長編 #3436の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「昨日は取り乱しちゃって、ごめん」 各自が注文してから、優美は始めた。 「でも、大丈夫。もう」 「本当に大丈夫なの?」 「……うん……」 それからしばらく間を取ってから、優美は話を始めた。 「−−取り乱しちゃった。ごめんなさい。 それで、黙っていた理由だけど。……私、一年前に決めていたの。小説を書 いてみようって」 「一年前って、ひょっとして、あの学園祭のとき?」 桃代が言葉を挟む。 「そう。津村君が、あんなに真面目に、楽しそうに話すんだもの」 「……真剣だったさ。今もそうだけど」 目を逸らし加減に、津村が言った。照れ隠しのつもりなのだろう。 「あのとき、決心したんだけど、口では裏腹のこと言ってしまって……。自分 でもよく分からないんだけど、多分、自信がなかったから……。口に出してし まうと、プレッシャーを感じてしまうという意識もあったかもしれない」 「……書くと言って、もしも書けなかったとき、津村君に悪いと思ったから?」 と、桃代。珍しく、津村に「君付け」をしている。 「うーん、そうかもしれない。うん、きっと、そう」 「で、でも、あたしにくらい、話してくれたってよかったんじゃないの」 桃代の問いかけに、優美が答えようとしたところで、注文が届いた。 サンドイッチとミックスジュースを引き寄せ、それに手を着けかけながら、 続ける優美。 「だって、桃代は津村君のことをあんなに悪く言ってたじゃない。その上に、 小説を書いてみるつもりになったなんて打ち明けたら、何て言われるかと思っ ちゃって」 目をこすると、優美は舌をちょっと出して、照れ笑い。そしてジュースを一 口、飲んだ。 「何とも……」 「じゃあ、私に言わなかったのは何で?」 桃代に代わって、今度は悦子。 ようやくサンドイッチにありつけた優美は、口に入れた分を飲み込んでから、 答え始めた。 「おねえちゃん、あのすぐあとに、新人賞を取るんだもの。つまり、プロにな ったでしょう?」 「……それが、どう関係あるの」 「もし、一年前、私が『小説を書いてみるわ』って、おねえちゃんに話してい たら、どうなった?」 「そりゃ、応援するわ。近くに仲間ができた感じで、心強いし」 「−−私が頼んだら、小説の書き方、教えてくれたかもしれない?」 探るような響きを持たせ、優美はゆっくりと尋ねた。 「もちろん。教えるってほどのもんじゃないけど、分からないところがあれば」 「それがいけないって思っていたの、私」 「分かんないな」 「生意気かもしれないけれど、自分の力だけでやりたかったの。けど、悦子お ねえちゃんに打ち明けたら、つい、頼ってしまうかもしれない、と。恐かった」 「ああ、それで」 悦子はようやく納得したようだ。 「だけど、完全に自分の力だけでなんて、無理なのよね。当たり前のことなの に、それが分かっていなかった。私、色々な人の本を読んで、影響を受けてい るに決まってるんだもの。選評を読んで、思い知らされたってところ」 「手に入れられる物事は全部、取り込んじゃっていいのよ。それらをどう組み 換え、自分の想像を足して、新しい話にするかってのが、問題なんだから」 「うん。だから、次からは、おねえちゃんからも色々教えてもらおうと思って ね。よろしくっ」 「いいけど……。しっかし、いい度胸だわ。最初から賞を目指すなんて」 「初めは、そんなつもりじゃなかったの……。ただ書くだけ書いてみて、完成 したら、津村君に見てもらおうって、考えていただけだったのに。それがその、 美術部にあった津村君の絵を見ていたら、引け目を感じちゃったのかな。自分 でもよく分からない。ちゃんと何年も絵の勉強をしている相手に対して、私の やってることって失礼になるんじゃないかって……」 「なーる。分かった。それで、賞に出してみたと。何かの賞を取ったら、津村 君に読んでもらおう。こう考えたんだ?」 いつものペースを取り戻したらしい桃代は、明るい調子で言った。 「ん、まあ、そんなところ。それで……最終選考まで残れるなんて、夢にも思 っていなかった。だから、連絡を受けたときは、舞い上がっちゃって、思わず、 誰彼となしに言って回りそうだったわ。でも、結局、それはやめて」 「待った待った」 グラスを置き、手を挙げたのは悦子。 「くだらないこと聞くけど、家の人には分かっちゃったんじゃないの? 連絡 が来たのなら。出版社の編集から電話なんて、まず、あるもんじゃないし」 「あ、それは、悦子おねえちゃんの名前を借りて、ごまかしたの」 「はあ?」 「作家・井藤悦子について、編集部がアンケートを取るっていう設定よ」 「大胆なごまかし方……。ま、いいや。続けてよ」 「えっと……。九月十五日、これまでにないくらい緊張していたと思う、私。 その日は、『最終選考の結果をお知らせしますから、自宅にいてください』と 言われてたから。電話の前で待っていたいんだけど、親にも話していなかった から、変に思われちゃいそうだったし、朝からずっと、部屋でじっとしていた。 恐さと期待感、一緒になってぐちゃぐちゃ。 電話の内容は、知っている通り……。もう、魂が抜けた感じ。それからしば らく、何もやる気が出なくて、無気力状態」 「あー、それで障害物競走も負けたか」 「違うって」 桃代の茶々に、声を立てて笑う優美。もう、気分は楽になっていた。 「そうか……。そんなときに、俺、しつこく、君に頼んでいたんだ。悪い。君 の気持ち、全然、考えていなかった」 津村が、言いたくてたまらなかったという風に、早口で述べ立てた。 「そ、そんなことないよ。私が自分で勝手に、落ち込んでただけ。それにあの 頃って、最低だったから。選評って言うの? 雑誌で、選考委員の人達の批評 を読んで、全然、だめみたいに思えてきて」 「あら? そんなにひどく言われてた? 私も読んでみたけど、そんなに悪く 書かれていなかったじゃない。むしろ、目新しささえあったら大丈夫、みたい に受け取れたけどな。違う?」 そう言う悦子の顔が、不思議そうなものとなっている。 「全然、だめ。受賞した人達への言葉と比べたら、けなされまくってる」 「ははあ。優美、あんたはつまり、批評されるのに慣れていないよ」 「批評されるのに……慣れていない?」 新人作家の言葉に、きょとんとする優美。 「あれぐらい、新人賞では当然。小説の賞でも漫画の賞でもいいから、色々と 選評に目を通してみなさいよ。すっごいのがあるから。今の優美だったら、こ んなきつく言われたら気絶するんじゃないかって思えるぐらい、厳しいのもね」 「……そういうものなの?」 「自信、持ちなさいよ。いい? 初めてでここまで行くなんて、凄いんだよ」 「段々、分かってきたけど……まだ、自信を持つまでにはなれない。自信を持 てるように−−書き上げた作品を、『私だけの物語です』って自信を持って言 えるように、もっと色々なことを知りたくて、ここに来たんだから」 優美に対して、他の三人は顔を見合わせた。思いの外、優美が元気なので、 心配した自分達が馬鹿々々しくなったのかもしれない。でも、表情は明るい。 「その様子なら、もう心配いらないね」 と、苦笑混じりに津村。 「期待していいよね。僕の知らない物語、聞かせてくれるって」 「ええ。近い内に、きっと」 言い切ることができた。 六.マイナスワン、プラスワン 普段の部活で、部員全員が集まっても、図書部の部室−−図書室は広すぎた。 今日は、全部員の他に、美術部副部長もいるのだが、まだまだ広い。 「遅ればせながら、そしてささやかながら、文化祭の打ち上げを始めます」 園田が、いつもよりは気取った口調で、紙コップを掲げた。 「何で、自分まで……」 ポスターを描いてくれたからと引っ張り出された津村は、まだ戸惑い気味。 「いいじゃない。少しでも多い方がいいの、こういうのは」 相手のコップにジュースを注ぐ優美。今日は自分のテリトリーだ。いつもよ り気楽にやれる。園田部長がいなければ、より一層、なのだが。 「……先輩へならともかく、同じ学年で」 紙コップを手に、津村が言った。 「サービス業みたいな真似は、本職にならない限り、しない方がいいと思う。 ジュースぐらい、自分で注ぐから」 「意外と固いんですね」 と、新倉百合香が会話に入ってきた。お酌の手つきをしている。 「後輩なら問題ないんですよね? どうぞ」 「……参ったな」 仕方なさそうに、コップを空ける津村。 「君も結構、いい性格しているね」 コップを出しながら、津村は呆れたように言った。 「そうですか? 私は単純に、ポスターのお礼の意味で……」 「はいはい、分かってます。ありがとう、ごちそうさま」 津村は首を振った。打ち上げ開始数分で、早くも三杯目のジュースになる。 「噂に聞いたのだが」 園田がふと、右手人差し指を立てながら言った。 「やっと、創作してくれるとか、縁川さん?」 「え? あ、はい。そうです」 自分の話題だったのかと、慌てながら答える優美。 「本当なら、一年前から書いていたんですけど」 「それはひどいな。その頃と言えば、部誌、僕が一人でやっていたんだよ。協 力してくれなきゃ」 園田は表情を変えずに言う。多分、今のは冗談なのだ。しかし、表情がその ままだから、少し恐い。 「どういったジャンルを、書かれるんですか?」 と、新倉百合香。 「新倉さんと一緒。ファンタジー系統になるはずよ」 「何作ぐらい、書きました? 機会があれば、読ませてください」 「えへへ。完成したのは、実はまだ、一作だけ。いきなり、長編にチャレンジ しちゃったの」 「え、それって凄いんじゃあ」 目の見開く新倉百合香。応じたのは津村だった。 「凄いさ、そりゃ。なのに、ついこの間まで、自分で気付いていないんだよ、 自分の凄さに。しょうがないんだから」 「津村君たら……」 途端に、優美は気恥ずかしくなってきた。 「あれは言わないのか? 投稿のこと」 「あれは……自分からは、何だか言いにくくて」 「じゃ、僕が言ってもいいよな?」 津村は、事情を知らぬ二人に向けて、説明をする。 「しかも彼女、その初めての作品を、F&M賞に投稿して、最終選考まで残っ たんだとさ。残念ながら、最後の最後で落ちちまったけど」 「うわぁ」 一年生部員の目の開き具合が大きくなった。 「縁川先輩、そんなに上手なんですか! もう、ますます読みたくなりました」 「僕もぜひ」 反応が短かった園田だが、彼も感心しているのは間違いない。 「見ろ。やっぱり、凄いことだって、分かっただろう?」 津村の言葉に、優美は二度三度とうなずいた。 「でも、あの初めての小説だけは、もう誰にも見せたくないの」 ええーっ! 一斉に、不満そうな声が上がる。 「だって、あれ−−『夢幻物語』は今の私と、全然違う意識で書いた物だから。 時間が経ってからならともかく、今はだめ。とっても、好きなんだけどね。愛 着があるっていうか。『嫌いになれない、でも充分じゃない』といったところ」 思い付いて、とあるアニメの主題歌に、自作への思いをなぞらえた優美。 「じゃあ、第二作をお願いしますっ」 「それは、こっちからお願いするわ。津村君のためにもなるでしょ?」 後輩から津村へと、視線を移す優美。 「そうかもな。たくさんの人が読むのが、いいだろう」 「どういう意味ですか、津村さんのためにもなるって……」 この中ではただ一人事情を知らない一年部員が、不思議そうに質問してきた。 ちなみに園田部長は、文化祭初日に聞き耳を立てていたので、知っているはず。 優美は津村と顔を見合わせた。そして、津村に説明を任せた。 「津村先輩、漫画を描くんですか!」 説明を受けた後、今度は、そちらの方に驚く様子の新倉百合香。 津村は曖昧に笑って、ごまかそうとする素振り。これ以上、この話題を続け ると、漫画も読ませてという風向きになりかねないと、警戒したものらしい。 「そうそう、新倉さん。身体の方は大丈夫?」 空々しくないよう、津村は話題転換に努めるのであった。 −−続く
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