料ははらうから、あとでいろいろと占ってほしいの。で も、とりあえず話をつづけさせてもらうわね。得意ではないけど、わたしも先読みは ある程度やります」 そのアリユスの先読みで、近く妖魔どもを調伏する機会がおとずれるはずであり、 それにアリユスたち一行に加えて――老タグリの孫エレアと、そして一人の剣士が加 わるのだという見立てが出たのである。 さらに老タグリからは馬鹿にならない前金を目の前に山積みにされ、ことがうまく いったあかつきにはそれとは桁をたがえた礼金までをも約束された。 さしあたっての路銀はたくわえてあるものの、いく先々で礼金を期待できるような 事件がかならずしもあるとはかぎらず、事実、過去幾度かは食うに困るような状態に おちこんだこともある。報酬をうけとるにやぶさかではなかった。 依頼をうけるかどうかはとりあえず保留として、二人はとにかくも関わるはずだと いう剣士をさがすために町に戻り、あちこちを物色してまわった。 「そして、このダルガと遭遇したと、そういうことじゃな?」 パランの問いにアリユスは深くうなずいてみせた。シェラのほうは、この期におよ んでまだ困惑顔でダルガを見やっている。 ダルガはといえばただ無言のまま、アリユスとシェラを無表情に見かえしているだ けだ。 「よければ、手伝ってもらえないかしら」 アリユスが真摯な口調でそういった。 「もちろん、命がけの仕事だから、むりにとはいえないけれど」 ダルガは目を閉じて肩をすくめてみせ、口もとに酒の杯をゆっくりと運んだ。 やがて、いった。 「報酬は?」 答えてアリユスが口にした額にダルガは目をむき、パランも「それは――」と絶句 する。四、五年は豪遊しながら暮らせるほどの額だった。 「前金として、その十分の一なら明日にでもわたせると思うわ。――ひきうけてくれ るなら」 アリユスがいうのへダルガは苦笑しながら、 「ずいぶんと気前のいい話だな」 いって、ぐいと酒をあおった。 「まあ、命をカタにさしだすほうにしてみれば、決して過分な報酬ってわけでもない が」 「どう?」 問いかけに、ダルガはちらりと占爺に視線をむけ、 「つきあってもいい」 短くいった。 シェラは眉間のしわを深くしたが、アリユスはほっとしたように笑顔をうかべて 「ありがとう」と口にする。 が、ダルガはそれを制するように、 「だが、その前にひとつだけ、納得させておいてくれ」 何? と目顔で問うアリユスに、 「依頼者の老タグリとやらに会わせてもらいたいってことだ。顔も知らない相手の依 頼で命をかけるのは割にあわないからな。それに、いくつか直接きいておきたいこと もある」 「それはこちらでもそのつもりだったから、かえってありがたい申し出だわ。明日、 依頼をひきうける旨、伝えにいくからそのときではどう?」 ダルガがうなずいてみせた。 ひととおりのうちあわせを終え、ダルガとパランがそれぞれの部屋にひきこもった あと、ふたり食堂にのこったアリユスとシェラは無言で顔を見あわせた。 テーブルの上にころがされた五色の小石をながめやり、アリユスはきいた。 「どう?」 「もうしわけないわ、アリユス。うまくいかなかったの」 シェラが身をちぢめていうのへ、わかっているとでもいいたげにアリユスは微笑み ながらうなずいてみせた。 「話してるあいだも、何度も石を落としてたみたいだからね。でも、それが結果だと いうこともあり得るわ。とにかく、話してみて」 やさしく、さとすようにいわれてシェラはこくんとうなずき―― 五つの小石の中から褐色の石を、つ、とさしだした。 首をかしげて目で問いかけるアリユスに、答える。 「これがあのおじいさん――占爺パランの属性」 「土ね」 微笑みながらアリユスがうなずいてみせる。 「わたしの見立てとも一致するわ。で?」 重ねて問うアリユスに、シェラは眉宇をひそめつついったんは褐色の石をひっこめ ―― 先の会話中におこなっていたとおなじに、石群の上にさまよわせるようにしてゆら ゆらと手のひらをかまえた。 さだまらず――シェラの白い華奢な手は、ふたつの石の上をふらふらといつまでも さまよっているだけだった。 「……だめ、うまくいかないわ」 しまいに両手に顔をうずめて、テーブルにつっぷした。 「落胆することはないわ」 こまかくふるえるシェラの背にそっと手をやり、アリユスは静かな口調でいった。 「いってみて。ダルガの属性は?」 シェラはとまどったように顔をあげてアリユスを見かえしたが、やがてふるえる唇 で小さく、いった。 「空と――火」 アリユスは笑いながらうなずいてみせる。 だが、あり得ないことだとふたりとも知っていた。 地、水、火、風、空。 それぞれに色をあてはめる。すなわち、褐色、青、赤、白、そして黒。 世界を構成する五元素をもとに、人のもっとも顕著な属性を明らかにするのがこの 占いの骨子だ。 特性をあきらかにすることによってその人の得意なことや苦手なこと、嗜好や行動 原理などをあきらかにできるのである。 熟練した読み手ならその情報をもとに、その人物をどうあつかえばいいのかも見当 がつくし、その知識がある者同士であればものごとを共同でおこなう上でのその便宜 ははかりしれない。 なにより、初級魔道の訓練としてアリユスはシェラに、ことあるごとにこの五石占 術をおこなわせていた。 最初はうまくいかなかったが、ちかごろではシェラの読みも正確さを増しはじめて いた。 そんな矢先の、この変事である。 シェラが落胆するのもむりはなかった。 通常、ひとりの人間の属性を読むのに二つの石がえらびだされることはあり得ない。 補助的に、階級をもっていくつかの石が呼ばれることはあるが――もっとも強い属 性がどの色になるのか決まらぬことなど、まずもってあり得ることではなかった。 「かれは多重人格かしら?」 シェラの問いに、アリユスは無言で首を左右にふる。 複数の人格をもつ人物であれば、上のような現象が起こることもごくまれにだが、 あることはある。 だがアリユスの観察したかぎりでは、その兆候はダルガには見られなかったのだ。 のこる可能性は―― 「かれの内部に、もうひとつのべつの存在が隠されているのかもしれないわね」 いって、輝く目でシェラを見つめた。 シェラは全身をわななかせて、アリユスを見つめかえす。 そのすべてを平静にうけいれながらアリユスは――静かに口にした。 「あなたとおなじように」 わっと泣きながらシェラがしがみついてくるのをやさしく抱きしめ――アリユスは 階上のダルガの部屋にむけて視線をとばした。 ダルガ――暗黒の龍をさす、西イシュールのとある地方の古語である。伝説に沿う ならば、属性は空。すなわち、夜天の黒だ。 では――火の赤は?
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