長編 #3439の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
二学期。最初にすることは? 「これから紙を配るから、ふさわしいと思う人の名前を男女一名ずつ、書くよ うに。男子女子に関係なく、票の一番多い人が学級委員長。副委員長は、委員 長が男子だったら女子の一番の人、委員長が女子なら男子の一番の人がなりま す。一学期の委員長だった立島君、副委員長だった前田(まえだ)さんの二人 は除くように。続けてなると大変だから」 先生は前置きし、クラスの右端から紙を配り始めた。 「ね、ね。誰にする?」 紙を回す際に、富井が純子に聞いてきた。 「さあ。どうしようかな」 「立島君がだめとなると、次に頭いいのは……鈴木君か相羽君?」 「成績で決めるもんじゃないわよ」 ひそひそ、小さな声でやり合う純子達。 「でもねえ、ばかは困るし……。恩義もあるし、相羽君にしようかしら」 「恩義って……宿題、教えてもらったこと?」 夏休みの宿題を先ほど提出したばかりだ。 「あれは、私があいつに化石のある場所を教えたからよ。宿題だけに限っても、 私の方も教えたんだし。恩に感じる必要なんて」 「純ちゃん、何でそんなに嫌うかなあ。あのこと、まだ気にしてるとか?」 「あ、あのキ、キスは関係ないわよ」 遠野の立場も考えて、誤解が解けた件は誰にも話していない。 「だったら、いいじゃない。それともこう考えたら? 相羽君を委員長にして、 色々と雑用させてやれって」 「……なるほどね」 純子の口元に思わず、笑みがこぼれた。彼女は紙に、男子は相羽、女子は町 田芙美の名を記入した。 後ろから紙が回収され、ひとまとめにされた。前の委員長と副委員長の二人 が、最後の仕事とばかり、開票役に当たる。立島が読み上げ、前田雪江(まえ だゆきえ)が黒板に名前と得票を書いていく。 純子の思惑に沿って(?)、男子は相羽が票を集めている。気になって、斜 め後ろを振り返ってみると、「げ」という風に歯を覗かせている相羽が確認で きた。 (嫌がってる嫌がってる。でも……案外、あいつがなってもいいかもね。何か あっても人のせいに絶対しない性格みたいだ、あいつ) などと、のんきに考えていた純子。 しかし、開票が進むに連れて、顔色が変わる。 (な、何で) 黒板にある「涼原純子」の名前の下に、「正」の字が増えていく。 「すっごいじゃない、純ちゃん。追い上げてる」 「じょ、冗談じゃないわよー。どうして私なんかが……」 うろたえる間にも、純子の名を読み上げる声は続き、とうとう女子のトップ になってしまった。 「おめでとー」 「郁ちゃん、まさか、私に入れた?」 純子は机に突っ伏したままの態勢から顔だけ起こし、小さく拍手する友人を 見上げた。 「ぴんぽーん。入れた」 「やっぱり……」 (道理で、開票の間中、うれしそうだと思ったわ) 純子が落ち込んでいるのは、自分が十八票獲得して副委員長に決まったから だけではない。委員長になったのが相羽なのが、もっと大きい。相羽は過半数 の二十五票を集めていた。 新任された挨拶をするため、前に出る。並んで立つ二人の間に、少し距離。 最初に相羽が始めた。 「ただいまご紹介にあずかりました、相羽です。面白がって入れた人もいるか もしれないけど、選んだからには、僕のやり方に従うように−−とは言いませ ん。みんな協力して、楽しいクラスを作っていきましょー。以上、よろしくっ」 面白おかしい言い回しに、クラス中が大受け。 それはそれでいいのだけれども、純子はやりにくさを感じてしまった。 (あんな風に言われたあとじゃ、何て言えばいいのよぅ) スカートの裾をぎゅっと握りしめる。 「次、涼原さん」 「は、はい」 一歩前へ。 「えっと、涼原です。自信ありませんが、なるべく失敗しないように頑張りま すから、応援してください」 簡単にすませて、軽く頭を下げた。 ほっとしているところへ、声が飛ぶ。 「誓いのキス、しないのかあ?」 「なっ−−」 反応しようとして、急に顔が熱くなる。 調子に乗った男子達数人が、騒ぎ出した。 「記念にやれば」 「前よりもっと凄いの、見たいなあ」 事情を知らない先生は、困惑を浮かべるばかり。それでもようやく、注意し ようとした。 が、それより早く、相羽が言った。 「そんなに言うんなら、やってやる」 ざわめきの質が変化する。足下から涼しげな空気が昇り、一瞬にして教室全 体を満たす。 (い!) 純子は驚きが強すぎて、声が出ない。身体も固まってしまった。 (う、嘘) 相羽が振り返ってきた。そして、にっと笑った。 「ほんとにやるのか?」 また声が飛ぶ。さっきの野次とは一転して、戸惑いの響きがあった。 「ああ」 皆の方に向き直り、相羽は楽しそうに言い切った。口笛やら冷やかしやらで 騒然となる教室内。 「ちょ、ちょっと、相羽君」 先生がおろおろしている。こんな事態、初めてに違いない。 「先生、ちょっとだけ待ってください。−−最初に言った奴、誰?」 しんとなる。すぐさま、手が挙がった。 「清水、またおまえか。ふーん」 「へへ。いいことしただろ?」 笑いながら立った清水へ、相羽はつかつかと歩み寄った。 「いいこととは思わないな」 相羽はいきなり、清水の首の後ろを左手で捕まえた。 (相羽?) 純子は呆然と、ただ見守るだけ。 「何だ?」 「俺だって、男なんかとキスしたくないからなあ。けど、それが希望なら仕方 ないよな」 「な、ちょ、ちょっと待った! 待て待て!」 顔を近づけてくる相羽を、必死で避けようとする清水。途端に、クラス中に 爆笑が起こった。 「や、やめろ。誰が俺としろって−−」 「何だ、違うのか?」 とぼけた風に言って、清水との距離を元に戻す相羽。 「じゃ、この希望は取消し。そうだよな、清水クン?」 「あ、ああ、そうして、ください……」 疲れた様子で椅子にへたり込む清水だった。 相羽はまた教室の前に立って、両手を広げた。 「とまあ、こんな感じで、みんなの要望には応えていきたいと思います。遠慮 なく言ってください。その代わり、協力も頼んます」 芝居がかった関西弁口調に、笑いが絶えない。 相羽が再び純子の方を見やってきた。 「涼原さんも力、貸して」 「う、うん」 笑うよりも、感謝の気持ちでいっぱいになりながら、純子はうなずいた。 (相羽君、やっぱり、いい奴) 相羽が最後に言った。 「先生、お待たせしちゃって、すみませーん」 先生の表情が、やれやれと語っていた。 「じゃ、まずは席替えの抽選を、段取りよくやってもらおうかしらね」 十月十日は何の日? そう、体育の日。 あるいは、晴れの特異日。要は、年間を通じて快晴を記録したことが、これ までに一番多い日という意味。 それからもう一つ。純子達の学校は、この日が運動会と決まっている。 「静かにしろっての!」 男子の列の前で、相羽が声を枯らしている。 「ちゃんと並べ。そら、帽子の投げ合いするな」 「行進のときは自由なのに、入場前は整列しなきゃいけないなんて、変だぜ」 先頭の男子が、小さな身体で主張する。 オリンピック等からの影響か、入場式の行進は、男女二列は守るものの、き っちり足並み揃えることなく歩くのだ。 「列は乱したらだめだろ。それに、もしもいなくなってる奴がいたら困るんだ よ。だからちゃんと並べ。数えられないじゃないか」 「分かったよー」 不満そうにしながらも、男子の方もようやく真っ直ぐに整列した。 女子はと言えば、お喋りこそ絶えないものの、とうの昔にきちんと整列し、 人数確認も終わっていた。 「もっと、がつんと言えばいいのに」 人数確認を終えた相羽を待ちかまえ、純子は意見した。入場行進が始まるま では、まだ少し時間がある。 相羽は地面に座りながら、さらっと答える。 「転校生の身としては、遠慮が出て」 「冗談ばっかり。四ヶ月も経って、遠慮も何もないってば」 呆れたけれど、笑えた。 二学期になって、教室での席は以前より離れた二人だったが、委員長と副委 員長という関係上、話を交わす機会は増えているかもしれない。 その内、やっと入場行進となる。音楽が流れるが、歩調を無理に合わせるこ となく、六年から一年の順に各六クラス、入場門をくぐって進み出ていく。 朝もまだ早いのに、休日であるためか、すでに家族がかなり詰めかけている。 カメラや8ミリビデオ等のレンズが、いくつもあった。当然、子供達は自分の 親らを見つけては、手を振ったりピースサインしたりするのだ。 グラウンドを半周したところで、奇数のクラスは右に、偶数のクラスは左に 分かれた。紅白に分けるためだ。 校長先生の挨拶、来賓の挨拶、先生からの注意等、長いセレモニーが終わっ て、最初の演技目の始まり。全校児童によるラジオ体操だ。 気温が上がってきた。 午前中のハイライトは、六年生男子全員による棒倒し。 裸足、上半身裸になった男子達が、二手に分かれて対峙する。紅組は右、白 組は左。どちらの陣営か明確にするため、組の色の帽子をかぶる。 現在までのところ、純子達の属する白組は、一ポイント差で負けている。故 に声援にも力が入ろうというもの。特に同じ六年の女子は。 「頑張れ!」 「負けたら帰って来るなー」 「蹴飛ばしちゃえっ」 ……少々、物騒である。 棒の先に立つ紅白それぞれの旗を取られると、その回は負け。勝敗は三回勝 負で着ける。無論、先に二本取った方が勝ちだ。予行演習では、一対一からの 三回戦がほとんど同時に旗を奪い合って、引き分けている。 本番も似たような展開になった。一回戦は白組が先制するも、二回戦、紅組 が取り返し、タイになる。 三回戦。緊迫した空気が、スターターの音で破られた。 「あっ、あんなことしてる!」 純子の隣で、富井が声を上げた。彼女の指さす先には、肩車をしている男子 がいた。今、二人だが、さらに三人目が担ごうとしている。 「ありゃりゃ。てっぺんは清水君だよ。よくやる」 「危ないんじゃない?」 最初は面白がっていた純子だが、急に心配になった。 皆の思いも同じらしく、徐々にざわめきが広がっているようだ。 三人が肩車を組んだだけでは、まだ棒の先には及ばない。しかし、棒を支え る敵陣の枠を突破することは可能な高さだ。 (高さはいいけど、安定が……。今は紅組も遠慮してるけど、あのまま攻める 気なら、相手だって黙ってないんじゃ) 純子の予想は的中した。近付くトーテムポールを防ごうと、紅組の男子が一 番下の子を囲む。さらにバランスが悪くなり、一番上の清水が、大きく体勢を 崩した。 「危ない!」 誰もが叫んだ。 純子も、顔を覆った手のすき間から、落下する清水の姿を見た。 (だめ!) 思わず両眼を閉じる。 −−つづく
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