長編 #3432の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「そうじゃないけれど」 「だったら……。部誌だって、君が書かないんなら、部長さんと一年の新倉さ ん、二人しか書いてないんだろう?」 「そうだけど……」 「縁川さんみたいに、それだけ本を読んでたらさ、普通、自分で書きたくなる んじゃないかなあ」 「前にも言ったでしょう、書きたいと思ったことなら、いくらでもある」 ペンを置く優美。アンケートは、すでに書き終えていた。 「その気持ちで、一つ、書いてみない? 今なら、何だって挑戦できるよ」 「そんな……無理よ」 「決めつけないで。さっきの話だと、俺−−僕の読む本と、縁川さんの読む本、 似ていると思うんだ。だから、縁川さんが書いた物語なら、きっと僕も、面白 く漫画にできると思う」 「ジャンルが重なっただけよ。それぞれが読んだ本は、きっと違う」 「そうかな。実は……気にしていたんだ、縁川さんの名前」 「名前? 私の?」 目をぱちぱちさせてしまう優美。津村は一つ、大きくうなずいた。 「そう、中三のときから。図書の貸し出しカードに、名前が記入されるだろ。 で、自分が借りる本を、前に誰が借りていたのか、何の気なしに見ていたら、 半分以上に、その名前があるのに気が付いた。『縁川優美』って」 「……」 「同じクラスだったから、すぐに分かった。気になりもした。でも、そんな理 由だけで話しかけたら、変に思われるんじゃないかって意識も働いて、特に言 い出しはなかったけど。……だけど、去年の十一月のあれにはびっくりした。 お姉の大学の学祭で、ばったり会うんだもんな。絶対、感性が似ているんだと 思う」 「例えそうだとしたって、私が書いたのなんか、面白くないよ……多分」 そこへ、園田がまた近寄ってきた。 「小説を書くんだったら、及ばずながら、手伝えると思います」 どうやら、聞き耳を立てるのをやめていなかったらしい。辺りを見れば、ぽ つぽつとお客が来ている。 「よっぽど暇みたいだ、部長さん」 呆れるように、津村。 同学年と先輩、男子二人を無視して、優美は立ち上がった。 「どうしたの?」 「そろそろ時間だから。ごめんね」 確かに、時計は正午五分過ぎを示していた。美術部の展示室に残っている桃 代とした、昼食の約束まで残り五分。 「あ、そうか。悪い、引き止めちゃって」 「ううん。じゃあ」 内心、悪いことしたかなという意識もあった。けれども、創作についてあれ これ言われるのは……。 「あ、も一つ」 呼び止められた。立ち止まり、相手の言葉を待つ。 「大したことじゃないんだけど……明日は、弁当、持ってこなくていいよ」 「?」 表情と仕種で、分からないと答える優美。 「片山さんにも言っといて」 分からないなりに、優美はうなずいた。とにかく、早く、この場を離れたか った。 戻ると、桃代が退屈そうにしているのが、目に飛び込んできた。 「ああ、お帰りぃ」 桃代は両頬杖をついた体勢を解き、のんびりした声を上げた。 「どうだった?」 「どうって?」 弁当箱を取り出した優美は、席に着きながら、敢えて聞き返す。 「だからぁ……もう、あいつとのこと」 こちらも弁当を開けながら、桃代は唇を尖らせた。気を利かせたからには、 結果報告を聞く権利があると言わんばかり。 「これといってなし。ほんとよ」 「何で?」 それから桃代は声をひそめた。 「この際、はっきり聞くけど、津村のこと、好きなんでしょう?」 「好きとかじゃないかもしれないけど……。去年のあのとき、漫画を描いてみ た言っていってた彼、格好いいなと感じて」 「……それまで、いい加減なところしか見せてなかったからね、あいつ。だか ら、その反動で、よく見えたのかも」 きしし、と笑う桃代。 「そんなんじゃないって!」 「むきにならなくても。ほら、他の人に聞こえちゃうよぅ」 慌てて口元を押さえる。 「でさあ、どういう会話をしたの?」 「小説の話」 「それだけ?」 不満そうな桃代。 「まあ」 「そもそも、どこを見に行ってたんだっけ?」 「図書部よ。私は気が進まなかったけれど、津村君のご希望でね」 それから、急いでポスターを作ったことを、優美は、短くまとめて話した。 「あっきれたなあ。そんなんじゃあ、まともなデートとは言えないじゃない」 「どこがデートよ。ほんの一時間ほど、一緒に話しただけ」 「ま、いいわ。話の中身を聞きたいの。小説の話って?」 「例のごとくって言っていいのかしら。小説、書いてくれないかって方向に行 っちゃって。私、だめだって言ってるのに」 「ふむ。よっぽど、向こうも気に入ってるみたいね、優美を」 「えっ、気に入ってる?」 自分の顔が、少し赤らんだ気がする。優美は、桃代に見える方の頬を、右手 で隠した。 「そうと思うけど」 厚焼き卵を口に放り込む桃代。その表情から判断するに、楽しみに取ってお いた物らしい。 「それは……読んでいる本の傾向が似通っているからよ。趣味が合うという点 だけ、気に入ってるんだわ」 「趣味が合うのは、大きなポイントじゃないかしら。−−ま、あまり首を突っ 込んだら面白くない……じゃなくて、よけいなお節介だろうから。ね? あと は自分でやりなよ」 「な、何よ、それ?」 優美が問い質そうとしたところで、部屋に入ってきた者があった。 「先輩、そろそろ交替の時間でーす!」 「あ、もう、十二時半」 美術部後輩に応じながら、時計を確かめる桃代。 優美は、言葉の矛先を収めざる得なくなった感じだ。 「あれ? 副部長はどうしたんですか?」 「あいつならね」 桃代は、優美へ視線をよこして、片目をつむった。 四.楽日 家に帰ってからも、何だかもやもやしていた。少し遅めの夕食が終わって、 いつもならテレビを観るのだけれども、その気になれない。 優美は一度、自分の部屋に入ったが、すぐにまた出た。 「ちょっと出かけてくる。悦子おねえちゃんのところへ」 「こんな時間に? いくら近いからって、ねえ。それに、あまり迷惑をかけち ゃ」 すでに慣れてしまっているためか、優美の母親も口で言うほど異を唱えずに、 あっさりと送り出してくれる。 「なるべく早く、帰るから」 そう言い置いて、優美は少し肌寒い夜へ、走り出た。 悦子の入っているアパートは、優美の自宅から歩いて八分足らずの距離にあ る。今夜は走ったから、五分か六分といったところだろうか。 「おや、優美。こんな時間に、いったい? おーお、息が切れてるじゃない」 ノックに応じて出てきた悦子は、意外な訪問者に目を丸くしている。 「特に用って訳じゃないんだけど……。上がらせて、お願い」 「そりゃま、かまわないけど」 ラフな格好の悦子は、優美を中へ招き入れた。そして、クッションを引っぱ り出して、そこへ優美を座らせると、手早く飲み物を持って来た。 「走って来たのかい? そんなに急ぐなんて、どうかしているよ」 「ありがとう」 悦子の言葉には反応せず、コップを受け取ると、優美は一口、喉を鳴らして 飲む。人心地ついた感じ。 「……今、いい?」 優美は机の上を見やった。書いている途中だったら、邪魔かもしれないと考 えた。 「あ? ああ、いいって。アイディア、メモってる段階だから」 「それじゃ……悦子おねえちゃん。どういうつもりで、小説を書いているの?」 「どういうつもり、だって?」 予想外の質問だったらしく、悦子は口をぽかんと開けている。 「うん。書き始めたきっかけでもいい。どうして書こうと思ったのか、どうし て新人賞を狙うようにしたのか。教えて」 「きっかけねえ。賞を狙うようになったのは、作家になりたいっていう目的が あってのことだからね。で、書こうと思い立った理由かあ……。うーん、好き だったからか、やっぱり」 「好きって?」 「小説を読むのが好きで、その内、自分でも書いてみたいって思うようになっ て。小説を書く人間って、たいてい、こういうのが出発点だと思うよ」 「はあ、そう……」 曖昧な返事に溜め息を混ぜる優美。 「何か、気のない反応だな。私の答、気に入らなかった?」 「そうじゃないの。……聞いてください」 「何だ、改まっちゃって?」 姿勢を正す悦子。つられて、優美も居住まいを正した。 それから優美は、自分が津村に小説を書いてくれないかと請われている事情 を、手短に話した。 「……津村って、いつか、優美が話していた男の子だね?」 優美の話が終わると、悦子はまず、そんなことを口にした。 こくりとうなずく優美。 「好きな異性に頼まれて、か」 「好きとかじゃなくて、何て言うか、気になる……」 「好きでいいんだよ、今のあんたの場合」 そう言い切られると、優美はますます、津村を意識してしまった。 「と、とにかくっ。私、心配になってきて……。こんなきっかけで書き始めて も、満足できる物語が綴れるんだろうか……って」 「……元々、優美は小説、書いてみたいと思っていたんだろう」 「うん」 「だったら、心配する必要ないんじゃないの?」 悦子の結論は、極めて早く、さっぱりしていた。 「書こうと思う意志については、私もあんたも同じよ。その次の一歩を、私は すぐに踏み出せたけど、あんたはちょっと躊躇していた。それを、津村君とや らが背中を押してくれてるんだ。ぽん、とね」 言いながら、優美の肩口を押す真似をする悦子。 「あとは、優美自身が、どうするかだけだと思うな」 「それでいいの? 満足できる物語、書けるかなあ」 「あんたねっ、百パーセント満足できる作品なんて、超ベテランの作家だって、 そうそう書けるもんじゃないって。これから初めて書こうという素人が、そこ まで考えるんじゃないっ」 「……」 「……けどね、書くからには、全力を出すつもりでやらなきゃだめ。とにかく、 自分の力でどこまでできるか、可能な限り、走っちゃうのよ。自分の小説の出 来不出来なんて、そこからの話よ」 「……何となく、分かった」 ほっと息を吐く優美。何だか、肩の荷が降りたような気がする。書けるかも しれない。まだまだ、気持ちは固まらないけれど。 「よし」 と、優美は勢いよく立ち上がった。 「ごめんなさい、邪魔しちゃって。本当に、ありがとう。気分、すっきりした。 じゃあ」 足早に出て行こうとする優美を、悦子の声が引き留める。 「もう帰るの? 来たと思ったら……」 「うん。勝手かもしれないけど、許してね」 「別にいいよ。それより、ちょっと聞きたいこと−−」 悦子の言葉が終わらぬ内に、優美は外へ出てしまっていた。 このときの優美は、すでに上の空になっていた。 (ようし。この気持ちを持続させなくちゃ。まずは部誌を読んで、刺激を受け てみようっと) 優美は、行きと同じように、小走りに家路を急いだ。 −−続く
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