長編 #3418の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
胸を隠すタオルを、ぎゅっと握りしめた。 (何で、あいつばっかりに!) 恥ずかしさと腹立たしさとで、頭がかっかしてくる。 「早く着替えなよ」 富井が急かす。白の水泳帽を指先で回して、暇そうだ。 「ご、ごめん。あいつのことが腹立って……」 「相羽君のこと? そりゃあ、私もびっくりしたけど、転校してきて初めての 水泳なんだよ、相羽君」 「それが何だってのよ。覗いていいわけ?」 「あの様子からすると、他の男共に引っかけられたんだってば、きっと」 「え」 着替え終わり、髪をゴムでくくろうとしていた手が止まる。 廊下から、また声が聞こえてきた。相羽と他の男子数人。 「おまえら、よくもだましやがったな」 「へっへー。引っかかる方がどじ」 「そうそう。ちゃんと確かめろよ。中に女子がいるって、分かるはずだぜ」 「遅れて、慌ててたのに、そんな余裕あるかよ!」 声が遠ざかる。 純子は富井の「ね?」という笑顔に、不承不承うなずいた。 (なるほどね。……だけど、重ね重ね、何であいつにばっかり、こんな……。 謝ってこない限り、許さないんだからっ) 苛立ちを消せないまま、純子は皆と共に教室を出た。 すると、とっくに行ったと思っていた相羽が、水着一枚で立っていた。背中 を向けていた彼は、女子が出て来るのを知ると、急いだように正面を向いた。 それから、ぴんと背筋を伸ばして直立不動の姿勢を取ると、おもむろに頭を 大きく下げる。 「女子の皆さん、お騒がせして、どーもすみませんでした!」 純子ら女子は、戸惑いで足を止める。 「僕が悪かったですっ。許してください」 誰か一人が、くすっと吹き出した。それがきっかけとなって、みんな、くす くす笑い始める。次第に笑いは大きくなり、空気も和んでいく。 「許したげるワ、相羽君」 相羽に近い位置の女子が、おかしそうに言うのに反応して、目だけを起こし た相羽。恐る恐る、探るような視線を向けてくる。 「次からは通用しないからねー」 「急がないと、授業、始まっちゃうわよ」 主に二組の女子が、相羽に声をかけて行く。 相羽の方も、やっと安心できた様子だ。頭を上げ、女子をやり過ごそうと、 立ち尽くしている。 後ろの出入り口から出た純子達と、相羽との距離が狭まった。 純子に気付いたらしい相羽は、再びばつの悪そうな顔を見せる。 「涼原さん。そのう、またやっちまって……。謝らなきゃいけない」 「もういいわよ」 純子は怒った口調で応じた。自分でも、どうしてこんな喋り方になるのか、 よく分からない。 「さっきので充分。許してあげるから」 「この間の、その、キスの分−−」 「それとこれとは別」 きっぱり言って、純子は早足で相羽の前を通り抜けた。 (言い訳しないんだ、あいつ……) ちょっぴり、見直した純子だった。 「あーあ、謝ってばっか。かっこ悪いったらありゃしない」 相羽の嘆く声が、小さく聞こえた。 今年初めてのプールは、少し冷たかった。震えるほどではもちろんないけれ ども、水から上がって風を浴びると、鳥肌が立つ。プールの中の方が温かく感 じられるぐらいだ。 「これから十分間、自由時間」 水泳の授業で一番楽しみなのが、これだ。決まった順番に泳がされるのより、 ずっと面白い。 「鬼ごっこ、しよ」 「うん。純ちゃんが鬼ね」 「あ、ずるーい!」 二組の女子十人ほどで水中鬼ごっこが始まる。泳ぎに自信がある者でも、他 の関係ない子達をよけながら追いかける、あるいは逃げねばならないので、さ して優位にならない。 「それっ」 純子が町田に追いついて、タッチした。鬼になった者は、その直前の鬼には タッチを返せないルールが定着しているので、急いで逃げる必要もなし。 「あれ?」 町田が、純子の方をまじまじと見ている。 「な、何?」 タッチされないと分かっていながらも、警戒する純子。 「帽子、ないよ」 「え? あっ、ほんとだ」 純子は頭に両手をやり、手応えのなさに焦った。 「探さなきゃ。私、ちょっと外れる。みんなに言っといてね」 「オッケー」 町田は他の女子の方へ泳いでいく。 純子はと言えば、目を細め、ゆらゆら揺れる水面に視線を走らせた。が、人 が多くて、自分の帽子がどこに行ったのか、さっぱり分からない。 (困ったな……。沈んでるかもしれないし) 息を吸い込み、頭から潜る。痛いのを我慢して、目を開けたが、たくさんの 足が見えただけで、どうにもはっきり見通せない。 「っは!」 息がもたずに、勢いよく水面から顔を出した。 と、頭の上に何か置かれる感触があった。 「−−あんた」 相羽がすぐ横にいて、手を伸ばしている。純子は思わず、後ずさり。と言っ ても、水の中なので、ふわふわ揺れるように下がる。 「逃げなくても。ほら、また帽子、落とす」 「え?」 相手の指さす先−−自分の頭を見てみると、白い帽子がぺちゃんこの形で乗 っていた。手に取ってみると、間違いなく純子の物。 「これ……」 すでに行きかけの相羽に、声をかける。 「鼻先を漂ってたから、拾ってみたら、涼原さんのだった」 「あ、ありがと」 「別に礼なん−−」 いきなり、相羽の上半身が水面下に沈んだ。 はっとして、見守っていると、すぐにまた浮かび上がってくる。 「てめ! 急に足、引っ張るなっ」 「新しい技の研究。実験台にしちゃる」 それとばかり、他の男子が組み付いていく。 「きたないぞ。ハンディキャップマッチかよ?」 「おまえが強いんだもの」 目の前で派手に上がる水しぶきに、顔をしかめながら、純子は何故か微笑ま しくなった。 (……やれやれ) そして帽子を被り直す。 (あんな奴でも、ちょっとはいいとこあるんだ) 「タッチ!」 いきなり、肩を押される。 「え、ちょ、ちょっと」 「鬼だぁ。帽子、見つかったなら、いいでしょ!」 富井が逃げていくのを、呆然と見やる純子。 気を取り直し、水に身体を預ける。 「−−やられてばっかりじゃないんだから!」 一学期の終業式は、楽しくもあり、嫌でもあり。楽しい夏休みを目前に、通 知票をもらわねばならないから。 「どう?」 前の席の富井が振り返って、聞いてくる。 「二重丸の数」 「五年の三学期よりは、増えたけど……」 口ごもる純子。対して、富井は怒ったように反応する。 「増えたんなら、いいじゃない。私なんか、三つも減った。塾に行けって言わ れるぅ」 「私だって、三角が二つ増えたのよ。好き嫌いし過ぎちゃったせいだわ」 などとお互いの傷をなめあって、帰ってからのお小言に備える。 通知票のあとは、これもうれしくない大量の宿題の配付。プリントやらドリ ルやらに加え、自由研究用にと画用紙を渡される。 (画用紙を使うことを決められているみたいで、自由な感じしない) という文句は、無論、胸の内にだけでとどめておく。 それから夏休み中の生活上の注意事項等が、うるさいぐらいこと細かく示さ れ、一学期は終わった。 さあ帰ろうと、席を立った純子に、いつかのように遠野が寄ってきた。 「あの……」 「遠野さん、何?」 「きょ、今日、言っておかないと……ずっと言えなくなりそうだから」 「え? 何のこと?」 きょとんとしてしまう純子。手提げ−−終業式だからランドセルは無用−− を机に置き直す。 「あ、相羽君のこと」 「相羽……君?」 ますますわけが分からず、首を傾げる。純子の耳元で、切り揃えられた髪が 揺れた。 (遠野さんももしかして、相羽がいいとか。それにしたって、私に言ってくる 必要ないし) 色々と想像を巡らせつつ、純子は前髪をかき上げた。 「相羽君がどうかした?」 「……六月の半ば頃、そのう……相羽君が涼原さんと……したでしょ」 「は?」 聞き取れなかった。 「何をした、ですって?」 「……キス」 遠野の耳が赤くなるのが見えた。そんな純子自身も、顔が途端に火照ってき ている。 「あ、あれは、あれは……確かにしたけど、あいつが、相羽君が勝手にやった だけで、私は何にも」 慌てて早口になる純子。と同時に、さっと教室中を見渡す。相羽の姿はもう なかった。 「あのね……ごめんなさい、涼原さん」 「……どうして、遠野さんが謝るの?」 「あのとき……涼原さんと相羽君、すれ違ったでしょう? 私の席のちょうど 真横ぐらい」 「ええ。そうだった」 思い出しながら答える純子。正確を期せば、彼女自身ではなく、相羽が遠野 の席のすぐ横を通る形になったはず。 「あのとき、私も立とうとしていて……。私、プリント出したらそのまま帰ろ うと思ってたから、手にランドセルも持っていて……それが相羽君を押しちゃ ったみたい……」 「……」 相手の言わんとすることが飲み込めず、純子は黙っていた。 「だ、だから、相羽君があなたに……しちゃったのは、私がランドセルで彼の 背中を押してしまって、それでバランス崩して……」 「……は。はは」 ひきつるように笑い始める純子。 (な、なあんだ……。たまたま、ああなっただけなのね。それを真剣に悩んで −−私、ばかみたい!) 別の意味で顔が熱くなる。 「涼原さん? ごめんね……ずっと黙ってて」 「え? ううん、いいの」 笑みを作って、純子は返した。すまなさそうな遠野を見ていられない。 「言ってくれたから、もういい。相羽君こそ分かってたはずなのに、何にも言 わないなんて、ひどいわよね」 「……そうじゃないと思う」 遠野の反論が意外で、純子は思わず、え?と聞き返した。 「相羽君、わざと何も言わずに……かばってくれたような気がする」 「ふ、ふうん……」 続ける言葉がない。 (やっぱり遠野さんも、相羽の奴のこと、いいと思ってるみたいだ……) うつむいたまま、ほんのり頬を染めている遠野を見て、純子は何かしら感心 していた。 −−つづく
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