長編 #3435の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
悦子は結局、優美の姿を見失ってしまっていた。 (帰ったのかな……。それとも、どこか違う場所とか) もし、優美がどこかに行ってしまったとしたら、悦子には見当つかなかった。 (どっちにしたって、一人だろうな。だったら、校内にはいないはず) 悦子は、門から外に出た。 とりあえず、優美の家に続く道を行く。ゆっくりした速度で。 (それにしても、どうしてあんな、動揺しちゃったのよ。そりゃまあ、いきな り言ったのは悪かったかもしれないけど、私だって、昨日の夜、あなたに確認 しようとしたのよ。それなのに、飛び出して行くんだから) 昨日のことを、頭にじっくり思い描く悦子。もしかすると、あのとき、何か 今日の原因となる一言がなかったか。 (……思い当たらないな。むしろ、あのときは、開き直った感じで……。それ をぶち壊したのが、私って訳か。参ったなあ。会って、どうやって話しかけて いいものやら) そちらが心配になってくる。 (動揺の原因が分かれば、対処の使用もあるんだけど。うーん……ペンネーム、 明らかに私を意識していたわ。てことは、なぐさめ役、私じゃ無理かも。それ だと困るな。二人に−−津村君達に言った手前もあるけど、何とかしたい) しばらく歩き続け、公園横を通りがかったとき、公衆電話が目に入った。 (家に向かったとしたら、もう、帰り着いてるかな) ボックスに入り、財布からテレフォンカードを取り出すと、差し込み口に入 れようとする。入らないのでおかしいなと思い、手順の間違いに気付いた。送 受器を取り上げ、改めて挿入。 (私自身、結構、動揺しているな) 残り度数を確かめ、悦子はボタンを押した。 「はい、縁川でございます」 予想通り、優美の母親が電話口に出た。 「井藤悦子です。いつも、お世話になっています」 「ああ、井藤さん。何か?」 送受器から流れてくる相手側の声は、普段通り、明るい。 これは空振りだったなと想像しながらも、悦子は確認を忘れない。 「優美ちゃん、いるでしょうか? ちょっと話が……」 「あ、優美は今日、学校ですよ。学園祭じゃなかったかしら。そうそう、文化 祭。文化祭があって」 「そうでした? 私、優美ちゃんから聞いたつもりなのに、忘れていました。 これから、学校に行ってみます」 「それでよろしいの?」 「はい」 「そう。優美のこと、いつも付き合ってくれて、助かってるのよ。これからも、 よろしく頼みますね」 「いえ、こちらこそ。それじゃあ、失礼します」 電話を切ると、悦子は唇をぎゅっと噛みしめた。 (家に戻ってはいない。じゃあ、どこにいるのよ、優美?) 電話ボックスから出たところで、しばし考える悦子。 その内、咳払いが聞こえた。見ると、冴えない外見のサラリーマン風のおじ さんが、彼女の正面に立っている。 ああ、電話かと察した悦子は、慌てて飛び退くと、思考を続けるため、その まま公園に入った。 公園内、グランドの部分と草地の部分とを隔てるコンクリートブロックに、 彼女は腰を下ろした。他に誰もいない。 (どこかなあ。あの子が行きそうなところ……だめ、全然、浮かばない。しょ っちゅう、一緒に遊んでいるつもりでも、案外、知らないもんだわ) 悦子は、どうしようもない空しさを覚えた。 (−−よし。あの子の今の気持ちを考えてみよっ。 優美は、投稿した事実を、みんなに知られたくなかった。落選したから? ううん、それもあるかもしれないけど、もっと大きいのは……。優美は、津村 君から−−多分、好きな男の子から−−小説を書いてみないかと言われていた。 津村君に漫画として描いてもらうには、自分の小説が優れた物でなければなら ないと、思い込んでいた……はずよね。 だったら……秘密をばらした私のことを苦々しく思う。でも、それは一瞬だ けで、次には……。そう、嫌悪感じゃないかしら。違うかな。こんなに悩み苦 しむのも、自分の投稿作品が落選したからだ。どうして自分は、もっといい作 品を書けないんだろうと、自分の力のなさに嫌気を感じている……) 何だか、当たっているような気がしてきた。さらに考える。 (自作に嫌気を感じたら、どうするだろう? 私だったら、次の作品に取りかかるかもしれないけど、今のあの子の状況だ と、それは無理なのかもしれない。とにかく、もっと小説がうまくなりたいっ て思うだろうから、小説を書くことについて、何らかの意味でプラスになるこ とをしようとするんじゃないかな。つまり……他の人の小説を読む。−−うん。 間違いないとは言い切れなくても、はっきりさせる値打ちはある。 他人の本を読むのなら、書店か図書館。書店じゃ落ち着いて読めないから、 図書館よね。学校に戻って、図書室に行くとは考えられない。まさか、私の部 屋に来て、本を読もうとするのも、全く不自然。そうなると、優美の行き先は) 悦子は立ち上がった。そして、今、頭の中で出した行き先を目指し、足早に 進み始めた。 街の図書館は、最近、新築移転されたばかりで、なかなかこぎれいだ。一階 のホールを抜け、エレベータなり階段なりで二階に行くと、そこが図書スペー スとなっている。 その二階に来た悦子は、ざっと見渡した。ふと、視界の隅に、その姿が入っ てきた。確認のため、悦子がそちらへ目を凝らすと、間違いなく、優美がいた。 優美は、窓際の席にいた。手近に本を何冊か置いているものの、そのページ を開くこともなしに、顔は腕にうずめられている。 悦子は、遠回りをしてまで、そうっと、優美に近付いた。 が、最後のところで気配が伝わったのか、優美が顔を上げた。 悦子は気まずく思い、足を止めた。そして、優美の頬に、濡れた跡があるの を見て取る。 「優美ちゃん……泣いてたの? 突然、飛び出して−−」 「……」 黙ったまま立ち上がると、優美は悦子を無視するように、さっさと歩き始め た。追いかける悦子。 「どうしたのよ? 話ぐらい」 それでも、優美は立ち止まらない。とうとう、図書スペースの外に出てしま った。そこでようやく、優美の足は止まった。 「優美?」 「中で、うるさくする訳にはいかないでしょ」 そっぽを向くようにしながら、優美はここまで歩いて来た理由を示した。 「……それで、優美。何を怒っているの。私、心配になって」 「かまわないで!」 風船が破裂したかのように、優美は、一気に声を張り上げた。先ほど、図書 の利用マナーを説いた割には、かなりの音量。 「落ち着いて。ねえ」 「いやっ」 伸びてきた悦子の手を、荒っぽく振り払う優美。 「……じゃあ……聞かせてくれない? 何をそんなに、恥ずかしがっているの か。応募したこと、黙っていた理由とかでもいい。何もかも話しちゃって、す っきりさせた方がいいんじゃないかしら」 「……」 黙ったままでいる優美。精神が高ぶって、素直に話す気になれないのかもし れない。 「……謝って」 優美が沈黙を破った。やや、かすれたような声。 「……分かった」 悦子は、相手の言葉を受け入れた。こうして口を利いてくれただけで、よし としなければならない。そう考えながら。 「突然、言い触らすような真似をして……私が悪かったわ」 深く頭を下げる悦子。事情を知らない者の目に、この光景はかなり奇妙に映 っただろう。 「……ごめん……なさい」 優美はまた泣き声になって、逆に悦子に謝った。 「さ、もういいから。訳を話してちょうだい」 それでもぐすぐすやっている優美に、ハンカチが渡された。 「……ありがとう……。だけど、今は……言いたくないの。ついさっきのあれ、 まだ整理つけられなくて」 優美の返事に、悦子は一瞬、迷った。このまま話を聞き出すか、相手の言う 通りに引き下がるか。 決断はすぐに下された。 「それなら仕方がないわね。気が済むまで、話さなくていい。でも、いつか必 ず、話して。じゃないと、私、いつまでも責任を感じてしまうし……ほら、津 村君達にも、早く説明する必要があると思うしね」 「うん」 「それじゃ、私は帰るわ。優美、学校には戻らなくていいの?」 「今はいい。その気にならない」 言い切ると、優美は悦子に背を向け、また図書スペースに戻っていく。 悦子は、今はここまでで精一杯か、と思いながら、一階を目指した。 元の席に戻ると、すぐ本を開いた。 ファンタジー、SF、童話……どれも、きらきらと輝くような驚きがある。 程度の差こそあれ、新しい発見を含んでいる。ページを繰る度に、包みがほど けていく。そして、中身を知ったあとには、何かしらあたたかい光が残る……。 ため息が出た。 一歩下がって、物語の造りを眺めると、そのうまさに感心させられてしまう。 と同時に、自分の物語がいかに稚拙だったかと思い知らされる。打ちのめされ たような感覚が、頭の中一杯に、嫌でも広がっていく。 今では、選評の言葉も素直に受け入れられる。自分の語った話が、ほとんど 借り物だったことを、はっきりと認識できる。 誰も知らない物語。自分の内から生まれた、未明の夢。 それを強く意識した。 見つけたい。そのためには……。 自分の力だけで、どこまでやれるか。優美は、また不安の迷路に陥りそうに なって−−。 文化祭の終わった翌日は、休校日になっている。 朝早くから、優美は、再び図書館に出向いた。書くために、様々な分野の資 料を覗いてみようと思う。ざっとでいいから、この世の中にどれほど『面白い』 があるのか、覗いてみたい。 まず……朝の光が、心に浮かんだ。今朝、目覚めたときの、朝日のまぶしさ。 それが印象に残っているのだろう。星について、宇宙について、読んでみよう。 宇宙の広大さを知る毎にロマンがわき起こり、神話に託した古代の人々の心を 感じる。そんな気がした。 それから、宝石について知りたくなる。輝く美しい物から、ダイヤモンドや 真珠といった貴石を連想した。宝石の持つ神秘性に触れると、奔放なイメージ が膨らんでいく。 興味の対象は、次々と変化していく。 宝石から鉱物、鉱物から化石、化石から生命へと。一方では、星座から神話、 伝説へと広がりを見せる。創作を志す少女の好奇心が、一日で満たされるなん て、まず、あり得ない。 知らぬ間に時間が経っていた。遅めの昼食を取るため、一階に入っている喫 茶店に向かう。 その途中−−。 「あ」 その三人の姿を目にした途端、優美の口からは、声が漏れ出た。 向こうでも、優美に気が付いたらしい。 「うまく会えて、よかった」 言ったのは、津村だった。ほっとしたのが、その表情からありありと窺える。 「心配したんだから」 桃代が言った。彼女も、明らかにほっとしている。 優美は、三人目の人物−−井藤悦子に目を向けた。 「昨日、図書館にあなたがいたって話したら、二人が、今日、行ってみようっ て言い出したからね」 説明する悦子。 「直接、優美の家に行くのは、気が引けて。押し掛けて、無理矢理話を聞くな んてね。でも、気になってしょうがないから、こっちに来てみた訳。そしたら、 ばっちり。ほんと、よかった」 桃代の口調は、普段よりもずっと早口だ。 「……みんな……ずるいんだから。偶然みたいにして、私と会って、理由を聞 こうとして」 優美はだが、嬉しかった。もっと時間がかかると思っていたけれど、これな ら今、全てをすっきりさせられるかもしれない。 「とりあえず、ご飯、食べさせてね」 笑ってそう言うと、意味が分からない様子の三人を置いて、先に喫茶店に入 って行った。 −−続く
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE