長編 #3415の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
※『そばにいるだけで 1』について他の小説投稿サイト一つに投じましたが、 他の拙作と異なり、AWCでも公開状態のままにしておきます。本作は長く、 発端となる『1』を非公開風状態にすると、続きが多少意味を取りにくくなる ため。 〜 〜 〜 噂について大声が飛び交い、囁きが繰り返される教室内。情報は、いち早く クラス中に伝わっている。 扉が音を立てた。先生だ。途端に静かになる。 でも少し、ざわめきが続いている。先生のあとから着いて来た男子の品定め。 「ちょっといい感じ」 「そう? ぼーっとしてるみたい」 「クールっていうやつよ」 ひそひそ話の通り、教壇横にぽつんと立つ男子は、やや斜め上を、ぼんやり と眺めているようだ。表情に乏しいように見えなくもないが、なかなか男前。 身長も結構ある。 六年二組に転校生が来たのは、修学旅行も終わって、梅雨入りと相前後した 時節だった。 「はい、し・ず・か・に。最初に、転校生を紹介します。さ、挨拶して」 先生がうながすと、転校生はそちらをちらっと見、チョークを手に取る。黒 板に名前を書き始めた。 「あい……は……」 何人かが、書かれていく文字に合わせて、小さく読み上げている。 やがて書き終わった。相羽信一(あいばしんいち)とある。縦長だが、かな りうまい文字と言えよう。 「相羽信一です」 言って、ひょいと頭を下げる。 「前は**小学校にいました。親の仕事で、割と転校することが多くて、今度 で三度目の転校です」 みんな、おおっという反応。 その声の大きさに、戸惑ったように前髪をいじる転校生。 「えーっと、好きな科目は理科、嫌いな科目は音楽と家庭科です。えー、これ からよろしくお願いします」 挨拶が終わって、再び相羽が頭を下げると、拍手がぱちぱちと起こった。 先生が頃合いを見計らうように、大きめの声で言った。 「みんな、仲良くしてあげてよ。相羽君、分からないことがあったら、先生や みんなに聞くようにね。それから席だけど」 先生は手のひらを返して、廊下側から二列目、最後部の席を示す。 「あそこなんだけど、視力は大丈夫かしら?」 「大丈夫だと思います」 ランドセルを片手にぶら下げ、相羽は指定された机に向かう。彼が進むに連 れて、幾人かの視線も動いた。 「何をいつまでも見てるのよ」 涼原純子(すずはらじゅんこ)は、彼女の左斜め後ろの席に来た転校生を気 にしつつ、すぐ前に座る富井郁江(とみいいくえ)に囁いた。 純子の方を−−もとい、相羽の方をこそこそ見やっていた富井は、わずかに 肩をすくめる。 「だって、好みなんだもん、ああいう顔」 「あっ、そ。勝手にして」 純子が呆れた風に息をついたところで、授業が始まった。 その日の内から、相羽はクラスに馴染んだと言える。 最初は、単に転校生だというだけで皆の注目を集めていたのだが、人懐っこ い物腰と態度ですぐに馴染み、人気を得ていた。一見冷たそうな外面とのギャ ップが、拍車をかけたのかもしれない。 たとえば彼は……掃除大好き少年だった。 「俺、ぞうきん掛けが特に好きだな」 「何でだよー」 そのぞうきん掛けの最中、相羽に男友達が尋ねる。 相羽は臆面もなく答えるのだ。 「だって、前に女子がいたら、うれしいじゃん」 そのとき、ちょうどすぐ前にいた純子は、ぎょっとして後ろを振り返る。今 日はひとまとめにしたポニーテールの髪が、大きく跳ねた。 「スカートのときなんか、どきどき。こう、お尻振っちゃってさ」 ハワイアンダンスのように腰をくねらせる相羽は、明らかに冗談口調。 しかし、純子は顔を赤くして抗議。何だか、からかわれている気がしたから だ。手はぞうきんから離れ、スカートの上からお尻を押さえている。 「そんな風に見てたの? いやらしいっ」 「正直に言っただけなんだから、怒らなくたって。目が行くのは、魅力的だっ てこと」 「いやらしいのは一緒よ」 「じゃあ……冗談だったって言えばいい? 本当は目障りだって」 「……」 口ごもる純子。が、相羽の余裕ありげな態度に、何でもいいから言い返した くなる。 「と、とにかく、あなたの前は嫌だわ。先、行ってよ」 「仕方ないなあ」 苦笑いしながら、相羽はその他数名の男子と共に前に移った。 「あんな奴のどこがいいのよ」 純子は富井に言った。ゆっくり、ぞうきん掛けしながら、言葉を交わす。 「見る目がないわ」 「見る目ないのは、純ちゃんの方よ」 「私が? どうして?」 「相羽君のよさが分からない間は、いくら言っても無駄かもね」 純子は横目で相羽達が騒いでいるのを見やってから、すぐに富井へと視線を 戻した。 「分かりたくもないっ」 気がせいせいしたという風に言い捨てた。 教室にいるのは児童ばかり四十人。先生はいない。 黒板に大書きされた文字は、「プリント できたら先生の机に提出して、帰 ってよろしい」。 純子は比較的早く、問題をやり終えた。立ち上がって、前に向かう。教壇の 横手にある先生の机の上に出すと、自分の席に戻ろうときびすを返した。 机と机の間の通路が、少し狭かったかもしれない。 そこを通っていた純子は、前から男の子−−相羽信一が来たので、身体を斜 めにし、左側を前にすれ違おうとした。 相羽の方も同様にする。 正面を向き合うような形ですれ違う。 目が合った。 そのとき−−。 「え?」 あっと思う間もなく、相羽の顔が近付いてきて、純子の唇に彼の唇が触れる。 そしてすぐ離れた。 「!」 純子は目を見開き、相手を見返していた。 「な、な、な、何すんのよ!」 純子は左手を自分の口元に持って行った。甲でいくら拭っても、奇妙な、初 めての感触が残る。 騒ぎ立てる純子に、クラスのみんなもざわめく。 「どうかしたの?」 「相羽君が涼原さんに……キスした」 「ええ?」 わあっと、一斉にはやし立て始めるクラスメート達。 純子は身体を震わせる。キスされただけでも動揺しているところへ、周りか ら騒がれ、混乱している様子がありありと窺えた。 「な、何で、こんな……」 対して、けろっとしたまま相羽は応じる。 「−−涼原さんが、あんまりかわいかったから」 「ば、ばかあっ!」 「誉めてるのに、怒らないでよ」 「じょ、冗談じゃないわ! か、か、勝手にキ、キ、キ、キスするなんて!」 言っている内に、顔が熱くなってきた。両手で頬を押さえる。ばらけた長い 髪が、いくらか垂れかかってきた。 「……あーん、何てことしてくれたのよ、もう……」 純子はしゃくり上げ始めてしまった。床にへたり込み、両手の指先で目を押 さえる。自分でも泣くのを止められない。 「泣ーかした、泣かした」 周りが別のことではやし立て出した。 さすがに相羽もどきりとした表情をなす。しゃがみ込んで、純子の視線に高 さを合わせてきた。 「ど、どうしたの」 「触らないでっ」 伸びてきた相羽の手を、純子は素早く払いのけた。髪が覆いを作るかのよう に、激しく波打つ。 それからうまく回らない口で、彼女は必死にまくし立てた。 「わわわ私はねえ! ファ、ファーストキス、す、好きな人とするって決めて たのに! あ、あんたのせいで、こんな……あんたなんかと」 言葉の端々に「えぐっ、えぐっ」と、しゃくり上げる声が混じってしまう。 「……何だ、そんなこと」 にっと笑う相羽。まるで悪いと感じていないようだ。 純子は、ますます腹が立ってきた。 「何がおかしいのよ!」 「問題ないじゃない。君が僕を好きになればいい」 「な……」 顔から手を下ろし、呆気に取られて、相手を見返す。 「そうすれば、君は好きな人とファーストキスをしたことになるよ」 また笑う相羽に、純子は怒鳴りつけた。 「ば、ばか言わないでよ! 誰があんたなんか!」 「そう言わないで、考えてみてくれないかなあ」 「ばか!」 言葉と同時に、手が出ていた。 ばちんと音がした。 相羽がどんな顔をしていたのか、確認する余裕はない。 「顔も見たくないっ!」 純子は泣き声のまま叫ぶと、自分の席に走った。みんなが見ているのは分か っていたが、ランドセルを掴むと、一目散に教室を飛び出した。 走って走って走って。 家に帰りつくなり、純子は二階の自分の部屋へ駆け込んだ。ランドセルを放 り出し、ベッドに身体ごと倒れ込む。 「ばか。ばか。何てことするのよ……ばかぁ」 腕枕に顔を押し付ける。こらえきれない涙の分だけ、腕が濡れた。 「純子?」 母親の声と、戸を叩くノックの音が重なる。 「帰ったんなら、ちゃんと言いなさい」 「入って来ないでっ」 戸が開けられる気配を察し、純子は短く叫んだ。 しかし、母親の内に芽生えた不安は、さらに増したようだ。 「どうしたの? 泣いてるじゃない」 「……」 うつぶせのままの純子の肩に、感触が。 「どうしたのよ? 帰って来るなり、部屋に駆け込んで……。学校で何かあっ たの?」 「何でもない」 「何でもないことないでしょう。あなたが泣くって、よっぽど」 「何でもないったら! 何も聞かないでっ」 「……そう。そう言うなら、今はいいわ。元気が出たら、下りてらっしゃい。 おやつ、用意してあげるから」 母親が出て行く音を、顔を上げることなく純子は聞いた。 (キスされたなんて……言えるはずない) 時間がどんどん経つ。が、純子にその感覚はなかった。キスされたという事 実が、頭の中をぐるぐる回っている。 (どうして……したのよ。からかってる。嫌がらせなんだ。ふざけてあんなこ とするなんて、最低っ) 同じことを長時間、考え続けてしまう。同じことで、何度も涙がこぼれた。 いつの間にか、陽が傾いていた。 「純子」 母親の声が再びした。いつもより穏やかさが増している。 でも、返事する元気は、純子にはまだない。 「寝ているの?」 ドア越しの声。さっきみたいに、勝手に入ってくる様子はない。 純子はベッドの上で身体を起こし、答えた。 「ううん、起きてる」 しわがれたような声になっていた。すぐに、せき払い。 「大丈夫? お友達が来ているんだけど」 「え、誰? 郁江ちゃん?」 扉を挟んで聞き返す。 「それが、男の子よ」 「……委員長の立島(たてしま)君?」 先生が話を聞いて、委員長の彼を様子見にやらせたのかもしれない。そんな 可能性を考えて、言ってみた。 だが、母親の返事は違った。 「初めて見る子で、相羽君だって。知ってるの?」 −−つづく
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