長編 #3441の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「運動会のときは首尾よく、賞品をもらえたことだし、白組も勝つことができ ただけに」 先生が、雰囲気を盛り上げるような言い方をしていた。 「学芸会でも、いいところ、狙いましょう」 運動会が終わったと思えば、すぐに学芸会。秋は行事が詰まっている。 「じゃ、相羽君、涼原さん。進めて」 先生にうながされ、前に立つ二人。 学芸会で六年二組は何をやるか、出し物を決めるのだ。司会が委員長で、副 委員長は板書。それを書記委員−−二学期は町田芙美−−が書き取るという形 になっている。 「最初に、みんなの希望を聞きたいと思います。意見がある人、手を挙げて、 どんどん言ってください」 意見は確かに活発に出た。ただし、学芸会でやることなんて、ほとんど決ま っているようなものだ。合唱・合奏/舞台劇/占い/街の歴史研究/美術作品 の共同製作等々。 「何かありがちだな」 相羽が言った。 「んなこと言ったって、そういうのに決まってるんだぜ」 前の席の大谷が返す。 「そうだろうなあ。前の学校でも、似たようなことやってたっけ……。でもな、 毎年、似たようなことやっても面白くないんじゃないか?」 「それもそうだ」 みんな同じ気持ちらしく、うなずいたり、口々に「そうだそうだ」と言った りしている。 「何かないかな……手品とか」 「それは無理よ」 町田がすぐに反応した。 「どうして、町田さん?」 「四年のとき、手品に決まりかかったことあったんだけど、大がかりになりす ぎるのが一番の問題になったわ。それと、手品って、全員が参加しにくいのよ」 「そっか。全員参加が条件……。先生、校舎内じゃないとだめなんですか?」 「一応、原則としてはそう決まっているわね。何か思い付いた?」 「その、ペットボトルでロケット作って、飛ばすのが流行ってるから、ロケッ トが飛ぶ仕組みの研究と併せてやったら、少しは面白いかなと思っただけです」 先生が感想を口にする前に、教室のみんながほーというため息にも似た反応。 もちろん、興味を示してのことだ。 「面白そう」 「やろうよ、先生」 そんな声も上がったが、先生は難しい顔をした。 「特別に認めてもらうには、色々問題あるみたいねえ。場所を取るから、ロケ ットを飛ばすのって。しかも、水をまき散らすでしょう?」 この一言で、板書していた純子は、先生の言いたいことが分かった。教室に いるみんなの大多数も気付いたかもしれない。 (秋になって台風が来て、やっと水不足が解消しつつあるんだっけ。そういう ときに、ペットボトルのロケットなんて、ちょっと無理だよね。あーあ、いい と思ったんだけど) ちらと、相羽を背中から見やる。彼もすぐに分かったらしい。 「そうか、水の問題があった。難しいや。やっぱり、多数決で行く?」 「待って」 思わず、純子は口に出していた。自然、みんなの注目を浴びる。 (だ、だって、私、黒板に書いてばかりで、意見、言ってないんだもの。いい よね?) 小さくせき払いしてから、彼女は続けた。 「えっと……折角、新しいことをしようと一度は思ったんだから、もう少し考 えようよ。前に書いた中から選ぶにしたって、何か一つ、工夫を凝らしたいと 思うの」 「工夫って、どんな?」 相羽が言った。今の彼は、成り行きを楽しんでいるように見受けられる。 「そ、そうね。……たとえば合奏だと、楽器を手作りするとか」 「無茶だよー!」 教室のそこここから反対意見が出た。 「だから、たとえばだってば。そんなすぐに、いい案が出るわけないじゃない」 額に手を当て、考え込む純子。 その間に、相羽。 「みんなも考えてくれよ。と、その前に……一つ、思い付いた。この劇だけど」 相羽は板書された「舞台劇」の文字を、こつんと指で叩いた。 「推理劇にするなんて、今までにあった?」 「推理劇? ない!」 波紋が部屋いっぱいに広がる。 「それなら、僕は推理劇を提案しとこうっと」 「『FRHTNNZBRU』みたいな?」 面白がっているのか、テレビの人気推理ドラマの名を挙げる子もいる。 「そんな感じ。『あそこまで格好よくいくかどうかは、私にも疑問なんですが、 受ける自信は、あります』」 左手の人差し指と親指とで、眉間の辺りを軽く押さえる相羽。そのドラマの 主役の警部の仕種を真似ているのだ。 (そう言えば、相羽君、警部役の人に、外見がどことなく似ているな) 純子は想像して、吹き出しそうになってしまった。何とかこらえたものの、 口元がひくついて仕方がない。 「筋書きは誰かが書くの? それともどこかから借りるとか」 手を挙げながら、立島君が質問する。賛成するが、問題があることも言いた い様子だ。 「自分達で作った方が便利は便利だろうけど、それだけ大変だよ?」 「賛成してもらえるんなら、僕が作る」 相羽が言い切った。 え、まじ?という風な声がいくつも上がる。 「四十人全員を登場させるのは無理だけど、話のアイディアはあるんだ」 「そう言えば相羽君、図書の時間、たいてい探偵小説を読んでるわね」 前田が言った。彼女も負けず劣らず、読書家である。 「好きだから。前の学校のはあまりなくてさ、こっちの図書室、推理小説の本 がたくさんあって感激した」 うれしそうに話す相羽の肩を、純子はちょいとつついた。 「話、それてる」 「あ、しまった。えーと、この話は決まってからと言うことにして、それで、 他に意見はない?」 誰も手を挙げない。どうやら、すでに推理劇に興味が傾いているようだ。 「じゃあ、多数決を取ります。やりたいと思うものに、手を挙げて。最初は、 合唱または合奏」 順次読み上げていくと、やはり推理劇に人気が集中した。 「推理劇が一番多く、希望者がいたので、これに決めたいと思います。先生、 いいですか?」 「ええ、みんなの意見です。尊重するわ」 先生までもが、結構楽しんでいるように微笑んでいた。 「それから……あと、何が決められるかというと……そうそう、さっきの続き。 僕が話を作るっていうので、いい? もちろん、他の人でもいいんだ」 だが、さすがに自分がやると名乗り出る者はいない。読書感想文でさえ青息 吐息で仕上げるのに、小説や脚本を自分で作るなんて、想像もできないのかも しれない。 「ねえ、こうしたらどうかな?」 思い付いたことを口にする純子。 「とりあえず、相羽君に書いてもらって、それで行くかどうかを判断するため に、みんなに読んでもらおうよ」 「悪いところがあれば、口出しできるわけだ?」 立島がうなずく。他のみんなも理解したように、うなずいた。 「相羽君はこれでいい?」 「もちろん。助かる。アイディアがあったら、どんどん言ってほしいし」 「じゃ、決まりね」 意見が通って、うれしくなる。 それから、相羽が考え考え、皆を見回した。 「早速、取りかかりたいところだけど、まず、知っておきたいことがあるんだ。 みんなの中で、どのぐらいの人が登場人物になってくれるかっていうこと」 「出たいけど、台詞が長いのはやだな」 「あ、僕も。覚えきれやしない」 「私も」 そういう声が多数を占める。 「困ったな。推理劇となったら、かなり長い台詞を言う役も必要になるだろう から」 「それじゃあさ、短い台詞なら出るっていう人を含めて、出たい人、手を挙げ てみて」 純子が聞いた。たくさんの手が挙がる。 「−−ちょうど半分。二十人」 「多いな。いや、うれしいけど。ちょい役が二十人というのはなあ。とにかく、 名前は控えておいて」 「え、名前?」 「誰がどういう役に合うのか、イメージがあるからさ」 「そっか。と−−町田さん、書いといてくれる?」 「分かったわ。任せておいて」 書記の町田は、首を幾度も巡らせ、挙手している人の名前をノートに書き込 んでいく。 「長い台詞でも大丈夫だって人は? 最低でも三人はいてほしいんだ。犯人と 探偵と被害者」 「被害者は途中で死んじゃうんだから、まだ楽そうだな」 「犯人は二人以上でもいいんじゃないか? 台詞、分割したりして」 「探偵役って、男じゃないとだめ?」 三つ目の声は前田。純粋に質問なので、相羽が答える。 「女子でも男子でも、どちらでもいいよ。他の役も同じ」 「面白そうだけど」 そう言いながら、ためらっている人が意外と多いようだ。 「探偵役か犯人役のどっちか、相羽がやれば?」 そんな意味の声を、何人かが後ろから飛ばした。 「難しい役なら、作った本人が一番覚えやすいに決まってるよ」 「話を作らせた上に、そんな大役、押し付ける気?」 遠慮したそうな相羽。 純子は、また意地悪したくなった。 「多数決で決めたら? 先生、どうでしょう?」 「それがいいわ」 先生から、あっさりとお墨付きをもらえた。 純子は内心、笑い出したいのをこらえながら、相羽を目で促した。 不承不承、始める相羽。 「じゃあ……僕が今度の劇で、探偵役もしくは犯人役をすることに、賛成の人、 手を挙げ−−」 「はーいっ」 「賛成!」 皆まで言い終わらぬ内に、クラスの全員が挙手していた。 相羽を見れば、芝居がかった調子で頭を抱えていた。 内容は単純と言えば単純だった。 犯人がどうやって被害者に毒を盛ったか。言い換えれば、被害者に毒を盛る ことができた者こそ、犯人であるという図式が成り立つ仕組みになっている。 『まず、コーヒーを入れた鹿島田(かしまだ)さんはどうか』 探偵役の相羽が、やや大げさな身振りで鹿島田役の町田を示す。 町田も分かり易さを第一に、胸の前で両手を握り、身震いして見せた。 『毒を入れることはもちろん、可能です。また、鹿島田さんには動機もある。 しかし、毒が入っていたのは、死んだ今関(いまぜき)さんが口を付けたカッ プだけでした。誰がどのカップを手に取るか分からないのに、一つだけに毒を 入れる。おかしくはないでしょうか? あのときコーヒーを飲んだ十人全員に 恨みがあるのならともかく、今関さんだけを狙うのなら、こんな不確かな方法 はありません』 『可能性に賭けたかもしれんじゃないか』 警部役の立島が、なるべく重々しい口調で疑問を唱えた。どこから借りてき た物なのだろうか、コートが案外、様になっている。 『失敗したら、知らん顔していればいい。うまく今関が飲めば儲け物というや つだ』 『あり得ませんね』 即断する探偵役の相羽。こちらは着物に袴という出で立ち。横溝正史の創出 した探偵を意識しているのだが、実にはまっている。髪型がちょっと似ている せいかもしれない。 顔色を変えて、相羽の前に出る立島。 『何故、言い切れるんだね?』 『あのとき、コーヒーを飲んだ残り九人の中には、鹿島田さんの妹さんと恋人 の宇崎(うざき)さんもいた。二人のどちらかに毒入りのコーヒーが行き渡る 可能性も充分にあります。鹿島田さんが犯人なら、そんな危険な方法を取るは ずがないでしょう。よって彼女は容疑の外です』 『よかった……』 いかにもほっとしたように、鹿島田役の町田は胸をなで下ろした。 相羽は警部役の立島にうなずいて見せてから、続きにかかった。 『次に考えるのは、砂糖のことです』 「ちがーう!」 −−つづく
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